受け口のような不正咬合だと噛み合わせが悪かったり審美性が気になったりします。また、噛み合わせが悪いと食べ物をうまく噛むことができないこともあります。
そもそも受け口(下顎前突)の原因は何なのかまた治療方法はどのようなものがあるのかが気になるのではないでしょうか。
このような疑問を抱えている方に受け口の原因や矯正治療の方法、また歯列矯正の開始年齢などにも触れて解説します。歯列矯正を検討している方はぜひ参考にしてください。
受け口の症状や原因
- 受け口とはどのような症状ですか?
- 一般的に知られている受け口は下顎前突や反対咬合と呼ばれるものです。通常の噛み合わせと反対になっているのが特徴で、下の前歯が上の前歯より出ている状態です。
受け口は噛み合わせが悪いので、食べ物などを咀嚼するときにうまくいかず無理な力が加わり顎関節に負担がかかります。また、前歯が噛み合っていないと発音をするときに息が漏れて、うまく発音できないため舌足らずな喋り方になる可能性もあるでしょう。
さらに、全身のバランスにも影響を及ぼすといわれています。顎がしゃくれて見えることから、見た目に悩む方も少なくありません。受け口の治療方法は歯列矯正および外科的矯正になります。歯列矯正では親知らずまたは小臼歯などを抜くことですき間を作り固定装置を装着します。
一方、外科的矯正は下顎を手術により小さくします。
- 原因を教えてください。
- 受け口のような不正咬合を生む原因は、遺伝によるものと、習慣や乳歯から永久歯に生え変わる過程で起こる場合のどちらかが考えられます。
まず遺伝によるものとしては、2つのタイプがあります。1つ目は骨格が原因である骨格性受け口、2つ目は歯が生まれつき小さかったりもともとなかったりする歯性受け口です。遺伝以外には、以下の原因が考えられます。- 乳歯のむし歯
- 口呼吸
- 歯の形状や数の異常
- 歯の発育障害
- 歯周組織の病気
- 顎の発育障害
- 口腔習慣(指しゃぶりなど)
- 慢性の鼻咽腔疾患
上記のほかにも、噛み合わせの形や機能には舌・唇・頬・口蓋・喉の筋肉なども影響を与えると考えられています。そのため、舌を前に出したり唇を噛んだりする癖などが、受け口を引き起こす可能性があるでしょう。
受け口の矯正治療方法
- 受け口の矯正治療方法を教えてください。
- 小児の受け口の治療は6歳前後から開始するのが望ましいとされています。治療の内容は上顎の成長を促進し下顎の過剰発育を抑制することです。
そして、永久歯がすべて歯肉から生えだす13歳前後から口腔内に矯正装置を装着し、2年程かけて歯の移動を行います。
その後も噛み合わせが安定しているか観察を続けますが、歯列矯正の仕上げとして永久歯が生えそろった後に、矯正装置を装着し最終的な噛み合わせの治療を行う場合もあります。また、特に顎の大きさに問題ありと判断すると外科的矯正治療が必要になることもあるでしょう。
- 受け口の歯列矯正に使われる装置はどのようなものですか?
- 受け口の治療に使用される矯正装置は以下のものがあります。
- 上顎骨前方牽引装置(フェイスマスク)
- 急速拡大装置
- マルチブラケット装置
- マウスピース型矯正装置
受け口は、上顎骨の成長が悪いことが原因の場合が少なくなく、上顎骨前方牽引装置(フェイスマスク)や急速拡大装置を使って上顎を拡大する治療が行われます。
また、マルチブラケット装置は、歯の表面にブラケットという3mm程の装置を接着し、そこに直径0.5mm程のワイヤーを通して、ワイヤーの弾力性を利用して歯列矯正をするのです。
歯列矯正ではマウスピース型矯正装置もありますが、口元を大きく変えるには限界があるため、適応できるかどうかは患者さんそれぞれの状態によります。
- 受け口の歯列矯正は成人していてもできますか?
