部分矯正は歯並びや噛み合わせを全体の歯列矯正ではなく、上の歯だけ・下の歯だけ・前歯だけなど、特定の問題箇所を治療する方法です。
この治療法は、全体の歯列矯正に比べて治療期間が短縮される場合があります。
また、特定の歯や歯列の一部のみを修正するため、全体の歯列矯正に比べて治療費が低く抑えられることが一般的です。
前歯は笑ったり話したりするときに特に目立ち、前歯の歯並びを改善するだけでも外見が大きく変わります。
また、適切な位置に歯が配置されていることはお口の健康を保つためにも重要です。
前歯だけの歯並びは、部分矯正で治すことはできるのでしょうか。
この記事では、上下の前歯の部分矯正について詳しく説明しています。部分矯正の適用例や治療費、そしてメリットやデメリットについても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
部分矯正の特徴
部分矯正とは、前歯から奥歯まですべての歯並びや噛み合わせを修正するのではなく、特定の部分だけを対象にした部分的な歯列矯正治療のことです。
具体的には、前歯の出っ歯や歯並びの軽度の乱れを修正する・歯と歯の間に隙間があるすきっ歯を治す・歯周病治療などの一環として一部分の歯並びや噛み合わせを改善する場合に行われます。
部分矯正の最大の利点は、費用が抑えられることです。すべての歯を対象にする全体の歯列矯正に比べて費用がかなり抑えられ、より経済的にきれいな歯並びを手に入れることができます。
また、歯を移動させる範囲が少ないため、治療期間も短く済みます。
前歯が少し前に出ている・歯の隙間が気になるなど、特定の部分について改善を希望する患者さんに特におすすめの治療法です。
上下の前歯だけ部分矯正できる?
部分矯正を希望する患者さんは、前歯の美容的な改善が目的です。前歯の凸凹を修正したい・前歯が突き出ているのを引っ込めたい・1本だけねじれているのを直したいといった具体的な要望です。
部分矯正で前歯を美しく整えることは可能ですが、例えば2本の凸凹を治療する場合でも、それらの歯を動かすためには周囲の歯を移動させる必要があります。
したがって、2本だけの治療でも、通常は片顎につき4本から10本の歯の移動が必要になることがあります。
また、上顎だけを治療したいという要望があっても、下顎の歯との噛み合わせが重要です。
正しい咬合がないと、噛む力が均等でなくなったり、歯に負担がかかったりする可能性があります。そのため、前歯の部分的な歯列矯正でも、しばしば上下の歯の位置調整が必要とされます。
上下の前歯の部分矯正の適応症例
部分矯正は、奥歯を動かさずに既存のスペースを活用して前歯の位置を調整することが特徴です。たとえ1本の突き出た歯を治療する場合でも、その歯を並べるためにはスペースを作る必要があります。
これには空いているスペースに歯を移動させたり、傾斜を調整したり、歯を少し削ったりすることがあります。
前歯の歯並びを改善するだけでも外見が大きく変わりますが、部分矯正を行うことはできるのでしょうか。部分矯正の適応例と不適応例について紹介します。
軽度の歯並びの乱れ
歯の前歯が少し重なっている・ずれている・回転しているなど、軽度の歯並びの乱れのことです。この状態は、叢生(そうせい)または乱杭歯(らんぐいば)と表現されます。歯が不規則に生えたり、隣の歯と重なったりすることで、歯並びが不均一になることです。
このような前歯の歯並びの乱れを部分矯正で治療することで、口元の外見が大きく改善されるでしょう。患者さんが歯並びや笑顔に自信を取り戻すことができ、患者さん自身が納得のいく理想的な歯並びを手に入れることができます。
すきっ歯
顎の骨格に対して歯が小さく、歯と歯の間にすき間ができてしまう状態です。すきっ歯はお口を開けるとすぐに見えてしまうので、笑ったり話したりするのに気を遣う人もいるのではないでしょうか。
また、食べ物が歯と歯の間につまってしまうこともあるでしょう。隙間の程度が軽度であれば、部分矯正でも一般的には短期間で改善が見られます。
骨格に問題がないケース
骨格に問題がなければ部分矯正が行えるのですが、歯を大きく移動させて、噛み合わせ全体を改善する必要がある場合には全体の歯列矯正が適切です。
噛み合わせに問題がないケース
噛み合わせの問題があると咀嚼が困難になり、頭痛や肩こりなどの症状が現れることがあるので注意が必要です。
上下の前歯の部分矯正の治療方法
前歯が少し重なっている・少し入り組んでいるなどの軽度の歯並びの問題は、部分矯正で治療できます。良好な噛み合わせは歯・咀嚼筋・顎関節の調和が整っている状態のことで、噛み合わせの検査では、これらが正常に機能しているかの確認が必要です。
部分矯正の適応や治療方法は、患者さんの症例によって異なります。自身の症状や治療目標に応じて適切な部分矯正治療を選択するためには、歯科医師との相談や詳細な検査が欠かせません。
