噛み合わせ

正常な噛み合わせとは?噛み合わせが悪いと起こる問題や噛み合わせの治療方法について解説!

正常な噛み合わせとは?噛み合わせが悪いと起こる問題や噛み合わせの治療方法について解説!

歯並びと噛み合わせは似て非なるものです。歯並びは、個々の歯が真っすぐ正常に生えていて、きれいな歯列弓を形作っていることが理想ですが、噛み合わせは上下の歯列の位置関係が良否を左右します。一見すると見た目がきれいでも、噛み合わせが良くない症例は十分にあり得ます。歯が持つ本来の機能が“咀嚼”であることを踏まえると、歯並びより噛み合わせの方が重要であるともいえます。ここではそんな噛み合わせの良し悪しや悪い噛み合わせに伴う悪影響、噛み合わせを改善する方法などを詳しく解説します。

正常な噛み合わせ

正常な噛み合わせ はじめに、理想的な噛み合わせの条件や自分で噛み合わせを調べる方法などを確認しておきましょう。

理想的な噛み合わせとは

噛み合わせの良し悪しは、オーバーバイト、オーバージェット、上下左右の対称性、第一大臼歯の咬合関係によって決まります。それぞれの理想的な状態を以下に示します。

◎オーバーバイト
オーバーバイトは、上下の前歯の垂直的な被蓋関係の指標で、2〜3mmが正常な値と考えられています。具体的には、上下の前歯が2〜3mm程度、重なっている状態です。オーバーバイトが0mmだと上下の前歯が噛む部分で接触している切端咬合(せったんこうごう)となり、マイナスになると不要なすき間が存在している開咬(かいこう)になります。

◎オーバージェット
オーバージェットは、上下の歯列の前後的な位置関係の指標で、オーバーバイトと同様、2〜3mmが正常と考えられています。オーバージェットの場合は、上の前歯が下の前歯より前に出ているほどプラスとなります。オーバージェットのプラスが強すぎると出っ歯になり、マイナスでは受け口となります。

◎上下左右の対称性
歯列の上下左右の対称性も噛み合わせの良し悪しを決める重要な要素となります。上下左右のいずれかに偏っている噛み合わせは、審美性だけでなく、機能性にも問題を抱えているといえるでしょう。

◎第一大臼歯の咬合関係
前から6番目の第一大臼歯は、咀嚼機能の主体となる歯です。この歯が上下でどのように噛み合っているかによって、咀嚼能率も大きく変化します。正常な噛み合わせでは、上顎第一大臼歯の近心頬側咬頭(きんしんきょうそくこうとう)と下顎第一大臼歯の頬側溝(きょうそくこう)が噛み合っています。これをアングルの分類でⅠ級といいます。

第一大臼歯の咬合関係は、専門家でなければ見分けることができないため、気になる人は歯科で診察を受けましょう。

自宅でできる噛み合わせのチェック方法

噛み合わせの良し悪しは、自宅でもセルフチェックできることがあります。自分の噛み合わせの状態をチェックしたい人は、次のポイントを観察してみましょう。

【ポイント1】上下の前歯の噛み合わせ
自然に噛んだときの上下の前歯の位置関係で、上述したオーバーバイトとオーバージェットはある程度、類推できます。それぞれ2〜3mmの範囲を超えるようであれば、噛み合わせに異常が認められます。とくに出っ歯や受け口の人は、セルフチェックでも見分けやすいでしょう。

【ポイント2】正中のズレ
上下の歯列の正中のズレも鏡を見て簡単にチェックできます。 中切歯の近心面で構成されるラインが上下の歯列でズレている場合は、噛み合わせや顎の位置に何らかの異常があります。

【ポイント3】口元の突出感
真横を向いた状態で鏡を見ると、Eラインを確認できます。Eラインは、横顔の美しさの指標となる線で、鼻の先と顎の先を人差し指で結ぶことで調べられます。口唇が人差し指よりも外側に出ている場合は、上顎前突や上下顎前突が疑われます。日本人の理想的なEラインは、上唇がほぼライン上にあって、下唇がやや離れている状態と考えられています。

【ポイント4】歯並びの乱れ
出っ歯、受け口、乱ぐい歯など、何らかの歯列不正が認められる場合は、ほとんどの症例で噛み合わせにも異常が見られます。

歯並びと噛み合わせによる健康への影響

歯並びと噛み合わせの異常は、口腔内だけでなく、全身の健康にまで悪影響を及ぼすことから十分な注意が必要です。詳細については後段で解説しますが、原因がよくわからない不定愁訴も歯並び・噛み合わせの異常に由来していることも珍しくはないのです。そのため歯並び・噛み合わせの異常は軽視せず、適切な検査を受けたうえで治療を受けるのが望ましいです。

噛み合わせが悪くなる原因

噛み合わせは、いろいろな原因で悪くなります。以下に挙げる5つはその代表例です。

【原因1】悪い歯並び
私たちの歯は、1本1本で噛む位置が決まっています。そのうちのひとつでも斜めに傾いていたり、生えている位置がおかしかったりすると、噛み合わせが全体的にずれてしまいます。そのため悪い歯並びのほとんどの症例で噛み合わせの悪さも認められます。

