奥歯の噛み合わせが悪いことが、口腔内や全身の健康に悪影響を与えるということをどれくらいの方がご存じでしょうか。 本記事では、1人でも多くの方が噛み合わせについて意識を変えられるよう、奥歯が担っている役割や噛み合わせが悪くなってしまう原因、その治療法、噛み合わせを良くするメリットなどについてまとめています。この記事を読むことでご自身の噛み合わせに問題があるかどうかも知ることができますので、ぜひ最後までご覧ください。
奥歯の噛み合わせとは
まずは「噛み合わせ」とは何か、どのような状態だと正しい噛み合わせと言えるのか、日常生活で奥歯が果たしている役割についてご紹介します。
噛み合わせの定義
歯科医院などで良く聞く「噛み合わせ」ですが、専門用語では「咬合(こうごう)」と呼びます。これは、噛む動作をしたときに上下の歯がどのように接触するか、下顎を左右に動かしたときに歯がどのように接触するかを指しています。噛み合わせには、顎の骨・歯・筋肉・顎関節といった4つが関係していて、日常生活の中で重要な役割を果たしています。例えば、食べ物を体内で消化しやすいよう細かく砕いたり、正しい発音で言葉を話せるようにしたりなどです。また、表情の作りやすさにも大きく影響します。そのため、噛み合わせが悪いとこれらの機能に支障を来す可能性があるのです。
正しい噛み合わせとは
歯並びが整っているからと言って噛み合わせが正しいとは言い切れません。この記事を読んでいる方の中にも、「歯並びはきれいだと思っていたが、検診で噛み合わせを指摘された」という方も少なくないでしょう。では、どのような状態であれば正しい噛み合わせと判断されるのでしょうか。
それは、「顎に痛みや違和感がない」「噛んだときに違和感がない」「歯の中心が上下でそろっている」「上の前歯が下の前歯を少し覆っている」「すべての奥歯が均等に接触する」「上下4本の前歯が強く当たっていない」「顎を左右に動かしたとき、上下の犬歯同士がぶつかる」といった7つの要素が満たされていることが条件となります。これらのバランスが崩れていると噛み合わせが悪いと判断され、歯科矯正が必要になるケースがあります。
奥歯の役割
前述した7つの要素の中でも特に重要なのが「すべての奥歯が均等に接触すること」です。その理由は、奥歯は口腔内の機能や全身の健康にとって非常に重要な役割を果たしているからです。まず、奥歯は食べ物を噛み砕くときにメインで力を発揮します。噛み合わせが正しいことでしっかりと咀嚼でき、食べ物を細かくして消化吸収をしやすくしています。このように、栄養の摂取を促す十分な咀嚼は健康な体を維持するうえで欠かせないのです。
また、噛み合わせが適切であることで、発音の明瞭さや口腔の動作がスムーズになります。発音障害や嚥下困難などの症状がある場合、噛み合わせに問題が生じている可能性があります。奥歯の噛み合わせは咬合力を分散させる役割も果たしています。特定の歯に過度な負担がかかると、歯の摩耗や歯周組織の機能低下につながってしまうため、物を噛んだときに1本の歯にかかる力をできるだけ少なくすることが大切になります。さらに、顎関節の安定性や顔の美しさにも奥歯の噛み合わせが関与しています。顎を正しい位置で保ったり、顔の縦横比のバランスをきれいに保ったりするには、噛み合わせを整えることが重要なのです。
奥歯の噛み合わせが悪い原因と症状
では、奥歯の噛み合わせが悪くなるにはどのような原因があるのでしょうか。ここでは、歯列矯正・自然現象・医療的要因の3つの観点から説明します。
噛み合わせが悪い原因
噛み合わせが悪くなる原因の1つ目は、不適切な歯列矯正です。まれではありますが、歯列矯正によって歯の位置や咬合関係が適切に調整されず、特定の歯に負荷がかかり過ぎたり噛み合わせの不均一化が起きたりすることがあります。これが一部の咬筋にも過度な負担をかけ、顎のずれや筋肉の痛みを引き起こします。またこれらの不具合が続いている場合、矯正治療を終えて装置を取り外した後に歯並びが戻ってしまい、噛み合わせに影響を及ぼす可能性があります。
