インビザライン

インビザラインで過蓋咬合は治せる?原因や放置するリスクについて解説

インビザラインで過蓋咬合は治せる?原因や放置するリスクについて解説

過蓋咬合は、上顎前歯が下顎前歯を覆うように噛み合わせをする不正咬合の一種です。

過蓋咬合は放置すると歯を失うリスクがありますが、インビザライン(※)と呼ばれる透明なマウスピース型の歯列矯正器具で治療が可能です。

この記事ではインビザラインによる過蓋咬合の治療期間と治療費用、さらに過蓋咬合の原因と放置リスクについて解説します。

(※)未承認医薬品等であるため医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

インビザラインで過蓋咬合は治せる?

レントゲン確認

インビザラインとは、アメリカのアラインテクノロジー社のマウスピース型カスタムメイド歯列矯正装置です。

インビザラインはCAD/CAMの技術により透明なマウスピースを大量に作成し、1〜2週間ごとに交換しながら歯を移動させ不正咬合を治療します。歯の動き具合を見ながら治療の途中で装着期間を変更することもあります。

過蓋咬合とは上顎前歯が下顎前歯を3mm以上覆うように深く咬む状態で、ディープバイトとも呼ばれる不正咬合の一種です。

上顎前歯が過剰に大きく見える外見の問題や、上顎前歯の裏側に下顎前歯が当たることで起こる歯肉の炎症が症例として挙げられるでしょう。

このような問題を解消するために、低い奥歯を引っ張り上げつつ伸びた前歯を顎骨の方向に押し下げるようにインビザラインで歯列矯正します。

もしインビザラインの圧力だけで歯を動かせない場合は、バイトランプと呼ばれる補助装置を上顎前歯の内側に装着し前歯を押し下げます。

ただし、重度の過蓋咬合やほかの不正咬合が併発する場合はインビザラインだけでは治療不可と診断されるでしょう。

インビザラインによる過蓋咬合治療の期間

カレンダーと時計

インビザラインはCAD/CAMの技術で一度に大量に患者さん専用の透明なマウスピースを作成し、それを2週間ごとに交換しながら少しずつ歯を動かします。

マウスピースそのものは1日20時間以上の装着が必要ですが、透明であるため目立ちにくいのが特徴です。

歯列矯正は通常、動的歯列矯正治療期間と保定期間から成り立ちます。

インビザラインも補助的な固定式装置や補助装置が必要になる場合があり、それを含めると体感時間は増えるかもしれません。

また歯列矯正を開始する前に初診・精密検査・治療計画の説明があります。初診と精密検査は早く済みますが、治療計画が完成するのは精密検査の1週間〜1ヵ月後です。

インビザラインの動的歯列矯正治療期間は固定式の歯列矯正器具と変わらないとされているため、治療計画の完成と保定期間を含めると過蓋咬合の治療期間は25ヵ月〜31ヵ月でしょう。

インビザラインによる過蓋咬合治療の費用

カウンセリング

歯列矯正治療は先天性疾患がある場合に限り保険適用になる場合がありますが、歯列矯正歯科医療は原則自費であり保険外診療となり高額になるでしょう。

マルチブラケット装置を使用した治療は30ヵ月で1,000,000円(税込)程かかり、インビザラインを使用した治療も900,000円(税込)程かかるため固定式と可撤式で費用に違いはありません。

