インビザラインはとても便利な矯正法ですが、決して万能ではありません。その他の矯正法と同様に、失敗するリスクも伴います。とくにSNSを始めとしたインターネット上では、インビザラインで失敗した、後悔したという書き込みを目にすることがあるため、不安に感じている人も多いことでしょう。今回はそんなインビザラインを始める前に知っておくべき治療の失敗例と対策方法について解説します。
インビザラインとは
- インビザラインとはどのような治療方法ですか?
- インビザラインは、アライナーと呼ばれる透明なマウスピースを装着して、歯並びをきれいにする矯正システムです。世界で最も有名なマウスピース型矯正といっても過言ではありません。近年は、技術の向上によってほとんどの歯並びに適応できるようになりました。インビザラインはマウスピース型矯正でありながら、小児矯正や部分矯正にまで対応しているのです。検査、診断から治療計画の立案、矯正装置の製作に至るまで、診療プロセスの大半がデジタル化されている点も特筆すべきといえるでしょう。
- インビザラインによる治療のメリットについて教えてください。
- インビザライン矯正には、次に挙げるようなメリットがあります。
- 矯正装置が目立ちにくい
- 食事と歯磨きを普段通りに行える
- 歯の移動に伴う痛みがそれほど強くない
- 装置による刺激が少ない
- ワイヤー矯正よりも通院頻度が低い
- インビザラインによる治療のデメリットについて教えてください。
- インビザライン矯正には、次に挙げるようなデメリットがあります。
- マウスピースは自分で着脱する必要がある
- ワイヤー矯正よりも適応範囲が狭い傾向にある
- マウスピース装着中は水しか口にできない
- 期待していた効果が得られない場合もある
インビザラインによる治療が失敗するケース
- インビザラインによる矯正治療後に、歯列や噛み合わせが悪化してしまう場合の原因について教えてください。
- インビザラインで矯正を行った結果、歯並びや噛み合わせが悪くなった場合は、歯科医師の能力不足が主な原因といえます。そもそも治療を担当した歯科医師に歯並び、噛み合わせに関する基本的な知識が欠けていたら、矯正によって得られる効果も不十分なものとなります。上でも述べたように、インビザラインは診療プロセスの大半がデジタル化されているため、知識や技術が不足している歯科医師でも、形式上は矯正治療を行うことが可能です。つまり、インビザラインは歯科医師にとってワイヤー矯正より始めやすい治療法なのです。その点がケースによってはインビザラインの欠点としてあらわれ、治療の失敗を招くこともあります。
- インビザラインなどによる矯正治療後に、歯根が露出してしまうことがあるのはなぜですか?
- インビザラインなどを始めとした矯正治療には、歯に無理な力を加えることによって歯槽骨の過剰な吸収を引き起こすリスクを伴います。歯を支えている組織が下がることから、結果として歯根が露出してしまうのです。インビザラインなど矯正後には、歯の根元付近に三角形の隙間が生じることがありますが、それも歯周組織の吸収が原因です。専門的には「ブラックトライアングル」と呼ばれています。
- インビザラインによる矯正に想定より期間がかかってしまう人がいるのはなぜですか?
- インビザラインが治療計画通りに終わらなかった場合には、主に下記2点が要因として考えられます。
要因1:むし歯や歯周病になった
インビザライン矯正中にむし歯や歯周病を発症すると、まずはそれらの治療に専念しなければなりません。軽度のむし歯であれば、少し削ってコンポジットレジンを充填することで、またすぐにインビザライン矯正を再開できますが、根管治療を必要とするような重度のむし歯担った場合は、再開までに比較的長い期間を要します。また、大きなむし歯は、被せ物を装着することで歯の形が変わることがあります。そうなるともうすでに作っているインビザラインのマウスピースが合わなくなるため、再製作が必要となるのです。その結果、インビザラインが治療計画通りに終わらないという事態を招くことがあるのです。歯周病もむし歯と同様に比較的長い治療期間を要する病気なので、インビザラインの治療も長引きやすくなります。
要因2:歯を削り過ぎた
インビザライン矯正では、スペースの不足を補うために「ディスキング」という処置を施すことがあります。歯の側面を削る処置で、切削量が多くなると、歯の移動距離も増えていく点に注意が必要です。想定していた量よりも歯をたくさん削ってしまうと、歯の移動に要する期間も長くなることから、インビザライン矯正が計画通りに終わらない可能性が高くなります。
- インビザラインによる矯正治療後に、あまり効果を感じられない人がいるのはなぜですか?
