部分矯正は誰にとっても適切な治療ではなく、おすすめしない人や、そもそも適応が難しい症例もあります。
この記事は、部分矯正がどのような人に向いているのか、また部分矯正と全体矯正にはどのような違いがあるのかなどについて解説していきます。
部分矯正での治療を検討している方は、参考にしてみてください。
部分矯正をおすすめしないのはどのような人?
部分矯正をおすすめしないケースとしては、全体の噛み合わせの悪い方や、歯並びの悪さが重度の方、骨格に問題がある方などがあります。
おすすめしないそれぞれのケースについて解説します。
全体の噛み合わせが悪い人
部分矯正は、前歯だけなど歯並びの一部分だけを修正する治療法です。歯並びを整えることで噛み合わせの改善を目指すことはできますが、当然ながら部分矯正をする一部分だけしか修正は行えませんので、全体的に噛み合わせが悪い方にはおすすめしない治療法です。
また、前歯から奥歯まで全体の噛み合わせが悪い方の場合、部分矯正で一部だけ歯並びを整えてしまうと、全体的な噛み合わせが悪化してしまう可能性もあります。
奥歯の噛み合わせは適切であるものの、前歯の噛み合わせだけが少しずれているなど、部分的な噛み合わせの修正で改善が見込めるような方が、部分矯正の適応といえます。
歯並びが著しく悪い人
部分矯正にもワイヤー型矯正装置による治療法やマウスピース型矯正装置による方法がありますが、歯並びが著しく悪い場合も、部分矯正での治療はおすすめできません。
その理由として、まずマウスピース型矯正装置での治療は、歯を大きく動かしていくような治療に向いていないという特徴があるため、歯並びが著しく悪い方の場合は適応が難しい可能性があります。
そして、ワイヤー型矯正装置の場合、全体矯正であれば歯並びが著しく悪くても対応できますが、部分矯正の場合は装置を一部の歯にしか装着しないため、歯を動かすための力のかけ方や歯を動かす方向に制限が生じてしまい、適切な治療が困難になる可能性があるためです。
歯並びが全体的に悪い方の場合は、部分矯正ではなく全体矯正でしっかりと治療するようにしましょう。
骨格に問題がある人
歯並びや噛み合わせの問題は、歯の生え方だけが問題で生じるわけではありません。
例えば下顎の骨が大きく前方に突き出した受け口の方など、骨格の影響で歯並びがズレている場合、部分矯正で歯並びの一部を修正しても、適切な治療にはつながらない可能性が高いといえます。
骨格に問題があるケースでは、全体矯正や、場合によっては外科手術が必要となるケースもあります。
とにかく治療期間を短くしたい人
部分矯正での治療を希望する理由の一つに、治療期間が短いという点があります。
歯を全体的に動かす全体矯正と比べ、部分矯正は歯を動かす範囲が狭いため、たしかに治療期間は短くなりやすく、その分治療にかかる費用などの負担も軽減されます。
ではなぜ治療期間を短くしたい人に部分矯正をおすすめしないのかというと、それは部分矯正が、全体矯正より短期間で済む可能性があるとはいえ、保定期間を含めるとやはりある程度の治療期間がかかってしまうためです。
保定期間とは歯列矯正で歯並びを整えた後、歯をきれいな位置で固定して後戻りしないようにするための期間で、しっかりと保定期間の対応をしないと、せっかく整えた歯並びがもとの状態に戻っていってしまう可能性が高まります。
この保定期間は全体矯正でも部分矯正でも2年ほどの期間がかかり、しっかりと歯科医師の指示にしたがってリテーナーと呼ばれる装置を装着する必要があります。
つまり、部分矯正での治療は歯を移動させる期間は短縮できるものの、保定期間を含めると決して短期間で済む治療ではなく、治療期間が短いという印象だけで部分矯正を初めてしまうと、結果的にしっかりとした治療結果がえられなくなる可能性があるといえます。
部分矯正と全体矯正の違い
部分矯正と全体矯正の違いは主に治療する範囲ですが、この違いは単純に歯並びを修正できる範囲が異なるだけではなく、適応可能な症例や治療にかかる期間の差にもつながります。
それぞれ詳しく解説します。
対応可能な症例
