マウスピース型矯正は、薄く透明な素材で作られたマウスピース状の装置を使用して矯正治療を行う方法です。
マウスピース型矯正は、従来のワイヤー矯正のように目立たず治療中の痛みも少なく、さらに取り外しもできるという大きなメリットから注目を集めています。
ただし、歯並びによっては適用できないことや1日20時間以上装着しなければならないといったデメリットがあります。
本記事では、マウスピース型矯正の種類を比較しながら、大人と子どものマウスピース型矯正の違いや自分に適した歯列矯正装置を選ぶためのポイントなどを解説します。
マウスピース型矯正の代表的な種類と特徴
歯列矯正治療は、乱れた歯並びや噛み合わせを治療するために欠かせません。しかし、歯に強い力を加えて動かすために、目立ちやすいワイヤーや金属を使用した装置が主流でした。
マウスピース型矯正は目立ちにくい透明なマウスピース型を装着することで歯を移動させることができる「歯を矯正したいけど、目立たないようにしたい」というニーズに応える歯列矯正方法です。
ただし、マウスピース型矯正治療で対応できるのは症状が軽度な場合のみです。歯並びの乱れが重度である場合は、ワイヤー矯正などと組み合わせて行います。軽度の受け口などでもマウスピース型矯正が使われることがあります。
また、種類が多いことも特徴です。本記事では、日本国内で利用できる主要なマウスピース型矯正装置の種類やその特徴、価格などをわかりやすく解説します。
インビザライン
マウスピース型矯正のパイオニアとして知られているのが、インビザライン(※)です。
開発したのはアメリカの「アライン・テクノロジー社」で、1997年に開発されてから現在までに世界中で1,500万人以上が利用しています。
最初に歯型を取るところまでは従来の歯列矯正装置の製作と同様ですが、それからCADによって歯の移動をシミュレーションし、理想的な歯並びに誘導するためのマウスピースを一度に作ります。
インビザラインは症例数も治療実績も豊富であるため採用する歯科医院が多く、例えば引っ越しなどで歯科医院を変更する場合でも、治療計画を継続することが可能です。しかし、治療費用に関しては医院によって異なるため、事前に確認が必要となります。費用相場は、100万〜150万円(税込)程です。
インビザラインを使ったマウスピース型矯正の歴史はまだ浅いですが、先進国ではその治療実績が認められています。患者さんの歯の健康・機能と審美性を考えた時、インビザラインが適切な選択肢となるでしょう。
(※) 未承認医薬品等であるため医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
その他のマウスピースの種類
インビザライン以外に、以下のマウスピースがあります。
- クリアライン(※1)
- ウィ・スマイル(※2)
- アソアライナー(※3)
- クリアコレクト(※4)
クリアラインは、インビザラインと同様に透明なマウスピース型を使用した歯列矯正方法です。
お口の見た目に大きく影響するとされている上下6本ずつ計12本の前歯に特化しているのが特徴で、歯並び全体を整えたい場合には適していません。
歯を移動させるための装置がシンプルで患者さんが自分で交換できるため従来のワイヤー矯正と比較しても安価であるほか、マウスピース型矯正のなかでも安価です。
ウィ・スマイル(We Smile)はマウスピース型矯正のなかでも少し特殊で、「ウィ・スマイル」という歯列矯正装置があるわけではありません。
大手メーカーに大量発注した歯列矯正装置を使用するため費用を抑えられ、前歯だけでなく全体の歯列矯正にも対応していることが特徴です。
大手メーカーの高品質な歯列矯正装置を使用しつつ、初診料や毎月の調整料、保定管理料が無料となっていることで人気を集めています。
アソアライナーは日本製のマウスピース型矯正装置で、使用されているプレートの材質がインビザラインよりさらに薄いことが特徴です。
