前歯の歯並びは目立つため、大人になると矯正治療を考える人もいるのではないでしょうか。
歯並びが悪いと歯磨きで磨き残しが起こるため、歯石が溜まりやすくなり、むし歯や歯周病のリスクが高くなります。
前歯のねじれは、奥歯が倒れこんできて前歯に支障がでている場合も少なくありません。
翼状捻転の兆候がある場合は、早期に治療を開始することで部分矯正で治せるケースもあります。
今回は、翼状捻転の原因・治療法・予防法などを解説します。翼状捻転は遺伝的な要因もあるのでご家族に症状がある場合はぜひ参考にしてください。
部分矯正で翼状捻転は治せる?
翼状捻転とは、上顎の中央の前歯2本が左右対称的に鳥の翼のようにねじれて生えている状態をいいます。叢生の一種で、軽度の場合は部分矯正で改善できます。
子どもに翼状捻転がある場合、矯正装置で顎骨を広げて永久歯の生えるスペースを確保すれば、翼状捻転を予防できるでしょう。
しかし、放置して大人になって重度の翼状捻転に移行すると、歯を抜かずに矯正装置のみでは改善ができない場合もあります。
改善ができないものは、抜歯が必要になることもあるので幼少期から症状がでている場合は、顎骨の成長過程での治療開始をおすすめします。
翼状捻転の原因
翼状捻転が起こる原因はさまざまですが、ほとんどの場合乳歯から永久歯に生え変わるときに現れます。
遺伝的な要因が強いと考えられますが、顎骨に余裕がない子どもは、永久歯が生えるときにスペースが足りなくなり奥歯が前に倒れこむ形で翼状捻転が起こります。
また、長年の悪癖や環境的要因により、永久歯に生え変わってから翼状捻転が現れる人もいます。
歯が生えるスペースの不足
翼状捻転の原因は、歯が生えるスペース不足です。顎骨の成長が悪いと、小さなスペースに無理やり歯が生えるので歯のねじれ現象が起こります。
乳歯の本数は20本で、永久歯は親知らずを含めると32本です。親知らずがない人でも28本の永久歯が生えることになります。
そのため、乳歯列には霊長空隙や発育空隙と呼ばれる永久歯が生えるすき間があるのが正常です。
なお、永久歯に生え変わってから捻転の症状がでた場合は、親知らずが影響している場合があります。
遺伝的な要因
翼状捻転は、歯列弓・顎・顔面の形態が関連する場合が少なくないため遺伝的因子が強いとされています。遺伝が関与している捻転の具体的な要因は以下です。
- 歯の生え方
- 歯の大きさや形
- 過剰歯・欠如歯
- 上顎骨や下顎骨の形態
- 小顎症
遺伝的要因に環境要因(悪習慣)が加わることで、不正な歯並びが生じます。また、顎骨に遺伝性の疾患がある場合も歯並びに影響が現れることがあります。
過剰歯
過剰歯とは、歯の発育段階で通常の歯数より多くのエナメル器が生成された場合に生じます。男女別では男児に発生する頻度が高いです。
過剰歯の形態は小さく、乳歯列にでることはほとんどなく埋伏歯として存在します。
埋伏過剰歯は上顎前歯に発生する頻度が高く、歯列不正や癒合歯(乳歯が2本くっつく)を引き起こす可能性があります。
稀に口腔内に突出して正常な乳歯を脱落させることがあるので、乳中切歯(乳歯の前歯)が早期に脱落した場合は過剰歯の検査をしてみるとよいでしょう。
なお、過剰歯が起因して、顎骨に嚢胞や病原性腫瘍を発生させる場合があるので注意が必要です。
悪習癖
乳歯のむし歯や指しゃぶりなどの悪習癖もねじれの要因の1つです。
乳歯が重度のむし歯になった場合、歯根部分から細菌や汚染物質がでるため、永久歯は汚染物質を避けて生えようとする性質から歯のねじれが起こります。
むし歯も捻転の要因になるので「乳歯はどうせ抜けるから」と放置しないで、治療するようにしましょう。
指を吸啜すると頬筋や口輪筋からの強い力が継続的に上顎歯列弓に加わるため、顎が狭くなり、上顎と下顎の歯列弓が咬合しづらくなります。
すると、下顎の位置を変位させて上下の歯軸を適応させようとするので、歯の捻転が起きます。
顎が小さい
日本人は顎が小さく歯が入りきらない叢生の人が少なくありません。
叢生が起こると、翼状捻転のように前歯がねじれる場合や、何本もの歯が重なり合う乱くい歯などさまざまな形態で歯並びに影響がでます。
乳歯の段階で歯にすき間がない・翼状捻転の症状がでているなどの場合は、永久歯も叢生が起こる可能性が高いです。
骨格の成長期は歯列矯正が行いやすいため、乳歯の間に矯正装置を用いて顎骨を広げる治療を行えば、歯を抜かずに永久歯のスペースを確保できるでしょう。
歯が大きい
永久歯が大きい場合や顎骨の発育不全でも翼状捻転が起こります。歯が大きすぎて顎に入りきらない場合は、永久歯を抜いて歯の数を減らす矯正治療が必要になります。
