ふと鏡を見たとき、自身の前歯の重なりが気になってしまう方もいるでしょう。
重なった前歯は食事や歯磨きのときにも、煩わしさを感じさせる要素になっているかもしれません。
前歯以外の歯並びが正常だとしたら、ぜひとも前歯だけの部分矯正も検討してみましょう。
歯列矯正は保険適用外となり、費用も高額になるケースもありますが、できる限り費用を抑えられるのが部分矯正の魅力です。
本記事では部分矯正の特徴・費用・種類などの基本的な情報を紹介しつつ、治療対象となる前歯の重なりについても解説します。
前歯の重なりを放置するリスク
前歯が重なっている状態の生え方を叢生(そうせい)といい、重なっている状態の歯を乱ぐい歯といいます。
前歯が重なっている症状に限りませんが、歯並びに問題があると噛み合わせにも影響が及ぶでしょう。
噛み合わせが悪いと、食事の際に食べ物をうまく咀嚼することができません。
さらに噛み砕かれなかった食べ物がそのまま胃腸に送られることで消化不良を起こし、体調不良にもつながります。
また、歯磨きの際にも磨き残しが多く残り、むし歯・歯槽膿漏・口臭の原因にもなるのです。
その他にも顎関節への悪影響や、見た目のコンプレックスが生じる可能性もあります。
歯並びを部分的に治療する部分矯正の特徴
歯並びを部分的に治療する部分矯正の特徴として、以下のような点が挙げられます。
- 治療範囲が限られている
- 費用が抑えられる
- 治療期間が短くなりやすい
上記のように、全体的な歯列矯正より治療範囲が限られている分、費用・期間も抑えられるのが部分矯正の特徴でしょう。
ここからはさらに、上記3点の特徴の詳細を解説していきます。
全体矯正との違いにも触れていくので、重なった前歯の部分矯正を検討する際の判断基準としていただければ幸いです。
治療範囲が限られている
重なった前歯以外が対象になるケースにもいえることですが、歯列全体ではなく一部分だけを矯正する治療を部分矯正と呼びます。
人間の永久歯は、親知らずを含めない場合は28本です(親知らずを含めると32本)。
全体矯正を行うとすると、上下のいずれかだけでもブラケットやワイヤーを16本の歯に装着することになります。
部分矯正は歯列の一部だけに器具を装着するケースが多いので、それに応じて治療範囲も限られるのです。
歯列全体に装着した矯正器具に異物感を抱く方でも、部分矯正だと気にならない可能性があるでしょう。
費用が抑えられる
治療範囲が限られる部分矯正のメリットは、全体矯正と比べて費用が抑えられるという点です。
これは全体矯正より使用する器具の量が少なく、治療の難易度も下がるからです。
歯科医院にもよりますが全体矯正を行う際の費用は、保険適用外で900,000円(税込)以上になるケースもあります。
ですが部分矯正を同じ歯科医院で行う場合、保険適用外だとしても半分程度にまで抑えることも可能なのです。
歯列矯正と聞くと高額な費用をイメージされる方も多いですが、部分矯正の場合はその限りではありません。
気になる部分だけを気軽に歯列矯正することも可能です。
治療期間が短くなりやすい
全体矯正の場合は完了までに2〜3年程度を要するのが一般的ですが、部分矯正の場合はそれよりも治療期間が短くなりやすい傾向にあります。
歯列矯正では、医療器具(矯正装置)で歯に力を加えます。
加えられた力は歯の土台でもある歯槽骨が吸収され、その後に歯が移動を始めるのです。
全体矯正でも期間を短くしたいと思われる方は多いでしょうが、一気に歯に力を加えても歯槽骨が受け止め切れません。
結果として、歯や歯槽骨がダメージを負うことになるのです。以上の点から歯列矯正は時間をかけて、ゆっくりと歯に力を加える必要があります。
ただ、歯列矯正範囲が限られている場合だと、力がかかる歯槽骨・移動する歯が少なく済みます。
結果として、部分矯正は全体矯正よりも治療期間が短くなりやすいのです。
部分矯正で前歯の重なりを治療できる症例
部分矯正が可能な前歯の重なりは、以下のケースとなります。
- 軽度の歯並びの凸凹(叢生)
- 軽度の出っ歯
- 軽度のすきっ歯
- 歯列矯正後の後戻り
どういった状態の前歯でも歯列矯正できるというわけではありませんが、上記のケースに当てはまっている場合は治療が可能です。
ここからは、1つ1つのケースについて詳しく解説していきましょう。今後の部分治療の判断の目安ともなるので、自身の前歯の状態とともに確認してください。
軽度の歯並びの凸凹(叢生)
