近年、目立ちにくい歯列矯正装置の普及により、矯正歯科治療を希望する患者さんが増加してきました。なかでも注目を集めているのがマウスピース型矯正です。
透明なマウスピース型矯正装置を使って歯を動かす治療法で、取り外しができることや治療中の痛みが少ないなどの特徴があります。
本記事では、マウスピース型矯正の効果が実感できる期間や費用、効果をアップさせる方法をメリットとデメリットを交えて解説します。
マウスピース型矯正治療を検討されている方の参考になれば幸いです。
マウスピース型矯正の効果はいつから実感できる?
マウスピース型矯正は、治療中の見た目が気になりにくく、取り外しができるなどの理由で注目されている歯列矯正方法です。
それでは効果はいつから実感できるのでしょうか。早い方では1〜2ヶ月程度すると、前歯のわずかな変化に気がつくことがあります。
一般的には3〜6ヶ月程度で歯並びが少し動いてきたと感じる方が多い傾向にあります。
マウスピース型矯正装置は、患者さんの歯型やX線画像、治療計画に基づいて作製するカスタムオーダーです。治療開始から治療終了まで、複数のアライナーを1〜2週間ごとに交換して徐々に歯を移動させるものです。
歯の移動の早さは、年齢や骨の状態、装着時間の厳守や歯の状態によって個人差があります。
現在はアライナー治療の進歩により、3Dのシミュレーションの活用で治療目標や効果の見込みを事前に把握しやすくなっています。
マウスピース型矯正の効果は、一般的に3〜6ヶ月程度で実感されます。1年ほどすると目に見えて歯並びが整ってきます。
マウスピース型矯正治療にあたっては、歯科医師の指示どおりに正しく装着し続けることが重要です。
マウスピース型矯正の治療が長引く原因
先ほど一般的には1年程度すれば、目に見えて歯並びが整ってくると述べましたが、治療が長引くこともあります。その主な原因は以下のとおりです。
- 正しく装着できていないか医師の指示を守っていない
- アライナーの紛失や破損
- 計画どおりに歯が動いていない
- アライナーの交換時期が適切でない
アライナーが正しく装着されていないと、治療期間が延びる原因になります。具体的には決められた装着時間が守られていないことです。
マウスピースの取り外しができるのは利点である一方で、治療は患者さんの自己管理に任されている部分もあります。
アライナーの装着時間は1日20〜22時間です。食事や歯磨き以外は装着するように心がけましょう。
また、アライナーを紛失したり破損したりするとアライナーを再作製しなくてはならず、治療計画の見直しが必要になる場合があります。
歯が治療計画どおrに動かないケースも少なくありません。歯が移動する早さは個人差によるところが大きく、骨の状態や歯の状態、成長期であるなど複雑な要因が影響します。
アライナーの交換時期が適切でない場合も、治療が長引く原因になっています。交換時期は一般的に1〜2週間です。
アライナーの交換時期が短すぎると、歯根が安定せず後戻りが生じる可能性があります。反対に、交換時期が過ぎてしまった場合は歯の移動が遅れ、治療期間が長くなります。
マウスピース型矯正の効果をアップさせる方法
マウスピース型矯正はワイヤーやブラケットを使用した歯列矯正装置と異なり、目立ちにくく快適に歯並びを整えられる治療方法です。
その一方で、治療の成功には歯科医師の力だけでなく、患者さんの協力がなくてはなりません。
装置の取り扱いにおける自己管理や装着時間に対する患者さんの意識が必要です。正しい使い方を実践すれば、効果のある治療が期待できます。
ここでは効果をアップする方法を5つのポイントに絞って解説します。
医師の指示したアライナー装着時間を守る
アライナーの装着時間は1日20〜22時間が一般的です。マウスピース型矯正は装着しなければ治療が進みません。
アライナーを装着している間のみ歯を動かす力が加わります。装着時間を守ることで、治療が計画通りに進み、効果を高めることができます。
医師の指示したアライナー交換時期を守る
マウスピース型矯正は治療開始から終了まで複数のアライナーを交換しながら歯を少しずつ動かして歯並びを整える治療方法です。
通常は1〜2週間ごとに交換します。
アライナーは、歯科医師が患者さんの歯並びや歯の移動状況を判断したうえで治療計画に基づいて作製しています。
適切なアライナーの交換時期を守って、治療の効果をアップさせましょう。
装着時のチューイーの使用を徹底する
チューイーとは、アライナーと歯を密着させるためのシリコンでできた補助道具です。
