歯列矯正は、出っ歯や受け口など、歯並びの問題を根本から改善できる方法ですが、いくつかデメリットやリスクも伴います。そのなかでも歯列矯正で、口元が下がる症状を不安に感じている方が少なくありません。
歯をきれいに並べることでなぜ口元が下がるのか、疑問に思っている方もいることでしょう。ここではそんな歯列矯正で口元が下がる原因や影響、予防する方法などについて解説します。歯列矯正で口元が下がりやすい人の特徴についても触れますので、気になる方は参考にしてみてください。
歯列矯正で口元が下がる?
歯並びや噛み合わせというのは、口元を含む下顔面の輪郭や見え方に大きく関係しているため、歯列矯正によって口元が下がることはあります。歯列矯正で口元が下がる原因については以下で詳しく解説しますが、歯科医師の知識や技術、経験によって左右される部分が少なからずあります。
その一方で、始めから口元が下がりやすい人もいるため、歯列矯正で口元が下がる症状を100%避けることはなかなか難しいです。
歯列矯正で口元が下がる原因
歯列矯正で口元が下がる原因を考えていきましょう。歯列矯正の方法に由来する原因を解説します。これは歯科医師の検査・診断・治療に問題があって、口元が下がるケースです。
不必要な抜歯による影響
歯列矯正の際に、不必要な抜歯をすると口元が下がる原因になります。
歯列矯正の抜歯は、専門的には便宜抜歯と呼ばれるもので、歯列矯正を行ううえで必要となる抜歯なので、患者さんが得られるメリットの方が大きいです。抜歯が不要なケースで歯を抜くと、歯列が引っ込みすぎることで口元が下がる場合があるのです。
便宜抜歯の要否は、精密に判断する必要があります。必要な抜歯を行った場合でも、結果として口元が下がることもあるため、一概に歯科医師だけの責任とは言い切れません。このような場合では、抜歯を行わなければ口元が下がる症状を予防できますが、歯並びや噛み合わせの仕上がりは悪くなります。
Eラインのバランスを考慮しなかった
歯列矯正では、上下の歯並びと噛み合わせ以外にも、横顔の美しさの指標であるEラインのバランスまで考慮する必要があります。Eラインのバランスを整えることが目的で歯列矯正を受ける人がいるくらい、重要なポイントとなっています。
歯列矯正に携わっている歯科医師は、Eラインの重要性を理解しており、そのバランスを整えることも治療計画に盛り込みます。
歯列矯正の仕上がりに、Eラインへの配慮がなかったり、バランスを整えるのに失敗したりするケースでは、口元が下がるという症状も起こります。ちなみに、歯列矯正でEラインのバランスを整えるためには、歯の角度、顎の位置、口唇の厚み、目元の位置、おでこの位置などを考慮しながら歯を動かす必要があります。
下顎の位置を基準にした上顎の移動
歯列矯正後に口元が下がる症状は、出っ歯のケースで見られやすいです。上顎が前方に出ている、あるいは下顎が後方に下がっていることで出っ歯になっている場合は、歯列の移動に細心の注意を払う必要があります。
具体的には、下顎の位置を基準にして、上顎の歯列を下げたり、上顎の前歯の角度を変えたりすると、結果として口元が下がることがあります。
歯の移動量が過剰だった
歯の移動量が過剰になることで、口元が下がる症状が現れやすいです。上顎前突や上下顎前突では、抜歯をして歯を後方へと下げることで症状の改善が見込めますが、どれくらい下げるかが重要なポイントとなります。
歯列全体を後方に下げることで、上顎前突や上下顎前突に伴う噛み合わせの不具合や口ゴボの症状を改善されるのですが、口元の審美面には悪影響が及ぶリスクも伴います。患者さん自身もカウンセリングや治療計画の説明を受ける段階で、機能面と審美面のどちらにバランスを傾けるか、歯科医師に伝えておくことが大切です。
