前歯の部分矯正の期間｜矯正装置別の治療期間や部分矯正のメリット・デメリットも解説

前歯の部分矯正は、気になる前歯だけを整えられる治療法です。治療期間や部分矯正のメリットやデメリットについて気になっている方も多いのではないでしょうか。

本記事では前歯の部分矯正の期間について以下の点を中心にご紹介します。

• 前歯の部分矯正について
• 前歯の部分矯正にかかる期間
• 部分矯正では改善ができない歯並びとは

前歯の部分矯正の期間について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。

前歯の部分矯正とは

前歯の部分矯正とは、気になる一部分の歯だけを歯列矯正する治療方法のことです。“MTM（​​Minor Tooth Movement）”とも呼ばれています。

全額矯正の場合は、奥歯も含め噛み合わせの調整も兼ねて歯全体を動かすのが特徴ですが、部分矯正は治療範囲が狭く、主に上下の前歯に限られて治療が行われます。

なかでも、出っ歯やすきっ歯といった軽度の前歯の乱れを改善したい場合におすすめです。ただし、症状の程度や口腔内の状態によっては、前歯以外の歯も動かす必要があり、部分矯正より全顎矯正の方がいいケースもあります。

前歯の部分矯正のメリットとデメリット

前歯の部分矯正には、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。 以下で詳しく解説します。

メリット

前歯の部分矯正をするメリットには、全顎矯正に比べて費用が抑えられる点が挙げられます。お口の状態や治療方法によって異なりますが、前歯の部分矯正は30〜80万円程度とされています。そのため、経済的な負担が軽くなるのがポイントです。

また、矯正期間が短いこともメリットです。前歯は根が短く動きやすいため、全顎矯正よりも短期間で完了することが多いようです。そのため、結婚式やイベントを控えている方にもおすすめです。

さらに、気になる部分だけに絞って治療できるため、狭い範囲で効率的に歯並びを整えられます。前歯は人目に触れやすいため、早期に見た目の改善を実感できることが、治療のモチベーションアップにもつながります。

デメリット

前歯の部分矯正のデメリットには、対応できる症例が限られることが挙げられます。先述したように、部分矯正は“軽度の出っ歯”、“すきっ歯”、“八重歯”など、軽い歯並びの乱れに向いており、抜歯や外科手術が必要な重度のケースには向いていません。

そのため、歯列全体を大きく動かす必要がある場合や、噛み合わせの問題を根本的に改善したい場合には、全顎矯正がおすすめされます。

また、部分矯正は、主に見た目を整えるために行われる治療法です。そのため、噛み合わせを大きく改善することは難しいとされています。軽度の受け口や出っ歯の改善は期待できますが、口元のシルエットやEラインをしっかり変えたい方には不向きです。

さらに、治療過程で歯の側面をわずかに削る“ストリッピング（IPR）”が行われることがあり抵抗を感じる方もいるようです。

こうした点を踏まえ、治療を検討する際は歯科医師の診断を受け、ご自身の症状に合った方法を選ぶことが重要です。

前歯の部分矯正にかかる期間

前歯の部分矯正にかかる期間には、具体的にどのようなことが行われるのでしょうか。ここでは、前歯の部分矯正の治療工程や治療期間の目安、前歯の部分矯正は治療期間が短い理由を詳しく解説します。

前歯の部分矯正の治療工程

まずは、前歯の部分矯正の治療工程について解説します。

歯を動かす期間

お口の状態を詳しく検査し、カウンセリングで部分矯正の具体的な方法が決定したら、実際に歯を動かす期間に進みます。もし、むし歯や歯周病が見つかった場合は、それらの治療を優先して行います。

歯を動かす期間のことを矯正期間と呼びますが、これは、矯正装置を装着して実際に歯を移動させる期間のことを指します。期間の長さは、装置の種類や患者さんの歯の状態、年齢などさまざまな要因で変わってきます。

例えば、ワイヤー矯正とマウスピース型矯正を比べた場合、同じ症状でもマウスピース型矯正の方がやや治療期間が長くなる傾向があります。部分矯正では3ヶ月〜1年程度かかります。

