裏側矯正(舌側矯正)には、どのようなデメリットがあるかご存知ですか?
歯並びが気になっていても、矯正装置が目立ってしまうのが嫌な方は、目立ちにくい裏側矯正(舌側矯正)を希望されることが少なくありません。
しかし、裏側矯正(舌側矯正)のデメリットも事前に理解しておかなければ、数年間かかる歯列矯正が想像以上に辛いものになってしまうでしょう。
本記事では、裏側矯正(舌側矯正)を選択する前に知っておくべき以下の内容を解説します。
- 裏側矯正(舌側矯正)のデメリット
- 裏側矯正(舌側矯正)のメリット
- 裏側矯正(舌側矯正)を適応できる症例
- 裏側矯正(舌側矯正)以外の目立ちにくい歯列矯正方法
裏側矯正(舌側矯正)を検討されている方が、正しい情報をもとに適切に判断する参考になれば幸いです。
裏側矯正(舌側矯正)のデメリット
裏側矯正(舌側矯正)には矯正装置が目立ちにくいという大きなメリットがありますが、デメリットも少なくありません。
歯列矯正を検討する際には、矯正装置が目立ちにくいことを重視して裏側矯正(舌側矯正)を希望する患者さんも少なくありませんが、デメリットもしっかり理解して許容できるかを検討しましょう。
以下では、裏側矯正(舌側矯正)の主なデメリットを解説します。
表側矯正より費用がかかる
裏側矯正(舌側矯正)は一般的な表側矯正に比べて、特別な装置と技術が必要になるため、費用は高額になります。
歯列矯正にかかる費用は症例や装置の選択によって大きく異なりますが、裏側矯正(舌側矯正)にかかる費用は1,100,000~1,800,000円(税込)程度が相場です。
裏側矯正(舌側矯正)に使われる矯正装置はリンガルブラケットと呼ばれ、一般的には表側矯正に使われる矯正装置はラビアルブラケットです。
リンガルブラケットは直接視認しにくい歯の裏側に矯正装置を正確に装着するため、裏側矯正(舌側矯正)ではインダイレクトボンディングと呼ばれる方法が用いられます。
これは患者さんの歯並びを正確に再現した模型を製作したもので、その模型に合わせたリンガルブラケットを製作し、模型のとおりに患者さんの歯に装着していく方法です。
歯の裏側に正確に矯正装置を装着したり、装着した矯正装置の強さをコントロールするのに手間と技術を要するため、裏側矯正(舌側矯正)の費用は高額になってしまうのです。
治療期間が長くなる可能性がある
裏側矯正(舌側矯正)では表側矯正よりも矯正装置のワイヤーが短くなるため、歯のコントロールが難しく、治療期間も長くかかります。
上下ともに裏側矯正(舌側矯正)を行った場合、表側矯正に比べて長くなる治療期間は半年程度です。
裏側矯正(舌側矯正)の治療中は定期的に通院して矯正装置の強さをコントロールし、適切な位置へ歯を動かしていきます。
表側矯正よりも慎重なコントロールを要求されるため、同じ症例であれば裏側矯正(舌側矯正)の方が時間がかかることがほとんどだとされています。
滑舌に影響が出る
裏側矯正(舌側矯正)では歯の舌側に矯正装置を装着するため、滑舌への影響が出ることが少なくありません。
特に日本語ではサ行・タ行・ラ行の発音に影響が出やすいといわれており、装着直後は会話に支障が出る可能性があります。
一般的にはリンガルブラケットの装着から1週間程度で違和感に慣れるため、滑舌への影響は少なくなっていきます。
仕事や学業で重要な発表の機会などがある場合は、裏側矯正(舌側矯正)を始めるスケジュールは慎重に調整してください。
口内炎ができやすい
歯列矯正中は、矯正装置があたる部位に口内炎ができやすくなります。
ラビアルブラケットでは頬裏の粘膜に口内炎ができやすく、リンガルブラケットでできやすいのは舌の口内炎(舌炎)です。
裏側矯正(舌側矯正)中の口内炎を予防するには、リンガルブラケットをカバーするワックスや仮封剤を使用して舌への刺激を軽減します。
口内炎はほとんどの場合自然に治りますが、不安な場合は歯科医師に希望を伝えておきましょう。
食事がしにくい
裏側矯正(舌側矯正)は舌の動きに違和感があるため、食事のしにくさを感じる患者さんも少なくありません。
また、噛み合わせが異常に深い過蓋咬合の場合は、上の歯に装着したリンガルブラケットが下の前歯に接触して咀嚼に支障が出る場合もあります。
舌の違和感は1週間程度で慣れて食事も問題なくなりますが、過蓋咬合の場合は詰め物に使われるレジンを奥歯に盛って、一時的に噛み合わせを高くするなどの処置が必要です。
歯磨きがしにくい
裏側矯正(舌側矯正)では歯の裏側に矯正装置を装着するため、表側矯正よりも歯磨きでのケアがしづらくなります。
表側矯正よりもブラケット同士の間隔が短く、装置の間に歯ブラシを入れにくいため、歯ブラシだけで歯垢を十分に落とすことはできません。