2つ目の原因は成長や加齢による自然な変化です。乳歯から永久歯への生え替わりや成長期における顎の成長、歯の摩耗、顎関節の組織の劣化・変性が噛み合わせを悪くします。また、医療的な要素が原因となる場合があります。例えば、むし歯の詰め物・かぶせ物の高さが合わなかったり抜歯をした後にそれを放置していたり、入れ歯が合っていなかったりすると噛み合わせに大きな影響を与えます。
具体的な症状
噛み合わせが悪いことによって起きる具体的な症状としては、頭痛・肩こり・腰痛、物が噛めない、顔の歪み、むし歯・歯周病、歯ぎしり・食いしばり、滑舌が悪い、ストレスなどが挙げられます。頭痛や肩こりなど・腰痛など「歯や顔以外の場所にも影響が出るの?」と驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、全身の筋肉は筋膜でつながっているため、ある1つの部位に過度な負荷がかかると引っ張られるようにして全身に影響が出るのです。特に口周りには口輪筋や咬筋と呼ばれる複数の筋肉が存在していて、噛み合わせが悪いことで肩や腰に痛みが生じます。
噛み合わせが悪いと起こる健康問題
噛み合わせがさまざまな症状を引き起こすことはご理解いただけたかと思います。ここからは、噛み合わせによって起きる体の問題について具体的に紹介していきます。
顎関節症のリスク
正しい噛み合わせができていない場合、顎に不自然な力が加わります。この状態を放置していると顎関節症に進んでしまうリスクが高くなります。「口を大きく開けることができない」「顎が痛い」「口を開けるときにカクカクと音がする」といった症状がある方は顎関節症を発症している可能性があるため注意が必要です。
消化系統への影響
噛み合わせの定義の項で、「正しい噛み合わせは、食べ物を噛み砕いて消化しやすくする役割を果たしている」ということをお伝えしました。このことから、悪い噛み合わせのまま生活しているとうまく噛めず、唾液と食べ物が口内で十分に混ざらなくて胃腸に過度な負担をかけてしまうことがおわかりいただけるかと思います。過度な負担がかかった胃腸はいずれ、胃痛や腹痛、逆流性食道炎、便秘、下痢といったさまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。さらに、奥歯が噛み合っていないと酸欠や睡眠時無呼吸症候群といった循環器系の疾患につながるリスクもあります。
審美面での問題
むし歯や歯周病にかかりやすくなるといった問題もあります。なぜ噛み合わせの悪さがこれらを誘発するかと言うと、特定の歯に負荷がかかることで揺れや歪みが生じ、それによって歯と歯を支える骨の間に隙間ができたり歯が割れてむし歯になったりするからです。また、噛みやすいほうの歯で食べ物を噛み続けることによって、同じ歯、同じ筋肉ばかりを酷使し、顔の筋肉にも歪みが生じてしまいます。
正しい噛み合わせのメリット
正しい噛み合わせは、むし歯や歯周病を防いだり消化器官の負担を軽減したりするなど、口腔機能や全身の健康に多くのメリットをもたらします。ここからはこのようなメリットについて、それぞれ詳しく説明していきます。
むし歯や歯周病になりにくい
噛み合わせが整うことで清掃性が良くなり、むし歯や歯周病のリスクが低減します。また、物を噛んだときの力が歯全体に均等に分散され、歯周組織への圧力や炎症のリスクも少なくなるでしょう。さらに、噛み合わせが正しいと口をしっかり閉じることができるようになり、自然と鼻呼吸が行えて口臭の軽減につながります。
消化器官の負担を軽減できる
噛み合わせを良くすると、咀嚼機能が向上します。そのため、しっかりと食べ物をすりつぶすことができ、栄養を摂取しやすくなったり消化器管にかかる負担を軽減できたりします。
見た目が良くなる
