お子さんがガミースマイルを気にして、思い切り笑えなかったり口数が少なくなったりすると、保護者として心配になるでしょう。
ガミースマイルは、骨格や歯の問題だけでなく、お子さん特有の癖などが原因になることもあります。
病気ではありませんが、見た目のコンプレックスが心身に影響を与える恐れがあるため、早めの対処が大切です。成長期であれば、外科的処置に頼らずに状態を改善できる可能性もあります。
本記事は、ガミースマイルの原因や治療方法、費用の目安について解説します。お子さんの笑顔を守るため、保護者の参考となれば幸いです。
ガミースマイルとは
ガミースマイルは、笑ったときに上の歯茎が3mm以上見える状態を指します。歯茎が大きく目立つため、コンプレックスを抱くお子さんも少なくありません。
一方で痛みや違和感などの症状は少なく、日常生活に支障が出にくいため、放置されてしまうこともあります。
ここでは、ガミースマイルの主な特徴や見分け方や、放置した場合に生じるデメリットを解説します。
ガミースマイルの特徴と見分け方
ガミースマイルは、見た目の印象に個人差があり、原因によっても異なります。主な特徴は以下のとおりです。
- 笑うと歯茎が3mm以上見える
- 歯の長さが10.5mm未満と短く見える
- 上唇が短いあるいは笑ったときに大きく上がる
- 上顎の骨が前方や下方に発達している
- 歯の位置が下がっている
- 歯茎が過剰に成長している
ガミースマイルは笑ったときも正面から見たときも、歯茎が大きく見える状態です。ガミースマイルは骨格性の出っ歯と混同されやすい状態ですが、基本的には異なります。
出っ歯は専門用語で上顎前突(じょうがくぜんとつ)と呼ばれ、上の前歯が突出する状態です。そのため、横向きの場合に唇が前に出て見えたり唇が閉じにくかったりなどの影響があります。
ただし、上顎前突がガミースマイルの原因となる場合もあり、まったく異なる状態ともいえません。
ガミースマイルを放置するデメリット
ガミースマイルそのものが、むし歯や歯周病などの直接的な原因になることは少ないとされています。しかし、放置していると心理面と機能面でさまざまな影響が出ることがあります。
まず見た目を気にして笑顔に自信が持てなくなると、コミュニケーションに消極的になり、対人関係にも影響が及ぶことがあるでしょう。
特に思春期のお子さんにとっては、こうした心理的なストレスが大きな負担になることもあるため、注意が必要です。
またガミースマイルに噛み合わせの問題がある場合は、食べ物をうまく咀嚼できないため消化器官に負担がかかり、全身の健康に影響を与える可能性もあります。
日頃からお子さんの表情や話し方、食べ方などを観察することで、早めに変化に気付くことができます。お子さんの様子に気になる点があった場合は、歯科医師に相談しましょう。
ガミースマイルの原因
ガミースマイルには骨格の大きさや歯並び、お口周りの筋肉、歯茎や歯の大きさ、お子さん特有の癖、遺伝要素などさまざまな原因が関係しています。
特に成長期のお子さんの場合、これらの複数の要因が重なり、ガミースマイルが発生するともいわれています。
ここでは、それぞれの原因を解説するため、確認しましょう。
骨格の大きさや歯並び
成長期のお子さんの場合、上顎の骨格が縦に大きく発達しすぎる過成長が原因の一つです。
上顎が下方に伸びすぎると、笑ったときに上顎前歯に唇が押し上げられ、前歯や歯茎が大きく見えるようになります。
また日本人を含むモンゴロイド系人種は、もともと骨格性の上顎前突や下顎側切歯(したあごそくせっし)先天性欠如といった特徴が多いといわれています。
骨格性上顎前突は、上の前歯や上顎の骨が下の歯や下顎より前に突出した状態です。横顔で口元が出っ張って見えるのが特徴です。
下顎側切歯先天性欠如は、下顎の前歯2本目(側切歯)のうち、左右のいずれかあるいは両方が生まれつき存在しません。
上の歯に比べて下の永久歯が1~2本足りないため、歯並びに隙間が空いたり噛み合わせにズレが生じたりすることがあります。
これらの状態は、ガミースマイルの原因となりえることに加え、噛み合わせや咀嚼機能にも影響を与える可能性が高いとされています。
お口周りの筋肉