裏側矯正(舌側矯正)中は必ず定期的に歯科医院に通院し、装置の調整とともに歯のクリーニングをしてもらいましょう。
裏側矯正(舌側矯正)のメリット
裏側矯正(舌側矯正)には少なくないデメリットがありますが、患者さんにとってそれ以上のメリットがあれば、よい選択肢となります。
裏側矯正(舌側矯正)のデメリットを許容できる程のメリットがあるか、歯科医師と相談して慎重に検討しましょう。
裏側矯正(舌側矯正)の主なメリットを解説します。
見た目が目立ちにくい
裏側矯正(舌側矯正)を選択する患者さんの大半は、矯正装置が目立ちにくいことを理由に挙げているとされています。
歯並びの悪さが気になって歯列矯正したいと思っていても、見た目の問題から二の足を踏んでいる方は少なくありません。
裏側矯正(舌側矯正)でもまったく見えないわけではありませんが、表側矯正よりは圧倒的に目立ちにくく、見た目を気にされる方には裏側矯正(舌側矯正)が適しています。
むし歯・歯周病になりにくい
裏側矯正(舌側矯正)は表側矯正に比べて、むし歯のリスクが抑えられるといわれています。
歯の裏側のエナメル質は表側よりも分厚いため、矯正装置の装着部がむし歯で溶かされにくくなるためです。
また、歯の裏側は表側よりも唾液が付着する量が少なくないため、唾液による洗浄効果や歯の再石灰化効果も期待できます。
歯周病も唾液による洗浄効果でリスクは抑えられますが、当然まったくリスクがないわけではありません。
歯列矯正中は毎日の歯磨きとうがい薬などのデンタルケアを丁寧に行い、必ず定期的に歯科医院でクリーニングを行ってください。
後戻りしにくい
歯列矯正装置を外した後に、歯並びがもとに戻ってしまうことを後戻りといいます。
舌で歯を押す癖がある方の場合、裏側矯正(舌側矯正)によって舌癖を是正して後戻りを予防する効果もあります。
裏側矯正(舌側矯正)は歯の舌側に矯正装置を装着するため、舌で歯を押せなくなり、自然と舌癖がなくなるケースは少なくありません。
舌で歯を押す力は矯正装置の数十倍にも及ぶため、いくら歯列矯正を行っても舌癖を治せなければ後戻りしてしまいます。
口腔習癖によって歯並びが乱れている場合は、裏側矯正(舌側矯正)で癖も一緒に治せるのがメリットになるでしょう。
裏側矯正(舌側矯正)の適応症例
裏側矯正(舌側矯正)は、表側矯正が適応可能な症例であれば大半は適応できます。
歯を動かす力自体は表側矯正と裏側矯正(舌側矯正)でほとんど差はなく、症例によって難易度は異なりますが、歯列矯正のみで治療可能な歯並びの乱れは裏側矯正(舌側矯正)で治療可能です。
そのなかでも特に裏側矯正(舌側矯正)が向いているのは、患者さんが矯正装置が目立ちにくいことを強く希望しているケースです。
裏側矯正(舌側矯正)は表側矯正よりも治療期間が長くなり、費用も高額になるなどのデメリットがありますが、それを許容してでも目立ちにくい矯正装置を希望する患者さんは少なくありません。
症例でいえば、裏側矯正(舌側矯正)は舌癖など口腔習癖が原因で歯並びが乱れている場合に適しているといわれています。
裏側矯正(舌側矯正)は舌側に装着するリンガルブラケットが、舌で歯を押せなくするフェンスの役割を果たすため、舌の癖を是正するのにも役立ちます。
また、安静時は上下の歯の間にわずかに隙間が空いているのが通常ですが、安静時も常に歯を食いしばってしまうTCH(上下歯列接触癖)も、歯や顎に過剰な負担をかけている原因です。
口腔習癖が原因で歯並びの乱れや顎関節
症などを生じている場合にも、裏側矯正(舌側矯正)で装着するリンガルブラケットによるフェンス効果で改善する場合も少なくありません。
深く食いしばっていると、上の前歯に装着したリンガルブラケットが下の前歯に接触してしまうため、自然に上下の歯を離すようになって口腔習癖が改善した症例も報告されています。
裏側矯正(舌側矯正)ができない主なケース
裏側矯正(舌側矯正)は表側矯正が適応可能な症例のほとんどに適応できますが、なかには裏側矯正(舌側矯正)が適さない症例もあります。
患者さんが目立ちにくい矯正装置を希望しても、ほかの治療方法を選択せざるを得ない場合もあることは知っておきましょう。
歯列矯正だけでは対応できない場合と、裏側矯正(舌側矯正)特有の問題により難しい症例があり、裏側矯正(舌側矯正)が適しているかは歯科医師が症例ごとに判断します。
裏側矯正(舌側矯正)が難しいのは、主に以下のような症例です。
歯並びが極端に悪い
一般的に歯並びの乱れは歯列矯正によって治療しますが、極端に乱れた歯並びは歯列矯正だけでは治療できない場合があります。
