叢生や乱ぐい歯と呼ばれる状態は、不正咬合の一種です。
不正咬合とは上下の歯が噛み合わない状態のことで、叢生のほかに出っ歯や受け口、開咬などがあります。
叢生はすべての歯がきれいに並ぶだけのスペースが足りなくて歯並びがガタガタに乱れている状態を指します。
叢生の状態や度合いはさまざまで、歯が横を向いているものや前後に重なっているもの、本来生えるべき位置からずれているものなどがあります。
犬歯がほかの歯よりも飛び出たように生えている八重歯も、叢生の一種です。
昔は日本では歯並びはあまり気にされてきませんでしたが、欧米を中心とした海外では歯並びのよさが重要視されているため、近年は部分的な叢生などでも矯正治療を選択する方が増えています。
さらに、見た目に歯並びが悪いというだけでなく、長い年月をかけてさまざまな健康への影響もあります。
本記事では、叢生(乱ぐい歯)を放置することのデメリットや部分矯正で治療できるもの・できないものなどのほか、治療費の相場などをまとめています。
部分矯正をご検討の方は参考になさってください。
叢生(乱ぐい歯)を放置するデメリット
叢生(乱ぐい歯)を放置することのデメリットとしてよく挙げられるのは、発音や咀嚼などに対する影響です。
特に食べ物をしっかり噛めずに飲み込むことは、全身の健康に対する影響が考えられます。
また、噛み合わせが悪いと顎に負担がかかり、それが肩こりや頭痛の要因になることもあります。
その他にも多くのデメリットがありますが、具体的に以下のような例を挙げます。
歯磨きが行き届かない
叢生は、隣同士の歯が重なり合っていたり、たがいちがいに歯が生えている状態です。
歯が重なっている場所には歯ブラシが届きにくく、歯垢などの汚れが落としにくくなります。
歯垢を取り除けずにいると歯石になります。歯垢も歯石も、お口の中の細菌を増やす原因となるものです。
叢生の方の歯磨きは、ワンタフトブラシやデンタルフロスなどによる念入りなケアが必須となりますが、毎日の歯磨きでそこまで時間をかけてしっかり歯磨きができている方は多くないのではないでしょうか。
細菌の増殖はむし歯や歯周病のリスクを高めるなどさまざまな口腔トラブルを招いてしまうため、叢生によってすみずみまで歯磨きが行き届かないことを放置するデメリットは大きいといえるでしょう。
むし歯・歯周病になりやすい
前述したとおり、叢生の場合は歯磨きが行き届きません。それが原因となってむし歯や歯周病にかかりやすくなります。
仮にそのむし歯や歯周病になってしまってその箇所を治療しても、歯磨きがしづらいことには変わりありません。同じ箇所に汚れが蓄積しやすく、その部分の歯は長持ちしづらくなってしまうのです。
むし歯や歯周病は歯を失う大きな要因です。長く自分の歯を保つことが重要であるうえ、むし歯も歯周病も放置すれば全身の健康に関わります。
叢生を放置することはむし歯や歯周、ひいては全身の健康に関わる大きな問題です。
口臭の原因になる
歯磨きが行き届かないことによって汚れが蓄積されたお口の状態は、口臭が出やすい状態です。
汚れが蓄積された口腔内には細菌が繁殖しやすいため、この細菌も口臭の原因となりますし、歯周病と口臭には高い相関関係があるといわれています。
口臭の元となるのが、お口の中の細菌が代謝の過程で発生させる硫化水素やメチルメルカプタンです。歯周病によって歯周ポケットができるとお口の中の細菌に格好の住みかを提供することになり、細菌が増えます。
増えた細菌がこういった口臭の元を多く発生させて、口臭が強くなります。
口臭は自分では気付きにくく、それに加えて他人や家族でもなかなか指摘しづらいものです。そのため気付かないうちに周囲の人に嫌悪感を持たれているかもしれません。
口臭や体臭などの匂い対策は身だしなみ・エチケットのひとつとして現代では重要視されていることのひとつですから、たかが口臭と軽視することはできません。
見た目が気になる
叢生は歯がガタガタしているため、お口を開けたときの印象がいいとはいえません。思春期などを境に、コンプレックスになってしまうこともあります。
お口を開けるというのは話したり笑ったりするときです。歯並びがコンプレックスで人前で話したり笑顔を見せたりすることが少なくなるのは、精神面に与える影響が大きいものです。
噛み合わせや歯周病などが与える全身の健康リスクも問題ですが、メンタルヘルスへのリスクも人生を左右することであるだけに見過ごせない問題です。
叢生(乱ぐい歯)は部分矯正で治せる?
