「歯ならびや噛み合わせが悪いと、自律神経に悪影響を及ぼす可能性がある」と耳にしたことがある方も少なくないでしょう。
自律神経は体の機能を制御する重要な役割を担っており、心拍数・血圧・消化機能などを調整しています。では、噛み合わせが一体どのように自律神経に影響するのでしょうか。
本記事では、噛み合わせ治療で自律神経失調症を改善できるのか・原因・治療法を解説していきます。
歯ならびや噛み合わせが気になっている方は、ぜひご一読ください。
噛み合わせ治療について
- 噛み合わせ治療について教えてください
- 噛み合わせ治療は、悪い歯ならびや噛み合わせをきちんと正しい位置に揃える歯科治療です。歯が不揃いだったり、上下の歯がお互いに噛み合わなかったりする状態を不正咬合(ふせいこうごう)といいます。
一般的な噛み合わせ治療の方法は歯列矯正治療で、歯の表面に接着する固定式と、自身で取り外しができる可撤式(かてつしき)の2種類に大きく分類されます。どちらの歯列矯正治療もワイヤーやマウスピースなどの装置を通じて、歯やアゴの骨に負荷をかけてゆっくりと動かして、正しい位置へと誘導していく方法です。
不正咬合は心身にさまざまな面から影響を及ぼし、大きく生活の質に関わる状態です。そのため、将来の心身の健康を保つためには、乳児期から不正咬合を予防する必要があります。
- 噛み合わせ治療はどのようなメリットがありますか?
- 噛み合わせ治療のメリットは成長期と成人とで異なります。まず、成長期に不正咬合が認められて噛み合わせ治療を行うメリットは以下のとおりです。
- しっかり噛んで食べる習慣を身に付けられる
- 顔の筋肉・頬の骨・顎の骨などの筋肉を正しく成長させられる
- 発音や発育を正しく導ける
- むし歯や歯周病を予防できる
成人になってから噛み合わせ治療を受けた場合には、口腔機能を回復させることが可能です。反対咬合(受け口)や上顎前突(出っ歯)だった場合には、歯ならびがきれいになるだけでなく、表情や顔の印象が大きく変わります。
ほかにも将来の加齢に伴った口腔機能の低下で、人工歯の装着が必要になった際には無理なく治療を進められるといったこともメリットの1つといえます。
- 噛み合わせ治療のデメリットはありますか?
- 噛み合わせ治療を完了してしまえば、得られるメリットは数多くあります。
しかし、噛み合わせ治療は、気になる部分だけを改善する治療方法ではありません。歯全体にワイヤーやマウスピースを装着して少しずつ歯を正しい位置にずらしていくものです。患者さんの歯や顎の状態によって多少なりとも治療時間は前後しますが、年単位の歯列矯正が必要になることもあります。
その間は歯列矯正装置の装着と通院が必要となるため、治療期間が長いことは大きなデメリットといえます。噛み合わせ治療中は歯に負荷がかかっている状態です。歯列矯正装置を初めて入れたときや装置を調整した後などに、歯が少し浮いたように感じたり硬いものが噛みにくかったり、痛みを感じたりする場合もあります。痛みの程度には個人差がありますが、2日程度で治まるでしょう。
治療期間や痛みに関する不安を感じている方は、歯科医師に相談することをおすすめします。
- 治療期間はどのくらいかかりますか?
- デメリットでも先述しているとおり、噛み合わせ治療には年単位かかることが一般的です。ただし、治療期間は患者さんの歯や顎の状態によって異なります。
例えば、乳歯から永久歯に生え変わる交換期や顎が発達する成長期であれば、定期観察は約3ヵ月〜1年の通院が一般的です。
しかし成人であれば、歯を正しい位置にずらしている期間中は歯列矯正装置の調節が必要のため、約1ヵ月に1回の通院が求められます。
また、歯ならびがよくなっても歯は骨のなかで安定せずに元の位置へ戻ろうとします。骨のなかでも歯が安定するまでは、約数ヵ月ごとに通院して、噛み合わせの調整を受けることが大切です。
噛み合わせ治療と自律神経失調症の関係
- 自律神経失調症を引き起こす原因は何でしょうか?