いわゆる出っ歯(上顎前突)や受け口(反対咬合)は、歯並びが悪いだけでなく、顎の骨の大きさが正常でないケースも少なくありません。
下顎と上顎のどちらかが異常に発達していたり、極端に小さかったりすると、歯並びの乱れを伴う顎変形症と診断され手術が必要になります。
お口のなかから顎の骨を切開して、正常な位置に動かす手術を行ってから、歯列矯正で歯並びを整えていきます。
歯並びが極端に悪い場合は顎変形症の可能性がありますので、まずは歯科医師にご相談ください。
噛み合わせが深い(過蓋咬合)
奥歯の噛み合わせが異常に深く、上の前歯が下の前歯を覆い隠してしまう状態を過蓋咬合といいます。
過蓋咬合の治療を裏側矯正(舌側矯正)で行うと、上の前歯に装着するリンガルブラケットが下の前歯に接触するため、咀嚼や発音に強い違和感が生じます。
対策としては、奥歯にレジン材料を盛って一時的に噛み合わせを高くする咬合挙上などがありますが、咬合挙上は違和感が強く患者さんにとっては辛い治療です。
リンガルブラケットが下の前歯に接触する状態が続くと歯が削れてしまう場合もあるため、過蓋咬合の場合は裏側矯正(舌側矯正)を推奨しないケースが少なくありません。
過蓋咬合でも裏側矯正(舌側矯正)が可能かどうかは歯科医師の判断によりますので、まずは歯科医師にご相談ください。
裏側矯正(舌側矯正)の治療の流れ
裏側矯正(舌側矯正)を希望する場合、まずは歯科医師が歯並びの状態を診察して適切な治療計画を策定します。
歯列矯正を始める前に、むし歯や歯周病がある場合には、先に治療しなければいけません。
患者さんの症例に適したリンガルブラケットを精密に製作するため、口腔内全体の3D撮影を行い、このデータに基づいて精密な模型とオーダーメイドのリンガルブラケットを製作します。
リンガルブラケットの製作にかかる期間は約1ヵ月で、完成したら模型でのシミュレーションに合わせて慎重に歯に装着していきます。
リンガルブラケットの装着後は、約1ヵ月間隔で通院し、歯の動き具合を確認しながら強さの調整が必要です。
症例によって異なりますが、歯を動かすための治療期間は1~2年半必要で、矯正歯科医が外れた後も小型の保定装置を装着して後戻りを防ぎます。
保定装置の調整は半年に1回程度ですが、治療した歯並びがもとに戻らないよう定期的に通院して診察とクリーニングをしてもらいましょう。
裏側矯正(舌側矯正)以外の目立ちにくい歯列矯正の方法
裏側矯正(舌側矯正)以外にも、目立ちにくい歯列矯正の方法はあります。
裏側矯正(舌側矯正)が難しい症例や、さまざまな事情で裏側矯正(舌側矯正)を選択できない場合でも適応できる方法がありますので、歯科医師と相談してみてください。
裏側矯正(舌側矯正)が難しい場合でも行える歯列矯正は、主に以下のような方法があります。
透明・白色の表側矯正
表側矯正に使われるラビアルブラケットは、従来は金属製のみでしたが、近年では目立ちにくい透明や白色の矯正装置が開発されています。
透明はプラスチックで、白色はセラミックの装置を使用し、ホワイトワイヤーと組み合わせれば従来の金属製よりは格段に目立ちにくいでしょう。
金属製のものより費用は高くなりますが、裏側矯正(舌側矯正)よりは安く、症例によって異なりますが800,000~1,000,000円(税込)が相場です。
マウスピース型矯正
マウスピース型矯正は、医学的にはアライナー型矯正
と呼ばれ、透明のマウスピースを装着して歯列矯正を行う方法です。
金属部品のない無色透明なマウスピースを使用しますので、極めて目立ちにくく、歯列矯正期間中に一度も他人に気付かれなかった方も少なくありません。
食事と歯磨き以外は常時装着しますが、自分で簡単に取り外しできるのが大きなメリットです。
取り外せるため食事の快適性が損なわれず、歯磨きのしにくさもありません。
歯を動かす力は製品によって異なり、マウスピース型矯正が適応できるかどうかは歯科医師の判断によります。
マウスピース型矯正を行っている矯正歯科医院で、一度相談してみましょう。
まとめ
裏側矯正(舌側矯正)のデメリット・メリットと適応症例などを解説してきました。
裏側矯正(舌側矯正)は矯正装置が目立ちにくい・むし歯になりにくいなどの大きなメリットがありますが、デメリットも少なくありません。
治療期間の長さ・費用・舌への違和感などを許容できない場合は、裏側矯正(舌側矯正)は適切でないでしょう。
しかし、治療期間の長さや費用は症例によって大きく異なり、舌や咀嚼時の違和感は数週間で慣れることがほとんどです。
まずはご自身の症例で裏側矯正(舌側矯正)が適切なのかどうか、歯科医師にご相談ください。
参考文献