部分矯正で叢生を治せるかどうかは、叢生の程度によって異なります。 部分矯正でも治せるのは、軽度な叢生の場合です。
狭いスペースに歯が密集している場合や、前歯の出っ張りが大きい出っ歯の場合などは部分矯正では対応できません。
また、患者さんが期待している結果が全体的なバランスを整えたうえでしか得られないようなものの場合、部分矯正では叶えられない場合もあります。
また、歯科医院によっても少し異なりますが、部分矯正で治せるのは前歯だけで奥歯は部分矯正の対象外というところもあります。
金銭面などで安易に部分矯正を行うと、将来的にお口の健康を大きく損なう可能性があったり、治療期間が長くなったりすることもありますので、部分矯正での治療が適切かどうか慎重に判断することが重要です。
八重歯も部分矯正で治療できる?
八重歯の場合も、部分矯正での治療が可能な場合もあります。
日本では昔はチャームポイントととらえられていた八重歯も、海外では忌み嫌われるものであることから、現在は歯列矯正で治したいという人が増えています。
八重歯は顎の骨が小さいためにすべての歯がスペースに収まり切らず、本来の位置からずれて生えてしまっている状態です。
部分矯正で治すには、抜歯・スライス・顎を広げるという3つの選択肢があります。患者さんのお口の状態によって、適切な方法を選択して治療が行われます。
抜歯をしてスペースをつくるというのは、イメージしやすい方法かと思います。抜歯を行う場合、小臼歯と呼ばれる前から4番目・5番目の歯を抜くのが一般的です。
あまり聞き慣れないスライスとは、歯の表面1.5mm程度のエナメル質の部分を0.25〜0.50mmずつ削ってスペースをつくる方法です。
抜歯してしまうと今度はスペースが余ってしまうという場合や患者さんのご希望でどうしても抜歯をしたくない場合、持病などで麻酔ができない場合などに用いられる方法です。
顎を広げるという方法は、専用の矯正装置を使って行いますが、顎の成長が完了している大人の歯列矯正では難しい場合もあります。
また、上記のような方法で飛び出た八重歯を正しい位置に戻すだけのスペースがつくれない場合や部分矯正で八重歯の位置を治すことによって全体の噛み合わせが悪くなってしまう場合は、全体矯正が必要です。
部分矯正による叢生(乱ぐい歯)の治療方法
部分矯正による叢生の治療方法には、以下の3つがあります。
ワイヤー矯正
ワイヤー矯正での部分矯正は、動かしたい歯の一つひとつにブラケットと呼ばれる装置を装着します。そしてブラケットにワイヤーを通して歯を引っ張り、歯並びを整えていくという方法です。
1ヵ月で0.5mm〜1.0mm程度、歯の位置を動かすことができます。
昔は金属製のブラケットやワイヤーだったためとても目立ちましたが、今は白いブラケットや白いワイヤーなどが選べる歯科医院も多く、矯正装置が目立ちにくくなっています。
裏側矯正(舌側矯正)
前述のワイヤー矯正装置を歯の裏側に取り付けて行う矯正方法です。裏側矯正(舌側矯正)は、通常の他人との会話中などで装置が見えにくいため、矯正装置を目立たせたくない人におすすめの方法です。
ただし、歯の裏側に装置が付いているため発音・滑舌や咀嚼などで舌を動かすことで舌と装置が接触しやすく、発音や咀嚼に影響が出やすいというデメリットもあります。
発音に関しては、特定の音を出すための練習を繰り返し行うことであまり気にならなくなるというケースもあります。
マウスピース型矯正
マウスピース型矯正はインビザラインとも呼ばれ、部分矯正では前歯の歯列矯正が行えます。歯に力が加わる透明なマウスピースを装着することで、1ヵ月に0.25mm程歯を動かします。
1〜2週間ごとにマウスピースを交換することで治療が進み、徐々に歯並びが整っていくという方法です。マウスピースは透明で目立ちにくいことと、自分で取り外しが可能であるという特徴があります。
そのため、ワイヤー矯正に比べて歯磨きなどのお口のケアが簡単です。しかしながら、マウスピースは長時間つけ続けることで歯が動いていくものであるため、外している時間が長くなると効果が得られません。
