インビザライン矯正は長時間マウスピースを装着し続ける必要があるため、口臭が気になると訴える方がいます。また、むし歯や歯周病の発症リスクが高まるのでは?と心配を抱く場合もあるでしょう。
治療期間中のトラブルを避けるためには、器具の正しいお手入れ方法を知り実践することが大切です。本記事ではインビザラインの洗い方や適切な頻度、洗浄剤、お手入れの注意点を解説します。
インビザラインのお手入れをしないとどうなる?
インビザラインは歯科先進国のアメリカで開発されたマウスピース型の矯正装置です。透明で目立ちにくく痛みや違和感が少ないメリットが注目され、日本国内でも大人から子どもまで幅広い方が使用しています。
インビザラインは、歯の型取りを済ませた後はマウスピースを一年中毎日欠かさず装着しなくてはいけません。一週間から10日を目途に新しいものに交換するとはいえ、患者さん自身の日々のメンテナンスが重要です。
インビザラインのお手入れをきちんとしないと、さまざまな口腔トラブルを引き起こします。メンテナンス不足が与える悪影響は、次のとおりです。
悪臭や着色が生じる
インビザラインのマウスピースに汚れが付着すると、カビや細菌がお口のなかで増えて、悪臭や着色を誘発します。
機器の装着中は唾液が出にくくなる傾向があり、口腔内の洗浄作用が働かずに口臭がきつくなる場合が少なくありません。コーヒーや赤ワイン、タバコの着色がみられ、見た目に悪印象を与えるケースも多数です。
インビザラインに使用するマウスピースは吸収性が高く、食べ物や飲み物の色みが吸着する可能性があります。飲食の際は、間食も含めてマウスピースをつけた状態にしてはいけません。
飲む量や頻度が多い方は難しいかもしれませんが、水以外の飲料を摂取する際は外す方が理想的です。
むし歯や歯周病の原因になる
インビザラインの矯正中はむし歯や歯周病の発症リスクが上がる傾向にあります。歯磨きの際はマウスピースを外すとはいえ、装着期間は唾液の自浄作用が働かず、長期間にわたり汚れが付着しやすい状態に置かれるためです。
むし歯や歯周病の状態が悪い場合、治療のため歯列矯正は中断しなくてはいけません。余計な費用の負担を迫られ、歯列矯正の治療期間も長引くでしょう。
食後の歯磨きやマウスピースのお手入れを欠かさず行っていれば、清潔な口腔環境が保たれ、歯の病気にかかるリスクは減少します。
むし歯や歯周病を防ぐためにはインビザラインのお手入れ以上に日々の歯磨きが重要です。お口のなかにいる細菌が作る酸によって、歯が溶けた状態がむし歯です。
人間の口腔内には、脱灰の影響を和らげる再石灰化と呼ばれる自浄作用が備わっています。しかし酸の影響が強いと回復の速度を侵食が上回り、口腔内が細菌に侵される状況を招くのです。
脱灰を和らげて再石灰化を促進する役割をもつのがフッ素です。このため、フッ素入りの歯磨き粉を選んで日々のメンテナンスを行うとむし歯予防に効果を発揮します。
特にインビザラインの治療中は、唾液不足から細菌の繁殖が起こりやすい状況です。フッ素入りの歯磨き粉を使用し、歯質を強化しましょう。
劣化の原因になる
メンテナンス不足は装着器具の劣化を招き、ひび割れや変形を引き起こします。インビザラインは1〜2週間単位で新しく交換するものですが、同一のマウスピースを長期間使い続けると通常の使用に耐えられなくなるでしょう。
例えば装着した状態で食べ物を噛んだときに形がゆがんだり、熱い飲み物を摂取したときに変形が生じたりするケースです。
通常の使用でも、誤った取り外し方や外的な衝撃の影響により劣化する場合は珍しくありません。しかしメンテナンス不足だとひび割れや変形のリスクが上がり、ひどいときは治療の仕上がりにも影響を及ぼします。
インビザラインは装着器具と歯を密着して圧力を加え、歯並びを整える治療方法です。マウスピースに細菌や汚れの蓄積が生じると、歯列と密着しなくなり、本来の効果を発揮できない可能性があります。
インビザラインの正しい洗い方
マウスピースのお手入れの基本は洗浄です。水道水で洗い流すとともに、定期的に洗浄剤を使用して自然乾燥させる必要があります。
インビザラインの正しい洗い方を紹介します。