歯並びが凸凹としていても、その状態が軽度なら叢生と呼び、部分矯正も可能となっています。
歯列矯正ではブラケットという器具を歯に装着し、そこにワイヤーを通して力を加え続けるのが一般的です。
歯並びの状態が軽度であるか否かは自身でも判断がしづらいかもしれないので、前歯の重なりなどが気になる場合は歯科医師に相談してください。
軽度の出っ歯
横顔などのコンプレックスの原因となる出っ歯ですが、軽度であれば部分矯正が可能となっています。
親知らずを含めた場合、片側の歯の総数は16本です。
そのうち左右両端から生える5本ずつの歯は、部分矯正の適応外となっています。
部分矯正で適応される範囲は、犬歯と呼ばれる歯までの6本の歯となります。
出っ歯は犬歯が前面に突出している状態を指しますが、この状態が軽度の場合だと部分矯正が可能です。
なお、部分矯正が可能な状態の出っ歯だとしても、突出している犬歯の本数で費用・期間に変化が生じる点には注意しましょう。
軽度のすきっ歯
すきっ歯は歯と歯の間に隙間が生じている状態ですが、医学的には空隙歯列と呼ばれています。
フランスでは幸運の歯と呼ばれているものの、日本ではすきっ歯を気にされる方も少なくないでしょう。
叢生状態や出っ歯と同じように、すきっ歯も軽度であれば部分矯正が可能となっています。
歯と歯の間に生じている隙間の幅が狭ければ狭い程、部分矯正も可能になります。
軽度・重度の判断は歯科医師による検査が必要となるので、歯科医院の受診を検討しましょう。
歯列矯正後の後戻り
歯列矯正効果は永久に持続することが一般的なものの、歯列矯正後に歯並びがもとに戻ってしまうケースもあります。
これを後戻りと呼びますが、あらためて歯列矯正治療を行うことは可能です。
歯列矯正治療ではブラケット・ワイヤー・マウスピースを装着しますが、治療が完了すれば取り外すことになります。
歯列矯正は歯槽骨を通して歯を移動させる治療ですが、完了直後は歯槽骨が安定していません。
その場合は歯槽骨が再び歯を移動させ、歯列矯正前の歯並びに戻ってしまうのです。
なお、以下のような物事が後戻りの原因とされています。
- 保定装置(リテーナー)の不適切な使用
- 姿勢・歯ぎしり・口呼吸
- 舌を押し出す癖・強い噛み癖
上記が原因となって後戻りが起きることもありますが、早期に対応すればあらためての歯列矯正も可能です。
歯列矯正後の歯並びに違和感を抱いた場合は、歯列矯正治療を行った歯科医院になるべく早く相談しましょう。
部分矯正で前歯の重なりを治療できない症例
前項では部分矯正可能な前歯の重なりを紹介しましたが、以下のケースであれば残念ながら治療を行えません。
- 前歯の重なりに隙間がない
- 歯並びの異常が重度である
- 噛み合わせに問題がある
これらのケースは部分矯正が困難とされていますが、歯並びの状態は最終的には歯科医師が判断します。
歯科医院で精密検査を受けることを前提に、以下を読み進めていただければ幸いです。
前歯の重なりに隙間がない
歯列矯正で行う治療法はいくつかありますが、重なっている歯に隙間がなければ、いずれの治療法も行えません。
例えばブラケットやワイヤーを装着する治療法だと歯や歯槽骨に加えられる力に限界があるので、隙間がない程の歯の重なりに対しては効果が期待できないでしょう。
歯科医院によっては、歯列矯正対象となる歯を少しずつ削って動かすIPRという治療法を採用しますが、1本の歯につき片側0.25mm・両側0.5mmまでが限界とされています。
隙間がない程に重なっている歯を歯列矯正する場合は、その範囲を超える可能性が高いので、IPRを行えないのが現状です。
歯並びの異常が重度である
歯並びの異常が重度である場合、すきっ歯や出っ歯の状態も深刻である場合がほとんどです。
歯科医院では、上下の前歯の中心が左右非対称だと、歯並びの異常が重度だと判断します。
こういった状態は、歯並びよりも骨格そのものに問題がある可能性が高いでしょう。
部分矯正は骨格に対して効果が期待できないため、おすすめできません。
ただ、全体矯正であれば治療可能なケースもあるので、そちらを検討してください。
噛み合わせに問題がある
歯列矯正を検討している患者さんのなかには、噛み合わせに問題がある方もいます。
特に重なった前歯の部分矯正である場合、奥歯の噛み合わせには問題がないものの、前歯が開いているケースが多いでしょう。
この状態の噛み合わせを開咬というのですが、患者さんの噛み合わせに開咬の傾向が見られる場合は、部分矯正は困難だと判断せざるを得ません。