お口の違和感から外す時間が長くならないよう、自分で注意できる人以外には向かないかもしれません。
部分矯正では治療ができない症例
部分矯正は不適切な症例で用いてしまうと重大な健康障害が生じてしまう場合があります。
部分矯正に適さないのは、以下のような症例です。
歯が移動するスペースが確保できない
叢生は歯がきれいに並ぶためのスペースが足りないことから起こっているケースが多く見られます。
乱れた歯並びを整えるためには歯を移動させるだけのスペースが必要ですが、部分矯正では新たに大きなスペースをつくることはできません。そのため、全体矯正やその他の方法でスペースをつくる必要があります。
歯並びの凹凸が大きい
叢生の程度が重く、歯並びの凸凹が大きい場合も部分矯正では対応できません。部分矯正は一部の歯や特定の箇所に対して行われる治療法であるため、歯列全体の重度の凸凹に対する効果は限定的にしか得られません。
その場合は、全体矯正が適切な治療法だと思われます。
噛み合わせに問題がある
一般的に部分矯正でできるのは、特定の歯の位置や傾斜の調整です。なかでも前歯部分の歯列矯正のみにしか行えない場合も多く見られます。
噛み合わせに問題がある場合は、奥歯を含む全体的な歯の位置の調整が必要である可能性が高く、部分矯正では対応できないでしょう。全体矯正をはじめ、ほかの治療方法を行う必要があります。
叢生(乱ぐい歯)の部分矯正の費用相場
叢生を部分矯正で治療した場合の費用相場を、治療方法ごとにご紹介します。
ワイヤー矯正の費用相場
ワイヤー矯正による部分矯正の費用相場は動かす歯の本数や矯正範囲などによって異なりますが、200,000〜500,000円(税込)程度になります。
上下どちらかのみの場合は200,000〜300,000円(税込)程度、上下両方行う場合は400,000〜500,000円(税込)程度というのが一般的です。また、ワイヤーの素材によっても異なります。
だいたい金属製の矯正装置が安価に治療できます。金属製の矯正装置は目立つため、目立ちにくい白や透明などの矯正装置を選ぶと数万円程度費用が上がります。 歯1本あたりで計算すると40,000円(税込)前後が平均的な相場といえそうです。
裏側矯正(舌側矯正)の費用相場
裏側矯正(舌側矯正)は、表側矯正よりも少し費用が割り増しになるケースが多く、400,000〜800,000円(税込)程度になります。
上下どちらかのみの場合は400,000円(税込)程度、上下両方行う場合は800,000円(税込)程度というのが一般的です。歯1本あたりで計算すると50,000円前後が平均的な相場といえそうです。
マウスピース型矯正の費用相場
マウスピース型矯正での部分矯正の費用相場は、200,000〜500,000円(税込)程度です。上下どちらかのみの場合は200,000〜300,000円(税込)程度、上下両方の場合は400,000〜500,000円(税込)程度というのが一般的です。
マウスピース型矯正は歯が移動するのに伴ってマウスピースを交換するため、その回数によっても費用が大きく変わります。
叢生の程度が軽い程マウスピースの交換回数が少なく済み、マウスピースの交換が1回増えるごとに100,000〜200,000円(税込)程費用が高くなります。
まとめ
部分矯正では、主に前歯などの軽度な叢生において改善が期待できます。
叢生を放置すればお口の中だけの問題ではなく、長い目で見ると身体的および精神的な健康を害するリスクが高くなるため、できる限り早い段階で矯正治療をしておくことが望ましいでしょう。
ただし、歯を正しい位置にもどすためのスペースがお口の中にない場合や重度の叢生、噛み合わせ全体に問題がある場合などは部分矯正では対応できません。
治療法としては一般的に全体矯正で用いられるワイヤー矯正とワイヤーの裏側矯正(舌側矯正)、マウスピース型矯正などがあり、患者さんの状態や希望に応じた方法を選ぶこともできます。
また、治療法によってかかる費用も異なるため、予算に合わせた治療法の選択も必要です。
部分矯正は多くの歯科医院で行えるため、まずは歯科医院で歯や顎の状態を見てもらい、部分矯正可能かどうか相談してみましょう。
参考文献