歯並びと噛み合わせは混同されるため、同じ意味で使っている方もいますが、実際は異なるものです。噛み合わせが悪いと、お口や全身に深刻な悪影響を及ぼしかねないため、歯並びよりも噛み合わせを重視する歯科医師も少なくありません。
ここではそのような噛み合わせが悪いことによる影響や原因、噛み合わせを改善する方法について詳しく解説をします。
噛み合わせが悪いことによる影響
上下の歯列が垂直的に噛み合う状態を、噛み合わせあるいは、咬合(こうごう)といいます。悪い噛み合わせを意味する不正咬合という言葉は、耳にしたことがあるのではないでしょうか。噛み合わせが悪い状態を放置していると、次にあげるような影響がお口や全身へと及んでいきます。
むし歯や歯周病になりやすい
噛み合わせが悪いと、ほとんどのケースで歯並びの乱れも認められることから、清掃性が低いです。一般的な方法で口腔ケアを行っても、磨き残しが生じてしまい、口内細菌が繁殖します。その結果、むし歯や歯周病のリスクが上昇するのです。
噛み合わせが悪いと、特定の歯や歯茎、歯槽骨に過剰な負担がかかるため、歯の破折や摩耗、歯周組織の炎症を引き起こしやすくなっています。むし歯や歯周病のリスクを高める要因になります。
顎関節症を引き起こしやすい
噛み合わせが悪いと、特定の歯が強く当たるなど、噛んだときの圧力が不均一に伝わります。歯や歯周組織にとどまらず、顎関節にまで及ぶことがあります。
口を開けると顎が痛い、顎関節でカクカクという雑音が鳴る、口を大きく開けられないなどの症状が認められる場合は、すでに顎関節症を発症している可能性があります。顎関節症の患者さんには何らかの不正咬合が認められます。
頭痛や肩こり、腰痛がある
噛み合わせが悪いと、お口周りの筋肉を効率よく使うことが難しくなります。
咬筋に痛みが生じたり、凝りを感じたりすることがあり、頭や首、肩の筋肉にまで波及する場合もあります。筋肉は、それぞれが単独で動いているのではなく、近くの筋肉と連動しながら運動機能を担っているため、影響が広範囲に及ぶことがあるのです。
具体的には、悪い噛み合わせによって頭痛や肩こり、場合によっては腰痛を引き起こすこともあります。
顔の歪みや表情が変化する
顔の輪郭や表情は、噛み合わせによって変化することがあります。
左か右のどちらかに偏っている噛み合わせは、使用する筋肉量にも違いが生じるため、顔の輪郭も左右で非対称となりがちです。よく使う歯の方が、顎の骨も健全な状態に維持しやすいことから、骨格的にも左右差が生じます。筋肉の発達具合の差によって、表情にも変化が見られることでしょう。
顔の歪みや表情の変化は、悪い噛み合わせを長期間、放置しなければ見られないものですが、一度生じてしまうと改善するのが難しくなる点に注意が必要です。
消化不良や胃腸への負担が増える
噛み合わせは、咀嚼能率にも影響するため、消化不良や胃腸への負担にもつながります。
噛み合わせが悪いと、硬い食べ物や弾力性の高い食べ物を噛みにくくなり、消化器への負担を増大させます。胃や腸での消化に時間がかかったり、しっかりと消化しないまま排泄したりへとつながるのです。栄養の吸収率も低下することから、全身の健康状態にまで悪影響が及びかねません。
歯ぎしりや食いしばりが生じる
噛み合わせが悪い人には、歯ぎしりや食いしばりなど悪習慣がよく見られます。
不安定な噛み合わせが気になって、ギリギリと歯を擦り合わせたり、食いしばったりしてしまうのです。睡眠中の歯ぎしりは力の加減ができないことから、歯や歯周組織、顎関節へのダメージが大きくなります。歯ぎしりや食いしばりは、噛み合わせを正常化することで改善されることが少なくありません。
ストレスの増加につながる
噛み合わせの悪さはストレスを増大させて精神的にも弱ってしまうケースは珍しくありません。原因のわからない気鬱や倦怠感、疲労感が続いている場合は、もしかしたら悪い噛み合わせが背景に潜んでいるのかもしれません。
