ワイヤー矯正を行う際に、抜歯が必要になる場合があります。
抜歯に抵抗や不安を感じる方も少なくありませんが、なぜ抜歯が必要なのかを理解し、適切に判断することが大切です。
今回は、ワイヤー矯正で抜歯が必要になる症例をご紹介します。
併せてワイヤー矯正で抜歯を行うメリットやデメリット、そして治療の流れを解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
ワイヤー矯正で抜歯が必要になる症例
ワイヤー矯正で抜歯が必要になる症例としては、主に下記の3つがあげられます。
- 顎が小さくスペースが足りない
- 噛み合わせが良くない
- 前歯が大きく前に出ている
特に日本人は顎が小さい人が多いといわれており、歯列矯正をする際に抜歯をする人は少なくありません。
なぜ抜歯が必要なのか、抜歯をしないまま歯列矯正をするとどうなるリスクがあるのかを把握し、慎重に検討しましょう。
顎が小さくスペースが足りない
歯の大きさや数に対して顎が小さく、歯列矯正をするためのスペースが足りない場合は、抜歯が必要です。
特に大人は成長が止まっているため、抜歯以外でスペースをつくるのは難しい傾向にあります。
スペースが足りない状態で無理に歯列矯正を行うと、歯が前後バラバラになって歯並びが改善できないだけでなく、歯ぐきや噛み合わせに影響が出てしまう可能性があるでしょう。
例えば歯ぐきの上の方に出てくる八重歯のような歯があったり、歯並びがガタガタ・凸凹になる叢生(そうせい)になったりする場合があります。
また、上下の前歯が傾斜して口元が膨らんでしまうケースもあるでしょう。
抜歯をしてスペースをつくることで、そのスペースを埋めるように歯の位置を動かして歯並びを整えられます。
また、親知らずが斜めや横向きに生えていて、歯列矯正の障害になるケースもよくみられます。親知らずは前歯から数えて8番目にあり、大人になってから生える歯です。
この場合も歯列矯正のためのスペースが足りないだけでなく、歯並びに影響が出ている可能性も大きいため、抜歯が必要とされることが多い傾向です。
噛み合わせがよくない
歯の噛み合わせがよくない場合も、抜歯が必要となる可能性が高いでしょう。抜歯することで、歯の噛み合わせがよくない原因を改善できることがあるからです。
例えば前歯が大きく前に出ている状態、いわゆる出っ歯の場合は、歯列矯正のみだと対象の歯を十分に動かせないことがあります。
出っ歯を改善するには、前歯を大きく後ろへ移動させるスペースが必要なためです。抜歯するとそのためのスペースが確保できるので、歯列矯正での改善が期待できます。
一般的には、上2本か上下2本ずつの抜歯をすることが多いようです。
なお、歯の噛み合わせが良くない原因としては、上下の顎のずれが考えられます。
歯は上顎と下顎の骨の中に生えているので、顎がずれていると歯並びにも影響が出てしまうのです。
顎のずれを改善するには顎の骨を修正する顎矯正手術が一般的ですが、抜歯して歯列矯正をすることで、歯の噛み合わせを改善できる可能性があります。
顎のずれを直接修正するよりも、体の負担が少なくて済むことが期待できます。
前歯が大きく前に出ている
前歯だけが大きく前に出ている上下顎前突の場合は、抜歯して前歯を後ろに下げることで改善が期待できます。
抜歯をせずに無理して歯列矯正を行うと、歯並びが悪くなり、これまで以上に見た目が気になってしまう可能性があります。
一般的には、上下左右の歯を1本ずつで合計4本抜歯するケースが多い傾向です。中間にある歯を抜いて、前歯を後ろに移動させるスペースを確保します。
抜歯後は、歯列矯正で前歯に正しい傾斜をつけながら、理想の位置へ移動させていきます。
ワイヤー矯正で抜歯を行う場合の治療の流れ
ここからは、ワイヤー矯正で抜歯を行う場合の治療の流れをご紹介します。主な流れは下記のとおりです。
- カウンセリング・検査
- 抜歯
- 装置を装着
- 定期的な通院
- 装置を外す・保定を行う
- 保定装置の経過観察
全体の治療期間は、抜歯をする期間も含めて2年〜2年半が目安です。なお、抜歯をしない場合は1年半〜2年が目安といわれています。
ただし歯の移動速度は個人差があるため、歯科医師が状況をみながら随時判断します。そのため、矯正治療後は定期的な通院が必要です。
