昨今、歯並びの矯正治療の分野において「インビザライン矯正」が人気です。 しかし、その名を聞いたことは合っても、インビザラインとは実際にどのような方法で歯並びを治療するものなのかわからない、という人も多いはず。
また、ほかの治療方法と比較するには、インビザライン矯正に伴うメリットやデメリットを詳しく知っておきたいところです。ここでは、そんなマウスピース型矯正「インビザライン」の特徴について詳しく解説をします。
インビザライン矯正とは
はじめに、インビザラインによる矯正治療の基本事項について説明します。インビザライン矯正に関心のある方は参考にしてみてください。
インビザライン矯正はどんな治療法?
インビザライン矯正は、いわゆるマウスピース型矯正の種類のひとつです。透明な樹脂製のマウスピースを使う点が従来のワイヤー矯正との大きな違いとなっており、アライナーと呼ばれるポリウレタン製のマウスピースを交換していくことで歯が動いていきます。 インビザラインでは着脱式の装置を使うという点でも従来の歯列矯正の方法とは異なるといえるでしょう。見た目も違えば使いごこちや費用、メリットデメリットも大きく違います。
インビザライン矯正にかかる費用
インビザライン矯正には症例によって歯科医師が選択できる複数のプランが用意されており、さまざまな症例に対応することが可能です。その中で最も標準的なプランがインビザライン・コンプリヘンシブと呼ばれるものです。これは非常に多くの症例に対応可能となっており、費用は80万~100万円程度かかるのが一般的です。
インビザライン矯正はその他の矯正法と同様、保険が適用されない治療となることから、実際の費用は歯科医院によって異なりますので、具体的な値段・料金が知りたい場合は各医院に問い合わせることをおすすめします。
ちなみに、インビザライン矯正でも歯列の一部分だけを治したり、使用できるマウスピースの枚数に制限があるプランの場合は、費用もその分だけ安くなります。例えば、一般的な部分矯正にあたるインビザラインGoの場合は40万~50万円程度の費用でマウスピース矯正を受けることが可能です。
インビザライン矯正にかかる期間
インビザライン矯正にかかる治療期間は、従来のワイヤー矯正と大差はありません。全体矯正なら歯を動かすのに1~3年程度、部分矯正なら3~10ヵ月程度で治療が完了します。
勘違いされがちなのですが、マウスピース矯正は快適であるがゆえに治療期間が長くなるわけではありませんので、ご安心ください。ワイヤー矯正で1年を要するケースならインビザライン矯正でも1年程度で治すことが可能です。
インビザライン矯正の治療の流れ
マウスピース矯正のインビザラインは、次のような流れで進行します。
口腔内の診察とカウンセリング
マウスピース矯正のインビザラインで歯並びの治療を希望する場合は、まず口腔内を大まかに診察した上で、カウンセリングが行われます。この点も従来のワイヤー矯正と同じです。歯並びや噛み合わせ、骨格などを診察して、患者さんの症状を把握します。その上でインビザラインのカウンセリングを実施するのです。
インビザラインのカウンセリングでは、マウスピース矯正に関する疑問や不安をすべて歯科医師にぶつけましょう。ほとんどの歯科医院ではカウンセリングに30~60分の時間を割いてくれますので、遠慮せず質問することが大切です。その際、歯科医師の受け答えや患者さんへの姿勢などを観察して、自分との相性を確かめておくことも大切です。インビザライン矯正は数年に及ぶ治療となるため、歯科医師との相性も極めて重要な要素となってきます。
精密検査
精密検査では、レントゲンや口腔内スキャンなどを行います。歯科医院によっては、カウンセリングのあとすぐに精密検査を実施するところもありますが、多くの場合は次回の来院時に行います。なぜなら矯正治療の精密検査にはそれなりの時間と手間がかかるからです。カウンセリングのあとすぐに精密検査を受けたい場合は、事前に電話でその旨を伝えておくと良いでしょう。歯科医院の方針や予約状況によっては、患者さんの要望に応えてくれるかと思います。カウンセリングを受けてからしばらく検討する時間が欲しい場合は、次回の診療で精密検査を受けると良いです。
・設備によって検査の内容が変わる?
