悪い歯並びを調整する歯列矯正ですが、治療には数年を要するのが一般的で、歯の移動が完了した後に装置を取り外すときは、爽快感を感じる方も少なくありません。ただし、歯並びがきれいに整っていても、噛み合わせに違和感が生じるケースもあります。
長い年月をかけてきれいに並べた歯並びでも、噛み合わせに問題が出てしまったら後悔するものです。この記事では、歯列矯正の後に生じる噛み合わせの違和感の原因や対処法について詳しく解説します。
矯正後に噛み合わせに違和感が出る原因
矯正治療後に生じる違和感はどのような原因に由来しているのかを解説します。
- 矯正後に噛み合わせに違和感が出る原因を教えてください
- 矯正治療で歯を動かした後の違和感は、次に挙げる原因によって引き起こされることがあります。
◎口腔内の環境の変化
矯正治療中は、歯の表面に金属製のブラケットやワイヤーを固定したり、上下の歯列にマウスピース型矯正装置を1日20時間以上装着したりする状態が日常となります。また、各矯正装置は歯に対して圧力がかかるように設定されていることから、痛みなどの不快症状も常に伴います。
矯正治療後はこうした装置をすべて撤去するため、歯を支えている、あるいは歯を圧迫しているものがなくなることが逆に違和感につながるケースも少なくはありません。ただし、矯正装置を取り外した後の違和感は、1週間もすれば消えるのが一般的です。
◎奥歯の圧下
奥歯が顎の骨の方向へと沈み込む現象を圧下といいます。奥歯の圧下は、矯正治療のなかで意図的に行うこともあれば、マウスピース型矯正で意図せぬ結果として生じることもあります。
マウスピースの厚みの分だけ噛み合わせが高くなり、それを補うような形で奥歯が圧下することから、矯正的には悪い結果をもたらします。奥歯が少しだけ浮いている状態となるため、違和感が生じるだけでなく、咀嚼機能にも深刻な影響がおよびます。ワイヤー矯正は装置の構造上、意図しない奥歯の圧下はマウスピース型矯正よりも起こりにくくなっています。
◎奥歯の噛み合わせがズレている
アライナーが少し浮いた状態でマウスピース型矯正を続けていると、歯に対して適切な力が加わらず、噛み合わせのズレを生じさせます。アライナーの浮き上がりは、視認しにくい奥歯の方が起こりやすく、治療が終わった後に噛み合わせの違和感の原因となりやすいため、十分な注意が必要です。
ワイヤー矯正に関しても奥歯の噛み合わせたズレた状態で治療が終わることもあります。これは歯科医師の技術や知識不足が原因です。
◎抜歯による影響
理想的な歯並びや噛み合わせの状態は、1歯対2歯咬合といわれています。上の歯1本に対して、下の歯2本が噛み合っている状態で、便宜抜歯を行った場合には、この噛み合わせが作りにくくなることもあります。
◎歯の後戻りが生じている
歯列矯正で歯の移動が完了した後も保定処置を継続する必要があります。保定処置が不十分であったり、保定処置を行っていなかったりすると、歯の後戻りが生じて噛み合わせが悪くなることがあります。
- 抜歯をしていなくても違和感を覚えることはありますか?
- 矯正治療後の噛み合わせの違和感は、抜歯の有無に関わらず生じうるものです。抜歯をすることで、矯正治療後に噛み合わせの違和感が生じる可能性は高まりやすいです。
- 噛み合わせの違和感は自然に慣れていくものですか?