- インビザライン矯正は治療計画通りに終わったけれど、期待した効果が得られなかったというケースも少なからずあります。そのように感じる要因としては、以下の5点が挙げられます。
要因1:マウスピースの装着時間を守れなかった
インビザラインのマウスピースは、1日20時間以上装着しなければなりません。その時間を下回るような日が長く続くようなことがあると、歯が計画通りに動いていきません。要因2:マウスピースを交換する間隔、順番を間違えた
マウスピースの交換は、1~2週間に1回くらいの頻度で行う必要があります。具体的な頻度は患者さんによって異なるため、それぞれの主治医の指示に従う必要があります。そうしたマウスピースを交換する間隔、順番を間違えると、歯の移動も滞ってしまいます。要因3:すべてのマウスピースを使わなかった
インビザライン矯正では、製作したマウスピースのすべてを使い切ることが前提となります。たとえば、最後の10枚のマウスピースを使わないで終われば、当然ですが期待していたような矯正効果は得られません。要因4:治療期間中にむし歯、歯周病になった
インビザライン矯正中にむし歯や歯周病になると、治療期間が長くなるだけでなく、仕上がりにも大きく影響する場合があります。要因5:保定処置を怠った
インビザライン矯正では、ワイヤー矯正と同様に保定処置が必須となっています。歯を動かす動的治療(どうてきちりょう)が終わって満足してしまうと、後戻りという現象が起こります。その後戻りを防止する保定処置までしっかりやり遂げなければ、インビザライン矯正による適切な効果も得られにくくなります。
インビザラインによる矯正治療で失敗しないための対策
- インビザラインによる矯正治療で失敗しないための歯科医院の選び方を教えてください。
- 矯正歯科治療の知識が豊富で、マルチブラケット治療のリカバリーができる日本矯正歯科学会認定医・臨床指導医が提携している歯科医院を選びましょう。その上で歯科医師の指示通りにマウスピースの装着、交換を行っていくことが大切です。
- インビザラインの正しい装着方法と装着時間を教えてください。
- インビザラインのマウスピースは、歯科医師に教わった通りに装着してください。とくに注意が必要なのが、マウスピースの浮き上がりです。マウスピースを定位置までしっかりと押し込まないと、浮き上がりという現象が起こってしまいます。また、1日20〜22時間というマウスピースの装着時間もしっかり守るようにしてください。
- マウスピースの正しいお手入れの方法を教えてください。
- マウスピースは、常温の水道水を使って優しくケアしましょう。やわらかめの歯ブラシを使うと、マウスピースを傷つけずに汚れを落としやすいです。週に1~2回は、専用の洗浄剤を使うことをおすすめします。
- インビザラインによる矯正治療後に行うべき後戻りの予防方法を教えてください。
- インビザライン矯正の後戻りは、保定処置を正しく行うことで防止しやすくなります。その他、口呼吸や歯ぎしり、食いしばりといった後戻りを誘発する習癖は、早めに改善しておくことが大切です。
- インビザラインによる矯正治療中に違和感が生じたらどうすれば良いですか?
- インビザライン矯正中に痛みや違和感などの不快症状が現れたら、まずは主治医に相談しましょう。もしかしたらマウスピースや口腔組織に何らかの異常が生じているかもしれません。ちなみに、インビザライン矯正を始めて間もない頃は、マウスピースを装着することや歯の移動による違和感が強くなりますが、数週間で慣れることが多いようです。
編集部まとめ
今回は、インビザラインを始める前に知っておくべき治療の失敗例と対策方法を解説しました。インビザラインはとても優れた矯正法ですが、噛み合わせが悪化する、歯根が露出する、計画よりも治療期間が長くなる、矯正による効果を感じられなかった、といった失敗、後悔をするリスクも伴います。そうしたインビザライン矯正による失敗を防止するためには、実績豊富な歯科医院を選ぶことが何より重要となります。
参考文献