初めから理想的な歯並びをしている人は存在しません。歯並びには一つとして同じものはなく、必ずどこかの部位に乱れや個性のようなものが見られるものです。とくに顎の骨のサイズが小さい日本人は、出っ歯や乱ぐい歯、八重歯といった歯並びになりやすく、矯正治療で改善したいと考えている方が多いといえます。ここではそんな歯並びを整えたい人に向けて、矯正歯科クリニック選びのコツと治療の流れをわかりやすく解説します。
歯並びの矯正が必要な理由
そもそもなぜ歯並びの矯正が必要なのか。まずはその点について考えてみましょう。
歯並びが悪くなる原因
歯並びが悪くなる原因は、大きく3つに分けられます。
・原因1:骨格的なアンバランス
顎の骨のサイズが大きすぎたり、小さすぎたりすると歯並びが悪くなります。もっともわかりやすい例は、出っ歯と受け口ですね。上の顎の骨が前に出すぎていると出っ歯になり、下の顎の骨が出すぎていると受け口になります。顎の骨が全体的に小さいとスペースの不足が生じて乱ぐい歯となります。
・原因2:歯の生え方の異常
歯が傾いていたり、標準よりも外側や内側に位置していたりすると歯並びが悪くなります。これは出っ歯や乱ぐい歯、八重歯などの主な原因です。そうした歯の生え方の異常は、原因1の骨格的な異常よりも歯並びの矯正で治しやすくなっています。
・原因3:口腔習癖(こうくうしゅうへき)
骨格や歯の生え方がもともと正常であっても、指しゃぶりや舌を前に突き出す癖、爪を噛む癖などがあると、歯並びが悪くなります。これらは子供の頃だけでなく、大人になってからでも歯並びを悪くすることがあるため、十分な注意が必要です。
歯並びの悪さがもたらす影響
歯並びが悪いと、驚くほど多くの悪影響がお口や全身に及びます。
・影響1:見た目のコンプレックスになる
悪い歯並びに悩んでいる人の大半は、この点が最も気になるのではないでしょうか。出っ歯や受け口、乱ぐい歯といった歯並びは、見た目があまり良くないため、口元のコンプレックスになりやすいです。そうなると「悪い歯並びを見られたくない」という意識が働くことで、人と話すのが億劫になる場合もあります。その結果、性格まで消極的になっていくかもしれません。これは悪い歯並びがもたらす精神面への悪影響といえます。
・影響2:食習慣が偏ってしまう
悪い歯並びには自ずと悪い噛み合わせも伴います。噛み合わせが悪いと硬い食べ物や弾力性の高い食べ物を噛みにくくなるため、やわらかくて噛みやすいものばかり選んでしまうようになるのです。そうした食習慣の偏りもまた悪い歯並びによる影響のひとつと捉えられます。
・影響3:歯や顎関節に大きな負担がかかる
きれいな歯並び・噛み合わせでは、上下の歯がそれぞれ適切な位置で噛み合うことから、歯列全体に均等な負担がかかります。それが例えば出っ歯のような噛み合わせの場合は、前歯で食べ物を噛み切ることが難しくなるため、奥歯に過剰な負担がかかってしまうのです。そのしわ寄せは顎関節にまでおよびます。その結果として、奥歯が過剰にすり減ったり、顎関節症を発症したりするリスクが上昇します。
・影響4:発音が悪くなる
悪い歯並びによって舌の動きが制限されると、発音や滑舌が悪くなります。とくに子どもの頃からそのような制限を受けた場合は、言語学習にまで悪影響が及ぶため、十分な注意が必要です。
・影響5:磨き残しが多くなる
歯並びが乱れた部分は、歯ブラシを入れづらく、磨き残しが多くなる傾向にあります。毎回の歯磨きで汚れを十分に落とすことができなければ、歯垢や歯石が形成されて細菌が繁殖します。その細菌の中には、虫歯や歯周病の原因となるものも含まれていることを忘れてはいけません。つまり、悪い歯並びは虫歯・歯周病リスクまで上昇させることがあるのです。
歯並び矯正クリニックでの治療の流れ
歯並びの治療を検討中の方は、矯正クリニックでの治療の流れを理解しておくことが大切です。
初診
矯正クリニック選びで失敗しないためには、初診の段階からいろいろな点をチェックする必要があります。初診はいわゆるカウンセリングであり、治療を担当する歯科医師の性格などを知る上で絶好の機会と言えます。矯正歯科治療に関して不安や疑問があれば、遠慮せず何でも質問していきましょう。治療にかかる費用や期間も初診の段階で大まかな目安を聞いておくことが大切です。
