部分矯正は、全体的な歯列矯正よりも短期間で特定の歯並びの問題を改善できる場合が多い傾向にあります。抜歯が必要ない部分矯正にはどのような効果が期待できるのでしょうか?
本記事では抜歯しない部分矯正について、以下の点を中心にご紹介します。
- 抜歯なしでも治療が期待できる部分矯正
- 抜歯をしないと治療が難しい部分矯正
- 部分矯正を抜歯なしで行った場合のメリットとデメリット
抜歯しない部分矯正について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
部分矯正とは
部分矯正とは、歯列全体ではなく、気になる部分のみを対象に行う矯正治療です。全体矯正とは異なり、噛み合わせの改善を目的とせず、主に前歯や特定の歯の位置を調整するために行われます。この方法は、全体矯正に比べて治療範囲が限定されているため、治療期間が短く、費用も抑えられるというのが特徴です。
部分矯正が適用される主な症例には、奥歯の噛み合わせに問題がなく、前歯の軽度な出っ歯や八重歯などが挙げられます。また、全体矯正後の軽度な後戻りや、インプラント治療前の歯の移動などにも部分矯正が利用されます。
一方で、全体矯正とは、上下の歯列全体を矯正する方法です。すべての歯に装置を装着して歯並びや噛み合わせを改善します。この方法は部分矯正と異なり、奥歯も含めてさまざまな歯の動かし方が可能で、出っ歯や受け口、開口などの幅広い問題に対応できるとされています。
しかし、矯正期間が長く(約2年)、費用が高くなる場合が多い点や、骨格的な問題がある場合は外科的処置が必要な場合があります。
部分矯正で抜歯なしでも治療が期待できる場合
それでは、抜歯をせずに部分矯正が行えるケースはどのようなものでしょうか?以下に紹介します。
部分矯正の場所が前歯のみ
前歯のみの部分矯正は、奥歯と比べて歯を動かしやすいため、抜歯をせずに治療が行える場合が多いとされています。
また、前歯の部分矯正は、治療範囲が限定されているため、治療期間が短く、費用も抑えられるメリットがあります。例えば、全体矯正と比べて治療期間は数ヵ月〜1年程度と短く、費用も全体矯正の約3分の1程度で済む場合が多いようです。
さらに、矯正装置も前歯にのみ取り付けるため、日常生活への影響が少なく、見た目にも配慮された治療が行える可能性が高いといえるでしょう。
抜歯なしでも歯が移動できるスペースがある
抜歯なしで部分矯正をしたい場合、十分な移動スペースがあるかどうかも重要です。矯正治療では、歯を正しい位置に移動させるために0.8mmから1.2mm程度のスペースが必要になってきます。
例えば、自然に歯の間に隙間がある場合や、少しの調整でスペースが確保できる場合は、抜歯なしで治療が進められるケースもあります。なかでも前歯の軽度な不正咬合や、軽度の歯列の乱れであれば、部分矯正で十分に対応できる場合が多いとされています。
部分矯正の治療において、歯科医師は患者さんの口腔内のスペースや歯並びを詳しく調べ、それぞれに合った治療計画を提案します。スペースが限られている場合でも、抜歯を避けるための方法が見つかる可能性もあるため、歯科医師に相談してみましょう。
早くから部分矯正を始める
幼少期、あるいはなるべく早い段階から歯列矯正を始めた場合、抜歯なしでも部分矯正の治療ができるケースが多いとされています。幼少期から歯列矯正を始めると、成長段階での歯の移動が容易になり、極端に歯並びが悪くなる前に対応できるため、抜歯を避けられる可能性が高いからです。
子どもの頃は顎の骨がまだ柔軟で成長が続いているため、歯を動かすスペースを自然に確保しやすくなります。この場合、永久歯がきれいに並ぶ土台を作れるとされており、将来大人になってから矯正治療を行う際にも、抜歯を避けられる可能性が高まります。
さらに、子どものうちから矯正を行うと、治療期間が短く、痛みも少なくて済む利点があります。例えば、まだ乳歯が残っている6〜10歳程度の段階で歯科医院に相談し、歯並びに問題があると感じた場合には早急な対応が推奨されます。成長段階にあるこの時期に矯正治療を開始すると、口呼吸や舌癖といった悪い癖の改善も図れ、お口全体の健康維持にもつながります。