インビザライン矯正では、iTero(アイテロ)という口腔内3Dスキャナーを使用することがあります。しかし、これは先進の医療機器であるため、どの歯科医院でも導入しているわけではありません。iTeroを導入している歯科医院であれば、口腔内にスキャナーをかざすだけで歯並びや噛み合わせの情報が得られることから、従来の不快な歯型取りが不要となります。歯科医院選びのひとつのポイントとして、事前に調べてみるのも良いでしょう。
治療計画の説明
精密検査の結果をもとに、歯科医師が治療計画を立案します。治療計画の立案には最短で1~2週間を要し、治療計画の修正のやりとりの回数によっては1ヶ月以上がかかる場合もあるため、 精密検査を行った次の来院時に説明を受けることになります。インビザライン矯正の治療計画の説明では、検査や診断の結果に加え、必要となるマウスピースの枚数や治療期間、治療費なども知ることができます。
治療計画を受けた段階ではまだ矯正はスタートしておらず、診断結果や計画に納得が行かない場合はセカンドオピニオンを求めることも可能です。そのため、治療計画の説明の段階で、インビザライン矯正に関する不安や疑問はすべて解消しておくことが推奨されます。歯科医師からの治療計画の説明に納得できたら、いよいよマウスピース矯正のスタートです。
完成したマウスピースで治療開始
インビザライン矯正のマウスピースは、発注から数週間で歯科医院に届きます。歯科医師からマウスピースの着脱や保管、ケア方法をきちんと学び、自宅で実践していきましょう。インビザライン矯正を進行する上で、主役となるのは患者さん自身です。患者さんが正しい方法でマウスピースを装着・交換していなければ、治療は上手く進みません。 ですから、インビザライン矯正がスタートしたあとも不安に感じることがあればすぐ主治医に相談するようにしてください。それがマウスピース矯正「インビザライン」を成功させるコツです。
・インビザラインの通院頻度
インビザライン矯正は、ワイヤー矯正よりも通院頻度が低いこともメリットのひとつです。なぜなら、スタートからゴールまでの矯正装置が治療を始めた時点ですべて完成しているから。
1ヵ月に1回、ワイヤーを調整する必要があるワイヤー矯正と違って、インビザラインはすでに完成した複数のマウスピースをまとめて患者さんに渡し、患者さん自身でマウスピースを変えていくという方法をとります。そのため、経過観察や調整のためのみの通院となるので、インビザライン矯正での通院は2ヵ月に1回程度となっています。
矯正完了後、保定へ
スタートからゴールまでのすべてのマウスピースを使い終わり、計画通りに歯が動いたら「動的治療(どうてきちりょう)」の完了です。その時点で皆さんが思い描いていた理想に近い歯並びが手に入っていることかと思いますが、歯列矯正はそこでは終わりません。マウスピース型矯正にしろワイヤー矯正にしろ、歯列矯正には必ず保定処置が必要となるからです。
・保定とは?
保定(ほてい)とは、マウスピース型矯正装置やマルチブラケット装置などで動かした歯を固定するための処置です。リテーナーと呼ばれる着脱式もしくは固定式の装置を使って、歯の後戻りを防止します。保定には動的治療と同等の期間が必要となる点に注意が必要です。
つまり、歯を動かすのに2年かかった場合は、保定も2年行わなければならないのです。ただし、保定は動的治療ほど心身への負担は大きくなく、通院頻度も低いことから、歯を動かす時ほどの苦労は伴いません。
インビザライン矯正のメリット
マウスピース型矯正のインビザラインには、次に挙げるようなメリットがあります。
目立ちにくい
インビザラインのマウスピース(アライナー)には、金属材料が一切使用されていません。透明なポリウレタンで作られた薄型のマウスピースを装着するだけなので、矯正中であることに気付かれにくいです。
歯磨きなどのケアがしやすい
矯正治療というと、歯磨きがしにくいというイメージが強いことでしょう。実際、従来法のワイヤー矯正は、歯列の表面に複雑な形をしたブラケットとワイヤーが固定されているため、ほぼ間違いなく磨き残しが生じます。ワイヤー矯正中にプラークフリーな状態を維持し続けることはほぼ不可能なのです。
一方、インビザラインのマウスピースは自分で簡単に取り外しができるため、歯磨きなどのケアがしやすいです。マウスピース自体のケアも必要なのですが、インビザラインの場合は1~2週間に1回の頻度で新しいものに交換することから、そもそも不潔になりにくいといえるでしょう。その結果、口臭が発生しにくく、虫歯や歯周病リスクも低く抑えられます。