前歯だけの部分矯正は、前歯だけを対象に動かしますが、奥歯も含めて全体を整える全顎矯正では1〜3年程度かかることが多いようです。具体的な期間については、初診時の診察で歯科医師とよく相談し、ご自身に合った治療計画の確認が大切です。

歯を固定する期間

歯を動かした後には、位置をしっかり安定させるための保定期間が必要です。部分矯正で歯を整えた後、何もせずに放置すると、歯が元の位置に戻ろうとする“後戻り”が起こります。

後戻りが起こるのは、治療が終わったばかりの歯の周りの組織がまだ安定しておらず、歯が動きやすい状態だからです。後戻りを防ぐために、リテーナーという保定装置を使って歯を固定します。

保定期間は1〜2年程で、治療の最初の半年〜1年は1日中リテーナーを装着し、位置が安定してくると、徐々に装着時間を減らしていきます。歯並びが整ったからといって、装置の使用を怠ると、せっかくの治療が台無しになる恐れがあるため、保定期間も大切な治療の一部としてしっかり取り組むことが重要です。

きれいな歯並びを長く維持するために、リテーナーの装着を怠らないようにしましょう。

部分矯正中の通院の頻度

部分矯正中の通院の頻度は、装置の種類や患者さんの状況によって異なります。ワイヤー矯正やお子さんの場合は、月に1回程度のペースで通院し、装置の調整や経過観察を行います。

一方で、マウスピース型矯正は、2ヶ月に1回程の頻度で診察を受けるケースが多いようです。

治療期間の目安

部分矯正の全体の治療期間は、先述したように、歯を動かす期間だけでなく、保定期間があります。また、患者さんのお口の状態や選択した矯正装置によってことなるため、カウンセリングの時点で、歯科医師にしっかりと確認をとりましょう。

前歯の部分矯正は治療期間が短い理由

部分矯正の治療期間が短くなる理由には、歯の根っこの形や本数が関係しています。前歯は一本の根っこで支えられているのに対し、奥歯は2〜4本の根っこを持っているため、より強固に固定されています。そのため、矯正で歯を動かす際には、前歯の方が奥歯よりも簡単に動かせるのです。この違いが、前歯の部分矯正が短期間で完了する理由です。

矯正装置別：部分矯正の期間

部分矯正の期間は、使用する矯正装置によって異なります。部分矯正で使用されるワイヤー矯正とマウスピース型矯正の治療期間の目安について、以下で解説します。

①ワイヤー矯正

ワイヤー矯正とは、歯の表側や裏側にブラケットという小さな装置を取り付け、そこにワイヤーを通して力をかけることで歯を動かしていく治療方法です。表側矯正は対象とする不正咬合の範囲が広いため、よく取り入れられている歯列矯正の方法で、治療期間は3ヶ月〜1年半程です。

ワイヤー矯正は、矯正装置が歯の表面にあるため、手入れがしやすい反面、装置が目立ちやすいという特徴があります。最近では目立ちにくい白や透明のブラケットも利用されており、見た目が気になる方の悩みを軽減できます。

一方、裏側矯正（舌側矯正）は歯の裏側に装置を装着するため外からはほとんど見えません。治療期間は6ヶ月〜1年半程度ですが、装置が舌に触れるため発音の違和感や口内炎が生じやすく、技術的に高度な治療が必要なことから費用も高めです。

どちらの方法も、歯の状態や動かす歯の本数によって治療期間が変動するため、歯科医師とよく相談して、ご自身に合ったプランを選ぶことが大切です。

②マウスピース型矯正

マウスピース型矯正は、種類や歯並びによって治療期間は異なりますが、3〜7ヶ月程度の期間で治療が可能とされています。

マウスピース型矯正は、透明で目立ちにくい専用のマウスピースを装着して歯を少しずつ動かす治療法です。段階に合わせて複数のマウスピースを順番に交換しながら、理想の歯並びへと整えていきます。

取り外しが自由にできるため、食事や歯磨きの際も普段どおり行えるのが大きなメリットです。一方で、1日に20時間以上装着し続けることが求められるため、装着時間が守れないと予定どおりに歯が動かず、治療期間が延びることもあります。

治療を始める前には、3Dスキャナーを使った精密な歯型採取が行われる場合があり、治療後の歯並びや歯の動きを事前にシミュレーションすることができます。視覚的にも理解でき、治療前後のイメージのずれを少なくしやすいというメリットもあります。

