冷たいものがしみたり、歯磨きの際にズキッとした痛みを感じたりしたことはありませんか。
もしかしたらその痛みは知覚過敏かもしれません。
知覚過敏には歯周病や食いしばりなどさまざまな原因が考えられますが、噛み合わせの悪さも原因のひとつです。なぜ噛み合わせが悪いと、知覚過敏になってしまうのでしょうか。
この記事では、噛み合わせと知覚過敏の関係性を解説します。噛み合わせ以外の原因や、知覚過敏になってしまった場合の治療法なども紹介していくので、最後までお読みいただければ幸いです。
知覚過敏になるメカニズム
知覚過敏は歯の神経に刺激が伝わり、痛みとして感じる症状です。健康な歯はエナメル質に守られていますが、エナメル質と歯の神経の間には象牙質と呼ばれる層があります。
象牙質はエナメル質と違ってやわらかく、内部には象牙細管と呼ばれる管が無数に存在します。この管は歯髄に通じていて、象牙質への刺激が歯髄内の神経に伝わることで痛みが生じるのが知覚過敏のメカニズムです。
通常、象牙質は厚さ2~3mmの硬いエナメル層に覆われているため、痛みは感じません。しかし、何らかの理由でエナメル質の層がなくなったり、歯ぐきに覆われていた象牙質が露出したりすると知覚過敏の症状が発生します。
噛み合わせと知覚過敏の関係
知覚過敏といえば、むし歯や歯周病が原因だと思われがちですが、実は噛み合わせも大きく影響しています。
噛み合わせと知覚過敏にはどのような関係があるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
知覚過敏の症状
知覚過敏になると、冷たいものや甘いものを食べたり飲んだりしたときや、歯ブラシの毛先が当たったときに痛みが生じるのが一般的です。
症状が悪化すると、息を吸い込んだり風が歯にあたったりしただけで痛みを感じる方もいます。特に前歯や小臼歯あたりに多く見られる症状です。
痛みは一過性で、キーンとした痛みやズキっとした痛みと表現されます。
軽症の場合は少ししみる程度の痛みですが、ひどくなるとちょっとした刺激で痛みを感じるようになるでしょう。
むし歯の痛みとの違いは、痛みが一過性であることと歯を叩いても痛みを感じない点が特徴です。
噛み合わせの悪さが知覚過敏に与える影響
噛み合わせが悪いと、一部の歯に強い負荷がかかります。それにより歯のエナメル質が少しずつ削れたり、歯ぐきが下がったりして象牙質が露出し、知覚過敏が起こりやすくなります。
また、噛み合わせが悪いと、上下の歯がうまく噛み合いません。上手に噛み合わせるためには顎の筋肉を必要以上に使う必要があります。
それにより顎の筋肉が緊張し、歯ぎしりが起こりやすくなります。
歯ぎしりはエナメル質を傷つけるため、知覚過敏を悪化させる要因になりかねません。
知覚過敏の主な原因
噛み合わせの悪さは知覚過敏になる原因のひとつですが、原因はそれ以外にも考えられます。噛み合わせは悪くないにも関わらず、知覚過敏の症状が出ている方は、ほかの可能性も検討してみましょう。
また、噛み合わせの悪さに加えてほかの原因がある場合、知覚過敏が悪化する可能性もあります。ほかに知覚過敏を悪化させる要因がないか、確認しておきましょう。
噛み合わせバランスの崩れ
噛み合わせは日々変化しています。若い頃は噛み合わせに問題がなかったのに、年齢を重ねるごとに噛み合わせが悪くなってきた方もいるでしょう。
歯の噛み合わせは頬杖をついたり爪を噛んだりなどの生活習慣によっても変化します。左右どちらかの歯で食べ物を噛む癖も注意が必要です。
また親知らずが生えてきたために、少しずつ歯がずれ、噛み合わせが悪くなったケースもあるでしょう。
親知らずがほかの歯を圧迫し、噛み合わせが悪くなるからです。さらに、むし歯や歯周病も噛み合わせバランスが崩れる原因のひとつです。
むし歯や歯周病は歯が不安定になるため、ほかの歯からの圧迫で少しずつずれて噛み合わせが悪くなってしまいます。
これらの要因により噛み合わせが悪くなると、特定の歯に負担がかかるため、知覚過敏が起こりやすくなります。
歯ぎしりや食いしばり
歯ぎしりや食いしばりは、歯にかなりの負担がかかる行為です。大きな負担がかかるため、歯ぐきが下がり、歯ぐきに守られているはずの象牙質が露出しやすくなります。
さらに、日常的に歯ぎしりや食いしばりをしている場合、噛み合わせにも影響が出るでしょう。
そうするとエナメル質が剝がれやすくなり、より知覚過敏が悪化するケースも考えられます。
歯ぎしりや食いしばりはストレスや緊張によるものが多いので、生活習慣を見直す必要があるでしょう。
歯のすり減り
歯がすり減ることで、エナメル質が薄くなり、知覚過敏になる可能性があります。歯のすり減りには、下記の要因が挙げられます。
