歯並びの美しさや機能性は、遺伝的な要因だけでなく、日々の習慣や口腔内の筋肉の動きによっても左右されます。なかでも舌癖(ぜつへき)は、歯並びに悪影響を与えるといわれています。
本記事では歯並びの舌癖について以下の点を中心にご紹介します。
- 歯並びと舌癖の関係性
- 舌癖の原因や対策
- 正しい舌の位置
歯並びの舌癖について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
歯並びと舌癖の関係性について
- 舌癖(ぜつへき)とは何ですか?
- 舌癖(ぜつへき)とは、無意識のうちに舌を歯に押し付ける癖や、不適切な位置に舌を置く習慣のことを指します。例えば、本を読んだりテレビを見たりしているときに、お口を開けたまま舌が上下の歯の間に出ている状態や、飲み込む動作の際に舌が歯を強く押してしまうことなどが当てはまります。
人間は1日に600~2,000回程無意識に飲み込む動作を繰り返しており、正しい位置に舌がない場合、歯並びに影響を与える可能性があります。
本来、舌の正しい位置は、先端が上の前歯の付け根付近(スポット)に軽く触れ、舌全体が上顎に密着している状態です。
しかし、舌癖がある方は舌が下がり、歯の間に押し込むような形になっている可能性があります。
- 舌癖のチェック方法を教えて下さい
- 舌癖があるかどうかは、簡単なセルフチェックでも確認できます。以下の項目に当てはまるか、チェックしてみましょう。
- 普段からお口が開いたままになっている
- 歯で舌を噛む癖がある
- 舌が常に上の前歯や下の前歯の裏側に触れている
- 飲み込むときに舌が歯に当たる
- むせやすいことがよくある
- お口の中が乾燥しやすい
- 無意識に舌を出してしまう
- 食事中に音を立てたり、食べ物をこぼすことがある
- 食べる際に舌を出して食べ物をお口に入れる
- 唇を閉じると下顎にしわが寄る
- 発音が不明瞭で滑舌が悪い
- 姿勢が悪く猫背になりがち
- 口呼吸をしている
- うつ伏せや横向きで寝る習慣がある
- 睡眠中にいびきをかく
- 頬杖をつく癖がある
いくつか該当する項目があれば、舌癖の可能性があります。
- 舌癖と歯並びの関係性について教えて下さい
- 舌癖は歯並びに影響を及ぼす要因の一つです。 歯並びは遺伝的な要因だけで決まるわけではなく、顎の大きさや口周りの筋肉の発達具合にも深く関係しています。
幼少期から硬い食べ物をよく噛んで食事をしたり、正しい舌の位置を保つことを心がけたりすると、自然と歯並びを整える助けになります。しかし、舌癖やお口を開けっぱなしにする習慣があると、筋肉のバランスが崩れ、歯並びの乱れを引き起こすことがあります。
例えば、飲み込む際に舌が上の前歯を押し続けると、上顎前突(出っ歯)や開咬(前歯が噛み合わない状態)、空隙歯列(歯の間に隙間がある状態)などの問題が生じやすくなります。
また、舌が低い位置にある状態(低位舌)で、飲み込む動作の際に舌がうまく持ち上がらない場合、反対咬合(受け口)になりやすいといわれています。
舌癖の原因や対策について
- 舌癖の原因を教えて下さい
- 舌癖が生じる原因はさまざまです。主に以下のような要因が関係しているとされています。
- 指しゃぶりの影響
幼少期に指しゃぶりの習慣が長期間続くと、上下の前歯の間に隙間ができやすくなります。指しゃぶりをやめても、その隙間に舌を押し込む癖が残ることがあります。 - 乳歯が早く抜けた場合
乳歯が永久歯に生え変わる過程で乳歯が早期に抜けてしまうと、歯の隙間に舌を押し込む癖がつきやすくなります。この状態が長引くと、永久歯が生えた後も舌癖として残ることがあります。 - 口呼吸
口呼吸をしていると舌が低い位置に下がり、歯に触れる頻度が増え、舌癖が形成されやすくなります。 - 舌小帯の異常
舌小帯は舌の裏側にある薄いスジ状の組織で、短かったり張っていたりすると舌の動きが制限されます。結果、舌を上に持ち上げる動作が難しくなり、舌が低い位置に留まる「低位舌」の状態になります。 - お口周りの筋力低下
お口周りの筋肉が弱いと、舌とのバランスが崩れ、自然と舌で歯を押すような動きが強くなります。
- 指しゃぶりの影響
- 舌癖の対策方法はありますか
- 舌癖の対策には以下のような方法があります。
- 舌のトレーニング
舌を正しい位置に置く練習を毎日行い、意識的に舌の筋肉を鍛えます。 例えば、舌先をスポットポジション(正しい位置)に置き、数秒間キープする練習を繰り返すと、徐々に慣れてきます。
スポットポジションとは、舌先がスポット(上の真ん中の前歯2本の真裏にある膨らみ)に当たり、舌全体が上顎に吸い付いている状態です。 - 姿勢の改善
姿勢が悪いと舌の位置が乱れやすくなります。正しい姿勢を保つことで、自然と舌の位置も安定します。
- 舌のトレーニング
- 腔筋機能療法(MFT)とは何ですか?