一般的に、部分矯正は主にワイヤー矯正とマウスピース型矯正に分けられます。以下にそれぞれの特徴を説明します。
ワイヤー矯正
部分矯正において一般的な方法は、従来から行われているブラケット矯正です。ブラケットは歯の表面に取り付けられ、ワイヤーによって歯を移動させることで歯列矯正を行います。
部分矯正の場合、必要な箇所にのみブラケットを取り付け、歯の位置を調整します。
通院は1ヵ月に1回装置を調整する必要があり、治療期間は数ヵ月から数年で、歯を理想的な位置に移動させるのです。
しかし、むし歯や歯周病など、部分矯正前に治療が必要な場合はその治療を行ってから歯列矯正治療を行う必要があります。ワイヤー矯正では、ブラケットの周囲が汚れやすくなるため、歯磨きを丁寧に行うことが重要です。
また、部分矯正をはじめるにあたって抜歯が必要な場合もあるため、部分矯正治療前に改善しておくべきことがあるかどうかを歯科医師に確認するようにしましょう。
裏側矯正(舌側矯正)
表側と裏側の治療で最終的な治療結果に大きな違いはないものの、裏側矯正(舌側矯正)の費用の方が高くなることが一般的です。
かつては、表側矯正に使用されるブラケット素材は金属であり、これが歯が見えたときに目立つことがありました。
そのため、審美的な理由から治療中も目立ちにくいようにするために裏側矯正(舌側矯正)が選ばれることがありました。
しかしブラケットの技術は進化し、現在では表側矯正でも、歯の色に合わせて変色しないセラミックブラケットが主流になっています。
それでも、表側に装置が付くことに抵抗がある場合は、裏側矯正(舌側矯正)が有効でしょう。
裏側からの歯列矯正では以前、喋りにくさ・舌の痛み・食べ物が詰まりやすい・歯磨きが難しいといった問題がありましたが、装置の進化によりこれらの問題はほとんど解消されました。
また、裏側矯正(舌側矯正)ではむし歯のリスクが通常の1/4、むし歯の深刻度は1/10になるとされています。
治療期間や最終的な治療結果は、表側と裏側に違いはなく、個々の咬合状態で診断することが重要です。検査の結果により、見た目や費用の希望に応じて表側か裏側を選択できます。
こちらもむし歯や歯周病など、事前に治療が必要な場合はその治療を行ってから歯列矯正を行う必要があります。
マウスピース型矯正
それぞれの治療計画をもとに作成されたマウスピース型を使用します。マウスピース型をご自宅で2週間ごとに交換して少しずつ歯を動かします。
マウスピース型矯正の特徴は、装着時間が1日20時間以上であることです。透明なマウスピースを歯に装着することで、徐々に歯並びを調整します。
外見の影響が少なく、特に見た目を気にされる方に好評です。
長時間マウスピースを装着する理由は2つあります。まず1つ目は、マウスピース型矯正がワイヤー矯正に比べて歯にかかる力が小さいため、長時間マウスピースを装着しないと歯を移動させることができないからです。そして2つ目は、後戻りを防ぐためです。後戻りとは、口周りの筋肉の影響などによって、移動させた歯が元の位置に戻る現象のことを指します。長時間マウスピースを装着することで、後戻りを予防できるのです。
マウスピース型矯正の効果は、患者さんが歯科医師の指示どおりにマウスピースを装着する必要があります。
マウスピース型矯正のインビザラインには、インビザラインGOという部分矯正があり、メリットは以下のとおりです。
- 部分矯正は全体のマウスピース型矯正に比べて費用が半額程度
- 平均して1年以内(一般的に6ヵ月程度)で治療が完了する
- ブラケットとワイヤーを使用した歯列矯正と比べて痛みが少ない
- マウスピースを外して食事ができるため食事の制限がない
- マウスピース自体も水洗い可能なので歯やマウスピース装置を清潔に保つのが容易
- スポーツや特別なイベント時にはマウスピースを外して行動できる
デメリットは以下のとおりです。
- 歯並びや噛み合わせの状態によって一部の方には適応できない場合がある
- 特に奥歯の歯列矯正は部分矯正では実施が困難なことがある
ワイヤー矯正・マウスピース型矯正どちらもデメリットとして挙げられるのが、適応できる症例が限られていることです。症状が重度の場合や骨格に問題がある場合などは部分矯正で対応できません。
そのため、患者さんが部分矯正を希望していても歯科医師の判断によっては治療を断られることもあります。歯科医師と相談して、治療方針を決める必要があります。
上下の前歯の部分矯正の治療期間
全体の歯列矯正に比べ<部分矯正の方が治療期間が短くなることが一般的です。歯列矯正の期間は、歯の状態や年齢・歯の動きによって異なります。最終的に歯列矯正が完了した後には、後戻りを防ぐための保定期間が必要です。