逆に歯が小さい場合は空隙ができますが、乳歯の段階ではすき間があるのが正常です。
ただし、永久歯が生えても空隙がある場合は、すきっ歯(空隙歯列や歯間離開歯)と呼ばれる叢生になります。
翼状捻転の治療法
翼状捻転は、上顎の中央の前歯2本がねじれて見えるために2本を矯正すればよいと考えがちですが、ほとんどの場合ねじれの原因は奥歯の倒れこみによる影響です。
翼状捻転は治療前の検査で歯並びの状態を確認して、矯正治療の方法を決めます。
歯列矯正
歯列矯正は、歯に装置を装着して少しずつ歯を移動させて歯並びを整える治療です。
翼状捻転が軽度の場合は、部分矯正で治るケースがありますが、ほとんどの場合は全体に矯正装置を装着して歯列矯正を行います。
歯列矯正に用いる装置は、マルチブラケット装置およびマウスピース型装置です。
マルチブラケット型装置は、歯にブラケットを直接装着し、細いワイヤーでつなぐ装置です。ワイヤーの弾力性を利用して歯を目的の位置に移動させます。
着脱の手間がなく、マウスピース型矯正に比べると治療期間が短くなる特徴があります。ただし、装置に汚れが溜りやすく清掃には注意が必要です。
一方、マウスピース型装置は、初めに歯の型を取り透明なマウスピースを作成します。マウスピース型装置は2週間毎に交換し、目的の歯の位置まで移動させます。
矯正力はマルチブラケット型装置と比べると劣るため、装着の負担は軽減されるものの装着時間が短いと歯の移動が遅くなるのがデメリットです。
マウスピース型装置は、歯磨きや食事の時間は取り外しが可能ですが、1日の装着時間は20時間以上必要です。
なお、マウスピース型装置は透明な素材のため、目立ちにくい特徴からマウスピース型を選ぶ人が少なくありません。
セラミック矯正
セラミック矯正とは、歯を削ってセラミックでできた被せ物をかぶせてきれいな歯並びに見えるようにする治療法です。セラミック治療のメリットは以下になります。
- 治療期間が短縮できる
- 矯正装置を装着しない
- 歯列矯正中の見た目が気にならない
- 歯列矯正中の痛みが少ない
- 費用が抑えられる
セラミック治療は、被せ物を装着するため歯とセラミックの間にすき間ができることがあります。
セラミックはケア次第で10~20年程持ちますが、破損した場合は交換費用が初回と同額必要になります。
部分矯正による翼状捻転の治療の費用目安
翼状捻転のような不正な歯並びは特殊な疾患を除いて自由診療です。部分矯正は、治療期間を1年程と想定して費用の目安は400,000円(税込)前後です。
部分矯正だけで終了しないケースもあるので、治療前の検査でしっかり確認しておきましょう。なお、治療期間や治療方法で費用が変わる場合があります。
翼状捻転の治療が部分治療で治まらない場合は全体的な治療が必要になることがあります。
全体矯正になった場合の費用は一般的には1,000,000〜1,500,000円(税込)程です。治療期間は1年半〜2年程かかるのが一般的です。
治療の選択は、歯全体の状態や再発の可能性にも注視して検討します。
翼状捻転を放置するリスク
翼状捻転があると隣の歯との間にすき間ができるため、物が挟まったり隣接する歯の傾斜が強まったりします。
また、前歯がねじれているので前歯で物を噛み切ることはできません。
歯ブラシが当たらない箇所もでてくるので、歯石が溜まりやすく歯周病のリスクが高まる可能性があります。
翼状捻転を放置するリスクは高いため、治療は早めに行いましょう。
見た目が悪い
翼状捻転は前歯に起こることが少なくないため、鏡をみて自分で気付くことで見た目が悪いと感じる人も少なくありません。
思春期に翼状捻転があるとコンプレックスから内向的な性格になる子どもがいます。
大人でも、精神的ストレスからコミュニケーションが苦手になり他人との接触を控えたり、仕事に支障がでたりする人もいるでしょう。
子どものときから翼状捻転の徴候があるのなら、早い時期の治療がおすすめです。
むし歯・歯周病リスクが高まる
前歯がねじれていると、歯磨きがしづらいため磨き残しがおき、歯垢や歯石が溜まりやすくなります。
歯垢や歯石は、むし歯や歯周病のリスクを高めるため、歯磨きの方法に工夫が必要です。
噛み合わせに問題が出やすい
翼状捻転は、前歯だけのねじれにとどまらず、奥歯から傾斜が起こる場合やデコボコとした歯並びになる場合があります。
不正な歯並びは、噛み合わせ異常のリスクが伴うでしょう。悪い噛み合わせは、さらにむし歯や歯周病のリスクが高まり、咀嚼障害などが起こります。
咀嚼は健康維持には大切なものですが、乳歯にねじれの症状があるとよく噛んで食べることができないために、口腔機能の維持が難しくなります。