- 歯ぎしり・食いしばり
- 硬い食べ物による摩耗
- 過度な力で行う歯ブラシ
歯は加齢により自然にすり減っていきますが、加齢による摩耗は自然な減少なので、大きな問題ではありません。ただし、噛み合わせが悪いと、摩耗が進む可能性があります。
また歯ぎしり・食いしばり・硬い食べ物の食べすぎは、歯に強い圧力がかかるため、歯がすり減る原因です。また、強い力で歯を磨くと、表面のエナメル質がすり減る危険があります。
この症状はくさび状欠損と呼ばれます。くさび状欠損とは、歯と歯ぐきの境目にくさびのような欠損が生じる状態です。
この欠損部分は象牙質が露出しているため、知覚過敏の症状を感じやすくなります。
強すぎる歯磨き方法を続けていると、このくさび状欠損が生じるリスクが高まります。特に研磨剤入りの歯磨き粉は、歯が削れる要因になるため、注意が必要です。
歯のひび割れ
歯のエナメル質のひび割れは、痛みを感じない場合がほとんどです。しかし、ひびに水が入ったときに、知覚過敏の症状が出る可能性があります。
歯のひび割れの主な原因は、歯ぎしりや食いしばりです。
特に夜間の歯ぎしりや食いしばりは、日中以上の力がかかるため、ひび割れのリスクが高まります。
普段の歯ぎしりや食いしばりのダメージは歯に蓄積していき、突然ひびが入るため注意が必要です。
また、転倒やスポーツ中の怪我が原因でひびが入ることもあります。さらに、噛み合わせが悪いと、一部の歯に大きな負荷がかかるため、ひびの原因になります。
歯に入ったひびが深くなると、神経や歯そのものを抜く治療が必要になるケースがあるため、早めの治療が必要です。
歯ぐきの退縮
歯ぐきが退縮すると、歯ぐきに守られていた象牙質が露出した状態になります。それにより、象牙質に刺激が伝わり、知覚過敏の症状が現れます。
歯ぐきの退縮の原因で多いのは、歯周病です。
歯周病によって顎の骨が溶かされ、徐々に骨を覆っている歯ぐきが退縮していきます。放置していると、徐々に歯ぐきが痩せていき、象牙質が露出するため注意が必要です。
また、喫煙習慣やホルモンバランスの乱れも歯ぐきの退縮の要因になります。喫煙で歯ぐきの血行が悪くなり、口腔内環境が悪化するため歯周病が進行するのが原因です。
また、思春期や妊娠・更年期などホルモンバランスの乱れで、歯ぐきが過敏になることもあります。
特に妊娠性歯肉炎は歯周病の一種で、歯ぐきの退縮が起こりやすくなるため、歯科医院で早めに治療を受けることが大切です。
むし歯治療
むし歯治療をした直後は、知覚過敏になりやすくなります。まず考えられるのは、むし歯治療で歯を削ったことで神経が炎症を起こし、敏感になっているケースです。
このケースの場合、象牙質が新しく作られることで痛みは軽減していきます。
また、むし歯治療に使用した詰め物が神経を圧迫していることも、知覚過敏の原因のひとつです。
この詰め物が金属製だった場合、温度が伝わりやすくなり、痛みとして感じるケースもあります。
いずれの場合も徐々に落ち着いてくるケースがほとんどなので、冷たいものや熱いものを避けて生活すれば、知覚過敏の症状を抑えられます。
ただし、痛みが続く場合や我慢できない痛みの場合は、早めに歯科医師に相談しましょう。
歯の溶解(酸蝕症)
酸蝕(さんしょく)症で歯が溶解すると、知覚過敏が起こりやすくなります。
エナメル質が解けることで、象牙質が露出し、知覚過敏やむし歯が進行するのが酸蝕症の特徴です。
酸蝕症は炭酸飲料・レモン・酢などの酸性食品の過剰摂取で起こります。それ以外にも酸性の薬剤やサプリメントの摂取も歯を溶解させる原因です。
また、逆流性胃腸炎や摂食障害で繰り返し嘔吐する場合、逆流する胃酸で歯が溶解するケースもあります。
酸性のものを飲食した後はお口をゆすいだり、寝る直前には酸性の飲食物を控えたりすれば酸蝕症を防ぐことができます。
逆流性胃腸炎や摂食障害がある場合には、医師に相談しましょう。
噛み合わせによる知覚過敏を放置するリスク
知覚過敏そのものは、重症化しても歯を失うような危険な病気ではありません。しかし、知覚過敏を放置すると、刺激による痛みがひどくなります。
そのため、歯磨きがうまくできなくなったり、食べ物をしっかり噛めなくなったりする可能性があるでしょう。結果的にむし歯や栄養が偏るリスクも高まります。
さらに、噛み合わせが悪い状態を放置すると、知覚過敏の悪化だけでなく頭痛・肩こり・顔の歪みなどが生じるケースもあるため注意が必要です。
噛み合わせによる知覚過敏の治療法
噛み合わせによる知覚過敏の場合、噛み合わせそのものの治療と知覚過敏の症状に対する治療の両方が行われます。
