子どもの歯並びや噛み合わせの問題は、見た目だけでなく、将来の健康にも影響を及ぼします。
小児矯正は、成長期にある顎や歯の発育を活かして、正しい歯並びと噛み合わせを整える治療です。
適切な時期に治療を始めることで、将来的な抜歯のリスクを抑え、むし歯や歯周病の予防にもつながります。
本記事では、小児矯正装置の種類や特徴、治療にかかる費用や期間、さらにメリットと注意点について、わかりやすく解説します。
小児矯正の目的
小児矯正の主な目的は、成長期の子どもの顎や歯の発育を活かして、健康的で整った歯並びと正しい噛み合わせを実現することです。
子どものうちに歯列矯正治療を行うことで、永久歯が正しい位置に生えるためのスペースを確保し、歯並びや噛み合わせの乱れを未然に防ぐことが可能です。
具体的には、以下のような目的があります。
- 歯並びの改善：将来的な歯並びの乱れを防止できる
- 噛み合わせの正常化：咀嚼機能の向上や発音の改善ができる
- 顎の成長のコントロール：骨格的な問題を軽減できる
- 将来的な抜歯の回避：永久歯を抜歯するリスクを軽減できる
- むし歯や歯周病の予防
このように、小児矯正は単に見た目をよくするだけでなく、口腔の健康全般を守るための重要な治療です。早期に適切な治療を始めることが、将来のトラブルを防ぐ鍵となるでしょう。
小児矯正を開始するのに適した時期
小児矯正を始める適切な時期は、乳歯と永久歯が混在している混合歯列期とされており、6～11歳頃が一つの目安です。
この時期は、永久歯が正しい位置に生えるためのスペースを確保しやすく、顎の成長も調節しやすいタイミングとされています。
歯並びや噛み合わせを効果的に整えることが可能です。
特に下顎が前に出る反対咬（はんたいこう）や、上顎の成長が不十分な上顎劣成長（じょうがくれつせいちょう）といった状態は、成長発育と密接に関係しているため、早期の介入が推奨されます。
永久歯がすべて生え揃ってからでは対応が難しい骨格的な問題も、顎の成長を利用することで改善できる可能性が高まります。
ただし、すべての子どもが早期治療を必要とするわけではありません。状況によっては経過観察を選択し、必要なタイミングで本格的な矯正治療に移行する場合もあります。
そのため、適切な開始時期を見極めるには、歯列矯正を専門とする歯科医師による定期的なチェックが欠かせません。
小児矯正装置の種類と特徴
小児矯正では、成長期の子どもの顎や歯の状態に応じて、さまざまな装置が使用されます。ここでは、代表的な装置の種類とそれぞれの特徴を解説します。
床矯正
主に顎の幅を広げて、歯が整列するためのスペースを確保するために用いられる、取り外し可能な歯列矯正装置です。
プラスチック製の床と呼ばれる部分に金属のワイヤーやネジが組み込まれています。保護者や本人がネジを定期的に回すことで、装置が少しずつ拡大し、顎の骨の成長を促します。
食事や歯磨きの際には取り外せるため、口腔内を清潔に保ちやすいのが特徴です。ただし、十分な効果を得るためには1日12時間以上の装着が推奨されており、本人と家族の協力が欠かせません。
急速拡大装置
上顎の骨が狭い場合に、短期間で骨自体を広げるために使用される固定式の歯列矯正装置です。
奥歯に金属製のバンドを装着し、中央のネジを回すことで上顎の骨に力を加えて、顎の幅を数週間から数ヶ月かけて広げます。
取り外しはできませんが、骨格的な改善が必要な場合に大変効果があります。装着初期には違和感や発音のしづらさを感じることがありますが、時間とともに慣れていくケースがほとんどです。
ブラケットワイヤー矯正
歯の表面にブラケットと呼ばれる小さな装置を接着し、それらをワイヤーで連結して歯を理想的な位置へ動かす矯正方法です。
小児矯正では、混合歯列期の後半から永久歯が生え揃う時期に使用されることが多く、複雑な歯並びや噛み合わせの問題にも対応できます。
装置は固定式であり、使用中は患者さん自身で取り外すことができません。見た目が気になる場合もありますが、歯をしっかりと動かせる点が大きなメリットです。
クワドヘリックス
上顎の奥歯に固定して使用する、ワイヤー製の拡大装置です。４つの螺旋が組み込まれたワイヤーが特徴で、顎の幅をゆっくりと拡大します。
急速拡大装置ほど急激な変化はありませんが、顎の成長を利用しながら無理なく歯列を拡大できるため、成長期の子どもに適した装置です。