口元が下がりやすい人の特徴
歯列矯正によって口元が下がりやすい人の特徴を解説します。これは歯列矯正の内容や質ではなく、患者さんが元々持っている顔の特徴によって、口元が下がるリスクを表すものです。
上顎前突(出っ歯)
上の前歯や顎の骨が前方に出ている歯並びを上顎前突といいます。上顎前突の歯列矯正では、前歯を後方に下げる処置が基本となるため、治療が終わった後に口元が下がりやすいです。
歯列矯正で口元が下がる原因の多くは、上顎前突のケースが当てはまります。上顎前突を歯列矯正で改善する予定の方は、歯並びや噛み合わせの改善だけでなく、Eラインのバランスや口元の見え方まで考慮した治療を想定するのが望ましいです。
上下顎前突
上下顎前突とは、上と下両方の前歯、顎の骨が前方に出ている歯並びです。口ゴボと呼ばれており、イメージしやすいでしょう。
口元がゴボッと膨らんでいる歯並びを歯列矯正で改善するためには、上顎前突と同様に歯列の後方移動が必要となります。歯の移動量が大きいと、口元が下がる症状も見られる場合もあります。
下顎が小さい
上下の顎の大きさは、患者さんによって大きく異なります。歯列矯正で口元が下がるという観点では、下顎が小さい人ほどリスクが高まるといえるでしょう。歯列矯正では、顎の骨の大きさを変えることができないからです。そうなると歯の移動によって、上下顎のアンバランスを改善せざるをえなくなります。
具体的には、下顎が小さい場合、上顎が相対的に大きくなることから、出っ歯の症状が出やすいです。それを治すためには、上の前歯や歯列全体を後方へと下げることになるので、口元も下がりやすくなります。つまり、上段でも解説した下顎の位置を基準にした上顎の移動が行われるのです。
口元が下がることによる変化
歯列全体で口元が下がることによる変化やデメリットについて解説します。
ほうれい線が目立つ
ほうれい線とは、鼻の両脇から口角にかけて生じるしわのことで、専門的には鼻唇溝(びしんこう)と呼ばれています。ほうれい線が生じる主な原因は、加齢による肌の弾力性の低下やたるみ、紫外線による肌の老化ですが、歯列矯正によって生じることもあります。 前歯や歯列全体を後方へと下げると、口元が全体も引っ込むことでほうれい線が目立つようになります。ほうれい線自体は、お口の機能に悪影響を及ぼすものではありませんが、老けた印象を与えるため、審美面においてはデメリットとなります。
歯列矯正でほうれい線が目立つようになるタイミングは、治療直後、治療から数ヵ月経過後、数年経過後など、ケースによって異なります。歯列矯正が完了してすぐにほうれい線が目立つようになった場合は、ほぼ間違いなく歯の移動や抜歯による影響といえるでしょう。歯列矯正から数ヵ月経過してからほうれい線が目立つようになった場合は、歯列矯正に伴う口腔周囲筋の変化が関係しているものと考えられます。歯列矯正から数年経過してからのほうれい線の変化は、おそらく加齢によるものです。
噛み合わせが悪化
歯列矯正には、歯並びと噛み合わせの2つを改善する効果が期待できます。前者のみを改善した場合は、歯列矯正の結果として口元が下がったり、噛み合わせが悪くなったりすることがあるため注意が必要です。
必要のない抜歯を行ったケースや歯を移動しすぎたケースでは、噛み合わせが悪くなりやすいです。歯が担う主な機能は咀嚼であることを考えると、歯列矯正で噛み合わせが悪くなるのは本末転倒です。患者さんが審美性の向上に重きを置きすぎた結果、そのような噛み合わせになることもありますが、正しい知識と技術を持った歯科医師であれば、歯並びと噛み合わせの両方を正常化する治療計画を提案してくれるはずです。
◎部分矯正は噛み合わせの調整が難しい?
