鏡で歯並びを見るたびに「綺麗な歯並びに治したい」と思ったことはありませんか。
歯並びの良し悪しは口元の印象を決めるだけではありません。 食べ物を噛んだり飲み込んだりといった機能面にも大きな影響を及ぼします。
歯並びが悪いとむし歯や歯周病になりやすく歯の健康維持にもマイナスです。 審美性・機能性・健康面において歯並びは大きな影響を及ぼすので、歯並びを矯正する方が増えています。
今回は歯の矯正方法である歯科矯正とセラミック矯正についてご紹介します。歯並びを矯正する際の参考にしていただけると幸いです。
歯科矯正とセラミック矯正の違いは?
歯の矯正方法として歯科矯正とセラミック矯正という方法があります。
歯並びを綺麗に整えるという点では共通していますが、歯科矯正とセラミック矯正では治療方法に違いがあります。
歯科矯正とセラミック矯正の治療方法の違いについて簡単に説明すると、「歯の位置を動かすかどうか」という点です。
歯科矯正では歯にワイヤーやマウスピース型などを取り付けて歯に力を加え、徐々に歯の位置を変えていき歯並びを整えます。 歯並びを根本から変えていくというのが歯科矯正の特徴です。
一方のセラミック矯正では歯の位置は変えません。
歯の表面を削りセラミッククラウン(セラミックの被せ物)を被せて歯並びを綺麗に整えます。
セラミック矯正は審美歯科や一般歯科で行われる治療方法で、歯科矯正は矯正歯科で行われます。
歯科矯正・セラミック矯正それぞれの違いや特徴を理解し、ご自身に合った治療方法を選択しましょう。
歯科矯正の特徴
歯科矯正による歯の治療には次のような特徴があります。
- 歯に圧力を加えて歯並びを根本から改善する
- 自前の歯を傷つけずに矯正できる
歯科矯正ではワイヤーやマウスピースといった矯正器具を歯に取り付け弱い圧力をかけることで歯並びを整えていきます。
自前の歯の位置を徐々に正しい位置に変えていくので、歯並びの問題を根本から改善することが可能です。
歯科矯正の大きな特徴の一つが「自前の歯を傷つけずに矯正できる」という点です。
80歳まで自前の歯を20本残そうという8020運動が有名ですが、自前の歯を1本でも多く残すことは健康寿命にも関係します。
歯科矯正では歯にワイヤーやマウスピース型を取り付けますが基本的に歯を大きく傷つけることはありません。
これらの矯正器具によって歯の表面が傷ついたとしても再石灰化可能な範囲の傷なので問題ありません。
歯の健康は体全体の健康に大きく関係します。
歯科矯正では歯並びを根本から改善することで歯並びの悪さ(不正咬合)に関わる不調の改善も期待できます。
セラミック矯正の特徴
セラミック矯正は審美歯科や一般歯科で用いられる治療方法の一つです。
歯科矯正との違いは歯の位置を移動させずに歯並びを綺麗に整えられるという点です。
以下でセラミック矯正の特徴を説明いたします。
歯にセラミッククラウンを被せる治療
セラミック矯正では歯の位置を変えない代わりに「セラミッククラウン」というセラミック(陶材)で作られた被せ物を歯に被せて歯並びを整えます。
歯の表面を削りセラミッククラウンを被せるので、歯の形・大きさ・色合いなどを変えられるというのが大きな特徴です。
歯並びを整えると共に、着色汚れなどで変色した歯を白く綺麗なセラミッククラウンで覆うことで審美性を高めることも可能です。
セラミック素材を使用しているので金属アレルギーの方でも安心して治療が受けられます。
補綴治療の一種
セラミック矯正は補綴治療という治療方法の一種です。
補綴治療とは外傷により歯が欠けたりむし歯を削って穴が空いたりしたなど、歯が欠損した箇所を修復する目的で使用される治療方法のことをいいます。
セラミック矯正の他に入れ歯・ブリッジ・インプラントなども補綴治療に分類されます。
歯科矯正のメリット・デメリット
歯並びを矯正して綺麗に整えることは多くのメリットがあるため、子供だけでなく大人が歯の矯正を行うケースが増えています。
自前の歯を傷つけずに矯正できる歯科矯正には多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。
なお、歯科矯正は自由診療となり矯正方法によって費用は異なります。
