歯並びや噛み合わせが悪い状態を不正咬合(ふせいこうごう)と呼びます。その種類はさまざまで、見た目も噛み合わせも個々の症例で大きく異なります。不正咬合を放置した場合の身体への影響もその種類によって変わってくる点に注意が必要です。ここではそんな悪い歯並びである不正咬合の種類と身体への影響について解説します。自分の悪い歯並びがどの種類に当てはまるのか、また、矯正治療で治す方法について知りたい人は参考にしてみてください。
不正咬合について
はじめに、不正咬合の基本事項を確認しておきましょう。
- 不正咬合とはなんですか?
- 不正咬合とは、歯が正しく並んでおらず、噛み合わせに問題がある状態を指します。不正咬合は、前歯や奥歯が重なっていたり、隙間があったりする場合、または上下の歯が正しく噛み合わない場合に見られます。はじめから理想的な歯並び・噛み合わせを持っている人は稀であり、ほとんどの人は何らかの不正咬合を抱えているといえます。もちろん、ひと言で不正咬合といっても程度に差があることから、一見するときれいな歯並びに見えることも珍しくありません。
- どうして不正咬合になってしまうのですか?
- 不正咬合は、遺伝的要因と環境的要因の両方が関与しています。遺伝的要因では、親御から引き継ぐ骨格や歯の大きさ、形状が影響します。環境的要因には、指しゃぶりや長期間の哺乳瓶使用、舌の位置異常などの習慣が含まれます。さらに、むし歯や早期の乳歯の喪失が原因で歯の位置がずれることもあります。これらの要因が重なることで、患者さんのお口の中の噛み合わせが乱れ、不正咬合が生じます。お子さんの成長過程でこれらのリスクを減らすためには、定期的な歯科検診と適切な指導が重要です。
悪い歯並び(不正咬合)の種類について
悪い歯並びである不正咬合には、いろいろな種類があります。ここでは代表的な6つの不正咬合について解説します。
- 叢生(乱ぐい歯)とはどのような状態ですか?
- 叢生(乱ぐい歯)とは、歯が重なり合って不規則に生えている状態を指します。この状態は、顎の大きさと歯の大きさが合わないために起こります。具体的には、顎が小さくて歯が並ぶスペースが足りない場合や、歯が大きくて正常な位置に並びきれない場合に生じます。その他、歯並びに悪影響を及ぼす口腔習癖によっても叢生(乱ぐい歯)が誘発されることもあります。このような噛み合わせの乱れは、見た目の問題だけでなく、歯の清掃が難しくなるため、むし歯や歯周病のリスクが高まります。
- 下顎前突(受け口)とはどのような状態ですか?
- 下顎前突(受け口)とは、下顎が前に突出しており、上下の前歯が逆に噛み合う状態を指します。通常、うえの前歯が下の前歯を覆う形で噛み合うのが正常な噛み合わせですが、下顎前突の場合はこの逆になります。これは、遺伝的要因や成長期の不適切なお口の使い方などが原因となります。
- 上顎前突(出っ歯)について教えてください
- 上顎前突(出っ歯)とは、上顎の前歯が前方に突出し、下顎の前歯と噛み合わない状態を指します。この状態は、遺伝的要因や指しゃぶり、口呼吸などの習慣が原因で発生します。また、顎の成長バランスが崩れることで、上顎前突が進行することがあります。
- 空隙歯列(すきっ歯)とはどのような状態ですか?
- 空隙歯列(すきっ歯)とは、歯と歯の間に異常な隙間がある状態を指します。この状態は、顎の大きさと歯のサイズの不均衡や、歯の欠如、舌癖などが原因で生じます。
空隙歯列(すきっ歯)のなかでも上顎の前歯の真んなかに大きな隙間がある状態を正中離開(せいちゅうりかい)といいます。この状態も同様に、遺伝的要因や習慣的な舌の位置、指しゃぶりなどが原因で発生します。正中離開は見た目の違和感を与えることがあり、患者さんが自己意識を強く持つ原因になることがあります。
- 過蓋咬合(かがいこうごう)とはどのような状態ですか?