装置は取り外しできないため、慣れるまでは発音や食事に違和感を覚えることもあります。
ムーシールド
反対咬合（受け口）の早期治療に用いられるマウスピース型の歯列矯正装置です。乳歯列期の子どもに適しており、お口の周りの筋肉のバランスを整えることで、顎の正常な成長を促します。
装置は取り外しが可能で、主に就寝時や自宅にいる時間に装着します。痛みや違和感が少なく、早期に使用することで自然な噛み合わせの獲得が期待できる装置です。
インビザラインファースト
透明なマウスピース型の歯列矯正装置で、混合歯列期の子ども向けに開発された製品です。従来のワイヤー矯正と異なり、装置が目立ちにくく、食事や歯磨きの際には取り外すことが可能です。
通常1～2週間ごとに新しいマウスピースに交換しながら、段階的に歯並びを整えていきます。軽度から中等度の歯並びの乱れに適しており、見た目や衛生面を重視するお子さんにも適しています。
（※）未承認医薬品等であるため医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります
プレオルソやマイオブレイス
筋機能矯正装置と呼ばれるタイプで、お口の周りの筋肉のバランスを整え、歯並びや顎の成長を自然に導くことが目的です。
やわらかい素材でできており、主に就寝時と日中の1時間以上、例えば自宅でリラックスしている時間などに装着することがほとんどです。
歯並びの改善に加えて、口呼吸や舌癖などの悪習癖の改善にも効果が期待されます。早期に使用することで、将来的な歯列矯正治療の負担を軽減することが可能です。
小児矯正にかかる費用と治療期間
小児矯正治療を検討する際、多くの保護者が気にするのが費用と治療期間です。
実際の費用や期間は、使用する装置や治療内容、地域、歯科医院によって大きく異なります。ここでは一般的な目安と注意点について解説します。
小児矯正にかかる費用
小児矯正治療の費用は、歯科医院ごとに大きく異なるため、料金の目安や体系は各医院の公式ホームページなどで確認する必要があります。
一般的な費用の目安は、以下のとおりで、治療の時期や内容により大きく変動します
- 乳歯列期（乳歯だけの時期）：30,000～200,000円（税込）程度
- 混合歯列期（乳歯と永久歯が混在する時期）：150,000～600,000円（税込）程度
- 永久歯列期（永久歯が生え揃った後）：500,000～1,300,000円（税込）程度
また、乳歯列期から永久歯列期まで一貫して治療を行う場合は、治療の進行に応じて費用が調整される場合もあります。
歯科医院によっては通院のたびに調整料が発生する場合もあるため、契約前に費用の内訳や追加費用の有無について、事前に十分な説明を受けることが重要です。
小児矯正の治療期間
小児矯正の治療期間は、開始時期や歯並びの状態、使用する装置によって大きく異なります。一般的には、床矯正やムーシールド、プレオルソなどの早期治療装置の場合、6か月～2年程度が目安です。
これらの装置は、主に顎の成長を促したり、歯が並ぶスペースを確保したりするために用いられます。一方、急速拡大装置やクワドヘリックス、ブラケットワイヤー矯正などで本格的に歯を動かす場合は、2～3年程度かかるのが一般的です。
成長期の子どもの場合、治療後も顎や歯の成長に応じた経過観察や保定が必要になるため、全体として4～5年程度の長期的なフォローが行われることもあります。
また歯列矯正治療は計画通りに進むとは限らず、装置の装着時間が守れなかったり、歯の生え変わりが遅れたりする場合には治療期間が延びることもあります。
治療期間中は、定期的な通院と家庭でのセルフケアが大変重要です。
小児矯正のメリット
小児矯正には、歯並びや噛み合わせの改善だけでなく、さまざまなメリットがあります。 これらのメリットは、お子さんの健康的な成長に大きく貢献します。
将来的な抜歯のリスクを軽減できる
小児矯正の大きなメリットの一つは、将来的に永久歯を抜歯する可能性を低減できることです。子どもの成長期に顎の骨の成長を促し、歯が正しく並ぶスペースを確保することで、永久歯が無理なく生えるように導けます。
これにより、歯並びがガタガタになったり重なり合ったりして生えてくることを防ぎ、結果として抜歯のリスクを軽減することが可能です。