【原因2】顎の位置の異常
上下の歯がきれいに並んでいたとしても、顎の位置がズレていると噛み合わせも自ずと悪くなります。

【原因3】悪習癖・悪習慣
指しゃぶりや舌を前に突き出す癖、爪を噛む癖などは歯並びを悪くし、頬杖をつく癖やうつ伏せ寝などは、顎のズレをもたらします。こうした悪習癖・悪習慣がある人は、歯並びや噛み合わせの状態に十分な注意が必要です。

【原因4】親知らずによる悪影響
親知らずの生え方や埋まり方が悪いと、手前の歯を圧迫して動かしたり、全体の歯並び・噛み合わせを悪くしたりすることがあります。

【原因5】歯の喪失
外傷や歯周病、むし歯などで歯を失うと歯列内に欠損が生じます。その結果、上下の噛み合わせが変化することも珍しくありません。

噛み合わせが悪いと起こる主な問題

噛み合わせが悪いと起こる主な問題 噛み合わせが悪いと、口腔内や全身に次のような影響が及びます。

口腔内への影響

悪い噛み合わせでは、噛んだときの力を歯列全体で均等に受け止めることができません。特定の部位だけに大きな負担がかかることから、歯の破折や摩耗、歯茎の炎症などを引き起こすリスクを伴います。食べ物を噛みにくいという症状に悩まされることもあるでしょう。

内臓への影響

食べ物を十分に咀嚼せずに飲み込むと、胃腸に大きな負担がかかります。その結果、消化器に不調をきたしたり、栄養の不足で体調が悪くなったりすることもあります。

身体への影響

噛み合わせの異常は、頭痛や肩こりなどを引き起こす場合があります。これは悪い噛み合わせが咀嚼筋に異常な運動を強いるからです。そのしわ寄せが頭や首、肩の筋肉にまで及びます。

顎関節症の要因となる可能性

噛んだときの力が特定の部位に集中すると、最終的には咀嚼運動の支点となる顎関節に悪影響が及びます。顎の関節が痛い、口を開け閉めした際にカクカク・ジャリジャリといった雑音が鳴る、口を大きく開けられない、といった症状が認められる場合は、顎関節症が疑われます。

悪い噛み合わせの種類

悪い噛み合わせの種類 悪い噛み合わせには、以下の種類に分けられます。

叢生(そうせい)

ガタガタの歯並び で、一般的には乱ぐい歯と呼ばれています。1歯1歯が別々の方向を向いていることから、上下の歯列で正常に噛み合うことはありません。

空隙歯列(くうげきしれつ)

歯列内に不要なすき間がある状態 で、一般的にはすきっ歯と呼ばれています。噛み合わせが悪いだけでなく、食べ物が詰まりやすい、発音が悪くなりやすいなどのデメリットを伴います。

上顎前突(じょうがくぜんとつ)

上の前歯や顎の骨が前方に出ている歯並び で、一般的には出っ歯と呼ばれています。前歯部での噛み合わせが悪く、食べ物を噛み切る時に支障をきたしやすいです。

下顎前突(かがくぜんとつ)

下の前歯や顎の骨が前方に出ている歯並び で、一般的には受け口と呼ばれています。出っ歯と同じく、前歯部で食べ物を噛み切るのが困難となりやすいです。

開咬(かいこう)

上下の歯列間にすき間がある歯並び で、前歯で食べ物を噛むことが物理的に難しいです。その分、奥歯に大きな負担がかかります。

過蓋咬合(かがいこうごう)

噛み合わせが深い状態 です。歯の摩耗や破折が起こりやすく、顎関節にも大きな負担がかかりやすい歯並びです。

噛み合わせを治す矯正治療の種類

噛み合わせを治す矯正治療の種類 悪い噛み合わせを治す矯正治療の種類としては、以下の4つが挙げられます。

表側矯正

歯列の表側にブラケットとワイヤーを固定する矯正法で、幅広い症例に適応できます。歯を3次元的に動かすことも得意であることから、歯並びだけでなく噛み合わせまで細かく調整するのに適した方法です。

裏側矯正

歯列の裏側にブラケットとワイヤーを固定する矯正法です。基本的な特徴は表側矯正と同じですが、装置が目立ちにくい点は大きく異なります。

ハーフリンガル矯正

ハーフリンガル矯正は裏側矯正の一種で、上の歯列は裏側に、下の歯列は表側に装置をつけます。半分(ハーフ)だけ裏側矯正であることから、このような名前がつけられています。ハーフリンガルはフルリンガル(通常の裏側矯正)よりも装置がやや目立ちやすいですが、メリットとして費用が安くなることが挙げられます。

マウスピース型矯正

透明な樹脂製のマウスピースを使って、歯並び・噛み合わせを改善する方法です。ワイヤー矯正よりも適応範囲が狭く、噛み合わせを細かく調整することは難しいですが、装置が目立たない、食事や歯磨きを普段通りに行える、治療に伴う痛みが少ない、などのメリットがあり人気が高まっています。