- 噛み合わせは全身の健康において自律神経系と直結している重要な要因であると考えられています。なぜなら、噛み合わせは下顎~頭蓋系の生理機能に影響を与える要素の1つだからです。
そのため、噛み合わせがうまく機能していないと自律神経につながる器官の働きが低下してしまい、自律神経失調症を引き起こす原因につながります。
実際に自律神経失調症を発症した患者さんに焦点を当てた調査では、噛み合わせによる力の関係が姿勢骨格の維持や全身の健康を保つために、重要な役割を果たしていたことが判明しました。
噛み合わせは力・神経系・ストレス・日常生活の癖をとおして、人体に大きな影響力を持っているといえます。
- 自律神経失調症の症状について教えてください。
- 自律神経は全身の血圧維持や循環動態をコントロールして、発汗機能によって全身の体温調節を行う重要な役割を担っています。
ほかにも消化管の運動を抑制したり、代謝ホルモンであるホメオスタシスに働きかけて、排尿や生殖器官をコントロールしたりしています。
全身のコントロールを行う自律神経が乱れて現れる症状としては、以下のとおりです。- 食事性低血圧
- 起立性低血圧
- 発汗障害
- 消化管の機能異常
- 排尿障害
- 勃起機能障害
上記の症状をもう少し具体的にお伝えすると、立ちくらみ・気だるさ・頻尿・吐き気・狭心痛・めまい・失神・転倒などがあります。これらの症状が急に現れたり、数日も症状が続いたりするようであれば自律神経失調症の可能性が疑われます。
- 罹患しても改善するでしょうか?
- 自律神経失調症を罹患したとしても、改善する見込みはあります。しかし、自律神経失調症を改善するには、噛み合わせ治療・きめ細やかな生活習慣指導・自律神経失調症の治療方法を受けることが大切です。
また、自律神経失調症を改善するまでの期間には個人差があります。噛み合わせ治療だけでも年単位の治療期間を要することが一般的です。
もし、噛み合わせから自律神経失調症へ発展している場合には、噛み合わせ治療の期間よりも治療期間が長くなる可能性があることも否定できません。根気よく治療を行い、生活習慣の見直しも続けていくことが大切です。
噛み合わせ治療で自律神経失調症を改善する方法
- 改善するために気を付けたいことはありますか?
- 歯ならびや噛み合わせが悪いまま放置してしまうことで、取り返しのつかないトラブルにつながることもあります。また、小さい頃からついてしまった癖は簡単には直せません。歯ならびや噛み合わせが合っていない場合には、幼少期であっても早い段階から治療することが大切です。
もちろん大人になってから噛み合わせ治療の重要性に気付くこともあるでしょう。気付いたときからスタートしても遅くはありません。今後の口腔トラブルや健康を保つためにも噛み合わせを改善することは大きな意味があります。
成人前から噛み合わせ治療をおすすめするのは、治療の結果が出やすいだけでなく、筋肉や骨の成長を妨げたり歪んだりするトラブルを予防できるからです。
歯ならびや噛み合わせで気になることがある場合には、歯科医師に相談してみましょう。
- 症状を悪化させないことはできますか?
- すでに症状が表れている場合には、放置しないことが大切です。症状を放置すれば、自ずと悪化させる原因につながります。定期的な検診を受けたり、歯科医師の指導を受けてむし歯の予防や噛み合わせに影響する癖の改善に取り組んだりすることが大切です。
日常生活では以下の行動を意識することで、症状の悪化を防げます。- 頬杖
- 一定姿勢の継続
- 口唇の緊張や施緩
- 無意識のくいしばりや歯ぎしりによる歯の摩耗(ブラキシズム)
- お口の周囲筋の緊張
- かみしめ習慣
- 舌の緊張や舌の悪い習慣
- 片噛み
- 口呼吸
- 就寝時の姿勢習慣
- 親知らず
上記以外にも、加齢に伴った口腔トラブルや抜歯後の放置による歯の移動なども症状の悪化につながる可能性があります。幼少期であれば指しゃぶりも噛み合わせに影響する可能性があるため、注意が必要です。
- 不調が見られたら医師に相談した方がいいですか?
- 不調を感じている場合には、必ず病院へ受診しましょう。そのまま放置してしまうと、取り返しのつかない状態になる可能性もあります。歯ならびや噛み合わせだけでなく、むし歯や歯周病からでも自律神経に影響を与える事態に発展することも否定できません。
すでに見られている不調が自律神経失調症に該当するものであれば、内科・神経科・歯科に受診することをおすすめします。
編集部まとめ
噛み合わせ治療で自律神経失調症を改善できるのか・原因・治療法を解説しました。
噛み合わせ治療は幼少期からはじめることが、成長におけるトラブルを未然に防ぐために重要なポイントです。小さいときにはチャームポイントだった八重歯が大人に成長するに連れて、歯ならびや噛み合わせ不良を引き起こしたりすることもあります。
頬杖や片噛みなどの何気ない日常の癖から、歯ならびや噛み合わせを悪くする可能性もあるため、注意が必要です。
幼少期に指しゃぶりをよくする子どもも注意が必要なので、気になる点がある場合には歯科病院への受診をおすすめします。
参考文献