歯並びが悪いために見た目が気になる・嚙み合わせが心配といったお悩みはありませんか。
歯列矯正を考えているけれど、よくあるワイヤー矯正は目立つからと躊躇されている方も多いかもしれません。
この記事では目立たないワイヤー矯正装置についてその仕組みやメリット・デメリットについてご紹介します。お悩みを解決できる一助となれば幸いです。
ワイヤー矯正の仕組み
歯には弱い持続的な力が加わると歯を囲む骨の一方で、その骨が吸収され他方で骨が形成されるという性質があります。そのような歯の性質を利用して歯列を矯正するのがワイヤー矯正です。
一般的によく知られている仕組みとしては、歯の表面にブラケットという透明なボタンのような装置を装着します。
その後、ブラケットの間に金属の針金(ワイヤー)を通してつなぎます。
ワイヤーの引っ張る力(矯正力)によって少しずつ歯が正常な位置に移動し、歯並びが整っていくのです。
歯が動く過程をもう少し詳しく説明しましょう。歯の周りには、歯を支えている骨があり、骨と歯の根っこの部分には歯根膜という弾力のある薄い膜があります。
歯根膜には噛む時にかかる力による衝撃をやわらげるクッションのような役割があり、矯正装置をつけた状態で歯に力がかかるとこの歯根膜にも力が伝わります。
すると歯が動く方向側の歯根膜は縮み、反対側の歯根膜は引っ張られて引き延ばされ歯根膜に接する骨が変化していくのです。
歯根膜は一定の厚さを保つ性質があるため、縮んだ歯根膜は元に戻ろうとして骨を溶かす細胞の働きを活発化させます。伸びた歯根膜は元に戻ろうとして骨を作る細胞を作り出すのです。
このような働きを繰り返すことで、歯は徐々に動いていきます。
目立たないワイヤー矯正の種類
昔は金属製のブラケットが一般的であったために「ワイヤー矯正は目立つ」と思っている方は多いでしょう。
しかし近年では目立たない矯正装置がいろいろと開発されています。
ここでは、表側矯正・舌側矯正(裏側矯正)・ハーフリンガル矯正の3つをご紹介します。
目立ちにくいタイプの矯正装置を使用した表側矯正
表側矯正とは、歯の表側にブラケットと呼ばれるボタンを専用の接着剤で装着し、ブラケットの溝にワイヤーを通します。
ワイヤーによって生じる弱い力を利用して歯を正常な位置に移動させる一般的な矯正治療です。「ブラケット矯正」や「マルチブラケット矯正」ともいわれています。
ブラケットは、従来ステンレススチールやニッケルチタンなど銀色や金色で外見上目立つものが多かったのです。
しかし近年では、歯の色に近いセラミックやプラスチックでできたブラケットが使用されるようになり、見た目を気にせず矯正治療を行えるようになりました。
さらにブラケットの間に通すワイヤーも従来は金属製でしたが、ホワイトワイヤーという歯と同じ白色でコーティングされたワイヤーを用いることで、より目立ちにくくすることが可能となっています。
舌側矯正(裏側矯正)
舌側(ぜっそく)矯正(裏側矯正)とは、文字通り歯の裏側に矯正装置を取り付ける治療法です。
歯の裏側に装置を取り付けるので正面からは見えにくく、他の人から気づかれずに治療を行えます。
また装置が見えにくいため、装置に食べ物の引っかかりや汚れが見えにくく、唇の出っ張りが気にならないこともメリットになるでしょう。
しかし、メリットだけではなくデメリットもあります。表側矯正に比べると高度な技術を要するため費用が高くなります。
また装置は周りから見えませんが、歯磨きの際に自分でも装置に付着した汚れが見えにくいため、慣れるまで磨きにくいでしょう。
口腔内の清潔感を保つため、歯科衛生士から舌側矯正(裏側矯正)装置を装着した際の歯磨き指導を受けましょう。
ハーフリンガル矯正
歯の舌側に取り付ける矯正装置のことを「リンガルブラケット」といいます。
ハーフリンガル矯正は、目につきやすい上の歯にはリンガルブラケットすなわち舌側矯正装置を取り付けます。
あまり見えない下の歯には、表側矯正の装置を取り付けるいわばハイブリッドな矯正方法です。「コンビネーション矯正」と表示しているクリニックもあります。
多くの方は笑ったり話したりする時、下の歯は周りから見えにくい状態です。
ハーフリンガル矯正は、上の歯を舌側矯正(裏側矯正)にするため、周りから矯正装置が見えにくいです。また、上下を舌側矯正(裏側矯正)にするよりも費用を抑えられる点がメリットです。
デメリットとして舌が装置に当たるため、装置に慣れるまでは口腔内に違和感を覚えたり、痛みが出たりする場合があります。
目立たないワイヤー矯正のメリット