その薄さのため目立ちにくく、自然な口元が実現します。また、軟性と硬性のプレート材質を組み合わせることで歯を動かす力を抑えて患者さんの負担を減らし、無理なく歯列矯正できる方法です。
ただし、新しいプレートを作成するために毎回歯型を取るという手間がかかります。
クリアコレクトはアメリカで開発されたマウスピース型の矯正装置で、インビザラインに次ぐ実績を誇ります。
クリアコレクトを提供しているのは、インプラントで世界シェアNo.1のストローマングループです。しっかりとフィットするほか、歯列矯正力が強いことで知られています。
さらにインビザライン以上に薄く作られているため、装着しても自然な見た目を実現できることも魅力です。
このように、インビザライン以外にもさまざまなマウスピースがあります。しかし、インビザラインと比べると精度や効果に課題があります。
インビザラインは専用のソフトウェアを使用して3Dシミュレーションを作成し、治療計画を立てるのが特徴です。そのため精度も高いのですが、ほかのマウスピース型矯正ではインビザライン程の精度の高さはありません。
また、インビザラインは歯列矯正の効果がマウスピース型矯正のなかでは高くさまざまな症例に対応できますが、ほかのマウスピース型矯正では範囲が限られていたり症例によっては対応が難しかったりすることがあります。
(※1.2.3.4) 未承認医薬品等であるため医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
マウスピース型矯正のメリットとデメリット
目立ちにくい歯列矯正治療としてマウスピース型矯正を選択する方も多いですが、マウスピース型矯正にはメリットだけではなく、デメリットもあります。
また、先述したように、マウスピースはさまざまな種類があります。なかには粗悪なものもあり、トラブルが起こる可能性も考えられるでしょう。
トラブルを未然に防ぐためには、メリット・デメリットを理解し、マウスピース型矯正を受ける時にはどのようなことに注意したらいいのかを把握しておくことが大切です。
メリット
マウスピースは透明な装置を使うため、目立ちにくいのが特徴でありメリットでもあります。
また着脱式なので、食事をする時と歯磨きをする時は外すことが可能です。ワイヤー矯正のように装置を固定するタイプは食事の時に違和感を覚えたり、歯磨きがしづらかったりします。
歯磨きがしづらいため、磨き残しなどが原因となり、むし歯や歯周病のリスクも高くなります。しかし、マウスピースは着脱ができるため、きちんと歯磨きをすることができむし歯や歯周病のリスクを軽減することが可能です。
このように、歯の機能と審美性の改善だけではなく、患者さんの歯の健康を守れるのがマウスピース型矯正のメリットとなります。
また、マウスピースには金属がつかわれていないため金属アレルギーがある方も治療を受けられます。
デメリット
現在の医療水準ではマウスピース型矯正でこまかな歯の移動は難しいとされています。そのため、思うような結果を得られないことも多いです。
さまざまな症例に対応できるインビザラインであっても、大きく歯を動かす必要がある場合は治療が難しいでしょう。
マウスピース型矯正は、軽度な場合や歯列矯正治療後の後戻りの改善などに適した歯列矯正治療なのです。 ほかにも小児や骨格性要因を含む症例では対応できないなど、対応できる方が限られているのがデメリットです。
また長時間の使用が求められ、原則、食事と歯磨きの時に外す以外はずっと装着する必要があります。装着時間が短いと思うような効果を得られません。
マウスピース型矯正治療を受ける時の注意点
デメリットでもお伝えしましたが、マウスピース型矯正では治せる症例が限られています。そのため、ワイヤー矯正と併用して治療が行われることもあります。
歯列矯正歯科治療の技術を持たない歯科医師によるマウスピース型矯正を使った歯列矯正治療も行われていますが、マウスピース型矯正だけでは歯並びが改善しなかった時にトラブルになる可能性もあるでしょう。