個人差はありますが、ほとんどの症例で矯正治療後も後戻りが起こらない程度に継続して保定装置を使用する必要があります。
それぞれの段階でどのようなことを行うか、詳しく解説していきます。
カウンセリング・検査
まずは歯科医師がカウンセリングで患者さんの不安や要望などを聞いたうえで、さまざまな検査が行われます。
行う検査は口腔内のレントゲンや歯型採りで、歯や顎の状況を詳しく確認していきます。
歯科医院によっては、CTを使ってレントゲンより高精度の画像診断を行う場合もあるでしょう。
検査で得られたデータをもとに、歯と顎の骨の大きさを計測し、歯並びを改善するためには何ミリのスペースが必要かを確認します。
スペースを確保するために抜歯が必要と判断された場合は、どの歯を抜くかを決め、治療計画を立てるまでが第1ステップです。
このとき大まかな費用も出してもらえる歯科医院が多いようです。なお、歯列矯正のための抜歯は基本的に保険適用外のため、抜歯を伴う歯列矯正は通常自由診療となります。
歯科医院によっても異なりますが、トータルでの費用は80万〜150万円(税込)程度になる傾向です。
抜歯
治療計画が決まったら、計画に沿って抜歯を行います。
一般的には、親知らずをはじめ、噛み合わせに影響が少ない第一小臼歯か第二小臼歯を抜歯するケースが多い傾向です。
第一小臼歯は前歯中央から4本目、第二小臼歯は5本目の位置にある歯を指しており、なくなっても機能的な影響は少ないといわれています。
奥歯と前歯の中間にあるため、歯列矯正の際に歯の移動距離が短くて済むのも、抜歯する歯として選ばれやすい理由でしょう。
そのほか、歯科治療を受けたことがある歯や通常よりも小さい矮小歯など、健康な歯を残すために優先して抜歯することもあるでしょう。
生まれつき生えずに足りていない先天欠如歯も、歯並びを左右対称にするために抜歯するケースがあります。
なお、歯科医院によっては抜歯する前に歯列矯正で歯を動かすケースも見られます。
抜歯する前のワイヤー矯正で一般的なのは、犬歯から後ろの歯に抜歯予定の歯も含めて部分的にブラケットを装着し、ワイヤーを通して歯を動かす方法です。
様子をみながら、1〜3ヵ月程度かけて徐々にワイヤーのサイズを大きくしていきます。抜歯予定の歯を事前に動かすことで、無理なく抜歯できる可能性が高くなるでしょう。
装置を装着
抜歯した部位が安定したら、ブラケットという装置を装着し、そこにワイヤーを通して少しずつ歯を動かしていきます。
ブラケットに通したワイヤーが元の形に戻ろうとする力を利用して、歯を理想の位置に移動させる仕組みです。
治療開始後1〜2ヵ月間は、ブラケットを付けた違和感や痛みに慣れるための準備期間と考えておきましょう。
次第に装着感に慣れ、食事や歯磨きなどの日常生活でも気にならなくなります。
定期的な通院
ワイヤー矯正はワイヤーの強さと形やブラケットの位置を調整し、状態を見ながら歯を少しずつ動かす必要があるため、月に1回程度は通院が必要です。
歯は通常1ヵ月で約1mm程度動くといわれており、歯列矯正で抜歯したスペースを埋めるには、歯の移動距離にもよりますがおよそ1〜1年半かかる傾向です。
ただし歯の動きやすさは個人差があるため、あくまでも目安と考えてください。歯根の長さや骨の密度によって歯の動くペースも異なります。
また、歯科医師の診断の精度や技術も、抜歯後のスペースを埋めるまでの時間に影響を与えることがあります。
装置を外す・保定を行う
噛み合わせが正しくなっていることを確認できたら、ブラケットを外し、今度はリテーナーという保定装置を使用します。
ブラケットを外した直後は歯並びがきれいになっていても、実は歯を支えている骨がまだしっかりできていないため、後戻りする可能性があるためです。
なお、リテーナーは自分で取り外し可能です。
保定装置の経過観察
リテーナーでの保定は、治療期間と同じく大体2年間かけて経過観察を行います。
約1年間は不安定な時期が続くため、食事と歯磨きのとき以外はリテーナーを使用するのが基本です。
その後約1年間は歯の揺れも少なく安定してくるため、就寝時などのタイミングで使用し、外してもいい時間帯が長くなる傾向です。
ワイヤー矯正で抜歯を行うメリット
ワイヤー矯正で抜歯を行うメリットは、主に歯が動くスペースを確保できることと、顔つきに影響が出にくい点があげられます。
ここではそれぞれのメリットを詳しくみていきましょう。