アライナーを装着するたびに毎回噛む必要があるため、面倒に感じてしまう方も少なくありません。
チューイーを噛むことで、アライナーが浮くことなくしっかりと歯にフィットさせることができます。
浮いてしまうと歯の移動に必要な力が十分にかからず、計画どおりに動かない可能性があります。チューイーの使用を徹底して十分な治療効果を得ることが大切です。
定期的に通院する
マウスピース型矯正治療は定期的な通院が欠かせません。治療の初期段階では1ヶ月に1度の通院で、歯の型取りをし、むし歯や歯周病の有無などを確認します。
その後の通院頻度は2〜3ヶ月に1度です。
歯科医師が歯の状態やアライナーの機能を確認し、必要に応じて治療計画を調整します。
自覚しにくい口腔トラブルが見つかることもあります。
口腔ケアをこまめに行いむし歯を予防する
取り外しが可能なマウスピース型矯正ではむし歯になりにくいといわれています。
しかし、アライナーをつけたまま食事をしたり、アライナーが清潔に保たれていなかったりした場合にむし歯になる可能性があります。
むし歯治療が行われると、マウスピースの再作製などで治療期間が伸びてしまう原因になりかねません。
なぜならむし歯の治療によって歯列矯正が中断したり、歯の形が変化したりすることがあるためです。
アライナーの洗浄方法は、歯ブラシや専用のクリーナーなどを利用する方法があります。食事の際はアライナーを外し、食後は歯磨きとアライナーの洗浄を徹底しましょう。
マウスピース型矯正のメリット
マウスピース型矯正は、ほかの歯列矯正方法と比べて日常生活への影響が少ない方法です。
痛みやアレルギーのリスクも抑えられて、治療中の見た目も気になりにくいことがメリットです。
ここでは主なメリットを4つの項目に分けて詳しく紹介します。
取り外しができるので日常生活への影響が少ない
マウスピース型矯正装置(アライナー型矯正装置)は、ブラケットやワイヤーを使用した従来の歯列矯正装置と異なり、患者さんが自分で取り外し可能なことが特徴です。
食事の際に取り外しができるため、快適に食事を楽しめます。
一般的なブラケットを使用した歯列矯正治療中は、スポーツや楽器(主にクラリネットやサキソフォン、トランペットなどの管楽器や金管楽器)の演奏に影響が出ることもあるといわれています。
しかし、マウスピース型矯正装置の場合は支障が出にくいといわれています。一人ひとりのライフスタイルに合わせて柔軟に対応できることが大きなメリットです。
ほかの矯正治療に比べて痛みが少ない
ワイヤーを使用した歯列矯正は、あらかじめ歯列の形に調整したワイヤーを使用して歯を少しずつ動かす治療法です。
このときに、理想の歯列から離れているほど強い力がかかるため、治療の初期に強い痛みを感じることがあります。
この痛みのために、硬いものを避けてやわらかいものを食べたり、調理の工夫をしたりなどの食事制限を必要とする方も少なくありません。
それに対して、マウスピース型矯正治療は、段階的に歯を動かしていくために痛みが少ないといわれています。
また、マウスピース型矯正ならブラケットやワイヤーと異なり、口内炎やワイヤーがあたることで発生する傷などのトラブルも軽減できます。
治療中の見た目が気になりにくい
歯列矯正は、噛み合わせをよくして健康で豊かな生活を送るためだけでなく、歯並びをよくしてきれいになることが目的で治療する方が少なくありません。
しかし、歯列矯正の治療段階ではワイヤーが見えてしまい、口元が見られることに抵抗を感じる方もいるのではないでしょうか。
マウスピース型矯正のメリットは治療中の見た目が気になりにくいことです。透明なアライナーを使用するため、装置が目立ちません。
人前に出る機会がある方でも、見た目を気にせずに治療が受けられます。
金属アレルギーでも使用できる
マウスピース型矯正装置は熱可逆性樹脂(加熱すると溶けて軟化し、冷却すると固化する性質のある樹脂)でできているため、金属アレルギーを持つ方でも問題なく使用することができます。
ワイヤーを使用した歯列矯正治療ができない患者さんにも使用可能です。
マウスピース型矯正のデメリット
このようにさまざまなメリットがあるマウスピース型矯正ですが、いくつか気をつけたいデメリットもあります。
ここでは自己管理が必要であることと、歯並びの状態によっては治療できない場合があることについて詳しく解説します。
装着期間や装着時間の自己管理が必要になる
マウスピース型矯正装置は、交換時期が1〜2週間で、装着時間が1日20〜22時間と定められています。装着時間を守らなければ、治療が計画通りに進みません。