部分矯正で抜歯をしないと治療が難しい場合
抜歯なしでは部分矯正が行えない場合もあります。以下では、歯列矯正の際に抜歯が必要になる場合を解説します。
顎の大きさ
顎が小さい方で、歯を動かすためのスペースが不足している場合、部分矯正で抜歯が必要となります。特に日本人は顎が小さい傾向があるとされており、歯並びのスペースが十分に取れない場合が多いため、抜歯を行って正しい位置に歯を移動させる必要が生じるケースが少なくありません。
部分矯正が行える骨格かどうかは歯科医師による診断が必要です。何か問題がある場合は対応が難しくなるため、抜歯が必要になる可能性があります。
親知らずの影響
部分矯正で抜歯が必要な場合、親知らずの影響が一因となることもあります。親知らずは生え方に個人差があり、ほかの歯を圧迫して歯並びに悪影響を与える場合があるため、矯正治療時には抜歯が必要になる可能性が少なくはないからです。
前項にも通じますが、顎が小さかったり歯が大きすぎたりすると、歯列に十分なスペースが確保できず、親知らずが横倒しになったり異常な位置に生える場合があります。これがほかの歯に圧力をかけ、歯列全体を乱す原因となります。
そして、歯列の乱れを解消するために、親知らずの抜歯が必要になるケースがあります。この処置はほかの歯の負担軽減にもつながり、矯正治療のスペースの確保に寄与します。
さらに、動的治療(矯正治療のなかで歯を動かす段階)や保定(歯の後戻りを防止するための処置)期間中に親知らずが引き起こす問題を防ぐため、抜歯が必要になる可能性があります。
以上のように、親知らずの状態によっては抜歯が必要になってきます。親知らずの状態を理解し、歯科医師と相談したうえで自身に合った治療計画を立て、健康で美しい歯並びを実現しましょう。
上下の歯のバランス
部分矯正で抜歯が必要なケースの一つに、上下の歯のバランスが悪いケースがあります。なかでも出っ歯や反対咬合(受け口)の場合、正しい咬合を実現するために抜歯が必要になる可能性があります。
例えば、出っ歯では上の歯を後方に移動させるため、反対咬合では下の歯を後方に移動させるために抜歯が求められます。
また、部分矯正の話からは逸れますが、噛み合わせに大きな問題がある場合は、部分矯正だけでは改善が難しいとされており、全体矯正が推奨されます。全体矯正ではその名のとおり上下の歯列全体を調整し、理想的な咬合を実現するために抜歯が行われるケースが少なくありません。
噛み合わせに問題があると感じる方は、歯科医師と相談し、必要な治療方法を検討することが重要です。
部分矯正を抜歯なしで行った場合のメリット
部分矯正は抜歯なしでも行えるケースがありますが、その際のメリットはどのようなものでしょうか?以下で紹介します。
永久歯を残すことができる
部分矯正を抜歯なしで行う大きなメリットは、健康な永久歯を残せることです。むし歯や歯周病がない健康な歯を抜くことに、抵抗がある方もいるでしょう。噛み合わせを考慮しても、第一小臼歯や第二小臼歯は噛み合わせを安定させる重要な役割を持っているので、抜かずに済むならそれが望ましいとされています。
もしも抜歯が行われる場合は、噛み合わせになるべく影響が少ない歯が選ばれます。親知らずに関しては正常に生えていても歯磨きが届きにくく、むし歯や歯周病のリスクが高いため、抜歯が推奨される場合があります。
非抜歯矯正では、健康な歯を多く残せるため、将来的な口腔健康の維持にも寄与する可能性があります。高齢になっても歯が残っている状態はしばしば理想的といわれますが、抜歯矯正では少なくとも4本の歯を失うので、非抜歯矯正はできるだけ多くの歯を残したいと考える方にとって魅力的な選択肢といえるでしょう。
永久歯を多く残しながら行う歯列矯正は、長期的な口腔健康を維持するために重要な要素となる可能性があります。
痛みに配慮されている
部分矯正を抜歯なしで行うメリットの一つに、痛みが少ないことも挙げられます。まず、部分矯正は歯の一部だけを動かすため、全顎矯正に比べて歯を動かす距離が短く、痛みの度合いが軽い傾向があるとされています。そして矯正治療の期間も短いため、比例して痛みを感じる期間も短くなります。