- 口腔内の環境の変化に伴う噛み合わせの違和感は、早ければ1週間程度、遅くても1ヵ月以内には慣れていきます。それ以外の原因で噛み合わせに違和感が生じている場合は、自然に慣れることはあまりなく、放置することで新たな症状、トラブルを引き起こしかねません。
- リテーナーの噛み合わせへの影響を教えてください
- 保定処置に用いるリテーナーは、動的治療によって動かした歯をその位置で固定するための装置です。そのリテーナーの装着時間が不足していたり、装着方法に誤りがあったりすると歯の後戻りが起こって噛み合わせが乱れることがあります。
保定に必要な期間は矯正治療にかかった期間によって変わります。まずは主治医に決められた時間を装着するよう心掛けてください。一般的に、最初の半年は1日20時間以上の装着が必要です。その後は夜間就寝時など1日8時間程度の装着が必要です。
以上のリテーナーの装着期間と装着時間の目安にして、これから保定に入る方は参考にしてください。
矯正後の噛み合わせの違和感が続く場合の対処法
矯正治療後の噛み合わせの違和感がなくならない、ほかの症状も出てきているという場合は、以下の方法で対処しましょう。
- 違和感がどのくらい続くと歯科医師に相談すべきですか?
- 噛み合わせに違和感が生じる程度なら、1〜2週間は様子を見てもよいでしょう。噛み合わせの違和感がそれ以上続いたり、食べ物が噛みにくい、噛むと痛いなどの症状が現れたりした場合は、早期に歯科医師に相談しましょう。
- 歯科医院でできる噛み合わせの調整方法を教えてください
- 歯の後戻りが原因で噛み合わせに違和感が生じている場合は、あらためて保定を行うことで症状を改善できるかもしれません。もうすでに歯の後戻りが起こってしまっていたり、矯正治療で噛み合わせ改善されていなかったりする場合は、再矯正や追加の処置で調整することになります。歯を削って高さを調整する咬合調整という選択肢もありますが、天然歯を傷めることになるため、可能な限り矯正的な方法で対応した方がよいといえます。
- 噛み合わせが安定するまでにどのくらいの期間が必要ですか?
- 一般的には、歯を動かすのに要した期間と同程度の保定が必要となります。
例えば、ワイヤー矯正で歯を動かすのに2年かかった場合は、保定で噛み合わせを安定させるまえには2年程度かかります。ただ、歯というのは一生涯、動き続けるものなので、保定処置も一生涯続けるのが望ましいです。
矯正後の噛み合わせに違和感があるときのセルフチェック方法
矯正治療後の噛み合わせを自分で調べる方法を解説します。
- 噛み合わせのセルフチェックの方法を教えてください
- 噛み合わせをセルフチェックする方法は以下のとおりです。
◎正中の確認
鏡で見ながら「いー」をして、顔の中心と上下の歯の中心がまっすぐ並んでいるかを調べます。
◎奥歯の高さの確認
割り箸を横に咥えて、水平になっているかどうかを確認します。どちらかに傾いていたら、奥歯の噛み合わせにズレがあります。
◎噛み合わせのズレの確認
何も口に入れていない状態でカチカチと噛んで、上下の歯列が均等にあたっているかどうかを確認します。特定の歯だけ強くあたっている場合は、噛み合わせのズレがあります。
- 噛み合わせの違和感が見つかった場合はすぐに通院すべきですか?
- 噛み合わせの違和感の程度と継続期間によります。矯正治療の直後は、噛み合わせに違和感が生じるため、気にならない程度の症状であれば、まず様子を見ましょう。
矯正装置を外した後は、噛み合わせも徐々に馴染んでいくことがあります。噛み合わせの違和感が明らかに異常で、機能性だけでなく審美性にも影響を与えているような場合は、すぐに歯科医師に相談しましょう。
- 噛み合わせ以外にも起こり得るトラブルはありますか?
- 矯正治療後には、噛み合わせの違和感以外にも後戻りが生じる、仕上がりに満足できない、ほうれい線が目立つようになったなどのトラブルが起こり得ます。対処法が異なるため、気になる点があった場合は、主治医に相談することが大切です。
編集部まとめ
矯正治療後の噛み合わせの違和感の原因と対処法について解説しました。矯正治療後の噛み合わせの違和感は、口腔内の環境の変化、奥歯の圧下、奥歯の噛み合わせのズレ、抜歯による影響、歯の後戻りなどが挙げられます。
口腔内の環境の変化以外は、何らかの対処が必要となる可能性が高いため、適切な時期に歯科医師に相談するのがよいです。原因によっては、再矯正が必要となることもあります。
参考文献