噛み合わせが悪くて顎が痛い場合、どのような対処をすればよいでしょうか?
顎の痛みは顎関節症である可能性があり、噛み合わせの悪さで発症することは少なくありません。
顎が痛いと食事や会話もままならずに患者さんの負担も大きいですが、適切に治療すれば症状は改善するでしょう。
この記事では顎が痛い際に知っておくべき、以下の内容を解説します。
- 噛み合わせの悪さの治療方法
- 噛み合わせが悪くなる原因
- 噛み合わせの悪さと顎関節症の関係
- 顎関節症の原因と治療方法
噛み合わせの悪さと顎の痛みに悩む方が、どのような対処をすればよいか参考になれば幸いです。
噛み合わせが悪くて痛い顎を改善するには?
噛み合わせの悪さから顎の痛みが生じた場合、顎関節症の可能性があります。
顎関節症を発症する要因は噛み合わせの悪さだけでなく、歯ぎしりや食いしばり癖などさまざまな要因が組み合わさっていることが大半です。
しかし噛み合わせの悪さ自体が顎関節への負担や見た目の悪さにつながるため、悪い噛み合わせは治療した方がよいでしょう。
噛み合わせの悪さを改善する、主な治療方法を3つ解説します。
咬合調整
噛み合わせが悪くなっている原因の歯や被せ物を削ることで、噛み合わせをよくする治療を咬合調整といいます。
健康な歯質を削ることは極力避けたいため、実際に削る量は1mm以下となることがほとんとです。
むし歯治療の被せ物が合っておらず、噛み合わせが悪くなっているのに放置していた場合は、しばらく経ってから顎の痛みを生じることもあるでしょう。
この場合には被せ物を削って、噛み合わせの障害になっている部分をなくせば症状も良くなっていきます。
逆に放置して噛み合わせが悪いままにしておくと、歯が動いたり顎がずれたりして治療が難しくなる場合があります。
補綴治療
補綴(ほてつ)治療とは、失った歯を補う治療のことです。代表的な補綴治療は入れ歯治療・ブリッジ治療・インプラント治療などがあります。
歯を失った部分を放置しておくと、周りの歯が移動してきたり、反対の歯が伸びてきたりして噛み合わせが悪化することが少なくありません。
入れ歯治療は取り外し可能なため手軽ですが、安定性に欠けて食事の快適性が低下します。
ブリッジ治療は安定性に優れますが、隣の歯に架橋して義歯を支えるため、健康な歯を削る必要があります。
インプラント治療は歯槽骨に土台を埋め込むため安定し、隣の歯にも負担をかけませんが、歯槽骨の状態によっては治療期間が長くなるのがデメリットです。
また、インプラント治療は保険適用外となるため、1本あたり40万円程度(税込み)と高額な費用がかかります。
補綴治療の方法はそれぞれメリット・デメリットがあるため、歯科医師と相談のうえで慎重に判断してください。
歯列矯正
歯並びの乱れによって噛み合わせが悪くなっている場合は、歯並びを治す歯列矯正が必要です。
成長期の終わった大人では歯の動かしやすさが低下するため、歯列矯正には平均2〜3年と長い時間がかかります。
歯並びの悪さは見た目だけでなく、むし歯や歯周病になりやすかったり、噛み合わせの悪さで顎が痛くなったりと多くの問題が生じるため早めに治療した方がよいでしょう。
歯列矯正は通常保険適用となりませんが、歯並びの悪さから顎の痛みが生じ、外科手術が必要な顎変形症と診断された場合は保険適用が可能です。
保険適用外の歯列矯正にかかる費用は、100~130万円(税込み)が相場となり、症状の重さや治療方法によって異なります。
歯列矯正だけで噛み合わせと顎の痛みを治療できるか、まずは歯科医院でご相談ください。
噛み合わせに異常が出る原因
噛み合わせが悪くなる原因は、先天的な異常でない場合は後天的な要因によるものです。
噛み合わせが悪化して顎の痛みを生じる顎関節症にまでなるには、一つの要因ではなく複数の要因が組み合わさっていることが少なくありません。
心あたりのある要因があれば、少しでも改善していくことで症状がよくなる場合もありますので、噛み合わせ以外の主な原因を解説します。
顎関節のずれ
食事の際に片側だけで噛む習慣や、日常的な姿勢の悪さにより顎関節がずれてくることがあります。
顎関節がずれるとずれた側の方が噛みやすいため、意識して治さないとますますずれて症状が悪化していくことも少なくありません。