開咬状態の歯列は、前歯と奥歯の両方を治療しなければならないからです。
その治療は部分矯正では行えません。
ただ、全体矯正・外科手術(外科的矯正治療)で開咬状態を治療できるケースもあるので、患者さんにはそちらの方針を検討していただくことになります。
ただし、部分矯正を行えるか否かは歯列の状態に大きく左右されます。
隙間がない程に歯が重なっている、重度な歯並びの異常、噛み合わせがかなり深刻である場合は部分矯正を行えません。
その場合は全体矯正・外科手術を行うことになります。
部分矯正で前歯の重なりを治療する場合の歯列矯正の種類・費用
自身の前歯が部分矯正できるか否かはさておき、それ以上に種類・費用を気にされるかもしれません。
部分矯正で行う治療方法はいくつかありますが、それによって費用も変わるでしょう。
まずは、以下の治療法を確認してください。
- 表側矯正
- 裏側矯正(舌側矯正)
- マウスピース型矯正
それぞれの治療法で費用は変わり、完了までに要する期間にも変化が生じるでしょう。
さらに痛み・違和感も変わり、治療法によっては見た目を気にしてしまう方もいます。
ここからは各治療法について費用も含めて解説するので、自身に適した歯列矯正を見極めていきましょう。
表側矯正
歯列矯正と聞くと、表側矯正が最初に浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
表側矯正はブラケットと呼ばれる器具を歯の表側に装着し、ワイヤーを通して力を加える治療法です。
全体矯正で行われるイメージが強いかもしれませんが、重なった前歯などに対する部分矯正でも効果が期待できます。
かつては金属製の器具しか選べなかったものの、現在ではセラミック製やプラスチック製の器具も選択可能なので、見た目を気にせずに美しい口元を実現できるでしょう。
一般的な費用相場は、保険適用外で300,000円〜600,000円(税込)とされています。
裏側矯正(舌側矯正)
歴史ある表側治療とは別に、医療の発展とともに裏側矯正(舌側矯正)も実現されました。
なお、裏側矯正(舌側矯正)は舌側矯正・リンガル矯正とも呼ばれます。
表側治療と同じくブラケット・ワイヤーを使用しますが、ブラケットの装着先が歯の裏側であることが大きな特徴です。
表側治療以上に見た目を気にしないで済むようになります。
ただ、歯の裏側には表側以上に凸凹があり、器具の装着にも表側治療以上に歯科医師の技量が求められるでしょう。
それに応じて費用も高額になります。
歯科医院によっても変わりますが、費用の相場は保険適用外で400,000円〜700,000円(税込)だと考えてください。
マウスピース型矯正
患者さんの歯の型を取ってから作られるマウスピース治療は、部分矯正でも採用されます。
マウスピースは透明色である場合がほとんどなので、見た目を気にせず使用できるでしょう。
ただ、マウスピースの脱着は個人の判断で行うことになります。
一般的に毎日20時間以上装着することで効果が見込めるので、自己管理が肝心になります。
マウスピースで部分矯正を試みる際は、歯科医師の指導をよく聞くようにしましょう。
なお、一般的な費用の相場は100,000円〜400,000円(税込)となっています。
部分矯正で前歯の重なりを治療する場合の治療期間・通院頻度
部分矯正で前歯の重なりを治療する場合の治療期間・通院頻度は、治療法によって異なります。
ブラケットとワイヤーを用いる表側矯正・裏側矯正(舌側矯正)だと、治療完了までに3〜6ヵ月を要するでしょう。
通院頻度は、多くても2週間に1度です。
マウスピース型矯正の場合、3〜12ヵ月の治療期間が見込まれます。
表側矯正・裏側矯正(舌側矯正)よりも期間が長くなるのは自己管理の側面が大きいからですが、その代わり通院頻度は多くても1ヵ月に1度で済みます。
どの治療法でも歯列矯正したい部分の歯並びの状態によって期間が変わるので、まずは歯科医院で検査を受けてみましょう。
まとめ
重なった前歯が気になるものの、なかなか部分矯正を受ける決断ができない日々が続いたかもしれません。
ただ、部分矯正は費用・期間といった面で、全体矯正よりハードルが低いことがおわかりいただけたと思います。
ここからは、勇気を出して一歩を踏み出すだけです。
まずは自身に合いそうな歯科医院を見つけて、検査を受けてみましょう。
そこから、理想的な笑顔であふれる日々が始まっていくのです。
参考文献