ものを噛んだ瞬間に痛みを感じたことはありませんか? 痛みがあるとついむし歯かなと思いがちですが、実はその他にも痛みの原因はいろいろとあるのです。しかし、それらの痛みのもとに噛み合わせの影響があるということは、あまり知られていないかもしれません。噛み合わせが原因で歯が痛いとはどういうことなのでしょうか。自分の噛み合わせについて、チェックの仕方から治療まで、詳しく説明していきます。
噛み合わせと歯の痛みの関係
噛み合わせと歯の痛みにはいったいどのような関係があるのでしょうか? 噛み合わせによる影響の疑問にそれぞれお答えします。
- 噛み合わせの影響で歯が痛くなることはありますか?
- 噛んだときの痛みの原因には、むし歯、歯周病、歯根膜炎、親知らず、歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)の5つが考えられます。そして、これらの歯の痛みは噛み合わせの影響が元となっているのです。 噛み合わせが悪い場合は、噛む力が分散されないため1か所に負担がかかり、また噛み合わせが悪いと正しい歯磨き方法は難しく、むし歯や歯周病を引き起こすことにもなります。
- 噛み合わせが悪いと、歯の痛み以外にも症状が出ますか?
- 噛み合わせの影響は、歯の痛みだけではなく、その他の体の部分にも及ぶこともあります。まず挙げられる症状として、特定の歯が受ける負担によりその歯がすり減り知覚過敏を発症し、冷たいものがしみて食べられなくなります。また、噛み合わせの悪さから、食べ物が歯間に詰まりやすくなることも痛み以外の影響といえるでしょう。
噛み合わせについて
では、噛み合わせとはいったいどのようなものなのでしょうか? 噛み合わせの良し悪し、チェック方法や予防などの観点から疑問にお答えします。
- 噛み合わせが悪いとはどのような状態ですか?
- まず、噛み合わせが良い状態とは、前歯の中心が上下で揃う前歯の正中線の一致、上の歯1歯を下の歯2本で支える1歯対2歯咬合(こうごう)であること、前歯の上下、前後でそれぞれ2~3mmの範囲の重なりになっていることとされています。よって、そうでない状態が噛み合わせの悪い不正咬合というわけです。 不正咬合には、出っ歯、歯並びがデコボコな状態の叢生(そうせい)、受け口、すきっ歯、上下の前歯が前方にせり出した状態の上下顎前突、奥歯を噛み合わせていても上下方向の隙間ができる状態の開咬(かいこう)、前歯がデコボコで、部分的に通常の噛み合わせとは逆で下の歯が前に出る交叉(こうさ)咬合などさまざまな状態があります。
- 噛み合わせをチェックする方法を教えてください。
- 自分自身の噛み合わせを正しくチェックし、子どもの噛み合わせのチェックができるようにしておくことも有効といえるでしょう。具体的なチェック方法を7つの観点からご紹介します。
1点目は、上下の奥歯がしっかり噛み合っているかの確認です。上下の奥歯の山がしっかりはまった状態で噛む、すり潰すという奥歯の機能が発揮されます。特定のポイントだけ強く当たっていれば噛み合っていません。
2点目として、歯が左右に傾きすぎていないか(歯肉に対して垂直に生えているか)を鏡でチェックしてください。おおよその歯根の状態を外見から確認できます。
3点目は、奥歯で噛んだとき、上の前歯が下の前歯より2~3mmくらい前にあるかを確認してください。5mm以上ある場合は出っ歯とされています。
4点目に確認するのは歯のねじれです。特定の歯がねじれて生えているとほかの歯に負担がかかったり、噛む力が発揮できなかったりする原因となります。
5点目は、歯と歯の隙間についてです。子どもの場合では、乳歯は生え変わるため、隙間があるのは正常ですが、大人の場合はすきっ歯といい不正咬合となります。