噛み合わせが前後にずれて下の歯が前にくることを反対咬合といい、臼歯部の反対咬合は交叉咬合、臼歯部が左右にすれ違っている
場合は鋏状咬合となります。いずれも顎に大きな負担をかけ、痛みの原因となります。
噛み合わせの悪さから顎の痛みが生じている場合は、顎関節がずれて炎症を起こしている可能性が高いでしょう。
むし歯・抜歯などの歯科治療
むし歯の治療や抜歯が原因で、歯の片側だけで噛むようになり、噛み合わせが悪化することがあります。
根管治療など複数回におよぶ治療の場合、治療中の歯の側ではなるべく噛まないように指導されるのが一般的です。
治療が終わった後も片側だけで噛む癖がついて、次第に顎がずれて噛み合わせが悪くなっていくケースは少なくありません。
また抜歯した後にも傷跡が痛むため、反対側だけで噛む癖がつきやすくなります。
抜歯直後やむし歯治療中は片側だけで噛むのも仕方ありませんが、治療が終わった後には意識して両側を使うようにしましょう。
歯ぎしり・食いしばりによる摩耗
顎関節症で病院を受診した患者さんの約80%に、日常的に歯を食いしばる癖があったという報告があります。
お口を閉じているときは上下の歯が離れていることが普通ですが、常に歯を食いしばる癖があると、歯に過剰な圧力がかかって動いたり削れたりしてしまいます。
また、睡眠中の歯ぎしりは極めて強い力がかかるため、歯が動いたり顎がずれたりして噛み合わせが悪くなるケースも珍しくありません。
詰め物・被せ物による悪化
むし歯治療などの際に詰め物や被せ物をした後に、咬合調整が十分でない場合は噛み合わせが悪化します。
むし歯治療で歯の神経を取ったり、麻酔をしたりした後は噛み合わせが悪くても気が付かず、治療終了してしまうことも少なくありません。
噛み合わせの違和感があるまま放置し、違和感のない側ばかりで噛むことで症状が悪化していくケースもあります。
姿勢の悪さ・癖などの習慣
日常的な姿勢の悪さが、骨格の成長に影響して噛み合わせが悪くなる場合もあります。
特に背中が曲がって頭が突き出た猫背の姿勢が続くと、下顎の成長が阻害されて上顎前突(出っ歯)になるリスクが上がるといわれています。
ほかにも、噛み合わせや歯並びの悪化につながる姿勢・癖は以下のとおりです。
- 前歯が生えてからの指しゃぶり
- 唇を噛む
- 歯を食いしばる
- 片側だけで頬杖をつく
- 舌で前歯を押す
- お口を閉じたときに舌が上顎についていない
癖を治すにはまず患者さん自身の自覚が重要ですので、気が付いたら上記のようなことをしていないか、セルフチェックして改善しましょう。
噛み合わせが悪いと顎関節症になる?
噛み合わせの悪さは顎関節症の主な原因の一つですが、噛み合わせが悪いと必ず顎関節症になるわけではありません。
顎関節症は複数の要因が組み合わさって発症することがほとんどで、噛み合わせの悪さ以外にもさまざまな要因があります。
噛み合わせの悪さは顎関節症の原因となりますが、噛み合わせの悪さだけで顎関節症になることは稀です。
顎関節症を発症する主な要因は、以下のものがあります。
- 歯ぎしり・食いしばり癖
- 噛み合わせの悪さ
- 顎関節の筋力が弱い
- 顎関節の組織がすり減っている
- 外傷による顎の損傷
噛み合わせ以外にも原因がある場合、噛み合わせだけを治療しても顎の痛みは改善しないでしょう。
しかし噛み合わせの悪さは歯や顎関節に負担をかけるのは確かであり、噛み合わせ治療をすること自体は有意義といえます。
顎関節症の症状
顎関節症は、顎の関節を囲む筋肉や組織に、細菌感染を伴わない炎症が起きる病気です。
疫学調査によると、全人口の7~8割は顎に何らかのトラブルを経験したことがあり、ありふれた症状といえるでしょう。
しかし、重度になると食事や会話に大きな支障をきたし、生活の質が急激に低下する要因となるため病院での治療が必要です。
顎関節症の主な症状を解説します。
顎が痛い
顎関節症で病院を受診する患者さんは、顎の痛みを主訴としていることが大半です。
顎の痛みは顎の関節が炎症を起こしている場合と、顎の筋肉が炎症を起こしている場合に分けられますが、患者さんの自覚症状では区別が付きません。
どちらも顎を動かした際に、耳の穴の前にある顎関節に強い痛みが生じます。