- 口腔筋口機能療法(MFT)は、舌やお口の周りの筋肉を正しく機能させるためのトレーニングです。舌癖が強い方や飲み込む動作の癖が原因で歯並びや噛み合わせに悪影響が出ている方に効果的だとされています。
また、舌の裏の筋(舌小帯)の短さを改善する手術を受けた場合、舌の動きをリハビリするために口腔筋機能療法(MFT)が併用されます。
具体的な口腔筋機能療法(MFT)のやり方は、以下のとおりです。
【準備するもの】
鏡、箸、水の入ったコップ【基本トレーニング(1日2セット推奨)】
- 舌を平らにしたり、尖らせたり、形を変える
- 箸を口の前に持って、舌の先を真っすぐに尖らせて、強く押す
- 箸を舌の真ん中に置き、舌に力を入れて上に持ち上げる
- 口を開けて、舌の先でゆっくりと唇をなぞる
- 上を向いて口を大きく開けて、ガラガラうがいをし、止める
腔筋機能療法(MFT)は、お口周りの筋肉をつけ、舌や唇、頬の筋肉などのバランスを整えていくことが大切です。
なお、歯科医院スタッフのマンパワーが足りずに口腔筋機能療法(MFT)が実施できないというケースでは、Myobrace®︎(マイオブレース )などの筋機能矯正装置を使用されている場合もあります。
舌の位置や低舌位について
- 舌の正しい位置を教えて下さい
- 普段、舌の位置を意識することは少ないかもしれません。しかし舌の位置は、私たちの健康や姿勢、さらには歯並びにまで影響を与える重要な要素です。
舌の正しい位置とは、舌先が上の前歯の付け根に軽く触れ、舌全体が上顎(口蓋)に密着している状態を指します。
ただし、舌先だけが触れているのではなく、舌の根元からしっかりと上顎に吸い付くような感覚が理想的です。
- 舌の位置がよくないとどうなりますか?
- 舌が適切な位置にない場合、以下のような悪影響を引き起こす可能性があります。
- 歯並びの悪化
舌が下顎や歯に当たる位置にあると、出っ歯や受け口、開咬などの不正咬合を引き起こす可能性があります。また、舌の位置が低い状態(低舌位)が続くと上顎が狭くなり、歯並びがさらに悪化する可能性があります。 - 発音への影響
舌の位置が正しくないと、サ行やタ行といった音を発音する際に支障をきたし、滑舌が悪くなる可能性があります。 - 舌や顎の筋力低下
舌が正しい位置にないと、舌の筋力が弱くなり、顎の位置が変わることで噛む力や飲み込む動作にも影響を与えます。 - 呼吸への悪影響
舌が後方や下方に位置すると、気道を圧迫し、鼻呼吸ではなく口呼吸が習慣化してしまいます。慢性的な口呼吸は気道を狭くし、睡眠時無呼吸症候群のリスクを高めます。 - いびきや睡眠時の問題
舌が後方に下がると、寝ている間は舌の筋肉が弛緩し、気道を部分的に塞いでしまうことがあります。いびきや低酸素状態を引き起こし、さらには睡眠の質を低下させる原因となります。 - 長期的な悪影響
舌の位置が適切でない状態が長く続くと、歯や顎の正常な発育が妨げられ、正しい噛み合わせができなくなります。また、気道が狭まることで、呼吸機能や全身の健康に深刻な影響を及ぼす可能性もあります。
- 歯並びの悪化
- 低舌位になりやすい人の特徴を教えて下さい
- 舌が正しい位置よりも低い状態にある低舌位は、口腔内の健康や機能にさまざまな影響を及ぼします。
低舌位になりやすい方には、以下のような特徴や習慣があります。- 舌の側面に歯型がつく
舌が低い位置にあるため、歯に圧迫されることで舌の側面に歯型の跡がつくことがあります。低舌位を示す典型的なサインです。 - お口が開きっぱなし
安静時でもお口がポカンと開いて口呼吸が習慣化している場合は、舌が正しい位置に保たれていない可能性があり、低舌位になりやすいです。 - 声が小さく、発音が不明瞭
舌の動きが制限されて滑舌が悪くなり、サ行やタ行の発音が難しくなる場合があります。 - 食事中に音を立ててしまう
食べるときにクチャクチャと音を立てる方は、舌や口周りの筋力が十分に使われていない可能性があり、低舌位につながる場合があります。 - いびきをかく
睡眠時に舌が後方に下がり、気道を狭めることでいびきを引き起こすことがあります。
- 舌の側面に歯型がつく
編集部まとめ
ここまで歯並びと舌癖の関係性についてお伝えしてきました。
歯並びと舌癖の関係性の要点をまとめると以下のとおりです。
- 舌癖は、無意識のうちに舌を歯に押し付ける癖や、不適切な位置に舌を置く習慣を指す。お口を開けたまま舌が上下の歯の間に出ている状態や、飲み込む動作の際に舌が歯を強く押してしまうことなどが該当する
- 舌癖になる原因は、指しゃぶり、口呼吸、お口周りの筋力低下が挙げられる
- 舌の正しい位置とは、舌先が上の前歯の付け根に軽く触れ、舌全体が上顎に密着している状態。ただし、舌先だけではく、舌の根元からしっかりと上顎に吸い付くような感覚が理想的
歯並びと舌癖は密接に関連しています。正しい舌の位置になるよう意識し、美しい歯並びを保ちましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。