取り外して流水で洗う
マウスピースを取り外して、水道の流水で静かにこすりながら汚れを浮かします。装着器具の劣化を引き起こさないために、お湯ではなく水で洗浄しましょう。
インビザラインは熱に弱い特徴をもちます。お風呂のお湯に近い40度の水温に長期間さらされると表面が溶け始め、変形する可能性があります。
同様の理由で消毒のために熱湯をかける行為も禁止です。インビザラインのマウスピースが変形すると患者さんの歯と適合しなくなり、作り直しを余儀なくされる場合もあります。
ぬるま湯の使用も極力避け、常温の水で洗浄することが推奨されます。器具のすき間に食べ残しが挟まっている場合があるため、細かい箇所まで見落とさず丁寧に洗い落としましょう。
手や指で微細な汚れが落ちないときは歯ブラシを使用しても問題ありません。マウスピースを傷つけないよう、軟毛タイプの製品の使用を推奨します。
2~3日に1回は洗浄剤を使う
2〜3日に1回の頻度で頑固な汚れを落とすために洗浄剤を使用しましょう。市販の製品ではなく、消臭や殺菌効果が強化された、装着器具の変形やゆがみが生じにくいマウスピース専用の洗浄液が適切です。
使用方法は水やぬるま湯に液をたらし、5〜15分ほど浸け置きします。食事前にマウスピースを外して洗浄剤に浸け、食事後に洗い流して再度装着します。
マウスピース専用の洗浄液は、ドラッグストアや薬局で購入可能です。
自然乾燥させる
流水や洗浄液の使用後は、自然乾燥させる必要があります。目立つ水分はタオルやキッチンペーパーで拭き取り、風通しがよい場所に放置して自然乾燥させます。
ドライヤーやストーブの熱風で乾かすのは禁物です。変形やゆがみの原因となるため、自然に乾燥させましょう。
インビザラインのお手入れの頻度
インビザラインのお手入れの頻度は朝昼晩の食事後が理想的です。昼食をとらない習慣がある方は、朝夜の2回でも大きな問題は生じません。
丁寧にメンテナンスする余裕がないときでも、少なくとも夜のお手入れは欠かさないようにします。細菌の活動が活発化する就寝中に、汚れが付着したマウスピースを装着したままだと病気のリスクが上がるためです。
インビザラインは就寝時も入れると、一日20時間以上装着を余儀なくされます。食事と歯磨き以外の時間は基本つけた状態だと考えれば、雑菌や歯石が発生しやすくなるリスクも理解できるでしょう。
インビザラインのお手入れで使う洗浄剤
インビザラインのお手入れに使う洗浄剤は、通常の入れ歯用の製品では効果が期待できません。洗浄力が高い専用の洗浄剤や薄めた中性洗剤のいずれかを選ぶとよいでしょう。
それぞれの特徴や選び方を解説します。
専用の洗浄剤
インビザライン専用の洗浄剤は、水洗いでは落とし切れない細菌や食べかすの汚れを効果的に除去します。殺菌や消臭効果にも優れ、マウスピースの清潔性を長期間にわたり維持できます。
専用の洗浄剤は水に浸け置きするタブレット型や粉末型、液体型の3種類です。手軽に使用できるタブレット型は多くの患者さんに選ばれています。
インビザライン専用の洗浄液は酵素の作用を利用した過炭酸ナトリウム、殺菌や消毒効果が高いアルコールを含んでいます。酵素はタンパク質の汚れを効果的に除去できる、低刺激で安全性の高い成分です。
薄めた中性洗剤
インビザラインのマウスピースは、食器洗浄用の中性洗剤を使用しても問題がない場合があります。ただし、水で薄めることを忘れてはいけません。
装着器具の表面に傷がつかないよう、研磨剤を含んだ製品の使用は避けるのが無難です。使用方法はマウスピース専用の洗浄剤と変わりがなく、浸け置きして一定時間の経過後に洗い流します。
必要に応じてやわらかい歯ブラシで磨いて、こびりついた汚れが残らないよう、丁寧に仕上げましょう。
インビザラインのお手入れの注意点
毎日の洗浄や歯磨き方法、2〜3日に1回洗浄液に漬ける際は注意点があります。口腔内の環境を清潔に保ち、マウスピースを長持ちさせるために意識すべきポイントは、次のとおりです。
外したらすぐに洗う
食事や歯磨きの前に装着器具を外した後は、一刻も早く洗浄しましょう。時間が空くと唾液が定着して雑菌の繁殖を招き、変色や悪臭の原因になるためです。