- 受け口の矯正治療は成人してからも可能です。
大人の方が歯列矯正をする場合は、本人の意志で受診しているため、治療に関しての理解や協力が得られやすいメリットがあります。また、子どもと違いすぐに本格的な治療が始められるでしょう。ただし、治療にあたっていくつか問題があります。- むし歯・修復歯・欠損歯が多いことがある
- 歯周病などの治療を優先しなければならない場合がある
- 歯を移動すると歯肉の退縮や骨の減少が起こることがある
- マウスピース型矯正装置
また、成人してからの矯正治療はマルチブラケット矯正だけではなくインビザライン(※)治療や外科的治療などがあります。なお、インビザライン治療はマルチブラケット治療よりも歯列弓の遠心移動を行うことが得意です。
ただし、矯正治療の正しい診断に基づいて、インビザライン治療の計画を作成できる矯正歯科医師が担当しないと実現できません。
(※)未承認医薬品であるため医薬品副作用被害救済制度の対象にならない可能性があります。
- 受け口の歯列矯正の流れを教えてください。
- 歯列矯正はカウンセリング・検査・診断・治療の流れで治療が進められます。検査を行うことで受け口の原因が解明され治療方針が決まるのです。
なお、歯列矯正では検査や診断が重要視されます。歯列矯正における検査の内容は4つ程あります。- 口腔内検査
- 顎の機能および咬合機能検査
- 顎のプロポーション均整検査
- 筋機能検査
矯正歯科の検査では頭部X線規格写真の撮影が行われます。顎のプロポーション検査は顎顔面の成長のバランスや成長方向・量の予測をする検査です。
- 矯正治療を受ける際に痛みは生じやすいですか?
- 歯列矯正中は歯の炎症反応により痛みが起こる場合があります。
歯列矯正が始まって約3~6時間後ぐらいから痛みがはじまり、約24~48時間後には痛みが大きくなると考えられます。この痛みは4~7日程持続するので患者さんにとっては大きな負担になってしまうでしょう。
近年、この痛みを緩和する研究が進められていています。痛みを緩和する方法に近赤外線治療やレーザー照射があります。歯根周囲に直接近赤外線やレーザーを照射するもので痛みの緩和効果が期待できるのです。
また、近赤外線を照射する細胞エネルギーが活性化され血流を増加させるため、歯の移動を早めて矯正治療を行う期間を短縮する効果もあり光加速矯正と呼ばれています。
なお、外科的矯正治療を受ける場合は、3日間程度腫れる方が多い傾向です。手術後のむくみは大体1〜2週間で解消する場合が多いでしょう。大半は2〜3ヵ月で痛みはほぼ治まります。
受け口の矯正治療を受ける際の注意点
- 受け口の治療の際の注意点を教えてください。
- 受け口の治療にはいくつか注意する点があります。歯列矯正は専門性の高い治療のため、矯正治療の認定医の資格がある歯科医院を選びましょう。その他にも治療に関するリスクがあります。
- 歯磨きが困難
- 治療期間が長い
- むし歯になるリスクがある
- 歯の状態により抜歯の可能性がある
- 後戻りの可能性がある
- 矯正装置の痛みがでることがある
- 場合によって矯正期間の延長がある
- 歯肉退縮が生じる可能性がある
- 歯根吸収もありえる
また、成長期の小児の場合は顎の発育が予測を超えると治療方針を変更する可能性があります。
- 治療を行う際は自費診療になりますか?
- 歯列矯正は基本的には保険適用がされず全額自己負担になります。
ただし、歯列矯正だけでは噛み合わせを正常に戻すことが不可能な顎変形症の手術や先天異常による咬合異常の歯列矯正は健康保険が適用される場合があります。なお、保険適用が可能な先天異常(唇顎口蓋裂・ダウン症など)の矯正治療は厚生労働大臣が認める指定の病院での治療が必要です。
なお、一般的な自費診療で口腔内全体を矯正治療した場合の総額は80万~100万円(税込)程になります。
- 受け口治療時に使用する装置のメンテナンス方法を教えてください。
- 受け口の治療はマルチブラケット装置を利用した治療がほとんどです。なお、マルチブラケット装置は外せないため治療期間中は装着したままで過ごすことになります。
そのため、歯磨きが難しいのではじめに歯磨き指導を行います。また、装着中は硬いものや大きい食べものは装置が外れる原因にもなるため注意が必要です。
なお、定期的なメンテナンスが必要なため、1~2ヵ月ごとに通院して通院回数は18~36回程になるため治療期間は約3年です。
編集部まとめ
受け口(下顎前突)の歯列矯正は、6〜8歳頃の成長期での開始が望ましいとされています。
成長期の子どもは骨格の成長を利用して噛み合わせを正常な位置に導くことが可能なためです。
ただし、成長期の子どもは成長とともに顎の状態が変化する場合もあるので、早期に歯列矯正を開始する必要がない場合は経過を観察しながら管理するケースがあります。
なお、癖が習慣になり受け口などの不正咬合になる場合があるので悪癖は早いうちに治すようにしましょう。
子どもに受け口などの気になる症状がある場合は、矯正専門の歯科医師が在籍している歯科医院に相談しましょう。
参考文献