稀ですが計画どおりに歯が動かなかったり、保定期間中に舌で歯を押す癖など固定された歯並びがずれたりする場合に動的歯列矯正治療のやり直しが発生します。

インビザラインをつけ直す場合や、インビザラインではなくワイヤー歯列矯正で歯を大きく動かす場合は、費用が上乗せになるケースもあります。

過蓋咬合の原因

歯が痛い人

過蓋咬合の原因は多岐にわたり、先手性と後天性両方が考えられます。そのため、患者さんが過蓋咬合になった理由を調べる治療開始前の所見は大変重要です。

顎の位置・大きさ

過蓋咬合の原因が顎の位置や大きさなどの骨格にあると考えられる場合は、遺伝が大きく関わっています。

親子の背格好が似るように顎の骨の特徴も遺伝することが多く、血縁者に過蓋咬合の方がいらっしゃる場合は遺伝的要因で過蓋咬合になったと考えるのが自然でしょう。

下顎の成長不足や上顎の過剰成長によって、噛み合わせの際に上顎前歯が下顎前歯を自然と覆うようになることで過蓋咬合となります。

特に奥歯ですら噛み合わせできない程バランスが悪い場合は、鋏状咬合を伴う過蓋咬合となります。

歯の生え方

過蓋咬合が叢生を伴うことがあります。叢生は日本人に少なくない不正咬合で、歯がデコボコすることから歯周病やむし歯リスクが高くなる歯並びです。

正確には叢生には自覚症状があっても過蓋咬合には気付かないことが多く、歯科検診で初めて指摘されることがよくあります。

叢生の程度が軽度であっても、上下顎骨がずれることで顎骨内に歯が並びきらないために過蓋咬合を発症します。

叢生を伴う過蓋咬合を治療する際は、歯科医師が患者さんと相談しつつ抜歯による歯列矯正治療も行われるでしょう。

歯並びに影響を与える癖

指しゃぶり

たとえ先天的に顎のバランスや歯並びが悪くなくても、日々の習癖によって徐々に上下の歯の噛み合わせが悪化します。

過蓋咬合につながる注意すべき習癖は大きく口腔習癖・口呼吸・態癖の3つに分類されます。

口腔習癖は指しゃぶり・舌の癖・咬み癖を指し、態癖は全身に関連する日常生活で無意識の行動でうつぶせ寝・頬杖・悪い姿勢・常に一方向を向くなどが挙げられるでしょう。

これらの習癖は通常では考えられない圧力を顎や歯に加え、特に食いしばりは上下の歯に垂直方向の力を加えるため奥歯の噛み合わせが悪化します。

やがて食いしばりがあるたびに奥歯が押し込まれるかたちとなり、過蓋咬合となります。

重度のむし歯による歯の早期喪失

奥歯がむし歯になりそれを放置すると過蓋咬合となるでしょう。

通常の噛み合わせの場合奥歯を噛んだときに上顎前歯は下顎前歯を3mm程覆いますが、奥歯がなくなったりむし歯で欠けたりすることで3mm以上覆うことになり過蓋咬合と診断されます。

またむし歯ではないですが、乳歯がなんらかの理由で想定よりも早く抜け落ちた場合も同様の理由で過蓋咬合になりやすいです。

乳歯はやがて永久歯に生え変わりますが、成長期に過蓋咬合であった場合下顎の成長を抑制することで過蓋咬合が一過性ではなくなるでしょう。

歯ぎしり・食いしばり

顎が痛い女性

気をつけるべき習癖は数多くありますが、特に食いしばりは過蓋咬合の予防の観点から気をつけましょう。

奥歯に垂直方向の力を加えるため、上顎前歯が下顎前歯を覆いやすく過蓋咬合につながりやすい習癖です。

食いしばりは歯を擦り合わせるグラインディング・強く噛みしめるクレンチング・すばやく歯を打ち鳴らすタッピングに分類されますが、過蓋咬合に関係するのはクレンチングです。

食いしばりの問題点は、通常のインビザラインを用いた療法では治療できないことです。食いしばりは睡眠不足が原因ともされているため、睡眠時間が足りない方は対策しましょう。