また、乾燥した汚れはさらに落ちにくくなります。マウスピースを装着したまま歯ブラシで磨こうとしても多くの場合、汚れが残る可能性が高いでしょう。
洗うタイミングは、装着器具を外した直後が適しています。食事や歯磨きのためにマウスピースを脱着したときは必ず洗浄すると習慣づけましょう。
強くこすらない
インビザラインのマウスピースは歯ブラシやたわしで強くこすってはいけません。ごしごしと強くこすると表面に傷がつき、治療効果に悪影響を及ぼす可能性があります。
洗浄中にこびりついた汚れを落とすときは、毛先がやわらかく小さな歯ブラシの使用を心がけます。
洗浄剤に歯磨き粉を使わない
マウスピースの洗浄液に、歯磨き粉は使用してはいけません。研磨剤が含まれているため、繊細な装着器具の表面に傷がつく可能性が高いためです。
歯磨きのついでに、専用の洗浄液がないからと歯磨き粉で代用するのは避けましょう。
マウスピースに生じた細かいすきまに微細な汚れが付着して、口腔環境の悪化や悪臭の原因になります。
洗浄剤を使う場合はすすぎをしっかり行う
洗浄剤を使用する場合は洗い終わった後のすすぎを徹底的に行いましょう。汚れのほか、洗浄剤自体が残存して思わぬトラブルを引き起こす可能性があるためです。
すすぎが不十分だと、洗浄液に含まれる成分の影響でマウスピースが溶けたり、口腔内の環境が悪化したりする可能性があります。
洗浄剤は誤ってお口のなかに入れても問題は生じないように注意がされているとはいえ、大量に摂取しては心身に悪影響をきたす可能性があります。
洗浄剤を使用する際は、しっかりすすぎまで行うことが重要です。
洗浄後はしっかり乾燥させる
マウスピースの洗浄後は、しっかり乾燥させるようにします。 水分が残った状態でケースに入れると、カビや悪臭の原因になります。
すぐに装着する場合は過度に乾燥にこだわる必要はありませんが、長期間装着しないときには、水分が完全にない状態にしておきましょう。
インビザラインの患者さんはマウスピース専用のケースを持っている場合が多数みられます。
洗浄後はケースのふたが開いた状態で風通しがよい場所に置き、水分の付着がなくなった時点で閉めるようにします。または、ティッシュやハンカチの上に仮置きする方法も効果的です。
お手入れ後のインビザラインの保管方法
お手入れが完了したインビザラインのマウスピースは専用のケースに入れて保管します。
作成時に歯科医院から支給を受ける場合がほとんどです。自身でマウスピースを購入した場合も、専用ケースが付属しています。
ケースに入れないとホコリが付着して不衛生になります。直接洗面台やテーブルに置いておくと紛失や落としたときの破損の一因となり、好ましくありません。
洗浄後に乾かしたマウスピースは忘れずにケースに保管する習慣を徹底しましょう。
まとめ
インビザラインの治療中は、口臭やむし歯のリスクを防ぐためにマウスピースの正しい手入れが必要です。方法を誤ったり面倒がって怠ったりすると、歯に適合しなくなり、矯正治療の中断を迫られる場合があります。
毎食後の洗浄と週に2〜3回の洗浄液によるケアを継続し、自己管理を適切に行うことで、マウスピースの変形や傷の発生を防げます。
インビザライン矯正の平均的な治療期間は約1~2年です。移動が必要な歯の本数や距離が少ない場合は数ヶ月で治療が完了する場合もありますが、基本的には数年単位の時間がかかる治療方法です。
治療中は毎日20時間程度マウスピースを装着する必要があり、食事や歯磨きのたびに付け外しの手間が発生します。お手入れの自己管理の必要性は理解していても、面倒に感じておざなりになる方が少なくありません。
インビザラインのマウスピースに最初はなかった傷や変形がみられるときは、ただちに使用を中止して歯科医院を受診しましょう。
異変を放置して装着し続けると歯周病やむし歯の発症リスクが高くなり、矯正治療どころではなくなる場合もあります。
早めに受診すれば、装着器具の作り直し程度で済む可能性があります。「このくらいは大丈夫だろう」と自己判断はせず、かかりつけの歯科医院を頼るようにしましょう。
参考文献