歯列矯正の治療形態は、全体矯正と部分矯正の2つに大きく分けられます。全体矯正は、ポピュラーな歯列矯正の方法で、上下の歯列全体が治療対象となるため、噛み合わせの調整もしやすいです。一方で、前歯2~3本のような一部の歯だけが治療対象となる部分矯正では、上下の噛み合わせを調整することは現実的に難しいです。例えば、出っ歯の症状を前歯2~3本の傾きだけ治すような部分矯正の場合、歯列矯正によって噛み合わせが悪くなることも珍しくありません。
口元のたるみが目立つ
歯列矯正で口元が下がる症状は、口元のたるみが目立つと言い換えることもできます。前方に出ていた前歯を後方に下げることによって口唇が支えを失い、周囲の皮膚もたるんでしまいます。便宜抜歯をした場合は、その影響もさらに大きくなるでしょう。
面長になってしまう
前方に出ていた口元が歯列矯正によってフラットになるのはよいことなのですが、患者さんの顔の骨格や皮膚のつき具合によっては、歯列矯正後に面長な見た目となることもありえます。これも口元が下がることと関係しているのですが、結果として顔貌にネガティブな変化をもたらします。
鼻の下が伸びて見える
顔の美しさを見定める上でわかりやすい指標となるものに陣中があります。人中とは、鼻と口唇の間に存在する溝で、その距離によって顔の印象が大きく変わります。。日本人の理想的な人中は1.5cm程度されており、それが長いと鼻の下が伸びて見えます。歯列矯正で口元が下がると、人中が長くなったように見えるケースもあるため注意が必要です。
口元が下がらないための予防策
歯列矯正で口元が下がる症状を予防する方法について解説します。歯列矯正で歯並びだけでなく、噛み合わせや顔貌まできれいに仕上げたいという方は、以下にあげる4つに着目しましょう。
精密検査をしてくれる歯科医院を選ぶ
歯列矯正は事前の検査が重要となります。事前の検査や診断が不正確だと、治療計画にも誤りが生じ、間違った設計図をもとに数年間の矯正治療を進めて行くことになりかねないからです。事前の検査は精密に行ってくれる歯科医院を選ぶことが重要となります。どの矯正歯科でも同じような内容の検査を実施するのが一般的なので、患者さんがその違いを見極めることは簡単ではありません。
具体的には、口腔内診査、口腔内の写真撮影、型取りと模型の作製、顔貌の撮影などです。セファログラムを撮影するかは、ひとつの指標となります。セファログラムは、矯正治療専用のレントゲン撮影であり、この装置自体を導入していない歯科医院もたくさんあります。
治療前に十分なカウンセリングを受ける
治療前のカウンセリングは、歯列矯正に関する不安や疑問をすべて解消する気持ちで臨みましょう。自分の歯並びは、歯列矯正で口元が下がる可能性があるか、先生なら口元が下がる症状を防止する方法を知っているかなど、遠慮せずに何でも聞くことが大切です。
不必要な抜歯を避ける
歯列矯正は、とにかく抜歯をすれば治しやすくなる、後戻りしにくくなるというものではありません。抜歯が不要であれば、非抜歯で治療を行った方がよい結果も得られやすいのです。こうした抜歯の要否をしっかり判断できる歯科医師を探すことが、歯列矯正で口元が下がる症状の予防に必須といえます。
セカンドオピニオンを検討する
検査や診断を受けた歯科医院に不安がある場合は、セカンドオピニオンを受けるのもひとつの選択肢です。可能であれば、カウンセリングの段階で複数の歯科医院に相談しましょう。
まとめ
今回は、歯列矯正で口元が下がる原因やそれによる弊害、口元が下がらないための予防策について解説しました。歯列矯正では、必要のない抜歯を行った、Eラインのバランスを考慮しなかった、下顎の位置を基準にした上顎の移動を行った、歯の移動量が過剰だったなどの理由で、治療後に口元が下がる場合があります。こうしたミスやトラブルを防止するためには、信頼のできる歯科医院を選ぶ必要があります。歯列矯正で口元が下がりやすい特徴を持った人は、それでもきれいに仕上げられる、腕のよい歯科医師を探してみてください。
参考文献