歯が動くスペースを確保できる
顎が小さい人や歯を大きく動かす必要がある人などでも、抜歯することで歯が動くために十分なスペースを確保できます。
スペースがあると歯を動かしやすく、理想的な位置に導ける可能性が高まります。
また、歯列矯正の計画が立てやすくなるのもメリットといえるでしょう。抜歯をせずに済む方法を模索するよりも、歯列矯正をスムーズに進められる可能性があります。
顔つきに影響が出にくい
抜歯せず無理に歯列矯正を行うと、口元が出るなど顔つきに影響が出る可能性があります。
抜歯することでスムーズに歯を動かしやすくなるため、顔つきにも影響が出にくいでしょう。
歯並びを無理なく整え、噛み合わせが改善されることで、歯列矯正前より顔つきもよくなるケースがみられます。
ワイヤー矯正で抜歯を行うデメリット
ワイヤー矯正で抜歯を行うデメリットとしては、痛みや腫れが出ることがあったり、歯列矯正の開始が遅れたりすることなどがあげられます。
抜歯は必ずしも行なった方がいいわけではありません。抜歯をすることで大きなストレスになると考えられる場合は、歯科医師に自分の希望を伝えて相談してみましょう。
ここでは主なデメリットについて解説していきます。
痛みや腫れが出ることがある
抜歯後は、人によって痛みや腫れが出ることがあります。
真っ直ぐに生えた歯は抜けやすいので痛みは少ない傾向にありますが、骨の中に埋まっている親知らずは痛みが出やすい傾向です。
特に歯ぐきを切ったり骨を削ったりすることが多い下顎の親知らずの抜歯では、痛みや腫れが出る可能性が高いでしょう。
一方一般的に抜きやすいといわれている小臼歯は、抜く際に矯正力をかけておくとより痛みが少ない傾向にあり、5分程度で抜ける場合も少なからずあります。
歯列矯正の開始が遅れる
抜歯した歯や抜歯後の状態によって異なりますが、抜歯部位が落ち着くまでは歯列矯正ができないため、抜歯しない場合よりも歯列矯正の開始が遅れる傾向にあります。
一般的には、抜歯からブラケットの装着まで1週間から1ヵ月間程待機する場合が多いでしょう。
そのため、歯列矯正全体にかかる期間が長くなる可能性があります。
しかし、歯列矯正を開始してみてどうしても抜歯が必要だと判断された場合など、状況によっては抜歯した方がスムーズに歯列矯正が進められるケースもあります。
歯列矯正を開始するタイミングだけでなく、全体でかかる期間を考えてみることも大切です。
抜歯後に痛みがある場合の対処法
抜歯後に痛みがある場合、一般的に歯科医院で化膿止めや痛み止めを処方されるケースが多いでしょう。
そのため痛みは抑えられる可能性が高い傾向ですが、もし痛みが治らなかったり腫れが長引いたりする場合は歯科医師に相談し、指示を仰ぎましょう。
自分で判断することなく、歯科医師のもとでの適切なケアが大切です。
抜歯以外でスペースを確保する方法はある?
抜歯以外で歯列矯正のためのスペースを確保する方法としては、主に2つの方法があります。
1つ目は、歯のサイズを小さくするIPRという方法です。IPRはディスキングとも呼ばれており、歯のエナメル質を削り、歯と歯の間に移動できるだけのスペースをつくります。
削るときの痛みはほとんどない方が多い傾向です。
薄い層をやすりをかけるように研磨していくため、つくれるスペースは大きくても0.5mm程度です。
抜歯するよりも効果は小さいですが、顎の大きさなどによっては歯列矯正をできるだけのスペースが確保できることもあります。
そのため、歯の動かす距離が少ない方や、元々歯が大きくて適切なサイズにするのに向いています。
2つ目は、歯を外側に傾斜させる方法です。歯が前後バラバラにならないよう、計画的に全体の歯をあえて傾斜させていきます。
これらの方法で歯並びのスペースが足りないと判断された場合は、抜歯をする必要があるでしょう。
まとめ
ワイヤー矯正では抜歯が必要になる症例があり、無理に歯列矯正を行うと歯並びに影響が出たり口元が出て見た目が気になったりするなどリスクがあります。
抜歯が必要な理由を理解し、メリットとデメリットを踏まえて総合的に判断することが大切です。
ワイヤー矯正は定期的に通院して少しずつ理想的な歯並びに近づけていく必要があるため、事前に不安な点があれば歯科医師に相談しましょう。
歯列矯正は時間も費用もかかることなので、慎重に判断し、納得したうえで行うようにしてください。
参考文献