マウスピース型矯正では完全に歯並びが改善できないと患者さん自身が理解していても、歯列矯正治療を行う以上はしっかりと治す必要があります。
マウスピース型矯正治療を受ける時は、ワイヤー矯正にも対応できる歯科医院に相談するようにしましょう。
大人と子どものマウスピース型矯正の違い
歯列矯正にはさまざまな方法があり、近年では目立たず痛みも少ないマウスピース型矯正に人気が集まっています。
マウスピース型矯正は大人でも子どもでも受けられる治療法です。透明なマウスピースを使用するという共通点がありますが、実はそれぞれの特徴や適用範囲には違いがあります。
こちらでは、大人と子どものマウスピース型矯正は何が違うのかをご紹介します。
子ども向けマウスピース型矯正の特徴
子ども向けのマウスピース型矯正は目的に合わせていくつか種類がありますが、主に使用されているのは以下の2つです。
- マイオブレース
- プレオルソ
マイオブレースは、歯並びの根本的な原因となる悪習慣(口呼吸・飲み込みの仕方・舌の動かし方・姿勢)を改善する目的で使用されます。
マイオブレースを装着して筋機能訓練を行うことで、顎の発育・成長を促し、理想の歯並びへと近づけていくのです。
プレオルソは、乳歯の時期に装着することで、顎の成長を利用して永久歯の生えるスペースを確保する目的で使用されます。 マイオブレース・プレオルソのメリットは以下のとおりです。
- 自由に取り外しができる
- 装着時間が短い(日中1時間程度・就寝中)
- 抜歯をしなくてよいケースが多い
- 痛みや違和感が少ない
- 後戻りしにくい
- 歯並びへの悪習慣を改善できる
- むし歯・歯周病の予防になる
一方、デメリットは以下のとおりです。
- 装着時間を守らなければならない
- 毎日のトレーニングが必要(マイオブレース)
- 家族のサポートが必要
- 適応外のケースがある(歯を大きく動かして治療するケースなど)
このように子どもの歯列矯正は、現在の見た目を改善するだけでなく、将来的な歯並びの問題を予防する効果も期待できます。
大人向けマウスピース型矯正の特徴
大人のマウスピース型矯正は、透明な装置を使うため自然な見た目を維持できるという審美的効果を期待して選ばれることがほとんどです。
大人の顎の骨はすでに成長が完了しているため子どもの歯列矯正よりも時間がかかることが多いのですが、歯列矯正中の痛みが少なく取り外しが可能というメリットでも選ばれています。
マウスピース型矯正で失敗しないために
マウスピース型矯正で失敗しないために気を付けたいことは、以下の4つです。
- アライナーに適応する症例か確認する
- 治療効果の高いインビザラインを推奨
- 実績と知識が豊富な歯科衛生士や歯科医師がいる歯科医院を選ぶ
- 装着時間をしっかりと守ること
それぞれのポイントを解説します。
アライナーに適応する症例か確認する
繰り返しにはなりますが、マウスピース型矯正で治療できる症例は限られています。歯を大きく動かさないといけないような症例には対応していません。
骨格が原因で歯並びが悪くなっている場合も、マウスピース型矯正で改善するのは難しいです。
マウスピース型矯正を受ける時は、マウスピース型矯正で改善できるかを確認しましょう。
治療効果の高いインビザラインを推奨
さまざまなマウスピースがありますが、推奨されるのはインビザラインです。世界的にシェア率が高く、その効果も検証されています。
ただし、インビザラインであってもその効果は100%ではありません。場合によってはワイヤー矯正など、ほかの歯列矯正治療との併用が求められることがあるでしょう。
実績と知識が豊富な歯科衛生士や歯科医師がいる歯科医院を選ぶ
先述したようにマウスピースのみでは治療が難しいこともあるため、実績と経験が豊富な歯科衛生士や歯科医師がいる歯科医院を選ぶのがおすすめです。
同じ歯列矯正治療に対応している歯科医師でも、実はそれまで学んできた内容によって歯列矯正治療に関する専門性や経験が異なります。