噛み合わせが悪くなる原因
噛み合わせが悪くなる原因を解説します。悪い噛み合わせの原因は、先天的なものだけではありません。後天的なものもあるため、早めに気付き対処が必要です。
骨格などの遺伝
悪い噛み合わせの原因には、生まれたときから決まっている先天的なものも存在しています。遺伝によって規定されている骨格や歯の大きさ、歯の数などです。
骨格は、出っ歯である上顎前突や受け口を意味する下顎前突がわかりやすい例としてあげられます。上の顎骨が極端に長いと上顎前突になりますし、逆に下の顎骨が極端に長い場合は、下顎前突になりえます。
歯の大きさと生えてくる本数も遺伝によって規定される部分が大きいです。これらは患者さん自身でどうにかできる問題ではないため、悪い噛み合わせを改善するのであれば、別の視点からのアプローチが必要となります。
生活習慣や癖
噛み合わせが悪くなっている方は、不適切な生活習慣や悪習癖を抱えています。具体的には、以下の習慣があげられます。
◎口呼吸
お口ポカンである口呼吸は、口腔周囲筋が弛緩している状態なので、歯列に適切な圧力がかかりません。舌の位置も低くなることから、上顎骨の発育が遅れ、上顎歯列の幅も狭くなる傾向にあるのです。その結果、上下の歯列が適切に噛み合わなくなります。これは小さな子どもだけでなく、大人でも起こりえる変化です。
◎舌癖
舌で前歯を押したり、下を口の外に突き出したりする癖は、主に前歯部の歯並びや噛み合わせを悪くします。注意が必要なのが、開咬と呼ばれる不正咬合です。奥歯で自然に噛んでも、上下の前歯がまったく噛み合わない歯並びで、口腔及び全身にさまざまな悪影響をもたらします。
◎片側だけで噛む癖
片側だけで噛む癖は、左右の歯並び・噛み合わせのバランスを乱し、不正咬合を引き起こします。もしも片側だけで噛む癖がある場合は、原因を探ることから始めましょう。 例えば、左側の歯が痛い、被せ物が低くて噛みにくいなどの理由があるのなら、歯科医院での治療で改善する必要があります。利き腕のような感覚で噛む歯がどちらか一方に偏っているのであれば、意識的に変えなければなりません。
◎頬杖をつく癖
イスに腰かけた際、目の前に机やテーブルがあると、頬杖をついてしまう方は少なくありません。頬杖をつくとリラックスできますが、体重の10%程度に相当する頭を片側の顎だけで支えることになるため、想像以上に負担は大きくなります。頬杖が習慣化している人は、噛み合わせも左右非対称となりやすいです。
◎眠るときの姿勢
うつ伏せ寝や横向き寝は、顎や歯並びに大きな圧力がかかることから、噛み合わせが悪くなる原因にもなります。歯並びや噛み合わせへの影響を抑えたいのであれば、仰向け寝が推奨されます。
外傷や事故による歯の喪失
交通事故や道端での転倒、スポーツのアクシデントによって顔面に外傷を負い、歯を失うと噛み合わせが悪くなります。
歯の喪失だけにとどまっているのであれば、ブリッジや入れ歯、インプラントなどで適切な噛み合わせを回復することも難しくありませんが、外傷によって周りの歯が動いたり、顎の骨が折れたりした場合は、より難易度の高い治療が必要となります。補綴治療に加えて、外科手術や歯列矯正などを行わなければならなくなるでしょう。
不適切な歯科治療
歯の問題を解決するはずの歯科治療によって噛み合わせが悪くなることもあります。
むし歯治療の後に装着した被せ物の形や大きさが適切でないと、その部分だけ噛み合わせが高くなって、さまざまな問題を引き起こします。
失った歯を補うブリッジや入れ歯、インプラントに関しては、被せ物以上に、噛み合わせの問題を引き起こしやすいため、歯科医院選びは慎重に行うようにしましょう。
噛み合わせと歯並びの悪さは別問題
噛み合わせと歯並びというのは似て非なるものです。一般的な意味での歯並びは、歯の並び方を表す言葉で、審美面への影響の方がクロースアップされやすいです。