骨格や歯に問題がなくても、お口周りの筋肉の働きが強いことで、ガミースマイルになることがあります。特に笑顔になると上唇を持ち上げられる筋肉が過剰に働くため、歯茎が目立って見えるでしょう。
筋肉の過活動は表情や習慣によっても形成されやすく、成長期のうちに意識してトレーニングを行うことで、改善が期待できることもあります。
歯茎や歯の大きさ
歯の大きさが通常よりも短い、あるいは小さい場合、歯茎の面積が相対的に大きくなるため笑ったときに目立ちやすくなるでしょう。
また、歯茎自体が過剰に発達している場合も、ガミースマイルの原因となります。これらは歯の萌出状態の異常に関連することもあります。
癖によるもの
お子さんのなかには、無意識に舌で歯や歯茎を押す舌癖や、お口が常に開いている口呼吸といった習慣を持つ場合があります。
これらが原因で、上顎が適切に成長せず骨格のバランスや歯並びに影響を与えることがあります。
遺伝要素
ガミースマイルは、親や兄弟などの家族に似た骨格や歯並びの特徴が見られることがあり、遺伝的な要素が影響している場合も多い傾向にあります。
同じような口元の特徴がある場合は、早めに歯科医院に相談すると、適切なタイミングで治療を始めやすいでしょう。
小児矯正でガミースマイルは治療できる?
小児矯正は、成長期の骨格の柔軟性を利用して行う治療で、ガミースマイルの改善に効果的です。
身体への負担が少なく、将来的に外科的処置を回避できる可能性もあるため、特にお子さんに適した選択肢といえるでしょう。
小児矯正は歯並びや顎の成長を調整することで、ガミースマイルの原因となる骨格のバランスを整えることが可能です。
また装置の使用や口腔筋機能療法を併用することで、上唇を引き上げる筋肉の過剰な動きを抑制し、舌癖や口呼吸などの習慣を改善することもできます。
ガミースマイルは、成長段階での歯列矯正だけで完全に治すことは難しいとされていますが、目立ちにくくすることは可能です。
気になる場合は、できるだけ早期に相談することで、適切な治療時期や方法を選択しやすいでしょう。
まずは歯科検診を受けて、お子さんの骨格や癖の傾向を確認してはいかがでしょうか。
小児矯正によるガミースマイルの治療方法
ガミースマイルは、原因によって治療方法が異なります。
小児矯正ではガミースマイルの原因を見極めるために口腔内写真やレントゲン、歯科用CT、セファロなどを使って歯並びや噛み合わせ、顎のバランスを詳しく確認します。
小児矯正は複数の原因に同時に対応し、できるだけお子さんへの負担が少なく治療が可能です。
歯列矯正
骨格や歯並びが原因の場合、歯列矯正装置を使って歯や顎の位置を整える歯列矯正治療が行われます。成長期のうちに行うことで、上顎の成長を制御し、歯茎の露出を目立たなくすることが可能です。
さらに、必要に応じて舌癖や口呼吸といった習慣が関係している場合は、生活指導や補助装置の使用を組み合わせて改善を図ります。
成長期に歯列矯正を行えば、身体への負担が大きい外科手術の回避も期待できるでしょう。
ヘッドギア矯正器具による治療
ヘッドギア矯正器具とは、口腔外から歯や顎に力を加える歯列矯正装置のことです。主に上顎の過成長を抑制し、歯並びや噛み合わせを整えるために使用し、将来的な不正咬合の予防にもつながるとされています。
装置は頭にかぶるタイプで、口腔内に装着するワイヤーやブラケットで構成され、取り外しが可能です。装着に伴う痛みや身体への負担は少ないとされています。
ヘッドギア矯正器具は長時間装着することが必要です。適切に使用するには、医師の指示に従い、お子さんが歯列矯正器具に抵抗感なく使用できるよう保護者のサポートが不可欠です。
MFT(口腔筋機能療法)
MFTは舌や唇、頬などお口周りの筋肉を強くし、正しく機能させることを目指す治療法です。歯の位置や噛み合わせを安定させるうえで、重要な役割を担います。
例えば舌の癖があると、歯列矯正治療を行っても後戻りする恐れがあるため、正しい呼吸法や舌の位置を意識した習慣の改善が必要です。
歯が噛み合わない開咬や上顎前突、反対咬合などの状態の予防にもなります。MFTは、歯列矯正治療の補助として使われることが多く、お子さんでも無理なく取り組めるでしょう。
ガミースマイルの治療開始時期
ガミースマイルの治療を成長期に始めることで、骨格の成長を利用した効果的な歯列矯正が可能です。そのためには、適切なタイミングを逃さずに治療を始めることが重要です。