いつも通り食べられる
インビザライン矯正中は、食事の際に装置を取り外せます。口腔内に何もない状態で食事ができることは、ワイヤー矯正では体験できない快適さです。実際にインビザラインを始めてみるとわかりますが、矯正中にいつも通り何も気にせず食事ができることほど、嬉しいメリットはありません。これはワイヤー矯正を経験したことがある人ほど、強く実感しやすいメリットといえます。
痛みや金属アレルギーの心配がない
マウスピース矯正のインビザラインでは、マウスピース1枚あたりで0.25mm程度の歯の移動が可能です。1回の調整で最大1.0mm程度まで歯を動かすことができるワイヤー矯正とは大きく異なりますが、この点は治療を快適にするという点においてメリットとなります。ワイヤー矯正よりも弱い力で歯を動かすことから、歯の移動に伴う痛みも弱くなるからです。ワイヤー矯正の場合は、歯の移動に伴う痛みが強いだけでなく、金属製のパーツを必ず使用するため、金属アレルギーのリスクも伴います。金属材料を一切使用しないインビザラインなら、そのリスクもゼロにすることが可能です。
治療の精密性が高い
インビザライン矯正は、検査・診断・治療計画の立案・装置の作製に至るまで、診療プロセスのほとんどでコンピューターが介在します。その結果、矯正治療の精密性も自ずと高くなるのです。
インビザライン矯正のデメリット
インビザライン矯正には、メリットだけではなくデメリットも伴う点に注意が必要です。少なくとも以下に挙げる3点は、正しく理解しておくことが大切です。
使える症例が限られている
インビザライン矯正は、ワイヤー矯正ほど適応症が広くはありません。主に軽度から中等度の症例に適応できる矯正法なので、重症度が高いケースには向いていないのです。そのため深刻な出っ歯や受け口、乱ぐい歯の治療ではインビザライン矯正が選択肢から外れることも珍しくありません。
自己管理が必要
インビザライン矯正では、取り外し式の装置を使います。具体的には、矯正用マウスピース(アライナー)を1日20~22時間程度、装着しなければならず、そのルールを守れないと歯が動いていきません。その他、マウスピースの交換やお手入れも自分自身で行う必要があります。
治療期間がやや長くなる
これは上記の自己管理が必要という点とつながっているのですが、患者さん自身がきちんとマウスピースを装着しないと、その分、治療期間はどんどん伸びていきます。また、インビザライン矯正はワイヤー矯正のように強い力で歯を三次元的に大きく動かすことは難しいため、症例によっては治療期間がやや長くなる傾向にあります。
インビザライン矯正を受ける歯科医院の選び方
インビザライン矯正で失敗や後悔をしないためには、以下の6点に着目した上で、適切な歯科医院を選ぶことが大切です。
ワイヤー矯正にも対応している
ワイヤー矯正にも対応している歯科医院であれば、マウスピース矯正に向いていない場合でもきちんと治療してくれます。
治療方法について説明してくれる
カウンセリングの段階で、矯正治療の説明を丁寧に行ってくれる歯科医院がおすすめです。インビザラインに関して疑問や不安がある場合は、どんどん質問していきましょう。
日本矯正歯科学会の認定医や臨床指導医が在籍している
矯正治療に関する技術や知識、経験というのは、日本矯正歯科学会の認定医や臨床指導医の資格の有無によってある程度、判断できます。それらの資格を持っている歯科医師なら、矯正治療で失敗するリスクを最小限に抑えられます。
必要な費用を明示してくれる
矯正治療にかかる費用の内訳まで細かく説明してくれる歯科医院は信頼性が高いです。
通院しやすい立地にある
ご自宅や勤務先から通院しやすい立地の歯科医院を選ぶと、治療を始めてからの苦労が少なくなります。矯正中にトラブルが起こっても、すぐに受診できることは非常に大きなメリットとなることでしょう。
まとめ
今回は、マウスピース型矯正「インビザライン」の特徴やメリット・デメリットについて解説しました。インビザラインは従来法とは異なる点が多々あるため、その特徴を正しく理解しておくことはとても大切です。
最近ではインビザライン矯正に対応している歯科医院が増えているだけに、どこに通ったら良いのか迷ってしまうことも多いでしょう。本文でもご紹介したポイントを、歯科医院選びの参考にしてもらえたらと思います。
参考文献