具体的にどのような治療が行われるのか、以下で詳しく解説します。
歯列矯正を行う
知覚過敏の症状だけを治療しても、噛み合わせが悪いとまた同じ症状が起きてしまいます。そのため、歯列矯正で噛み合わせを正しく調整しなければなりません。
歯列矯正は人それぞれにあった方法で行われます。歯列矯正器具を用いた治療法や歯や詰め物を削って噛み合わせを直すのが一般的です。
治療期間は個人差がありますが、2~3年ほどかけてゆっくりと噛み合わせを調整します。
詰め物で保護する
歯ぐきが下がり、歯の根元部分の象牙質が露出している場合は、詰め物で保護するのが一般的です。
詰め物にはセラミックやコンポジットレジンなどの材質が用いられ、歯の神経に刺激が伝わるのを防ぎます。
セラミックは審美性に優れていますが、保険適用外になるのがデメリットです。このように詰め物の種類によって、保険適用されるものとされないものがあるため、予算と相談しながら決めていきましょう。
マウスピースで保護する
歯ぎしりや食いしばりが原因で噛み合わせが悪くなり、知覚過敏が起きている場合は、歯ぎしりや食いしばりを防ぐ必要があります。
そのために用いられるのがマウスピースです。マウスピースをつけることで、マウスピースがクッションの役割を果たし、歯への負担が減らせます。
薬剤・コーティング剤で保護する
最後は薬剤・コーティング剤で保護する治療方法です。歯の象牙質が露出している部分に薬剤・コーティング剤を薄く塗布し、外部からの刺激を防ぎます。
薬剤・コーティング剤の塗布は10分程度で終わりますが、知覚過敏の状態によっては数回通院が必要な可能性もあります。
効果は数ヶ月から半年ほどで、知覚過敏の症状が軽減されない場合には、効果が切れる頃に再度歯科医院で治療を受けなければなりません。
薬剤・コーティング剤を使った治療法には、稀にアレルギー反応が出ることもあるため、歯科医師とよく相談しながら決めましょう。
噛み合わせによる知覚過敏のセルフケア方法
知覚過敏の症状に対するセルフケア方法として、知覚過敏用の歯磨き粉を使う方法が挙げられます。
知覚過敏用の歯磨き粉に含まれる成分が、象牙質をカバーし、症状を和らげる効果が期待できます。
例えば、硝酸カリウムは歯の神経に刺激が伝わるのを抑制する成分です。また、乳酸アルミニウムは神経につながる知覚ホールを塞いでくれるので、神経に直接刺激が伝わるのを避けられます。
さらに、フッ素(フッ化ナトリウム)は歯をコーティングする役割があるため、噛み合わせが悪くて歯のエナメル質が薄くなっている方にもおすすめです。
噛み合わせによる知覚過敏の場合、噛み合わせそのものに対するセルフケアも行いましょう。
姿勢が悪いと歯並びが悪くなります。日中だけでなく、就寝中の姿勢にも注意しましょう。うつぶせ寝や横向き寝は顎関節や首に負担がかかるため、仰向けで寝るようにします。
硬い食べ物を避けたり、歯ぎしり・食いしばりを防ぐためにストレスを軽減したりなどのセルフケアも有効です。
ただし、知覚過敏も噛み合わせも、自宅でできるセルフケアには限界があります。症状が悪化する前に、歯科医院に相談するようにしましょう。
まとめ
知覚過敏は歯の象牙質が露出し、歯への刺激が痛みとして神経に伝わる症状です。噛み合わせが悪い状態を放置すると、歯ぐきが下がって知覚過敏の症状が起こりやすくなります。
知覚過敏の症状が出ている間は冷たいものがしみたり歯磨きの刺激で痛みを感じたりするため、日常生活にも支障が生じます。
歯磨きが十分にできないことで、むし歯や歯周病のリスクも高まるでしょう。
噛み合わせが悪くて知覚過敏の症状が出ている方は、早めに歯科医院を受診するのがおすすめです。自宅でできるセルフケアには限界があるので、知覚過敏を根本から治療しましょう。
参考文献
- 学位申請論文
- 鹿児島大学病院広報誌桜ケ丘だより
- 知覚過敏|日本歯科医師会
- 知覚過敏の患者さんで処置をしても改善がみられない場合はどうすればよいでしょうか?抜髄処置しかないのでしょうか?
- 「日中の食いしばり」「痩せ型体型」が「歯並びの悪化」と関係することを 世界で初めて解明
- 加齢に伴う歯の亀裂発生とその対処法に関する臨床的研究
- 知覚過敏を伴う下顎臼歯部歯肉退縮に対して結合組織移植による根面被覆術を行った1症例
- 酸蝕症の病態と臨床対応
- 矯正歯科治療における標準治療の指針
- 知覚過敏症罹患モデル象牙質への光重合型コンポジットレジンの接着性について
- ナイトガード使用に関する検討
- 歯面コート材によるコーティングがもたらす歯質の脱灰抑制効果
- 硝酸カリウム配合歯磨剤による象牙質知覚過敏抑制効果