歯科矯正治療とは、歯並びを整える治療です。歯並びが悪い為、様々な病気にかかったり、顔立ちが気になったりします。
歯の矯正治療を行うことで、自分が望むきれいな歯並びになるだけでなく、様々な効果が期待できます。
むし歯や歯周病を予防したり、食べ物がしっかりと噛めるようになったり、顔立ちが整ったりという効果です。
良い効果が期待できる矯正治療ですが、歯科矯正治療はどのくらいの期間で効果が実感できるのでしょうか?
この記事では、歯列矯正治療は1ヶ月でどのくらい実感できるのか、期間や動きやすい人の特徴について詳しく解説します。
歯列矯正治療は1ヶ月でどのくらい実感できる?
矯正治療における歯の動きは個人差がありますが、一般的には以下のようなプロセスを経ています。
- 矯正力の適用: 矯正装置による圧力が歯にかかり、この圧力によって歯根は歯槽骨に押し付けられ、炎症反応が起こる
- 骨吸収: 炎症反応により、歯根の進もうとする方向の既存の骨が溶ける
- 骨形成: 反対側では新しい骨が生成される
- 歯根の移動: 骨吸収と骨形成の結果、歯根は移動する
このプロセスは一般的に3〜4週間の周期で行われるでしょう。
成人の場合、1回の周期で歯根は最大で約0.5mm程度しか動かないことがあります。矯正治療は生体に適切なスピードで進行するため、痛みが強く出ることは少ないです。
ただし、矯正治療方法や個人の感じ方によっては、1ヶ月経過すると歯並びの変化を感じるかもしれません。しかし、実際には歯冠部分(目に見える歯の頭の部分)が移動しているだけで、歯根部分が移動しているわけではありません。
マウスピース型の矯正装置(例:インビザライン)では、1つのマウスピースで約0.25mmの歯冠の移動が設定されています。1週間ごとに新しいマウスピースに交換すると、4週間で最大1mmほどの歯の移動が可能です。
要するに、1ヶ月の間に歯冠部分での移動は感じられるかもしれませんが、歯根部分の移動は0.5mm以下と考えられます。
歯列矯正治療にかかる期間はどのくらい?
歯列矯正治療にかかる期間はどのくらいでしょうか?期間は歯科矯正治療の種類によって異なります。
- ワイヤー矯正の場合
- 裏側(舌側)矯正の場合
- 部分矯正の場合
- マウスピース型矯正の場合
上記について詳しく解説していきます。
ワイヤー矯正の場合
ワイヤー矯正は、金属製のワイヤーを使用して歯の位置を調整する一般的な歯列矯正方法です。
この治療法は矯正専門医が、歯にブラケットと呼ばれる小さな金属、またはセラミックの部品を取り付けます。そのブラケットにワイヤーを通し、歯に軽い圧力をかけるやり方です。
ワイヤーが歯に圧力をかけることで、歯根は骨に押し付けられ、その周囲の組織に炎症反応が起こる場合があります。
この炎症反応により、歯根が進もうとする方向の既存の骨が一時的に溶けるのです。
同時に、反対側では新しい骨が形成されます。
歯根の移動は時間をかけて行われ、ワイヤーを定期的に調整し、新しい位置に合わせて調節されます。
治療期間は個人の状況や治療目標によって異なり、一般的には数ヶ月から数年かかるでしょう。
最初の数週間は、歯に矯正力がかかるために炎症反応や軽い違和感を感じることがあります。しかし、治療が進むにつれて歯の位置が徐々に改善されていくでしょう。
裏側(舌側)矯正の場合
矯正治療をしていることがわかりにくいという要望に対して、裏側(舌側)矯正が適しています。
裏側(舌側)矯正は、下の歯に外側にワイヤー矯正装置が装着される方法であり、上下の舌側装置と比べても目立ちにくいです。
特に出っ歯の傾向がある場合、下の歯は上の歯に隠れていることが多く、他人にはほとんど見えません。前歯を後ろに引っ込めたい方に適しています。
しかし、裏側(舌側)矯正の施術には時間がかかります。歯の裏側は狭く矯正装置も小さいため、調整に時間がかかるのです。
通常、裏側(舌側)矯正の処置時間は約45分程度となります。また、患者さんは長時間口を開ける必要があり、休みながら処置が行われます。 裏側矯正の治療期間は、個人の症状や治療目標によって異なりますが、軽度な歯並びの問題の場合は約1年から1年半の期間で治療を終えるでしょう。
部分矯正の場合
歯並びの症状が軽度であり、全ての歯を矯正する治療に抵抗がある方には、部分矯正が選択肢として考えられます。
部分矯正では、具体的に気になる部分の歯のみを治療することができます。他の歯には触れずに、特定の部分だけを改善するため効率的です。
通常、前歯6本のみに矯正装置を装着することが一般的で、反作用を最小限に抑えるために限定的な範囲での歯の移動となります。