噛み合わせが悪い方は、奥歯を噛み合わせても前歯が開いている開咬や、複数の歯が重なり合いガタガタとしている叢生(そうせい)、噛み合わせが途中で逆になってしまっている交叉咬合、歯と歯の間に隙間がある空隙歯列、上顎よりも下顎が前に出ている下顎前突、上の前歯が前に飛び出している上顎前突といった不正咬合を伴っているケースが多いです。これらをコンプレックスに感じている方は、噛み合わせを改善することでコンプレックスを払拭できる可能性があります。
噛み合わせの治療法
奥歯が果たしている役割や噛み合わせを良くするメリット、放置しておくリスクなどについて理解を深めることができたかと思います。ここからは、噛み合わせを良くするために実際に行われている治療方法についてご紹介します。主な方法はマウスピースを用いる治療と、矯正歯科治療です。それぞれの費用相場などについても記載していますので、自分にはどれが適しているか、どれくらいの予算で治療をしたいかなどをイメージしながら読んでみてください。
マウスピース(スプリント)による治療
噛み合わせが悪くなっている原因が咬筋の緊張や顎関節の問題の場合、マウスピースによる治療が適しています。マウスピースは顎の位置や咬筋のバランス調整を促してくれます。また、歯ぎしりや噛み締めなどの癖を抑え、顎関節症や筋疲労のリスク軽減につながります。マウスピースは基本的に透明の物を使用するため、後述するワイヤー矯正のように目立つことはなく、痛みも少ないことから人気があります。
食事や歯みがきの際は取り外しができ、清潔を保ちやすいのも特徴です。治療期間の目安は1年〜3年、費用相場は60万〜100万円です。なお、噛み合わせの悪さが重度だったり、歯並びが悪過ぎたりする場合はマウスピースによる治療が行えない可能性があります。
矯正歯科治療
歯並びの悪さが噛み合わせの悪さにつながっているのであれば、ワイヤー矯正がおすすめです。これはブラケットとワイヤーと呼ばれる矯正装置を歯の表面に付けて歯を動かす、代表的な矯正方法です。適応範囲が広く、さまざまな症例に対応可能なことがメリットですが、目立ちやすい・人に気付かれやすいというデメリットもあります。特に接客業の方など、見た目が気になる人は向いていないかもしれません。
このような場合、装置を歯の裏側に付ける裏側矯正や白くて目立ちにくい装置を用いた矯正方法もありますので、歯科医師に相談してみてください。治療期間の目安は1年〜3年、費用相場は60万〜130万円となっています。歯を矯正するだけでは不十分な場合は、顎の骨や歯周組織、顎関節に直接アプローチする外科手術が採用されることもあります。
噛み合わせの悪化を防ぐ方法
最後に噛み合わせの悪化を防ぐ方法をご紹介します。この方法は主に5つあります。1つは頬杖をやめることです。頬杖を付くことで、片方の歯や顎の骨に頭の重さがのしかかり、少しずつ歯並びや噛み合わせに影響を及ぼすからです。
2つ目は舌癖に気を付けることです。舌癖とは、歯の間から無意識に舌を出したり舌を歯に押し付けてしまったりすることで、これを続けてしまうと歯並びや噛み合わせが乱れてしまいます。上顎に舌を付けておくことを意識しましょう。
3つ目は歯を失ったまま放置しないことです。歯を1本でも抜けたままにしていると、空いたスペースに歯が倒れ込み徐々に噛み合わせが悪くなっていきます。何らかの原因で歯が抜けた状態になっている方は、早めに歯科医師に相談してください。
4つ目はストレスを取り除くことです。ストレスがたまっていると、就寝中に無意識に歯ぎしりをしてしまう可能性が高くなります。入浴や適度な運動、趣味などに時間を費やし、ストレスを解消することで顎に過度な力が加わることを防ぐことができます。爪を噛む癖がある方は、こちらもやめるように意識しましょう。爪は硬く、噛むには相当な力が必要になり、続けると前歯を中心に歯並びが乱れてしまうためです。
編集部まとめ
いかがでしたでしょうか。噛み合わせの悪さは見た目や噛みにくさに影響を及ぼすだけでなく、全身の健康とも関係しています。そのため、正しい知識を得ることと適切な対応が重要です。もしご自身に当てはまる症状や気になることがあれば、早めに歯科医師に相談するようにしましょう。
参考文献