例えば、上の前歯が少しだけ捻転していると、噛み合わせには大きな影響を与えないものの、見た目は悪くなります。歯と歯の間に不要な隙間があるすきっ歯に関しては、隙間があることで噛み合わせが安定しているかもしれませんが、歯並びという観点では審美障害があるため、歯列矯正を希望する方が多くなっています。
このように噛み合わせと歯並びの悪さというのは、別問題として考えた方が患者さんも対処しやすくなるのではないでしょうか。
噛み合わせのチェック方法
ここまで悪い噛み合わせによる影響や噛み合わせが悪くなる原因について解説してきましたが、自分の噛み合わせについて気になる方もいるでしょう。噛み合わせの状態を精密に調べるためには、歯科医院で適切な検査を受けなければなりませんが、大まかなチェックで良ければ自分で確かめることも可能です。
セルフチェックのポイント
自分の噛み合わせの良し悪しを知りたい場合は、以下のポイントに留意しセルフチェックしてみましょう。噛み合わせに問題がないのかセルフチェックで早めに知ることが大切です。
◎左右のズレ
口を「いー」の状態にして、鏡で上下の歯列の正中を確認してみましょう。顔の中心と照らし合わせて左右どちらかにズレている場合は、噛み合わせのズレや顎の位置のズレが認められます。
◎奥歯の噛み合わせのズレ
上下の奥歯で「カチカチ」と噛んで、左右が均等に噛み合っていない場合は、噛み合わせのズレがあります。
◎水平的な噛み合わせのズレ
割り箸を奥歯で噛んだときに、ガタガタするようであれば水平的な噛み合わせのズレがあります。
◎顔貌の対称性
自分の顔を鏡でみて、左右非対称である場合は、悪い噛み合わせが関係しているかもしれません。
◎誤咬(ごこう)の有無
食事のときに唇や頬粘膜、舌などを誤って噛むことがある場合は、上下の噛み合わせに何らかの問題を抱えている可能性が高いです。
◎咀嚼能率
食事をするのが人より遅かったり、硬い食べ物や弾力性の高い食べ物を噛むのが苦手だったりする場合は、噛み合わせに問題があるかもしれません。
詳細な検査は歯科医院で
セルフチェックでわかるのは、悪い噛み合わせの有無だけであり、実際にどのような不正咬合に該当するかは歯科医院での精密検査を受けなければわかりません。
セルフチェックで該当する症状がある場合は、歯科医院でカウンセリングを受けましょう。精密検査が必要になるかどうかは、患者さんそれぞれの噛み合わせによって変わります。
噛み合わせを改善させる方法
悪い噛み合わせを治す方法を解説します。
歯列矯正治療
上顎前突や下顎前突、開咬など、診断名がつけられるような噛み合わせは、歯列矯正で改善するのが望ましいです。子どもの場合は、骨格の成長を正常に促すことで不正咬合を治せますが、大人の場合は、歯を細かく動かす歯列矯正で噛み合わせを治します。
歯列矯正にはいくつかの選択肢があるため、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
生活習慣の見直し
さまざまな理由から歯列矯正が受けられない、あるいは悪い噛み合わせの症状が軽度で、歯列矯正を行う程ではない場合は、生活習慣の見直しで改善をはかりましょう。噛み合わせを悪くする習慣を取り除いて、症状の改善をはかります。
まとめ
今回は、噛み合わせが悪いことによる身体への影響や原因、改善する方法について解説しました。悪い噛み合わせを放置すると、むし歯や歯周病のリスクが上がる、顎関節症になる、頭痛や肩こりに悩まされる、胃腸に大きな負担がかかるなど、お口や全身にさまざまな悪影響が及ぶため注意が必要です。
悪い噛み合わせは、歯列矯正で根本から改善できることがありますので、気になる症状がある方はまず歯科医院を受診しましょう。噛み合わせを悪くする習慣がある方は、それを改善することから始めましょう。
参考文献