お口を大きく開けたり、スポーツで歯を食いしばったりして一時的に顎が痛くなることはよくありますが、1週間以上治まらない場合は病院を受診してください。
顎が鳴る
お口を開ける際にパキパキと音がしたり、顎がひっかかって頭蓋骨に響いたりするのも顎関節症によくみられる症状です。
顎関節と頭蓋骨の隙間には関節円板という組織があり、顎の骨と頭蓋骨が接触しないようクッションの役割を果たしています。
この関節円板が正常な位置からずれて、顎を動かすたびに骨とこすれて音がなったり痛みが生じるのが顎関節症です。
音が鳴るだけで痛みがない場合は治療の必要はなく、痛みを伴う顎関節症を治療した後にも、音だけはしばらく残ることがあります。
ずれた関節円板を戻すには外科手術が必要となることがあり、痛みがないのなら手術してまで戻す必要はないでしょう。
口の開閉がしづらい
顎関節の関節円板がずれて関節の動きを妨げることで、お口が大きく開けられなくなります。
痛くて開けられないのではなく、顎にロックがかかったように開けられなくなるため、食事や会話に大きな支障がでることも少なくありません。
正常であれば、お口は人差し指・中指・薬指の3本を縦に並べて入れることができます。
このときの開口幅は約40mmで、40mm以下しかお口が開かない場合は顎関節や咀嚼筋に異常が起きている可能性が高いでしょう。
顎関節症の治療法
顎関節症の治療は、病院で医師が行うものと、患者さん自身が行うものがあります。
顎関節症を発症するにはさまざまな要因があり、歯や顎に悪影響を与える癖・姿勢などは患者さん自身で改めなければいけません。
また過剰に緊張した顎の筋肉をほぐすために、ストレッチやマッサージも有効です。
もちろん患者さんの努力だけでなく、医療の介入によって症状の回復を早めることも可能です。
病院で行われる顎関節症の主な治療方法を解説します。
スプリント療法
スプリント療法とは、いわゆるマウスピースのような器具を装着して歯と顎を守る保存療法の一つです。
マウスピースがクッションの役割をして歯と顎への圧力を軽減し、顎関節症が悪化しないようにして自然治癒を待ちます。
スプリントによって噛み合わせの圧力が軽減されれば、自然と食いしばりが弱くなって悪い癖が改善されることも少なくありません。
薬物療法
顎関節症で使われる薬は、痛みを軽減する消炎鎮痛薬と、過緊張した筋肉をほぐす筋弛緩薬の2種類があります。
顎の痛みが強い場合には、消炎鎮痛薬による対症療法で症状を緩和するため、決まった時間に決まった回数服用するのが原則です。
痛みを軽減することで精神的ストレスがなくなり、筋肉の過緊張がほぐれれば症状は改善しやすいでしょう。
重症の場合は手術
スプリント療法や薬物療法でも痛みが改善せず、骨格のズレにより重度の不正咬合となっている場合には、外科手術によって治療することもあります。
顎の骨を切って正常な位置に調整したうえで、歯列矯正も行って正しい噛み合わせにしていくため長い期間がかかる治療です。
顎の骨を切る際はお口の中から切開するため顔に傷が付くことはありませんが、手術前後の歯列矯正と合わせて4~5年の期間がかかります。
顎関節症は何科を受診すればよい?
顎関節症が疑われる場合は、歯科か口腔外科を受診してください。
顎関節症は複数の要因が組み合わさって発症するため、治療も複数の診療科が連携して行う必要があります。
基本的には歯科医院を受診して、必要に応じて口腔外科と連携する形が一般的です。
顎関節は耳に近いため耳鼻咽喉科を受診したり、整形外科を受診したりする患者さんも少なくありませんが、顎関節症の可能性が高い場合は口腔外科に紹介されるでしょう。
まとめ
噛み合わせの悪さで痛みを生じた場合の原因や対処法について解説してきました。
噛み合わせの悪さは顎関節症の原因の一つであり、顎の痛みは食事や発音の機能を大きく損なって生活の質を低下させます。
顎関節症の原因は噛み合わせの悪さだけではないため、噛み合わせが悪くなった原因から改善する必要があります。
普段の癖や姿勢を改善することも噛み合わせ治療に重要であるため、気が付いたときに注意してみましょう。
噛み合わせの悪さや顎関節症は症状によって必要な治療が大きく異なりますので、お早めに歯科医院にご相談ください。
参考文献