痛みに対して不安を感じやすい方や、過去に痛みを理由に矯正治療をためらっていた方には、部分矯正は検討の余地がある治療法です。
親知らずの抜歯では歯肉を切開する必要があり、一時的な痛みや腫れが避けられませんが、抜歯なしの部分矯正ではこうした不快感を避けられます。このように、部分矯正を抜歯なしで行うことは、痛みが少なく治療後のケアも簡単なことが多いため、患者さんにとって魅力的な方法といえるでしょう。
費用や期間が短縮される可能性がある
部分矯正を抜歯なしで行うメリットの一つは、費用や治療期間の短縮です。部分矯正は全体矯正に比べて特定の歯だけを動かすため、治療範囲が限定され、費用が抑えられます。例えば、全体矯正の費用相場が約77万円〜99万円であるのに対し、部分矯正は片顎で約33万円です。治療期間も部分矯正は約1ヵ月〜12ヵ月と短く、全体矯正の約1年〜2年に比べて早く終わります。
一方、部分矯正のデメリットとして歯肉退縮のリスクがあります。狭いスペースに無理矢理歯を並べると、歯肉に負荷がかかり、歯肉が下がる歯肉退縮が発生する場合があります。この症状が進行すると、歯が長く見えたり、知覚過敏や歯周病、むし歯のリスクが高まるとされています。
また、歯の根が顎の骨から飛び出すリスクもあり、治療には慎重なプランニングが必要です。
部分矯正を検討する際には、歯科医師と十分に相談し、リスクを理解したうえで自身に合った治療方法を選ぶことが重要です。
後戻りしてしまう可能性がある
部分矯正を抜歯なしで行う場合、治療後に歯並びが元に戻る後戻りのリスクが高まります。これは狭いスペースに無理やり歯を並べることで発生しやすく、後戻りが起きると再び矯正が必要となり、余分な時間や費用がかかる可能性があります。その際に、歯科医院の規定によっては再矯正の費用が発生する場合もあります。
非抜歯矯正に適した症例では、歯の移動距離が短く、後戻りが起きにくいとされていますが、部分矯正では根本的な問題が解決されず、再び歯並びが崩れるリスクがあります。さらに、部分矯正は歯を動かせる距離や方向に制限があり、大きくズレた歯並びには対応できません。噛み合わせが狂う可能性もあるため、適用可能な症例が限定されます。
部分矯正を抜歯なしで行う際には、後戻りのリスクや動かせる距離と方向の制限を考慮し、慎重な判断と適切な治療計画が重要です。
前歯が出てしまう可能性がある
部分矯正を抜歯なしで行うと、前歯が前方に突き出る可能性があり、口元の見た目に大きな影響を与える場合があります。無理に非抜歯矯正を行うと、スペース不足で前歯が突出し、理想的な横顔のEラインが崩れることがあります。Eラインとは、鼻の先端と顎の先端をつなぐ線で、この線の内側に唇が収まるのが理想とされています。
非抜歯矯正では歯列を前方に拡大するため、結果的に口元が前突するリスクがあります。治療計画を立てる際には、歯並びだけでなく、口元の見た目もシミュレーションすることが重要です。
しかし、治療後の顔貌をシミュレーションできる歯科医院はまだ少ないため、カウンセリングで治療後の見た目について十分に確認し、納得のいく説明を受けることが大切です。口元の見た目に影響を与えるリスクを理解し、慎重な判断を心がけましょう。
まとめ
ここまで抜歯しない部分矯正についてお伝えしてきました。抜歯しない部分矯正の要点をまとめると以下のとおりです。
- 前歯のみの部分矯正やすでに歯を動かすのに十分なスペースがある場合、幼い頃から始める部分矯正の場合は抜歯しなくても治療できる
- 顎が小さい方や親知らずが歯並びに影響している方、上下の歯のバランスが悪い方は部分矯正でも抜歯をしないと治療が難しい
- 非抜歯の部分矯正には短い治療期間で、健康な歯を残しながら痛みに配慮した治療ができるメリットと、歯茎の退行や後戻りしやすい、前歯が出てしまう可能性があるなどのデメリットがある
抜歯しない部分矯正のメリットとデメリットを十分に理解することが大切です。 これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。