診断と治療計画
・精密検査
初診・カウンセリングを受けて、この先生は信頼できそうだと感じたら、精密検査へと移行します。矯正歯科治療の検査は、一般的な虫歯治療や歯周病治療よりも項目が多く、ある程度の時間がかかることも事前に理解しておくことが大切です。目安としては1時間程度です。
・1~2週間後に診断・治療計画の説明
精密検査が終わったら、矯正の先生が分析を行い、治療計画を立てます。よほど混み合っている矯正歯科クリニックではない限り、1~2週間後には結果が出ます。再び矯正歯科クリニックを訪れて、診断・治療計画の説明を受けましょう。この段階であればまだ治療を受けないという選択をすることも可能です。矯正の先生の説明に納得することができ、治療計画にも合意したらいよいよ矯正歯科治療のスタートです。
治療開始
ワイヤー矯正かマウスピース矯正で歯並びを治す治療を開始します。どちらがおすすめかは、その人のライフスタイルや価値観、お口の状態によって変わりますので、後段で説明する内容を参考にしてみてください。
定期的な調整
歯列矯正では、定期的な調整が必要となります。一般的なワイヤー矯正の場合は1ヵ月に1回、マウスピース矯正の場合は2ヵ月に1回くらいの頻度で通院することになります。その他、装置にトラブルが生じた際にも受診する必要が出てくるため、矯正歯科クリニックは、自宅や職場から通いやすい立地にあった方が良いといえます。
治療終了とアフターケア
歯を動かす動的治療(どうてきちりょう)が終わったら、後戻りを防止する保定期間(ほていきかん)へと移行します。リテーナーと呼ばれる装置を装着する処置で、動的治療よりは通院頻度が低くなります。保定まで終われば通院する必要性もほとんどなくなりますが、定期的にメンテナンスを受けることで、美しい歯並びを維持しやすくなることでしょう。
歯並びを良くするための矯正治療の種類
歯列矯正は、以下の3つの種類に大きく分けられます。
ワイヤー矯正
金属製のワイヤーとブラケットを使った矯正法です。ほとんどの歯並びに適応可能です。
裏側矯正(舌側矯正)
ワイヤーとブラケットを歯列の裏側に装着する矯正法です。舌側矯正(ぜっそくきょうせい)とも呼ばれる方法で、対応している矯正歯科クリニックは一部に限られます。装置が見えないという大きなメリットがある反面、費用が高い、治療期間が長くなりやすい、といったデメリットも伴います。見た目の良さを重視するタレントや芸能人に人気のある矯正法といえるでしょう。
マウスピース型矯正
マウスピースタイプの装置を使って歯並びを治す方法です。最近では、マウスピース型矯正に対応した歯科矯正クリニックが増えてきていますが、いろいろな種類がある点にご注意ください。
歯並び矯正専門のクリニックと一般歯科の違い
歯並びの治療を検討する際には、必ずといって良いほど矯正専門のクリニックと一般歯科で迷います。矯正歯科治療は、一般歯科でも受けることができるため、わざわざ専門クリニックに通わなくても良いのではないかと感じるかもしれませんね。
専門クリニックの特徴
歯並び矯正専門のクリニックは、当然ですが矯正治療のみに対応しています。一般歯科の診療は行っていないため、虫歯や歯周病になったら他の歯科医院を受診しなければなりません。定期検診やクリーニングなども別の歯科医院で受けることになるので、少なくとも2つのクリニックに通院することになります。歯並び矯正専門のクリニックにはそうしたデメリットはあるものの、歯列矯正の技術は一般歯科より高いケースがほとんどのようです。裏側矯正のような専門性の高い治療にも対応しているクリニックが多いといえます。
一般歯科での矯正治療
一般歯科での矯正治療は、必ずしもその道のプロフェッショナルが診療を担当するわけではありません。とくにマウスピース矯正は歯科医師が始めやすい矯正法であるため、一般歯科で行っているところも少なくないのです。もしくは、歯並び矯正専門の歯科医師を月に1回だけ招いて、ワイヤー矯正やマウスピース型矯正、裏側矯正などを行っているパターンもありますので、気になる方は歯科医院に問い合わせてみましょう。