部分矯正は平均して6か月程度の短い治療期間で終了することが多いです。歯数や移動量が少ないため、大幅な歯並びの変化を必要としない場合に適しています。
ただし、この治療期間で改善が見込めない場合は、部分矯正の適応とはならない場合もあります。 部分矯正は矯正治療費を抑え、矯正装置や技術にかかる費用が少ないため、患者さんの負担が軽減されるでしょう。
部分矯正には適応症があり、上下の前歯4本部分を改善するための治療となります。
かみ合わせに問題がある場合や、奥歯までの歯の移動が必要なケースには適していません。
部分矯正は適応症や治療目標によっては、他の治療法が必要となる場合もあります。矯正歯科医との相談や詳細な検査を受けることで、最適な治療方法を選ぶことが重要です。
マウスピース型矯正の場合
マウスピース型矯正装置(アライナー)は、ワイヤー型矯正装置とは異なる治療方法です。
この方法では、プラスティック製のマウスピース(アライナー)を7〜10日ごとに交換しながら歯列矯正を進めます。
アライナーは個々の歯列に合わせて作られており、痛みが少なく、目立ちづらい上に取り外しも可能です。しかし、患者さん自身が装置の管理をする必要がありますし、適応症にも限定があります。
インビザラインでは、1〜2週間ごとに交換するマウスピースを使用するでしょう。
事前に行われたシミュレーションに基づいて、毎回少しずつ歯を動かすようにマウスピースの形状が変更されます。
マウスピースと歯の間に生じたすきまによって、歯が動くメカニズムです。このサイクルを繰り返すことで、歯列を徐々に移動させていきます。
治療の終了までには数十枚のマウスピースが使用されることになります。マウスピース型矯正装置も、従来のワイヤー型矯正装置と同様に生体反応を利用して歯を動かします。
マウスピース型矯正装置(アライナー)の治療期間は、個人の症状や治療目標によって異なり、軽度な歯並びの問題の場合は6ヶ月から1年程度の期間で治療を終えるでしょう。
重度な症例の場合や治療目標がより複雑な場合は、治療期間がそれ以上にかかることもあります。
歯が動きやすい人の特徴
歯が動きやすい人の特徴には下記のような特徴があります。
- 成長期の子供
- 歯並びの乱れが軽度の人
- 新陳代謝が活発な人
上記について詳しく解説していきます。
成長期の子供
矯正歯科治療は大人になってからでも受けることができますが、子どものうちに治療を受けることには利点があります。なぜなら、子どもの成長期には顎の成長を利用することができるからです。
歯並びや咬み合わせの問題は、単に歯だけでなく顎(骨格)にも関連しています。大人になると成長が止まってしまうため、歯の移動によって治療するしか方法がありません。
そのため、治療の効果には限界があります。また、大人の場合、明らかに顎の骨格に問題がある場合(例えば顎変形症など)は、外科手術を伴う矯正治療が必要になるでしょう。
一方、成長期にある子どもの場合、上下の顎の成長をコントロールすることで治療することができます。つまり、歯並びと顎の骨格の両面から治療を進めることが可能です。
そのため、健康な歯を抜く必要がなくなる場合もあり、子どもの場合は比較的シンプルな矯正装置を使用することができます。
むし歯や歯周病の治療跡が少ないため、矯正装置の装着が容易です。さらに、学校や周りにも矯正治療を受けている子どもが多くいるため、疎外感を感じずに治療に取り組むことができるでしょう。
歯並びの乱れが軽度の人
歯並びの乱れが軽度の人は一般的には歯が比較的動きやすいです。
小さな歯の位置の違いは、歯同士の位置の違いがそれほど大きくないため、歯を移動させるために必要な力や時間が少なくなる傾向があります。
軽度な歯並びの乱れでは、歯の移動範囲が比較的限定されていることがあり、周囲の組織への影響が少ないです。歯周組織の健康状態が良好で、歯を移動させる際の問題が少なくなります。
歯の動きやすさは個人の生体反応や組織の特性によって影響を受けるため、矯正治療を受ける際には、矯正歯科医の評価や相談が重要です。
新陳代謝が活発な人
歯列矯正において歯の周りの組織の代謝が活発であれば、歯の動きが早くなり、矯正の効果が高まります。
体の新陳代謝を高めるためには、健康的な生活習慣・適度な運動・口腔ケアを心がけましょう。
また、喫煙は血液循環を悪化させるため、避けることが望ましいです。これらの方法で体の新陳代謝を活性化し、歯列矯正の効果を最大限に引き出しましょう。
歯列矯正に時間がかかるのはなぜ?
歯科矯正治療は数ヶ月から数年の治療期間といわれてますが、歯列矯正に時間がかかるのはなぜでしょうか?