目立たないワイヤー矯正には、従来のワイヤー矯正にはなかった多くのメリットがあります。
- 矯正装置を気にせず笑顔になれる
- 幅広い症例に適用できる
- 矯正装置の取り外しが不要
- 効率的に歯を動かせる
ここでは4つご紹介します。
矯正装置を気にせず笑顔になれる
従来の矯正治療で使用されていたブラケットやワイヤーは金属製が主流でした。
そのため笑ったり食事中に大きな口を開けたりした時など、周りの人に正面から見られた時にギラギラとした金属が見えてしまっていました。
そのため「矯正治療は恥ずかしい」と躊躇される方は多かったのではないでしょうか。また、実際に治療をされていた方は無意識に笑う時など、手で口を隠してしまっていた方も多いでしょう。
矯正装置が気になる方は、セラミックやプラスチックなどのブラケットやホワイトワイヤーなどを選択するとよいでしょう。
歯と同じ色となっているため、笑った時にも矯正装置が目立ちにくいです。さまざまな矯正装置があるため、ご自身に合っている装置を選択することで、多くの方が矯正治療への第一歩を踏み出せるでしょう。
幅広い症例に適用できる
ワイヤー矯正が適応となるのは以下のような症例です。順番にご紹介しましょう。
- 叢生(そうせい):乱杭歯(らんぐいば)ともいわれる凸凹の歯並びで、歯のサイズに比べて顎が小さいために歯が重なるようにして生えている状態です。上の犬歯(糸切り歯)が歯並びから飛び出している状態が「八重歯」と呼ばれ日本では「可愛い」とされることもありますが、欧米では「ドラキュラの歯」として忌み嫌われます。
- 空隙歯列(くうげきしれつ):叢生とは反対に顎の大きさに対して歯が小さいために歯の間に隙間ができている状態です。俗語の「すきっ歯」という言葉で聞く方が多いかもしれません。
- 上顎前突(じょうがくぜんとつ):いわゆる「出っ歯」の状態です。上の歯が下の歯に対して前方に出ている歯並びで歯の位置に問題があるものと、顎のサイズに問題があるものに分類されます。上の前歯が前方に出ていたり下の前歯が後方に位置したりしている場合があります。また、上顎のサイズが大きく前に位置していたり下顎が小さく後方にあったりする方は上顎前突の状態でしょう。
- 下顎前突(かがくぜんとつ):反対咬合ともいわれ、俗語で「受け口」と呼ばれる噛み合わせの状態です。上顎前突と同様に歯の位置に由来するものと顎のサイズに由来するものに分けられます。
- 開咬:奥歯を噛んでいるにもかかわらず前歯が噛み合わずに開いてしまう状態です。オープンバイトともいわれます。前歯で食物を噛み切ることがしにくく発音が不明瞭になることもあります。
上記のような歯の状態を持ち、悩んでいる方は、一度目立たないワイヤー矯正を検討してみてはいかがでしょうか。
矯正装置の取り外しが不要
矯正治療には年単位の期間を要すため、その間に結婚式など大切なイベントを迎えることもあるでしょう。
従来のメタルワイヤーだと目立ってしまうため、一時的に装置を外したいといった時には取り外しも可能ですが、費用もかかり治療が中断されることになってしまいます。
その点、目立たないホワイトワイヤー矯正は矯正装置を取り外すことなく治療を継続できるのが魅力の一つです。
効率的に歯を動かせる
ワイヤー矯正は、骨を溶かす細胞と新たに作られる細胞の仕組みを利用します。ワイヤーの力が歯に直接伝わるため、無理な力をかけることなく効率的に歯を動かすことが可能です。
歯の移動速度が速く、動かしたい方向に動かせられます。またワイヤーを調整することで、細かい動かし方にも対応できます。 ワイヤー矯正は矯正治療の中でも歴史があり、症例数も多く治療効果が実証されている治療方法です。
目立つワイヤー矯正のメリット
上では目立たないワイヤー矯正のメリットをお話してきましたが、従来のワイヤー矯正も同様の効果が得られます。
従来のワイヤー矯正は大学病院などの臨床経験が豊富であることや、治療費を抑えやすい等のメリットがありますので、治療の際は医師に相談してください。
目立たないワイヤー矯正は部分矯正にも対応できる
部分矯正とはすべての歯にブラケットとワイヤーを装着するのではなく、気になる部分や治療が必要な部分にだけ装置をつける治療法です。
装置を部分的に装着するので口腔内の違和感が少なく短期間で治療できる・費用が安く済ませられるなどのメリットがあります。
部分矯正の費用相場は、10〜40万円(税込)ほどだそうです。参考にしてみてください。