装着時間が足りないことによる主なデメリットは次のとおりです。
- 歯の後戻りが起こる
- 治療計画どおりに歯が動かず治療が長引く
- 次のアライナーが合わなくなる
- 歯根が露出することがある(歯肉退縮)
マウスピース型矯正装置をつけている間は、歯に少しずつ力が加わっていますが、外すともとに戻ろうとする力が働くために後戻りが起こります。
歯の治療計画はあらかじめ20〜22時間装着していることを前提として立てられています。
装着時間が足りなければ、1〜2週間ごとに交換するアライナーも合わずに装着することができません。
合わなくなったアライナーの再作製をしたり治療計画を立て直したりすると、治療が長引くだけでなく、追加で費用がかかることになります。
マウスピース型矯正は、歯の移動に合わせて計画的にアライナーを交換する治療方法です。
しかし、装着時間が足りないことで歯が移動していないにも関わらず、無理やりアライナーをはめると歯に必要以上の力がかかります。
その結果歯茎が下がり、歯根部分が露出して知覚過敏や歯周病、むし歯などになりやすくなります。
このようなトラブルを避けるためにも装着時間や装着期間を守り、自己管理を怠らないようにしましょう。
歯並びの状態によっては治療できない場合もある
マウスピース型矯正は軽度の不正咬合の場合に、マルチブラケット(ワイヤーを使用した歯列矯正装置)を用いた治療と遜色がないといわれています。
患者さんの歯並びや歯の状態(叢生やすきっ歯など)、噛み合わせや年齢、症状などによって治療方法には限界があります。
歯の移動量が大きい複雑な不正咬合では、マルチブラケットによる治療が必要になる場合があります。
マウスピース型矯正を希望する場合は、経験が豊富で技術力のある歯科医師に適応かどうかを相談するようにしましょう。
マウスピース型矯正にかかる費用と期間
マウスピース型矯正は、見た目にすぐれていて日常生活への影響が少なく、痛みも少ないために注目されている治療法です。
しかし、一般的な歯列矯正と比較すると「高額になるのではないか」と不安に感じる方もいるのではないでしょうか。
基本的に歯列矯正は健康保険適用外になるため、全額自己負担になります。
それでは具体的な費用相場と治療期間について詳しく解説します。
マウスピース型矯正にかかる費用
マウスピース型矯正を含めて、一部の疾患に起因する異常咬合以外は一般的に歯列矯正治療は保険適用外になります。
費用は通院する歯科医院によっても、治療の内容や症例によって違いはあるものの、部分矯正で300,000〜600,000円(税込)程度です。
全顎矯正は800,000〜1,000,000円(税込)程度です。
金属のブラケットの歯列矯正よりは高額になる場合もありますが、審美矯正(金属素材以外のブラケット)や裏側矯正(舌側矯正)よりは費用が抑えられます。
治療費の支払いは、デンタルローンや分割払いなどが利用可能な場合もあるため、一時的な経済的負担を軽減しながら治療を進めることが可能です。
マウスピース型矯正治療終了までの期間
治療期間は、歯列矯正治療する範囲と歯並びの状態によって異なります。
全顎矯正の治療期間の目安は1〜3年程度で、部分矯正の場合は6ヶ月〜1年半程度で終了するケースがほとんどです。
部分矯正は軽度の出っ歯や歯と歯の間の隙間が目立つ場合、全顎矯正は全体を歯列矯正する必要がある場合に行われる治療法です。
マウスピース型矯正治療が終了した後は、保定期間と呼ばれる歯並びが後戻りしないためのリテーナーをつける期間が設けられています。
この保定期間は一般的に2〜3年程度とされています。
まとめ
マウスピース型矯正は治療中の見た目が目立ちにくく、快適であるだけでなく、ライフスタイルに合わせやすいなどメリットがある歯列矯正治療方法です。
一方、アライナーの装着時間や交換時間を守るなど自己管理を行うことと、歯並びによってはマウスピース型矯正での治療ができない場合があることに留意する必要があります。
より高い治療効果を得るためにも、歯科医師の指示を守り、チューイーを習慣的に使用して口腔ケアを徹底しましょう。
費用や治療期間は症例ごとに異なるため、治療を始める際は、信頼できる日本矯正歯科学会 認定医に相談することが大切です。
不安な点や疑問などがあれば、初診相談やカウンセリングなどを利用しましょう。
マウスピース型矯正の適切な自己管理と定期的な通院を心がけて、きれいな歯並びと健康を手に入れましょう。
参考文献