費用相場は、ワイヤー矯正の場合は約60〜100万円(税込)・マウスピース型矯正の場合は約80〜100100万円(税込)・舌側(裏側)矯正の場合は約100〜160万円(税込)です。参考にしてみてください。
歯科矯正のメリット・デメリットについてみてみましょう。
歯並びや噛み合わせの問題を根本的に解決できる
歯科矯正では自前の歯を根本から動かし歯並びを整えていくため、歯並びや噛み合わせに起因する問題を根本から解決できます。
歯並びや噛み合わせの悪さが影響するのは口元の美しさといった審美性だけではありません。歯の機能性・全身の健康にまで影響を及ぼすのです。
歯並びや噛み合わせが悪いと食べ物を噛んだり飲み込んだりといった機能が低下します。これら食べ物の咀嚼・嚥下機能の低下は消化不良を招きます。
他にも歯並びと噛み合わせの悪さは頭痛・めまい・肩こり・顎関節症の発症といった身体的不調にも関係するのです。
歯科矯正で歯並びと噛み合わせを改善することで、歯の機能性の向上・身体的不調の解消が期待できます。
歯科矯正で得られる効果は機能的なものばかりではありません。 歯並びが良くなることで口元の印象や顔の形など見た目が変化することがあります。
歯並びが悪く噛み合わせに偏りがあると顔の片側の筋肉にばかり負担がかかるため、顔の筋肉のつき方に偏りが生じます。
これにより顔の左右の違いが大きくなってしまうのです。
歯並びを矯正し噛み合わせが改善すると顔の筋肉の負担も改善されるため、顔の形に変化がみられるようになります。
歯並びと噛み合わせを歯科矯正で改善することで、これらに起因する問題を根本的に解決できます。
むし歯や歯周病のリスクを減らせる
歯並びが悪く歯と歯が重なっている状態だと歯ブラシが行き届かない箇所ができてしまいます。
歯ブラシが届かず十分に歯磨きできない箇所には汚れが溜まりやすくなるので、むし歯や歯周病の発症リスクが高まります。 これらの発症リスク低下に歯科矯正は効果的です。
もちろん正しく歯磨きすることが前提ですが、歯科矯正で歯と歯の重なりを解消することで今までよりも歯磨きしやすくなります。
歯並びが悪くむし歯や歯周病になりやすい方は一度歯科矯正を検討してみると良いでしょう。
ただし注意点もあります。
それは矯正治療中はむし歯や歯周病のリスクが高まるという点です。
歯科矯正では歯にワイヤーやマウスピース型といった矯正器具を取り付けます。
この矯正器具の影響で歯磨きしづらくなるためむし歯や歯周病のリスクが上がってしまうのです。
マウスピース型矯正であれば食事や歯ブラシの際にマウスピース型を取り外せるので問題ありません。
しかしワイヤー矯正ではワイヤーの取り外しができないので、歯磨きしづらく磨き残しが発生しやすいためむし歯や歯周病リスクが上がってしまうのです。
歯科矯正の治療中は歯磨きを丁寧に行うと共に、歯科医師による定期的なメンテナンスも欠かさず受けることが大切です。
治療中は一時的に見た目が悪くなる
歯科矯正のデメリットの一つとして挙げられるのが治療期間中の見た目の悪さです。
特にワイヤー矯正の場合は見た目の悪さが目立ちます。
ワイヤー矯正では歯の表面にブラケットという装置を取り付け、そこにワイヤーを通して歯に力を加えます。
歯の表面に器具を装着するためどうしても見た目が悪くなってしまうのです。
接客業など人と接するケースが多い方だと見た目の悪さが気になってしまい歯科矯正を躊躇うこともあるでしょう。
しかし、歯科矯正の矯正器具の中には装着してもあまり目立たない物もあります。
ワイヤー矯正には「裏側(舌側)矯正」という歯の裏側にワイヤーを通す矯正方法があります。 マウスピース型矯正であればあまり目立たない透明なマウスピース型を使用することも可能です。
歯の状態によって選択できる矯正方法が異なるので必ずしも上記の矯正方法が選べるとは限りませんが、一度歯科医師に相談してみると良いでしょう。
治療期間が長い
歯科矯正は矯正器具によって歯に力を加え徐々に位置を変えていく治療方法なので、どうしても治療期間が長くかかります。 大人の歯科矯正では治療期間が3〜4年程度かかるのが普通です。
治療期間が長くかかる理由は、歯の位置を移動するために歯を支える骨の吸収と再生を同時に行いながら治療を進めていくからです。