しかし、歯や顎の状態によってはすべての歯に装置が必要と判断されることがあるので、歯科医師とよく相談することが大切です。
その他、全体矯正と比べると思うような完成度にならなかったり、治療後の安定性が劣る可能性があります。ご自身に合っている矯正方法を把握し、適切な治療を受けましょう。
目立たないワイヤー矯正のデメリット
メリットの多い目立たないワイヤー矯正ですが、デメリットもあります。
- 治療中に痛みや不快感が出ることがある
- 歯磨きがしづらいと感じることがある
- ワイヤーの塗装が剥げる可能性がある
- 通常のワイヤー矯正より治療期間が長くなる可能性がある
それぞれ詳しくみていきましょう。
治療中に痛みや不快感が出ることがある
矯正装置は異物であるため、口の中に入ると少なからず痛みや不快感が発生します。また、歯列が整う過程で歯が動く時にも痛みを伴います。
しかし、装置による違和感は慣れてくれば緩和し、歯の動きに伴う痛みも4〜5日をピークとして1週間以内には改善することが多いです。
歯の痛みや不快感が気になるようなら、歯科医院へ受診し歯科医師と相談してください。
歯磨きがしづらいと感じることがある
治療中は装置をつけているために、装置と歯の間に食べかすが引っかかったり汚れが溜まったりしやすくなります。
装置が歯の裏側にある場合には見えにくいため、歯磨きがしにくいと感じることがあるでしょう。むし歯や歯周病の予防のためにも清潔を保つことは重要です。
歯科医師や歯科衛生士から歯磨き指導を受けて、ワイヤー矯正中でも歯の清潔を保ちましょう。
ワイヤーの塗装が剥げる可能性がある
目立ちにくいワイヤーは歯の色に近い白色に塗装されていることが多いため、時間の経過とともに塗装が剥げてまだらになることがあります。
ワイヤー自体の素材の工夫で色の変化が少ないものもあります。ワイヤーの塗装が気になる方は、矯正歯科で歯科医師に相談してみましょう。
通常のワイヤー矯正より治療期間が長くなる可能性がある
目立たないワイヤー矯正は通常のワイヤー矯正に比べると、治療が困難で高度な技術を要するため、治療期間が長くなる可能性があります。
しかし、現在は技術をきちんと身につけた歯科医師であれば、目立たないワイヤー矯正であっても通常のワイヤー矯正でも治療期間に変わりはないでしょう。
目立つワイヤー矯正のデメリット
一方で従来のワイヤー矯正のデメリットは、目立ちやすさが一番にあげられます。
接客業などの人前で目立つ職種の方であれば、歯列矯正をする場合目立たないワイヤー矯正を勧められる可能性があります。
目立たないワイヤー矯正の費用相場と治療期間の目安
ワイヤー矯正も目立たないタイプの治療法が登場し、治療への一歩を踏み出しやすくなりました。
しかし、矯正治療は自費診療で保険が適応されず患者さんそれぞれの歯や顎の状態によって治療方針も異なるため一律の料金がありません。
矯正治療の中でも気になるのは、費用と治療期間ではないでしょうか。それぞれの費用の目安と治療期間をお伝えします。
実際の費用は診察やカウンセリング を受けてみてのそれぞれの患者さんの状態・治療方法・使用する装置によっても異なるので、歯科医師によく相談するとよいでしょう。
目立ちにくいタイプの矯正装置を使用した表側矯正
表側矯正の費用は、マルチブラケットを使用した全体的な矯正では実際の治療費が50〜80万円(税込)程度です。
カウンセリング・検査・調整にかかる費用等を合わせた費用の総額はおよそ70〜120万円(税込)です。治療期間は2〜3年かかります。
舌側矯正(裏側矯正)
舌側矯正(裏側矯正)の治療費は、100〜150万円(税込)程度です。カウンセリング ・検査・調整費用等も必要になるため表側矯正に比べて高額になります。
治療期間は表側矯正と変わらず2〜3年です。
ハーフリンガル矯正
ハーフリンガル矯正の治療費は、90〜130万円(税込)です。その他の費用も必要ですが、上下の舌側矯正(裏側矯正)よりは費用を抑えられます。
治療期間は2〜3年です。
まとめ
目立たないワイヤー矯正装置についての情報をお伝えしました。
ワイヤー矯正は目立つからと治療に躊躇していた方も、正しい知識を得ることで新しい明日への一歩を踏み出していただけるのではないでしょうか。
また、歯列矯正は自由診療であるため病院やクリニックによって料金が違うこともわかりました。
事前に治療内容や料金について歯科医師とよく相談し、十分に納得したうえで治療を受けることが大切です。
目立たないワイヤー矯正で素敵な笑顔と輝く自信を手に入れましょう。
参考文献