正常な噛み合わせでは、噛んだときに上下の前歯が直接当たることはありません。もし、噛んだときに前歯が当たる場合は、歯並びや噛み合わせ、顎の位置などに異常があるかもしれません。歯科では「切端咬合(せったんこうごう)」と診断されます。
この記事では、前歯の噛み合わせが当たる原因や影響、改善するための治療方法について解説します。前歯が当たる症状に悩まされている方は参考にしてみてください。
前歯の噛み合わせが当たる原因
前歯の噛み合わせが当たる原因をわかりやすく説明します。
- 噛み合わせで前歯が当たるのはなぜですか?
- 噛み合わせで前歯が当たる主な原因は以下のようなものがあります。
- 上下の顎の位置の異常
- 前歯の歯並びの問題
- 下顎を前に出す癖
- 口呼吸をしている
これらの原因ひとつによって前歯が当たる噛み合わせになることもあれば、複数が重なることで起こることもあります。前歯の噛み合わせが当たる切端咬合の原因は、専門家でなければ正確に診断できないことから、気になる場合は矯正歯科で診察してもらいましょう。
- どのような歯並びだと噛み合わせた際に前歯があたりやすいですか?
- 下の歯列が前方に位置している歯並びは、切端咬合になりやすいです。正常な歯並びでは、上の前歯がやや前方に位置していて、噛んだときには下の前歯を少しだけ覆うような状態となります。
専門的には、上下の位置関係を以下のように表しています。
- オーバージェット:上下の歯の前後の位置関係
- オーバーバイト:上下の歯の垂直の位置関係
いずれも2〜3mm程度が正常とされていますが、切端咬合の場合では、この値は0mmとなっています。
- 顎のズレや姿勢の悪さが前歯の噛み合わせに関係するか教えてください
- 下の顎が標準よりも前方にズレていると、前歯の噛み合わせがあたりやすくなります。また、スマートフォンやパソコンの画面を見る際に猫背になっている場合は、結果として首が前に出て下の顎も突出します。これもまた切端咬合を誘発しやすくなるといえます。
前歯の噛み合わせが当たることによる影響
前歯の噛み合わせが当たることで、どのような実害が生じるのかを解説します。
- 噛み合わせが悪いことで前歯にどのような負担がかかりますか?
- 前歯はもともと垂直的に強く接触する歯ではないため、切端咬合が長く続くと前歯に過剰な負担がかかるようになります。結果として、前歯の寿命が短くなってしまいます。
- 前歯が強く当たることで歯のすり減りや痛みが生じることがありますか?
- 前歯も奥歯と同様、エナメル質という硬い組織に覆われていますが、硬いものが強くあたっていると、歯のすり減りや破損が生じます。
前歯は先端が薄くてもろいため、切端咬合では摩耗や欠け、亀裂などが生じやすいです。エナメル質が破損すると、冷たいものがキーンとしみる知覚過敏の症状が現れたり、むし歯を発症して感染による歯痛を招いたりすることもあります。 場合によっては、歯周組織にまで大きな負担がかかり、歯ぐきの腫れや痛みを引き起こすこともあるため十分な注意が必要です。
- 噛み合わせの問題が顎関節などに与える影響を教えてください
- 前歯が強く当たることで、顎関節がダメージを受けることもあります。切端咬合を放置して奥歯の噛み合わせが悪くなることもあり、顎関節に過剰な負担をかけてしまいます。
このような状態を放置していると、顎関節がカックン・ジャリジャリと音が鳴る、お口を開けると顎が痛い、お口を大きく開けられないなどの症状が認められたら、顎関節症を発症してしまうことがあります。
前歯の噛み合わせを改善する治療方法
前歯が強く当たる噛み合わせを改善する方法について解説します。
- 前歯の噛み合わせを整える治療方法にはどのようなものがありますか?