歯並び矯正を非常勤の歯科医師が担当しているクリニックでは、ブラケットが取れたり、ワイヤーが外れたりした時の応急処置などを受けにくい環境となっています。そもそも診療の予約が取りにくいこともあるでしょう。ちなみに、一般歯科なら矯正の途中で虫歯・歯周病になっても、それらの治療をスムーズに受けることが可能です。一般歯科と矯正歯科の先生が連携しやすい環境は、それだけで安心感が高まります。そう考えると一般歯科での矯正治療にも大きなメリットがあるといえるでしょう。
歯並び矯正を検討するときのクリニックの選び方
さて、ここからはより良い矯正歯科クリニックを選ぶための具体的なポイントについての解説となります。
矯正治療の経験と実績
矯正治療は専門性が高い分野なので、診療を担当する歯科医師の経験と実績が極めて重要となります。とくに自分が希望する矯正法の実績が豊富な歯科医師を選ぶと後悔が少なくなります。
設備と技術
歯並び矯正は、治療期間が数年に及ぶことから、クリニックの設備が充実していたり、衛生管理が徹底されていたりする点も重要なポイントとなります。また、矯正治療に関する技術が高いことも妥協できないポイントとなります。歯並び矯正は、歯科医師によって能力に雲泥の差があるため、熟練した技術を持っているかどうかもしっかり確認しましょう。
アフターケアの充実度
矯正治療後のアフターケアが充実しているかどうかも歯並び矯正のクリニック選びで大切なポイントとなります。矯正が終わった途端に後戻りが生じたり、リテーナーが壊れたりした時にしっかり対応してくれるクリニックが望ましいでしょう。とくに歯並び矯正は、治療が終わってからも歯科クリニックとの付き合いが長く続いていく治療なので、アフターケアの充実度が極めて重要となります。
料金体系の透明性
歯並び矯正は、治療にかかる費用が不透明になりがちです。「歯並び矯正を60万円で受けられます」とうたっていても、実際はカウンセリングや精密検査、保定処置の費用などが別途かかったり、調整料が高額であったりするなど、あとになってからわかることも少なくありません。そうした料金体系を治療開始前にきちんと内訳まで説明してくれるクリニックは、信頼性が高いといえます。
クリニック毎に異なる歯並び矯正の費用
歯並び矯正にかかる費用は、クリニックによって異なります。それは歯並び矯正が原則として自費診療となるからです。
各治療工程でかかる費用とは
上段でも述べたように、歯並び矯正では各治療工程で費用が発生します。具体的には、カウンセリング・精密検査・診断・矯正装置の製作・保定装置の製作などで費用がかかります。通院ごとの調整料も忘れてはいけません。その他、矯正のための抜歯やアンカースクリューの埋入などを行う場合も別途、費用がかかるケースがほとんどです。そうした矯正の料金体系が明確に提示されていない歯科医院には不安が残ります。
クリニックごとの費用の違い
歯並び矯正にかかる費用は、クリニックごとで数十万円の差が見られる場合もあります。それは矯正を担当する歯科医師の技術や経験、クリニックの経営方針などによって決められるものなので、患者側から安くしてほしいと相談を持ちかけるのはなかなか難しいかもしれません。ただし、相場よりも費用が安いからといって、そのクリニックが良心的であるかどうかは安易に判断できません。
逆に、相場よりも費用が高いクリニックでも、相応の治療を提供している場合は、患者からも広く支持されていることでしょう。つまり、歯並び矯正のクリニックを選ぶ際には、単に安いとか高いという見方ではなく、歯科医師の能力や医療設備、アフターケアの充実度などを総合して判断する必要があるのです。経済面だけに着目すると歯並び矯正で失敗や後悔する可能性が高まることから、十分にお気をつけください。
まとめ
このように、歯並び矯正のクリニック選びにはコツがあります。本文でもご紹介したポイントを参考にして、信頼できる良いクリニックを見つけるよう努力しましょう。歯並び矯正は虫歯や歯周病治療ほど簡単には転院できませんので、クリニック選びは慎重に行うことが大切です。場合によっては100万円を超えるような買い物となるのですから、失敗や後悔がないようにしましょう。
参考文献