前歯から奥歯まで全体的に歯並びを修正する全体矯正と異なり、部分矯正は前歯だけ、または奥歯の一部だけといった、部分的な歯並びの修正を行う治療です。
当然のことではありますが、部分矯正では治療の対象とする部分の歯以外を治療することはできないため、前歯から奥歯までの全体で噛み合わせが悪いような方の場合には、部分矯正での治療は適切ではないことになります。
部分矯正は一部分の歯並びだけが悪いというような方に適している方法であって、例えば奥歯はおおむね噛み合わせに問題がなく、前歯の噛み合わせだけがズレているというような症例が該当します。 また、部分矯正は歯並びが著しく悪い場合にも適応が難しくなります。
これは、部分矯正の場合には歯の一部分にしか矯正装置を取り付けないため、全体矯正と比べて歯を動かす力が弱く、歯を動かせる方向にも制限が生じるためです。
マウスピース型矯正装置による部分矯正の場合は歯の全体を覆うようにマウスピースを装着しますが、そもそもマウスピース型矯正装置は歯並びが著しく悪いような場合には対応が難しく、適応とならない可能性が高いといえます。 一方、全体矯正の場合はすべての歯に対してアプローチが可能であり、奥歯などを固定源として歯にしっかりと力をかけられるため、幅広い症例に対応することができます。
ただし、全体矯正であっても骨格部分の改善は行えないため、骨格の問題による出っ歯や受け口などがある場合は、外科手術が必要となる可能性もあります。
治療にかかる費用や期間
部分矯正と全体矯正の大きな違いの一つが、治療にかかる費用と期間です。
部分矯正の場合、全体矯正と比べて歯を動かす範囲が狭いため、治療期間が短くすむ可能性が高いといえます。
具体的には、全体矯正の治療期間が1年から3年程度かかるとされているのに対し、部分矯正であれば数ヶ月から1年程度と、大幅に短い期間で歯の移動を終えることができます。
また、治療期間が短いため歯科医師による対応の必要性も少なくなり、治療費用も抑えることが可能です。 ただし、ここでいう治療期間には歯を動かした後の保定期間が含まれておらず、保定期間は部分矯正と全体矯正のどちらであっても2年程度が必要とされています。
そのため、保定期間を含めた治療期間については、部分矯正であっても数年間の対応が必要となる可能性があり、必ずしも短期間で治療が終わるとはいえない点に注意が必要です。
部分矯正で改善できる歯の状態
部分矯正で対応が可能な歯の状態には限界があり、治療を希望する歯の状態によっては、部分矯正による治療はおすすめしないというケースもあります。
部分矯正で改善が期待できる歯の状態について紹介します。
軽度の乱杭歯や叢生
乱杭歯(らんぐいば)とは、歯と歯が捻じれて生えてしまっているような状態や、歯が重なってデコボコになってしまったような歯並びのことです。
永久歯が生えてくる過程において、顎のスペースが小さすぎる、または生えてくる歯が大きすぎるといった理由で、歯がキレイに並んで生えることができなかった場合に生じます。
歯科用語では叢生(そうせい)と呼ばれ、八重歯やがちゃ歯などとも呼ばれることがあります。
乱杭歯は日本人に特に多くみられる不正咬合で、軽度の八重歯であれば、むしろチャームポイントとして肯定的に受け入れられる場合もあります。
軽度の乱杭歯であれば部分矯正で治療が可能ですが、前歯が二列になって生えてしまっているなど、重度の場合には部分矯正での対応が難しい可能性があります。
軽度の出っ歯
出っ歯とは、上の前歯が前方に突き出している状態で、歯科用語では上顎前突と呼ばれるものです。
ただし、歯並びは上の歯が下の歯よりも前方にでることが通常であり、上下の歯を合わせたときに上下の前歯の間に隙間が開くこと自体は異常ではありません。上下の歯の距離が4㎜以上になると出っ歯と診断されることがあり、7~8mmを超えてくると治療が推奨されるようになります。
また、出っ歯は歯の傾きなどが原因で生じるほか、骨格の問題によって出っ歯になる場合もあります。
部分矯正で治療が可能なのは歯の傾きによって引き起こされている出っ歯で、かつ上下の歯が大きく離れすぎていない、軽度の出っ歯です。
骨格部分に問題があるような場合は、外科手術が必要となる可能性もあります。