上の前歯が大きく伸びすぎている

上顎前突は上顎前歯が極端に前方に突き出る不正咬合で、過蓋咬合と併発することが少なくないです。

過蓋咬合は歯の映える角度や位置が原因となって前に突き出る歯槽性タイプと、顎の骨格が原因となって突き出る骨格性タイプに原因が分かれます。

上顎前突は進行すると口呼吸が習癖となり、やがて上顎前歯全体が前方に突き出ることになるでしょう。

歯は空いているスペースに動く習性があるため、ストッパーとなる上唇が常習的に開くことで上顎前歯はさらに前方へ突き出します。

こうして上顎が下顎を過剰に覆うようになると、過蓋咬合とみなされるでしょう。

過蓋咬合を放置するリスク

横顔

過蓋咬合は放置すると深い噛み合わせの影響で顎関節に負担がかかり、さらにガミースマイルのような外見上の問題も引き起こします。

顎関節症になりやすい

顎が鳴ったり痛みを感じたりといった症状やお口が物理的に開きづらい症状が認められる場合に顎関節症と診断されるでしょう。

顎関節は側頭骨の関節窩と下顎骨の顆頭に関節円板が挟まれている構造をしています。

正常な顎関節はこの関節円板が常に顆頭と一緒に動きサンドイッチ状態が保持されますが、顎関節症では関節円板が前方へずれます。

これを関節円板前方転位といい顎関節症の患者さんの6割に認められる症状なのですが、ほとんどの人は顎の痛みとは無縁で過ごせるでしょう。

多くの変数が絡み顎関節の耐久力を超えた際に顎関節症になるという考えが一般的ですが、この変数に過蓋咬合があると日常的に強い負荷がかかり続けることになります。

多くの変数が関わるため断言はできませんが、過蓋咬合を治療することで顎関節症の悪化を食い止められる可能性があります。

歯茎が傷つきやすくなる

重度の過蓋咬合の場合、上顎前歯の裏側周辺の歯茎に下顎前歯先端が当たる程深く咬み合い、加えて上顎前歯が下唇や下顎前歯周辺の歯茎を刺激することが多く確認されます。

この状態になると、常に歯の先端で歯茎や唇を刺激していることになるため炎症が起きやすいです。

歯茎が刺激され続けることで歯周病が悪化しやすく、放置すると歯を支える顎骨が吸収されて歯を失うことになるでしょう。

発音しにくい

前歯の有無が無声歯茎摩擦音/s/の発音に重要な役割を担っていることがわかっています。

しかし骨格異常のみで前歯が欠けていない患者さんも/s/を発音しようとして異なる音が出たり、音量が常人と比較して小さくなるという事象が確認されています。

このことから単に前歯の有無が/s/に関わるのではなく、上下前歯の過蓋咬合の度合や位置関係が/s/の発音に重大な役割を果たしていると推察されるでしょう。

また過蓋咬合は上顎前突を併発することが少なくないですが、上顎前突は前歯のバランスが崩れることで発音が不明瞭となります。

むし歯や歯周病のリスクが高まる

過蓋咬合となるような習癖を放置すると、叢生を併発します。

叢生とは歯がアーチ状に並ぶことなく重なり合うように歯並びがデコボコする不正噛合で、乱杭歯とも呼ばれます。

叢生は歯が重なり合っているため汚れが溜まりやすいにも関わらず落としにくく、むし歯や歯周病のリスクが高まるでしょう。

歯周病は歯肉が壊れ歯が抜ける病気ですが、痛みを伴わずに症状が進行するという特徴を持ちます。

症状が進行すると骨を溶かす細胞が活性化され歯を支える骨が溶け落ち、最終的に歯が抜け落ちるでしょう。

一方、むし歯は細菌の出す酸の量が増えることで歯の自然治癒能力が喪失する病気です。通常、歯は溶けても唾液が中性に近づけることで歯を守ります。

ところが細菌が増えると酸の量が唾液の処理能力を超えてしまい修復されたはずが再び溶かされ、やがて崩壊するでしょう。

詰め物・被せ物が取れやすい

過蓋咬合は上下の歯に大きな負担がかかることで発症します。これは被せ物でも同様で、垂直方向に過度な力が伝わり壊れてしまいます。

壊れない被せ物を作るには歯を削ったり、完成まで仮歯で過ごしたりなどの不便な生活に耐えなければなりません。

またそれらに耐えている間に食生活に影響が出ることは避けられず、健康を害してしまうでしょう。

出っ歯・ガミースマイルになりやすい

笑顔

過蓋咬合を発症する習癖は上顎前歯を前方へ力をかけるものが多く、上顎前突つまり出っ歯を併発するでしょう。

上顎前突を発症すると笑った際に上顎歯肉が口元から広範囲に見えてしまう状態となり、これをガミースマイルといいます。

また過蓋咬合だけを考えても、下顎前歯を覆うように上顎前歯が前へ突き出るためガミースマイルを発症しやすいといえるでしょう。

インビザライン以外の過蓋咬合の治療方法

医師と話す患者

インビザラインで過蓋咬合の治療は可能ですが、患者さんの状況によってはほかの治療法が候補に挙げられます。この章ではそれらを解説します。

顎顔面矯正

治療によって得られる改善高価や利益を総括して、患者さんの治療に対するニーズや負担を考慮に入れたうえで、問題解決を模索する意思決定プロセスをEBMといいます。

過蓋咬合は単に機能不全を誘発する疾患とは異なり口腔衛生状態を悪化させるため、治療法の選択を間違えると口腔内のQOLが低下します。

そこでEBMでは成長期の患者さんに対し成長を利用した治療を提案するでしょう。

患者さんの顎顔面の成長は遺伝的影響を受けるため、治癒効果の評価が難しく過小評価されがちですがQOLを維持しながら治療の効果を期待できます。

ワイヤー矯正

歯列矯正の方法を大まかに分類すると、歯の表目に装着する固定式と自分で取り外しができる可撤式に分かれます。

可撤式の治療法がインビザラインだとすると、固定式の治療法はマルチブラケット装置でしょう。これは一本一本の歯に小さなブラケットという装置を接着し、そこにワイヤーを通して歯を動かす治療法です。

従来は金属製だけでしたが、審美的に目立ちにくいセラミック製かプラスチック製のブラケットが増えました。

ワイヤーの調整は1ヵ月間隔で行われ、動的治療はインビザライン同様2年〜3年かかるでしょう。

まとめ

伸びをする男性

この記事ではインビザラインによる過蓋咬合の治療期間や治療費用、また過蓋咬合の原因や放置するリスクについてまとめました。

過蓋咬合は上顎前歯が下顎前歯を深く覆うようになる不正咬合です。

過蓋咬合を放置すると顎関節症を発症するばかりでなく、ほかの不正咬合を併発し歯を喪失するでしょう。

特に成長期の子どもは口呼吸などの習癖が過蓋咬合につながるおそれがあるため、異変を覚えた方は医療機関で診療を受けることを推奨します。

参考文献

この記事の監修歯科医師
木下 裕貴医師(医療法人社団天祐会 副理事長)

木下 裕貴医師(医療法人社団天祐会 副理事長)

北海道大学歯学部卒業 / 医療法人社団天祐会 副理事長 / 専門はマウスピース矯正、小児矯正

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