歯列矯正の場合
乳歯と永久歯が混在する混合歯列期(6~12歳頃)は、小児歯列矯正を効果的に進められるタイミングで、特に8~10歳の開始が推奨されています。
この時期は顎の骨の成長が活発なため、歯列や骨格の調整がしやすく、上顎の過成長によるガミースマイルの予防や改善にもつながります。
ただし早すぎる場合、永久歯の生え変わりや成長の変化により再治療が必要になることもあるため、注意が必要です。
13歳を過ぎると骨格の成長がある程度落ち着くため、歯並びや噛み合わせが安定しやすくなります。そのため、より正確な診断と治療計画が立てられるでしょう。
重度の骨格異常がある場合は、歯列矯正だけで改善が難しく、外科的治療が必要になるケースがあります。
治療の開始時期は、お子さんの成長スピードや骨格の状態、歯の生えかわりの状況によっても変わります。
将来にわたる影響や再発のリスクを考慮しながら、適切なタイミングを見極めることが重要です。
放置すると成長に悪影響を与えると判断される場合は、早期の治療が推奨されます。
不安な場合は、定期的に歯科医院でチェックを受け、歯科医師と相談しながら治療のタイミングを見極めましょう。
ヘッドギア矯正器具を使用する場合
ヘッドギア矯正器具は、混合歯列期の特に8~10歳に開始することが適切とされています。装着時間はお口の状況によって異なります。基本的には1日12~14時間程度装着することが必要です。
睡眠中の装着が推奨されていますが、日中にも一定時間装着する必要があります。使い方や装着時間を守らないと効果が出にくいため、ヘッドギア矯正器具の重要性を理解できる年齢であることも求められます。
また、成長期を過ぎると骨の成長を制御する効果が薄れるため、タイミングを逃さないように注意しましょう。
MFT(口腔筋機能療法)の場合
MFTは、主に歯列矯正と併用して行われます。ただし歯列矯正とは異なり、3~6歳頃から治療可能です。
この頃は、上顎や歯の成長が活発に進み、舌癖や口呼吸といった習慣が形成される時期です。早めに介入することで、こういった習慣を改善し、歯列に悪影響を及ぼすことを予防できます。
なお、混合歯列期や大人になってからでも治療可能です。歯列矯正をしても習慣を改善しなければ、状態が後戻りするため、注意しましょう。
ガミースマイルの治療費用の目安
小児矯正治療の費用目安は、以下のとおりです。
- 基本料金:約220,000~440,000円(税込)
- 毎月の調整費用:約3,000~6,000円(税込)
- 診断料および検査料(初回のみ):約20,000~50,000円(税込)
治療中は経過観察のため、定期的に通院する必要があります。そのため、通院のたびに調整費用がかかる点には注意しましょう。
小児矯正は基本的に自由診療のため、治療費は全額自己負担です。ただし、外科矯正や特定の先天性疾患がある場合は保険適用となることがあります。
該当するかどうかは、歯科医院での診断が必要です。なお、治療費が高額になることもあるため、デンタルローンや各種クレジットカードに対応している歯科医院がほとんどです。
また、医療費控除の対象となる可能性があります。保険診療対象の場合は高額療養費制度も利用できる可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
まとめ
お子さんの笑顔が少なくなったり口数が減ったりする場合、ガミースマイルが原因の可能性があります。
ガミースマイルは病気ではなく、見た目の問題とされることが一般的です。しかし放置すると、特に思春期のお子さんにとって心理的なストレスとなることがあります。
また、噛み合わせに問題がある場合は、咀嚼や消化機能など全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
小児矯正による治療ではガミースマイルの改善が期待でき、8~10歳頃が適切な開始時期とされています。
ただし、お子さんの成長や歯の状況によって適切な開始時期は異なるため、歯科医師との相談が重要です。
日頃からお子さんの歯や口元の状態に気を配り、気になることがあれば早めに歯科医院を受診しましょう。
参考文献