- 前歯の噛み合わせを整えるためには、歯列矯正が必要となります。
歯の表面にブラケットとワイヤーを固定するワイヤー矯正、透明な樹脂製のマウスピースを装着するマウスピース型矯正で、前歯の傾きや位置の異常を整えて、あたらないよう調整します。
軽度の切端咬合であれば、短期間で動かせる部分矯正で対応できることもあります。骨格的な異常に由来する切端咬合は、顎の骨を切除して、上下顎の位置関係を調整する外科的矯正治療が必要となる場合もあります。
- どのような歯並びの場合、矯正治療は有効ですか?
- 前歯の傾きや生え方の位置が悪いことで切端咬合となっている場合は、矯正治療が有効です。ワイヤー矯正やマウスピース型矯正で、前歯の歯並びを細かく調整します。
- 噛み合わせを整えるために前歯を削るケースがあれば教えてください
- 症状が軽くて歯並びにも大きな異常が見られない場合は、上下の前歯を少しずつ削ることで調整ができます。天然の歯質を削ってしまいますが、長期間の矯正治療を避けられるという点で、患者さんにとってメリットとなることもあります。
ただし、歯列矯正で前歯を削るケースがあります。
顎の骨が小さい、前歯が大きいという理由から、スペースがやや不足しているケースが該当します。前歯の側面を0.5mm程度削るディスキングやストリッピングを行います。前歯を削る範囲はエナメル質内にとどまることから、施術後に歯の寿命が縮まることはありません。
前歯の噛み合わせを整えるためのセルフケアと予防策
前歯の噛み合わせを悪くさせない方法を紹介します。
- 前歯の噛み合わせを悪化させないために気をつけるべき生活習慣は何ですか?
- 以下の生活習慣や癖には注意しましょう。
- 口呼吸や猫背
- 頬杖をつく癖
スマートフォンやパソコンの画面を見る時間が極端に長い方は、そのときの姿勢や下の顎の位置に注意してください。
- 日常生活で前歯の噛み合わせの負担を減らす方法を教えてください
- 歯ぎしり・食いしばり、歯牙接触癖は、前歯の噛み合わせや歯周組織、顎関節に負担があるため、できる限り控えるようにしましょう。
歯ぎしり・食いしばりがなかなか治らなければ、歯科医院でスプリント療法を受けるのもひとつの選択肢です。スプリント療法は、ナイトガードというマウスピースを就寝中に装着して、歯や顎関節にかかる負担を軽減する方法です。
歯牙接触癖は、日常生活で不必要に歯を接触させないこと、歯を離すことを意識するだけでも、前歯の噛み合わせの負担を減らすことにつながります。その他、食事のときに奥歯でしっかり噛むことでも前歯の噛み合わせの負担が減少します。
- 歯科検診を定期的に受けることで噛み合わせ悪化を防げますか?
- 患者さんの歯並び・噛み合わせの状態によっては、定期検診が予防にもつながります。歯科検診では前歯のすり減りや亀裂などをチェックしてもらえるため、原因の早期発見と対策ができるからです。
噛み合わせを悪くする口呼吸や悪い姿勢、歯ぎしりなどを指摘してもらうことで、噛み合わせの問題が悪化する前に対処できます。軽度の切端咬合であれば、歯を少しだけ削る咬合調整で、噛み合わせの問題が深刻化するのを防げます。
編集部まとめ
今回は、前歯の噛み合わせが当たる原因や影響、治療する方法について解説しました。上下の前歯が垂直的に強く当たる噛み合わせを切端咬合と呼び、前歯の咬耗や亀裂、欠けを引き起こす原因となります。重症化すると歯周組織に炎症を起こしたり、顎関節症を発症したりするリスクが高まるため十分な注意が必要です。
前歯の噛み合わせが当たる症状は、ワイヤー矯正やマウスピース型矯正といった矯正治療で根本から改善することが可能です。軽症ならその他にも対処法がいくつか用意されているので、まずは歯科医院に相談することが推奨されます。
参考文献