翼状捻転を早期発見・予防するために大切なこと
翼状捻転のような歯並びは、乳歯の段階から症状がでることも少なくありません。定期健診は不正な歯並びを早期発見し、早期治療を行うことができます。
顎の発育過程で治療が開始できれば治療期間の削減が見込め、費用面でも抑えることが可能です。
日常の何気ない習慣が歯並びに影響している場合もあるので、定期健診や口腔トレーニングで口腔トラブルの予防や改善につなげましょう。
定期的な歯科検診
歯科検診は翼状捻転を見つけることができ、むし歯や歯周病などを早期発見できるメリットもあります。むし歯や歯周病は顎の骨を溶かすため、歯並びに影響を及ぼします。
歯並びと歯周病には相互関係があり、両方が良好であることで歯の健康維持が可能です。
歯並びは、環境的因子の影響が大きいため、乳歯の歯並びがきれいでも加齢とともに歯並びが変化して永久歯で叢生が起こる場合があります。
定期的にかかりつけの歯科医院で歯のメンテナンスを受けていると、歯並びの変化にも早期に気付くことができます。
悪習癖を改善
翼状捻転に影響する悪習慣の主なものは以下があります。
- 指しゃぶり
- 舌を歯に押し付ける癖
- 歯ぎしり
- 口呼吸
- 頬杖
- うつぶせ寝
- 不正咬合
- 悪い姿勢
矯正治療で歯並びを改善しても悪習慣が継続されていると、再発や後戻りが起こる可能性があります。悪習慣は歯並びや噛み合わせに影響するので意識してやめるようにしましょう。
お口周りの筋力トレーニング
矯正歯科クリニックで推奨されているトレーニング方法に口腔筋機能療法(MFT)があります。
お口周りの筋肉を鍛えて悪習慣を取り除き、歯並びの改善を行うトレーニングです。
口腔筋を強化すると以下のような効果が期待できます。
- 矯正治療の効果を維持
- 歯並びや不正咬合の改善
- 正しい口腔機能が身につく
- 審美的な効果がある
- 発音の改善
トレーニング方法は、自己流ではなく正しい方法を習得し毎日継続して行います。
子どもの場合は悪習慣を改善し、将来の歯並びや噛み合わせをよくする予防のために行うとよいでしょう。
大人の場合は、子どものような骨に与える影響は制限されますが、矯正治療の効果の維持には有効です。以下で主なトレーニング方法を紹介します。
- スポットポジション
- スティックティップ
- ポッピング
1つ目のスポットポジションは、正しい位置に舌を置くトレーニングです。舌の正しい位置(スポット)は上顎の膨らんでいる位置の後ろに舌の先がきます。
木製の棒(アイスの棒など)を用意します。まず、スポットポジションを確認するために木の棒でスポットを5秒程かけて触りましょう。
次に棒を外し、先に触ったスポットを5秒かけて舌の先で触ります。コツは、舌の先を尖らせてお口の周りの筋肉を意識しながらゆっくり触ることです。
1セットを5回繰り返し行います。(余裕があれば回数を増やしてもかまいません)
2つ目のスティックティップは、舌先の力を付ける目的で行います。木の棒をお口の前で垂直に持ち、舌を突き出して木の棒を押しましょう。
木の棒を舌の方に押すようにして押し合いを行うのがポイントです。押し合いを3秒行ったらお口を閉じて休憩します。5〜10回程繰り返しましょう。
3つ目のポッピングは、舌を持ち上げる力が身につきます。
舌全体を上顎の裏側に吸い付くように持ち上げます。次にお口を大きく開けながら舌の裏のひも(舌小帯)を伸ばしましょう。
ポン!と音を立てながら舌を戻して休憩します。ゆっくり20回繰り返します。
ポッピングは子どもの口呼吸や発音障害の改善の効果も期待できます。大人の場合、口元のたるみやほうれい線の改善で行う人も少なくありません。
まとめ
翼状捻転は、顎が小さい日本人の叢生では少なくない症状です。前歯のみ捻転がある場合や重度の場合は歯全体がデコボコした乱くい歯の人もいます。
軽度の場合は、部分矯正治療で治るケースもありますが、前歯にねじれの症状が出ているときは奥歯が倒れていることも少なくないので全体矯正が必要になります。
子どもに翼状捻転の症状がある場合は、顎骨の成長を利用した早期の治療で永久歯の翼状捻転を改善できるでしょう。
不正歯並びは遺伝的要因が少なくありませんが、長年の悪い習慣や環境によっても起こります。
翼状捻転が重症化する前に、よくない習慣を改善し早期に治療を開始しましょう。
歯並びの改善や口腔トラブルに、口腔筋機能療法を採り入れている歯科医院や矯正歯科医院は少なくありません。
自宅で簡単な材料で行うことができるので、ぜひ試してください。
参考文献