顎関節症の症状と治療方法

顎関節症の症状と治療方法 最後に、悪い噛み合わせで誘発されることがある顎関節症の症状と原因、治療方法を解説します。

顎関節症の症状

顎関節症を発症すると、次のような症状が現れます。

  • 口を開けた時に耳の前あたりで「カクン」「ジャリ」といった雑音が鳴る
  • 口を大きく開けることができない
  • 顎関節を指で押すと痛みが生じる
  • 食べ物を噛むと顎関節が痛い
  • 顎関節がロックすることがある(口の開け閉めができなくなる)

これらは、顎関節症で見られる症状の一部でしかありません。顎関節症はとても複雑な病気なので、ケースによって異なる症状が見られたり、いくつかの症状が組み合わさって現れたりする点に注意が必要です。

顎関節症の原因

上述したように、顎関節症は複雑な症状が現れる病気で、原因も多様です。一般的には、以下に挙げる習癖や習慣、症状などが原因となりやすいです。

【原因1】歯ぎしり・食いしばり
歯をギリギリと擦り合わせたり、グッと食いしばったりする習癖は、顎関節に大きな負担をかけます。

【原因2】歯列接触癖(しれつせっしょくへき)
歯列接触癖とは、上の歯と下の歯を無意識のうちに接触させる習癖です。歯ぎしり・食いしばりほど強く接触させるものではありませんが、その行為が習慣化していると、顎の関節に多大な悪影響が及んでしまいます。

【原因3】頬杖やうつ伏せ寝などの習慣
頬杖をつく癖、片側だけで噛む癖、うつ伏せ寝、爪噛みといった習慣は、どちらか一方、もしくは両方の顎関節に大きな負担をかけることがあります。

【原因4】スポーツや交通事故による外傷
スポーツ中に他の選手と強く接触したり、交通事故で大きな外傷を負ったりした際に、顎関節を傷めることがあります。

【原因5】特定のスポーツや楽器の演奏
強く噛みしめることが多いテニスやボクシングなどのスポーツは、顎関節に大きな負担がかかりやすいです。サックスやフルートといった吹奏楽器も顎関節への負担が大きくなる点に注意しなければなりません。

顎関節症の治療方法

顎関節症は、自然に治ることがある病気です。病状が軽く、時間の経過とともに症状が気にならなくなるようであれば、積極的な治療は必要ありません。逆に、時間の経過とともに症状が強くなる場合は、歯科を受診しましょう。

歯科では、顎関節症をスプリント療法で治療するのが一般的です。スプリントは患者さんの口腔内に合わせて作ったマウスピースを就寝時に装着することで歯ぎしりによる顎関節への悪影響を軽減します。同時に、顎も正常な位置へと誘導されるため、歯ぎしり自体が起こりにくくなります。

その他、顎関節症ではそれぞれの症状に合わせて、咀嚼筋のマッサージ、薬剤による痛みの緩和、顎関節症の原因となっている習慣・習癖の除去、食事内容の見直しなどを実施していきます。そうした保存的治療で改善が見込めない重度の顎関節症に対しては、手術が必要になる場合もあります。具体的には、変形した顎関節を外科手術で成形したり、癒着した関節を剥離したりするなどの処置を施します。

まとめ

まとめ 今回は、正常な噛み合わせの基準や悪くなる原因、悪い噛み合わせを放置するリスクと治療法を解説しました。噛み合わせの良し悪しは、オーバーバイト、オーバージェット、上下左右の対称性、第一大臼歯の咬合関係で決まります。それらに異常が見られる場合は、噛み合わせが悪くなってさまざまな症状を引き起こします。

悪い噛み合わせを放置していると、歯の欠けや摩耗、顎関節症といった口腔周囲の異常だけでなく、内臓も含めた全身のトラブルを引き起こしかねないため、適切な治療を受けることが推奨されます。悪い噛み合わせを治す方法としては、表側矯正や裏側矯正、マウスピース型矯正などの選択肢がありますので、自分に合ったものを慎重に選ぶことが大切です。

参考文献

この記事の監修歯科医師
坂本 輝雄医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

坂本 輝雄医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

東京歯科大学卒業 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学専攻)修了 東京歯科大学歯科矯正学講座助手 慶応義塾大学医学部形成外科学教室非常勤講師 米国オクラホマ大学歯科矯正学講座 Visiting Assistant Professor 東京歯科大学歯科矯正学講座講師 東京歯科大学退職 東京歯科大学千葉歯科医療センター矯正歯科 臨床准教授

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坂本 輝雄医師(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授)

東京歯科大学卒業 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学専攻)修了 東京歯科大学歯科矯正学講座助手 慶応義塾大学医学部形成外科学教室非常勤講師 米国オクラホマ大学歯科矯正学講座 Visiting Assistant Professor 東京歯科大学歯科矯正学講座講師 東京歯科大学退職 東京歯科大学千葉歯科医療センター矯正歯科 臨床准教授

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