6点目には、割りばしを噛んでみて、歯の水平の並びを確認してみましょう。横にした割りばしの中央を噛んで鏡を見ます。割りばしが水平であれば正常です。傾きがある場合は歯の高低差によりアーチ状の歯並びになってしまいます。
最後に7点目として、噛み合わせの深さを確認しましょう。奥歯を噛んだとき、前歯の下の歯がほぼ見えなくなったら深すぎで、過蓋咬合といいます。噛み合わせが深いと、下の前歯が上の前歯の裏側の歯肉を傷つけてしまいます。
- 噛み合わせが悪くなる原因を教えてください。
- 噛み合わせが悪くなる原因としては、遺伝的要素と生活習慣によることが考えられます。不正咬合は顎の大きさに比べ歯が大きいなどのミスマッチが原因です。歯や顎の大きさは遺伝的な要素のため、親子の噛み合わせは似るといわれています。ただし、必ず遺伝するわけではなく、生活習慣によることも多くあります。具体的には、顎やお口、顔に継続的な力が加わることです。例えば、歯ぎしりや頬杖、舌の癖(舌を歯列に乗せるなど)、口呼吸、片噛み、就寝時の姿勢などがあります。
- 噛み合わせが悪くならないように子どもの予防方法を教えてください。
- 噛み合わせの良し悪しは遺伝的要素と生活習慣が原因とされています。遺伝的要素は予防できませんので、生活習慣上の癖をなおすことを心がけ、予防していくようにしましょう。 成長期の顎の骨の成長は全身の成長と関係がありますので、姿勢を良くすることは重要です。また、猫背の状態で食事をすると、前歯で噛む癖がついてしまいます。正しい姿勢で奥歯の噛み砕きやすり潰しの機能を高めましょう。また、よく噛んで食事をすることにより唇や舌、顎の筋肉の発達が促されます。さらに、口呼吸になると顎の発達が阻害されますので、鼻呼吸をするような意識が必要です。
- 噛み合わせが悪化しないように大人が気を付けることはありますか?
- 子どもの予防方法に加えて必要なのが、定期的な歯科検診です。現在の状態を知ることで、将来の噛み合わせの想定も歯科医師では見極めることができますので、大人が気を付けて受診させてあげることが必要です。
噛み合わせの治療方法
噛み合わせの治療としては、咬合調整や歯列矯正などがあります。歯列矯正は見た目の歯並びだけではなく、噛み合わせを治療することも多くあります。
- 咬合調整について教えてください。
- 噛み合わせのバランスを整えるのが咬合調整です。歯を削ったり、削らなかったりすることにより、ぴったりな噛み合わせを実現する方法です。適切な咬合診断により、最小限の切削量で調整することが重要です。両側の歯でバランスよく噛めるようになるなど、多くのメリットがあるといわれています。
- 補綴(ほてつ)治療について教えてください。
- 歯が欠けたり、なくなったりした場合に入れ歯などの人工物で補うことを補綴治療といいます。入れ歯のほかには、ブリッジ、クラウン、インプラントなど多種多様な治療方法があります。歴史は古く、日本では奈良時代から入れ歯があったといわれています。
- ワイヤー矯正について教えてください。
- 歯にブランケットという器具を装着しワイヤーを通します。そして、移動させたい方向に適切な力をかけて徐々に歯を動かし歯列矯正する方法です。装着の仕方で治療方法が数種類ありますが、適応症状が多く、さまざまな歯列の悩みを解消することが可能です。デメリットとしては 、改善された方法も存在しますが装置が目立ちやすいことです。また歯磨きなどのお手入れがしづらく、ワイヤーで歯を動かすため痛みを伴うといわれています。
編集部まとめ
噛み合わせの悪さは、歯の痛みだけではなく、全身に不調を起こす原因にもなる放っておけない症状です。遺伝が原因となることも少なくないため、親子で噛み合わせが似ることもよくあります。ご紹介した噛み合わせのチェック法でご自身をチェックするとともに、お子さんの噛み合わせも一緒に確認してあげましょう。また、普段何気なくしている癖が不正咬合を助長することもあるので、生活習慣を見直すことも大切です。
参考文献