歯並びによって部分矯正の期間は異なる？

部分矯正の治療期間は、患者さんの歯並びの状態によって異なり、それぞれの症状に応じた期間が必要となります。

例えば、前歯の隙間が気になる“すきっ歯”の場合は、3ヶ月程度で治療が完了するケースが多いとされ、短期間で効果が期待できます。軽度の出っ歯も同様に3ヶ月程度で、歯の側面をわずかに削ってスペースを作りながら治療が進められます。少し歯が重なっている軽度の凸凹も、4ヶ月程度で整うことが多いようです。

また、矯正治療後に歯並びがもとに戻ってしまった後戻りの再矯正治療の場合も、部分矯正で2ヶ月程度の治療期間が多いようです。

このように、歯並びの種類や状態によって治療にかかる期間は変わるため、ご自身の症状に合わせた具体的なプランを歯科医師に相談することが大切です。

部分矯正では改善ができない歯並び

部分矯正は軽度の歯並びの乱れにおすすめですが、以下のような症状では十分な改善が難しく、全顎矯正やほかの治療が必要になることがあります。

• 噛み合わせに問題がある
  噛み合わせの問題がある歯並びは、部分矯正での対応が難しいことが多いようです。例えば、奥歯で噛んだときに前歯に隙間ができる“開咬（オープンバイト）”や、上の前歯が下の前歯に深く重なる“過蓋咬合（ディープバイト）”といった不正咬合は、前歯だけを動かす部分矯正では根本的な解決が難しいケースにあたります。

  こうした噛み合わせの不良は、骨格の問題や舌の癖（舌で前歯を押すなど）が影響していることもあり、部分矯正では改善しにくく、治療後に歯並びが戻ってしまうリスクも高くなります。

• 受け口など骨格に問題がある
  下の歯が上の歯よりも前に出ている受け口は、部分矯正での対応が難しい代表的なケースの一つです。受け口の原因は主に二つあり、歯並びの乱れによるものと、顎の骨格の問題によるものがあります。
  歯並びの乱れが原因の場合でも、噛み合わせ全体を整える必要があるため、全体矯正が適用されることが多いようです。一方、骨格の異常が原因の場合は、全顎矯正に加えて、下顎の骨を後方に移動させる外科手術が必要となることがあります。
• むし歯があったり歯茎に問題があったりする
  むし歯や歯周病など、歯や歯茎にトラブルがあると、部分矯正だけでなく、矯正治療全般に影響が出ることがあります。矯正治療は健康な歯と歯周組織を基盤に、歯を少しずつ動かしていくため、炎症や損傷がある状態では治療効果が十分に得られなかったり、歯に悪影響が及ぶリスクが高まったりします。

  例えば、むし歯の治療が終わっていなかったり、歯周病で歯を支える骨が弱くなっていたり、歯の根が折れている場合は、部分矯正を始める前にまず治療やケアを行う必要があります。こうした問題を抱えたまま部分矯正を進めると、歯の動きが不安定になるだけでなく、さらなるダメージを引き起こす可能性があるため、口腔内環境を健康に整えてから治療に臨むことが大切です。

まとめ

ここまで前歯の部分矯正の期間についてお伝えしてきました。前歯の部分矯正の期間についての要点をまとめると以下のとおりです。

• 前歯の部分矯正とは、気になる一部分の歯だけを歯列矯正する治療方法のことで“MTM（​​Minor Tooth Movement）”とも呼ばれており、主に上下の前歯に限定し治療が行われている
• 前歯の部分矯正にかかる治療期間は、3ヶ月〜1年程が目安とされている。治療が短期間で終わるケースは、元の歯並びがおおむね整っていて、歯を動かす距離がわずかな場合
• 部分矯正では改善ができない歯並びには、重度の出っ歯や強い凸凹や、受け口のように下の前歯が上の前歯よりも前に出ているケースが挙げられ、顎の骨格の問題によるものなどは部分矯正が難しい

前歯の部分矯正は、矯正装置の種類や歯並びの状態によって治療期間や期待できる効果が異なります。メリットとデメリットを理解し、ご自身に合った方法を選ぶことが大切です。歯科医師としっかり相談し、理想の歯並びを目指しましょう。

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。