また、早期に歯並びを整えることで、部分的な歯列矯正治療で済む場合もあります。永久歯が生え揃ってから歯列矯正治療を始める場合と比較して、治療期間や費用を抑えられる可能性もあります。
むし歯や歯周病の予防につながる
歯並びが乱れていると歯間に歯垢や食べかすがたまりやすくなり、歯磨きがしづらくなるため、むし歯や歯周病へのリスクが高まります。
小児矯正によって歯並びを整えることで、歯磨きがしやすくなり、口腔内を清潔に保つことが可能です。また、正しい噛み合わせは特定の歯に負担がかかることを防ぎ、歯の寿命を延ばすことにもつながります。
むし歯や歯周病の予防は、将来的な歯の喪失を防ぐうえでとても重要です。
顎の成長をコントロールしやすい
小児矯正には、成長期の子どもの顎の骨の成長をコントロールできるという大きな利点があります。顎の成長が不十分な場合は、装置を使って成長を促したり、逆に過剰な成長を抑制したりする必要があります。
例えば受け口（反対咬合）の場合、早期にムーシールドなどの装置を使用することで下顎の過剰な成長を抑え、正常な顎の成長を促すことが可能です。
また、上顎の成長が不十分な場合は、急速拡大装置などを用いて顎の幅を広げることもできます。顎の成長を適切にコントロールすることで、お顔全体のバランスが整い、将来的な骨格的問題の予防につながります。
小児矯正の注意点
小児矯正は、お子さんの健康と成長に大きく貢献する治療法ですが、治療を始める前にいくつかの注意点を知っておくことが大切です。
これらの注意点について理解し、適切な対応を行うことで、よりスムーズに治療を進めることが可能です。
特に、矯正治療は本人だけでなく保護者のサポートや協力が欠かせず、日常生活の中で意識的にケアを続けることが治療の成功につながります。
事前にリスクや課題を把握し、家族みんなで協力しながら治療に取り組みましょう。
矯正中はむし歯のリスクが高まる可能性がある
歯列矯正装置を装着すると、歯の周りに食べかすや歯垢がたまりやすくなり、むし歯や歯周病のリスクが高まります。
特に、固定式の装置は取り外せないため、歯磨きがしづらくなる傾向があります。小児は歯磨きの技術が未熟なことが多いため、保護者による丁寧なサポートが必要です。
歯列矯正治療中は、日常以上に丁寧な歯磨きやフロスの使用、定期的な歯科でのクリーニングが必要です。また、フッ素塗布やシーラントなどの予防処置を併用することで、むし歯の発生を抑えることも推奨されます。
歯列矯正中は食生活に気を配り、甘いものや粘着性のあるお菓子を控えるなど、むし歯予防への意識を高めることも大切です。
治療期間が長くなる可能性がある
小児矯正は成長を利用する治療であるため、治療期間が必然的に長くなる傾向があります。顎の成長や歯の生え変わりのタイミングを見極めながら段階的に治療を進めるため、数年にわたる長期の通院が必要です。
また、装置の装着時間が守られなかったり定期的な通院ができなかったりした場合は、治療期間がさらに延びることがあります。
治療をスムーズに進めるためには、本人と保護者の協力が欠かせません。
さらに、成長や生活環境の変化によって治療計画が変更となる場合もあるため、柔軟に対応できる心構えも大切です。
治療の進行状況や疑問点があれば、通院時に歯科医師と十分に相談し、治療を進めていきましょう。
まとめ
小児矯正は、子どもの成長期を利用して、将来の健康な歯並びと正しい噛み合わせを育むための大切な治療です。
早期に適切な治療を開始することで、抜歯のリスクを減らし、むし歯や歯周病を予防するなど多くのメリットがあります。
治療には、ブラケットワイヤー矯正やインビザラインファースト、プレオルソやマイオブレイスなど、さまざまな種類の装置があります。
それぞれに特徴や適応症があるため、歯科医師と相談しながら、お子さんに適切な装置を選ぶことが重要です。
また、小児矯正は治療期間が長くなりやすいことや、むし歯のリスクが高まる点など注意点もあります。
しかし、適切なケアと定期的な通院によって、これらのリスクは十分に軽減できます。
お子さんの歯並びや噛み合わせに気になる点があれば、できるだけ早く歯科医院を受診し、歯科医師に相談してみてください。早期の診断と治療は、お子さんの将来の笑顔と健康を守る第一歩となります。
参考文献
電話コンシェルジュで地域の名医を紹介します。