軽度の隙っ歯
隙っ歯とは、歯と歯の間に隙間が空いている状態です。特に前歯の間に隙間がある状態を正中離開(せいちゅうりかい)と呼び、全体的に隙間が空いている状態を空隙歯列(くうげきしれつ)と呼びます。
隙っ歯の原因は乱杭歯と逆で、先天的に歯が小さい場合などに、歯と歯の隙間が空いてしまうケースなどがあるほか、指しゃぶりなどの癖によって歯並びが悪くなることや、歯周病が原因で生じることもあります。
軽度の隙っ歯であれば歯並びをきれいに整えることで改善が可能であるため、部分矯正で治療が可能です。
軽度の受け口
受け口とは、出っ歯の逆で下の歯や顎が前方に突き出しているような状態で、しゃくれともいわれます。歯は、上の歯が下の歯よりも前に出ていることが通常であるため、受け口は反対咬合(はんたいこうごう)と呼ばれます。
受け口は歯の生え方が原因の場合と骨格が原因の場合があり、骨格が原因の場合には部分矯正で改善することが難しいといえます。
一方で、舌で歯を押すクセなどによって下の歯が前方に傾き、これが受け口の原因である場合には、部分矯正で歯並びを改善することで治療が行える可能性があります。
歯列矯正の後戻りがあった歯
上述のとおり、歯列矯正は歯を動かした後でしっかりと保定を行わないと、歯が治療前の状態に戻ろうとして後戻りを引き起こしてしまう可能性があります。
また、しっかり保定を行ったとしても、噛み方や日常的な癖などによって歯に力が加わり続けると、再度歯並びが悪くなってしまうことがあります。
こういったケースでは、歯並びが悪くなってしまった場所だけを修正する部分矯正が有効であるといえます。
部分矯正が向いている人
部分矯正をおすすめしない方がいる一方で、下記のようなケースの方については、部分矯正の治療が推奨できます。
少しの調整で要望が叶う人
奥歯の噛み合わせや歯並びに問題がなく、前歯の歯並びを少しだけ改善したいなど、ちょっとした調整で目標とする歯並びが手に入るという方には、部分矯正がおすすめです。
修正する範囲が小さければ歯を削ってスペースを作る必要がない場合もあり、身体にも経済的にも、負担の小さい治療が期待できます。
奥歯など1本だけ治療したい人
全体的な歯並びに問題はないけれど、奥歯が一本だけ倒れてしまっているというような方も、部分矯正が向いています。
特に、歯列矯正用アンカースクリューという、歯槽骨に埋め込んで歯列矯正の固定源とする治療法を使うと、素早く倒れた奥歯を改善する治療が期待できます。
保定期間の必要性などをしっかり理解している人
上述のとおり、歯列矯正は、例え歯を動かすのにかかる期間が短い部分矯正であっても、後戻りを防ぐための保定期間での十分な対応が必要です。
治療期間が短いという考えだけで部分矯正を選ぶのではなく、しっかりと保定期間の対応も含めて積極的に治療に取り組める方であれば、部分矯正での良好な結果が得やすくなるといえるでしょう。
治療中のケアを十分に行える人
部分矯正の場合に限りませんが、歯列矯正の期間中は、歯磨きなどのセルフケアと定期的な通院による専門的なメンテナンスをしっかりと行う必要があります。
特にワイヤー型矯正装置での治療の場合、いつも以上に丁寧なケアを行わないと装置に付着した食べ残しが原因でむし歯などのトラブルが生じやすくなりますので、しっかりとケアを行えない方は、適切に治療を進められなくなる可能性が高いといえます。
ワイヤー型矯正装置だけではなく、マウスピース型矯正装置による治療の場合でも、定期的に歯科医院で経過を確認しながら、適切なケアを継続する必要があります。
まとめ
部分矯正は治療にかかる期間が全体矯正と比べて短く、費用も抑えられるといったメリットがある一方で、適応可能な症例が限られるといった側面もあります。
軽度な歯並びの修正や、歯列矯正の後戻りに対する再治療などでは部分矯正が有用である一方、歯並びの状態や、治療にしっかり取り組むことができるかどうかによっては部分矯正がおすすめできない場合がありますので、まずは経験豊富な歯科医院とじっくり相談して、自身にあった治療法を見つけるようにしましょう。
参考文献