では、治療期間はどのくらい必要なのでしょうか。ワイヤー矯正・マウスピース型矯正それぞれについてご紹介します。
ワイヤー矯正の場合
3ヵ月から1年程で、全体の歯列矯正が1から3年かかるのに対して、部分矯正は半分以下の期間です。
裏側矯正(舌側矯正)の場合
半年から2年程で、表側矯正よりやや時間がかかるのが一般的です。
マウスピース型矯正の場合
半年から1年半程で、歯列矯正の効果は担当医の指示どおりにマウスピースをきちんとつけることが求められます。
どの歯列矯正方法でも、治療した箇所に後戻りが生じる可能性があるため、保定装置(リテーナー)を使って後戻りを防ぐ保定期間が設けられています。保定期間の長さは患者さんの歯の状態や来院頻度によって異なるので、はっきりとはわかりません。
保定期間終了後も、数ヵ月から数年が経過すると噛み合わせが悪化することがあります。
噛み合わせの問題があると咀嚼が困難になり、頭痛や肩こりなどの症状が現れることがあります。その際には早めに歯科医院を受診し、歯科医師と相談することが重要です。
上下の前歯の部分矯正の治療費用
歯列矯正は自由診療に定められるため、国に指定された症例を除き、健康保険は適応されません。そのため、治療費用に諸費用を加えた合計費用は高額になります。
部分矯正の治療費については歯科医院によって大きく差がありますので、いくつかの歯科医院で相談してみることをおすすめします。
費用には治療中の費用とは別に、歯列矯正後の歯並びの維持を目的とした保定装置の代金やメンテナンス料も必要であり、事前に概算を確認しておきましょう。
ワイヤー矯正の費用相場
表側矯正の場合は、全体の歯列矯正が1,000,000円(税込)前後かかるのに対し、部分矯正では600,000〜900,000円(税込)と費用が抑えられることがあります。
裏側矯正(舌側矯正)の費用相場
歯の裏側で目立ちにくい裏側矯正(舌側矯正)では、技術的に難易度が高いため、表側矯正に比べて1.5倍から2倍程一般的には高くなります。裏側矯正(舌側矯正)の費用は、全体の歯列矯正で1,200,000~1,500,000円(税込)かかるのに対し、部分矯正では400,000~700,000円(税込)が目安です。
マウスピース型矯正の費用相場
マウスピース型矯正のインビザラインは、全体の歯列矯正では500,000~1000,000円(税込)かかるのに対し、部分矯正のインビザラインGOの費用は300,000~800,000円(税込)です。
ここで注意したいのがマウスピース型矯正治療の適応例ではないのに、非抜歯で無理やりマウスピースだけで治療を進めた結果、理想の歯並びにならないことがあります。
そのためにワイヤー矯正に変更することがあり、想定より治療費が高くなることがあります。
信頼できる歯科医院を見つけて、相談することが重要です。
また、部分矯正治療の内訳として以下の費用がかかります。
- 相談料(カウンセリング料)
- 検査料(精密検査費)
- 診断料(診断費)
相談料は、患者さんの歯並びに関する悩みを聞き、必要な歯列矯正治療の流れをポイントに絞って説明する際にかかります。
検査料(精密検査費)は、現在の歯並びの状況を確認するために、歯やその周辺の骨格を詳細に見るためのレントゲン撮影やCT撮影などを行う際の料金です。
診断料(診断費)は、検査結果に基づき現在の歯並びの状況を説明し、適切な歯列矯正方法や治療プラン・費用について説明する際にかかります。
歯列矯正治療後の費用内訳は以下のとおりです。
- 歯列が安定するまで使用する保定装置(リテーナー)の料金
- 歯列矯正治療後に歯並びの状態を定期的にチェックする際の診察料(メンテナンス料)
歯列矯正治療には複数の段階があるため、治療を始める前に初回の相談で概算を聞くことをおすすめします。
保定期間や保定装置の装着時間などは、患者さんの口腔内の状態や治療内容などによって違ってきますので、主治医に説明してもらい適切な保定治療を行うことが重要です。
保定装置の装着期間は、約2〜3年が目安です。経過観察では、歯並びと噛み合わせのチェック・口腔内の歯石や着色をとるクリーニングなどを行います。
保定装置には、きれいに整った歯並び・しっかりとした噛み合わせを後戻りから守る大切な役割があります。
まとめ
部分矯正は選択肢の1つです。治療範囲が限定されているため、治療期間が短く、費用も抑えられるメリットがあります。
しかし、患者さんそれぞれの歯の状態や希望によって治療期間は異なる場合がありますので、十分なカウンセリングと診断が重要です。
また前歯の歯並びは見た目の改善だけでなく、噛み合わせなどの問題がある可能性があるため、総合的に考えると全体矯正が適している場合もあります。
歯並びが気になる場合は、歯科医院で相談して、信頼できる歯科医師を選びましょう。
参考文献