- 骨の吸収や骨の形成に時間がかかるため
- 年齢を重ねるほど歯が動きにくくなるため
- 骨格によって通常より時間がかかるケースもある
上記について詳しく解説していきましょう。
骨の吸収や骨の形成に時間がかかるため
歯は骨の中に直接埋まっているのではなく、歯根膜という軟組織が歯と骨の間に存在しています。 歯根膜は約0.2mmの厚さを持ち、歯を支えるコラーゲン・血管・リンパ管が含まれているのです。
歯根膜は歯の安定性を保ちつつ、咀嚼や噛み合わせによって生じる力に反応して、歯を微妙に動かしています。この微小な動きが、歯列矯正によって歯を移動させる基本的な仕組みです。
歯根膜は非常に重要な役割を果たしており、歯の健康と正しい咬み合わせを維持するために必要な組織といえます。
矯正治療では持続的な軽い力が歯にかかることで、歯根膜内の細胞である破骨細胞と骨芽細胞の働きにより、歯の移動が起こるのです。
破骨細胞は圧迫側の骨を吸収し、骨芽細胞は牽引側に骨を添加していくプロセスを繰り返すことによって、歯は少しずつ移動します。
ただし、この骨のリモデリング(骨の組織変化)のサイクルには時間がかかります。骨のリモデリングのスピードによって矯正治療の進行スピードが決まります。
つまり、骨のリモデリングのスピード以上には矯正治療を加速することはできないということです。
矯正治療は時間をかけてゆっくりと進める必要があり、過度な力や急激な移動は歯や周囲の組織に損傷を与える可能性があります。
年齢を重ねるほど歯が動きにくくなるため
年齢に関わらず、矯正歯科治療では持続的な力を加えることにより歯を移動させることができます。ただし、治療を受ける際には歯ぐきや歯槽骨の健康状態が重要です。
特に50代や60代では、むし歯や歯周病によって歯や歯槽骨が損なわれている可能性があります。そのため、矯正治療を検討する場合は、まず口腔の健康状態の確認です。
歯周病や顎関節症などの問題がある場合は、それらの治療を優先しましょう。
また、高齢者の場合は口腔機能や全身の健康状態も考慮しながら治療計画を立てる必要があります。
骨格によって通常より時間がかかるケースもある
顔面骨格が横広のエラが張ってがっしりとした骨格の方は、歯の動きが通常よりも遅くなる傾向があります。
エラが張ってる方は咬む力が強く、そのため矯正力によって歯を動かすことが困難です。アゴ骨の骨密度が高いことも多く、歯が移動するために必要な歯槽骨の再構成にも時間がかかります。
矯正治療の目標は、美しい歯並びだけでなく、咬み合わせと顔のバランスを改善することです。患者さんの個別の状況に応じて、最適な治療方法を提案することが求められます。
治療をなるべく早く終えるポイント
長期間の治療が必要な歯科矯正治療ですが、治療をなるべく早く終える3つのポイントを下記のとおりです。
- 定期的に通院する
- 指示通りに矯正器具を装着する
- 歯磨きなどのケアをしっかり行う
詳しく解説していきましょう。
定期的に通院する
定期的に通院することは矯正治療の成功にとって非常に重要です。
定期的な通院は、矯正歯科医が治療の進行を確認し、必要な調整や修正を行いましょう。通院の頻度やスケジュールは、矯正歯科医と相談して決めることが重要です。
指示通りに矯正器具を装着する
指示通りに矯正器具を装着することは、治療の進行に直結します。
矯正器具は歯を正しい位置に移動させるためのツールであり、定期的に装着していることが重要です。医師の指示に従い、適切な時間や頻度で装着しましょう。
歯磨きなどのケアをしっかり行う
歯磨きや口腔ケアは矯正治療の成果を維持するために欠かせません。 矯正器具を装着している間は、食べかすやプラークがたまりやすくなり、歯垢や歯周病のリスクが高まります。
歯磨き・フロスの使用・定期的な歯科検診など適切な口腔ケアを行いましょう。これらの行動は、治療の進行や結果に大きな影響を与えます。
歯列矯正が終わったあとも保定期間が必要
矯正装置を外した直後は、歯を支える骨がまだ固まっていないため、後戻りと呼ばれる状態が起こります。この後戻りを防ぐためには、必ず保定装置(リテーナー)を使用する必要があるのです。
治療が完了した後も、歯並びや咬み合わせは変化することがあります。親知らずが生えてくる・むし歯・歯周病の発生・加齢による身体の変化などが原因です。
また、口呼吸や噛み締め、頬杖などの癖や顎の成長も影響を与えることがあります。後戻りの原因や注意点については、治療を担当している歯科医に相談しましょう。
状況が改善しない場合は再治療が必要になる場合もありますので、その際には治療方法や費用についても相談しましょう。
まとめ
歯科矯正治療は治療開始1か月でも効果が感じられます。歯列矯正治療は、患者さんの歯並びや咬み合わせの改善を目指すための重要な治療法です。
患者さんの状態に合わせて、ワイヤー矯正やマウスピース型矯正などの方法が選択されます。 治療期間や痛みの程度は個人差がありますが、定期的な通院・指示通りの装置の着用・適切なケアの実施が重要です。
歯並びや咬み合わせの問題を抱えている方は、矯正歯科専門の医師と相談し、最適な治療プランを計画しましょう。
参考文献