例えばインビザラインに特化した研修を受けた歯科医師であれば、インビザラインのシステムを深く理解して効果的に治療に活用できます。
治療方針や考え方も大事です。歯科医院のホームページなどを見ると、歯科医院ごとに治療方針や考え方などを記載していることがあります。
こうした治療に対する方針も、取り扱う歯列矯正装置の種類に影響を与えます。 例えば、患者さんの快適性を最優先で考える歯科医院であれば、取り外し可能で目立ちにくいマウスピース型矯正をおすすめするかもしれません。
しかし、マウスピース型矯正だけでは納得のいく結果が得られないこともあるため、ワイヤー矯正も視野に入れた治療を提案してくれる歯科医師の方がおすすめです。
装着時間をしっかり守ること
マウスピース型矯正は必要に応じて装置の取り外しが可能で、例えば食事や歯磨きなど日常生活への影響が少ない歯列矯正方法として知られています。
しかし、指定された装着時間を守らなければ十分な効果が得られないというリスクもあります。 装着時間はしっかりと守るようにしましょう。
マウスピース型矯正をするためのチェックポイント
最後に、安全性の高いマウスピース型矯正をするためのチェックポイントを紹介します。ここで紹介するポイントはマウスピース型矯正に限らず、歯列矯正療全体のチェックポイントになります。
精密検査を実施しているか
安全性の高い歯列矯正治療を受けるためには精密検査が欠かせません。精密検査はお口の状態を確認するために行います。
場合によっては、むし歯や歯周病の治療が必要になることもあるからです。また、精密検査は治療計画を立てるためにも必要です。
インビザラインは治療前に口腔内スキャナーを使って検査し、歯の動きを確認して治療計画を立てています。
このように検査を行なうことでリスクを知ったり確実な治療計画を立てたりが可能になり治療の成功につなげることができるのです。
歯科医師が治療計画、治療費用を詳細に説明しているか
治療を担当する歯科医師が治療計画、治療費用を詳細に説明してくれるかも大切なポイントです。マウスピース型矯正は複数の装置を使って少しずつ動かしていきます。
そのため、治療時間が長くなる傾向にあるので治療にかかる期間はどれくらいなのか、どのように治療を進めていくのかなどの説明が事前にあると安心して治療を受けられるでしょう。
歯列矯正治療は自由診療のため、費用が高額になります。なので、治療費用もしっかりと確認をしてください。費用相場は、全体で80万〜100万円(税込)程、部分矯正の場合60万〜80万円(税込)程です。
簡単・便利・安価をうたう歯列矯正歯科治療に要注意
「簡単」「便利」「安価」は魅力的なフレーズですが、安易に信用することはおすすめできません。
そもそも、マウスピースは日本の薬機法では医療機器に該当しないため、ホームページなどで訴求はできません。
しかし、「簡単」「便利」「安価」とうたってマウスピースを宣伝している歯科医院もあり、安易にマウスピース型矯正をうけトラブルになっている例もあります。
マウスピース型矯正は治療の選択肢の1つです。症例によっては対応が難しいので、その場合はほかの治療法を検討する必要があります。
マウスピース型矯正ありきで治療をすすめるのは、トラブルの原因となります。治療を受ける時はそのことを忘れないようにしてください。
まとめ
本記事では、マウスピース型矯正の種類や大人と子どもの歯列矯正の違い、マウスピース型矯正を安全に行うチェックポイントなどをご紹介してきました。
目立ちにくく取り外しもできるため人気が高いマウスピース型矯正ですが、実は種類が豊富で価格や治療に要する期間、対応する症例もさまざまです。
まずは歯科医院でカウンセリングを受けて、歯科医師とじっくり話し合うことからはじめましょう。自分自身の歯並びの状態や予算、治療の目的などに合った適切な歯列矯正方法を選ぶ参考にしていただければ幸いです。
参考文献