歯はそれぞれ下顎骨と上顎骨という顎の骨に支えられています。
歯と顎の骨の間には「歯根膜」と呼ばれる伸縮性のある繊維性の組織が存在します。
歯根膜にはクッションの役割があるので、力を加えると歯が少し動くのです。
歯を移動したい方向に矯正器具を使って力を加えると、クッション性のある歯根膜に覆われた歯は力を加えられた方向に少し動きます。
このとき歯が移動した方向の歯根膜は押しつぶされ逆側は引き延ばされた状態になります。
しかしこの状態ではまだ歯が動いただけで固定されてはいません。そのため矯正器具の圧力が無くなれば歯は元の位置に戻ってしまいます。
ではどのようにして歯を固定するのでしょうか。その答えが顎の骨の吸収と再生にあります。
歯が移動した状態のまま力を加え続けると歯根膜は元の状態に戻ろうとします。
すると歯根膜が押しつぶされた方向の骨が溶かされ、逆側の引っ張られている方向では骨が新たに作られるのです。
これにより歯根膜は押しつぶされも引っ張られもしない元の状態に戻り、歯は移動した位置で固定されます。
顎の骨の吸収・再生にはどうしても時間がかかります。そのため歯科矯正の治療期間は長くかかってしまうのです。
早く歯を移動させようと強い力を加えると歯がダメージを受けるため、ゆっくりと弱い力を加える必要があるのも治療期間が長い要因の一つといえます。
確かに歯科矯正の治療期間は長いですが、自前の歯を傷つけることなく歯並びを根本から改善できるのは大きなメリットです。
セラミック矯正のメリット・デメリット
セラミック矯正は審美歯科や一般歯科で行われる治療で、歯科矯正のように歯の位置を根本から動かすような治療ではありません。
セラミック矯正ならではのメリット・デメリットがあるので以下で詳しく説明いたします。
また、セラミック矯正も歯科矯正同様に自由診療となります。費用相場はオールセラミックの場合、1本約4〜18万円(税込)です。参考にしてみてください。
治療期間が短い
セラミック矯正は治療期間が短いのが大きなメリットの一つです。
セラミック矯正の治療期間は歯の状態によって変わりますが、一般的には治療前のカウンセリングから矯正治療完了まで1〜3ヶ月程しかかかりません。
治療完了まで何年も待つ必要がなく、すぐに歯並びを整えられるというのはセラミック矯正ならではの大きなメリットです。
治療中の痛みが少ない
セラミック矯正では必要に応じて歯を削ったり神経を抜いたりすることがあります。
これらの処置を受ける際には痛みを感じますが、麻酔を使用して処置をするので痛みは少ないです。
処置中に麻酔が切れてくると痛みを感じることがあります。
麻酔の効き目や切れやすさは個人差があるので、処置中に痛みが増す場合には歯科医師に伝えましょう。
歯を削る必要がある
セラミック矯正ではセラミッククラウンというセラミック素材で作った被せ物を歯に被せて歯並びを矯正します。
この被せ物を被せるために基本的には歯を削る必要があるのです。
矯正したい歯がむし歯になっていれば当然むし歯を削って治療してからセラミッククラウンを被せます。
しかし、矯正する歯が健康な場合であってもセラミッククラウンを被せるためには歯の表面を削る必要があります。
メンテナンスをしっかりと行えば長く使用できますが、健康な歯を削るリスクをしっかりと確認してから治療するようにしましょう。
むし歯や歯周病のリスクが高まる
セラミック矯正では自前の歯にセラミッククラウンを被せて治療します。
このとき、歯と重ね合わせたセラミッククラウンとの間に微妙な段差が生じてしまうケースがあります。
また、矯正から時間が経ち経年劣化することで歯とセラミッククラウンとの間に隙間ができてしまうこともあるのです。
セラミック自体には汚れは付着しにくいのですが、段差や隙間が生じるとそこに汚れが蓄積するためむし歯や歯周病のリスクが高まってしまうのです。
セラミック矯正によるむし歯や歯周病のリスクを減らすには、歯科医師の技術力と定期的なメンテナンスが欠かせません。
セラミック矯正の実績が豊富な歯科医院で治療とメンテナンスを行うようにしましょう。
セラミック矯正に向いているのはどんな方?