- 過蓋咬合(かがいこうごう)とは、上顎の歯列が下顎の歯列を大きく覆ってしまう状態を指します。通常の噛み合わせでは、うえの前歯がわずかに下の前歯を覆う程度ですが、過蓋咬合ではこの覆いが過度になり、下の前歯が見えなくなることがあります。この状態は、歯や顎の成長バランスの不均衡や遺伝的要因など、が原因で発生します。
- 開咬(かいこう)とはどのような状態ですか?
- 開咬(かいこう)とは、上下の歯を噛み合わせた際に前歯や奥歯の一部が接触せず、隙間ができている状態を指します。この状態は、前歯や奥歯が正しく噛み合わず、食べ物をうまく噛めない症状に悩まされやすいです。開咬の主な原因には、遺伝的要因や指しゃぶり、舌を押し出す癖、長期間の口呼吸などが含まれます。
悪い歯並び(不正咬合)が身体に与える影響について
続いて、悪い歯並び(不正咬合)が身体にどのような影響を与えるのかについて解説します。
- 不正咬合だとどのようなリスクや身体への影響がありますか?
- 不正咬合を放置すると、次に挙げるリスクや身体への影響で悩まされることがあります。
◎口元のコンプレックスになる
不正咬合は、見た目の問題として患者さんに大きなコンプレックスを与えることがあります。歯並びが悪いと、笑顔に自信を持てず、人前で話すのを避けるようになることもあります。特にお子さんの場合、学校生活や友人関係に影響を及ぼし、自己肯定感の低下につながることもあります。
◎口臭が強くなる
不正咬合は、歯と歯の間に食べ物が詰まりやすく、細菌が繁殖しやすい環境を作ります。これにより、口臭が強くなる原因となります。適切な噛み合わせができないことで、口内の衛生状態が悪化し、持続的な口臭に悩まされることがあります。
◎むし歯・歯周病のリスクが高まる
歯並びが悪いと、歯ブラシが届きにくい箇所が増え、汚れが残りやすくなります。これにより、むし歯や歯周病のリスクが高まります。特に、お子さんの場合、正しい歯磨き習慣を身につけることが難しく、親御さんの監督が重要になります。
◎歯の摩耗や欠けが起こりやすい
不正咬合は、歯に不均等な力がかかるため、歯の摩耗や欠けが起こりやすくなります。適切な噛み合わせがないことで、歯の表面がすり減ったり、ひびが入ったりすることがあります。これは、患者さんの歯の寿命を短くし、早期の治療が必要となるケースも少なくありません。
◎顎関節症になる
不正咬合は、顎関節に過度な負担をかけることがあります。この結果、顎関節症を引き起こし、顎の痛みや開口時の異音、頭痛などの症状が現れることがあります。顎関節症は、日常生活に大きな影響を及ぼし、早期の治療が求められます。
- 不正咬合の治療方法について教えてください
- 不正咬合の治療方法は、患者さんの年齢や状態に応じてさまざまです。まず、小児矯正は、お子さんの成長期を利用して、顎の発育を促しながら歯並びを整える方法です。
次に、歯列矯正には、ワイヤー矯正とマウスピース型矯正があります。ワイヤー矯正は、歯にブラケットとワイヤーを装着して歯を動かす方法で、複雑な噛み合わせの問題にも対応可能です。マウスピース型矯正は、透明なマウスピースを使用して、目立たずに歯を矯正する方法です。 外科矯正は、顎の位置や形を手術によって調整する方法で、重度の不正咬合に適しています。患者さんに適した治療方法を選ぶためには、専門の歯科医師に相談し、適切な診断と治療計画を立てることが重要です。
編集部まとめ
今回は、不正咬合の種類と身体への影響について解説しました。悪い歯並びである不正咬合には、叢生・下顎骨・上顎前突・空隙歯列・過蓋咬合・開咬など、さまざまな種類があり、それぞれ症状と原因が異なります。身体に与える影響も不正咬合の種類によって変わる点にも注意が必要です。そんな不正咬合を改善したい場合は、歯科医院での治療を受けるとよいでしょう。子どもの場合は小児矯正が適していますし、大人の場合は症状に応じて歯列矯正や外科矯正などの選択肢が用意されています。いずれにしても自分に合った矯正治療を選ぶことが大切です。
参考文献