歯並びを整える方法として歯科矯正とセラミック矯正をご紹介しました。 歯科矯正は歯並びを根本から解決したいという方に向いている矯正方法です。
一方のセラミック矯正は以下のような方に向いています。
真っ白な歯にしたい方
歯科矯正では自前の歯を移動させて歯並びを整えますが、歯の着色汚れまでは改善できません。
しかしセラミック矯正であれば歯の色を真っ白に変えることが可能です。
セラミック矯正では自前の歯を削ってセラミッククラウンを被せるので、歯並びを整えるだけではなく真っ白な歯にできるのです。
また、セラミックは汚れがつきにくく時間が経っても変色しないので長く白い歯を保てます。
すぐに見た目を整えたい方
セラミック矯正は1〜3ヶ月程という短期間で歯を整えられるのが魅力です。そのため短期間で歯を整える必要がある方に向いています。
例えば結婚式などの大事なライフイベントが数ヶ月後に迫っており、すぐに歯を綺麗にしたいという場合などはセラミック矯正がおすすめです。
治療中の見た目が気になる方
歯科矯正は歯並びを根本から解決できるのが大きなメリットですが、治療中の見た目が気になるという方も少なくないでしょう。
歯科矯正は治療期間が約2~3年と長いので、その間ずっと見た目を気にして行動するのは嫌だという方もいるでしょう。
その点はセラミック矯正の方がメリットがあります。 セラミック矯正は治療期間も短い上に、セラミッククラウンができるまでの間は仮歯を着けるので見た目が大きく損なわれることはありません。
治療中の見た目を気にする方はセラミック矯正が向いています。
まとめ
歯科矯正とセラミック矯正の違いとそれぞれのメリット・デメリットについてご紹介しました。
歯科矯正は治療期間は長くかかりますが、自前の歯を傷つけることなく根本から歯並びを改善できるというのが特徴です。
一方のセラミック矯正は短期間で見た目を変えられる上に歯を真っ白にすることが可能です。しかし健康な歯を削る必要があります。
どちらもメリット・デメリットが存在しますが、どちらのケースであっても歯の健康を保つには日頃の歯磨きとメンテナンスが必須です。
歯科矯正で自前の歯を矯正しても日頃のケアが不十分であればむし歯や歯周病のリスクが高まります。
逆にセラミッククラウンを取り付けた歯であってもケアとメンテナンスをしっかり行えば長く健康な歯を保てます。
歯科矯正とセラミック矯正の特徴をよく確認し、どちらの矯正方法が向いているのか歯科医師とよく相談してから矯正治療を始めましょう。
参考文献
- 歯科領域から求められている生体材料
- 成人矯正治療患者に対する歯周-矯正治療の効果
- 矯正力による歯の経時的移動の数値解析
- 8020運動とは| 厚生労働省
- オールセラミックカンチレバーブリッジの生存率と合併症:文献的レビュー
- セラミック修復により審美障害および咀嚼障害を改善した1症例
- かみ合わせのずれが大きく笑った顔貌の非対称性に及ぼす影響
- 歯列・咬合異常が高校生の心身の健康意識に及ぼす影響
- 歯周基本治療から考えるリスクマネージメント
- 矯正歯科治療前後におけるカリエスリスクの臨床的評価
- マウスピース型矯正装置 「トランスクリア」と拡大矯正装置で患者さんに寄り沿った医療NBM(Narrative-based Medicine)の矯正を
- 外科的矯正治療へのクリティカルパス導入に関する研究
- 合着材がオールセラミッククラウンの強度に与える影響
- CAD/CAM用歯科材料の進化