噛み合わせは、顎関節症や頭痛などの症状を引き起こしますが、最近の研究では、難聴や耳鳴りなどの聴覚障害にも関連している可能性が示唆されています。
本記事では噛み合わせと難聴の関係について、以下の点を中心にご紹介します。
- 噛み合わせ由来の咬合関連症とは
- 噛み合わせによる耳症状
- 噛み合わせの治療
噛み合わせと難聴の関係について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
噛み合わせ由来の咬合関連症とは
「咬合関連症」とは、噛み合わせの異常によって引き起こされる症状を指します。噛み合わせの微妙なずれによって、耳鳴り、難聴などの耳の問題が現れる場合があります。
これらの症状は噛み合わせを調整することで、改善される可能性があります。
噛み合わせが変化する原因
噛み合わせが変化するのは、日常の噛み方の癖が関わります。噛むという動作は歯だけでなく、周囲の骨や筋肉とのバランスを保ちながら成り立っています。
しかし、むし歯や歯周病によって噛めない歯がある場合や、歯が抜けたままである場合、入れ歯が適切でない場合など、口腔内の問題が放置されると、噛み癖が生じやすくなります。また、就寝中の食いしばりや歯ぎしりなどの生活習慣も原因となります。
これらの癖は、日々の習慣や悪い癖の積み重ねによって、顎の骨がずれたり周囲の筋肉のバランスが崩れたりすることで、噛み合わせの不具合や顎関節症を引き起こす可能性があります。
主に、片側での極端な噛み癖や頬杖をつく癖、長時間のパソコンやスマホ操作、睡眠の際の歯ぎしりや噛みしめ、姿勢の悪さなどの癖がある方は注意が必要です。
噛み合わせによる耳症状
噛み合わせの異常は、さまざまな耳の症状を引き起こす可能性があります。以下で具体的な症状について、解説します。
噛み合わせと聴力の関係
噛み合わせに異常が生じると、顎の動きが影響を及ぼし、耳にも悪影響を及ぼす可能性があります。
年齢による聴力低下は老化現象として捉えられますが、顎と耳が近い位置にあるため噛み合わせが聴力に影響を与えることが示唆されています。
なかでも、片側のみで咀嚼する習慣がある場合、片側の筋肉の疲労や緊張が関与し、聴力低下につながることがあります。また、奥歯の不良な噛み合わせは高音が聞こえにくくなる傾向があり、逆に奥歯で強く噛む人は低音が聞こえにくくなる可能性があります。
このように、噛み合わせと耳の関係は咀嚼の動作や歯の状態によって影響を受けることがあります。適切な噛み合わせの維持や歯の健康管理は、耳の健康と密接に関連していることを考えることが重要です。
耳鳴りや難聴
噛み合わせの問題は、顎の位置のずれが脊椎を湾曲させ、神経伝達に影響を与え、耳に圧迫を生じさせることで、耳鳴りや難聴の原因となることがあります。
顎関節は耳の近くにあるため、噛み合わせの不調が耳に悪影響を及ぼし、耳鳴りや難聴、めまいなどの症状を生じさせます。このように、噛み合わせが耳鳴りや難聴を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
悪い噛み合わせが関与している全身性の症状
悪い噛み合わせは、耳だけではなく全身にも影響を及ぼします。どのような症状が現れるのか見ていきましょう。
めまい
多くの方がめまいが生じると、耳鼻科を受診しますが、悪い噛み合わせによってめまいが生じることもあります。
悪い噛み合わせによるめまいは、顎関節に負担をかけることで内耳に影響を及ぼすことで生じます。めまいの症状があるときは、悪い噛み合わせによって起こっている可能性もあるということを理解しておきましょう。
自律神経失調症
悪い噛み合わせが自律神経失調症に影響を与える可能性があります。顎周辺の筋肉が緊張すると、多くの神経が集中する頸椎を圧迫し、うつ病や自律神経失調症を引き起こす原因となることもあります。
こうした状態が自律神経の機能に悪影響を及ぼし、心身の不調を引き起こすことが考えられます。歯列矯正による噛み合わせの改善は、これらの症状を緩和し、全身のバランスを取り戻す手助けとなることが期待されます。
胃腸障害
悪い噛み合わせは、予想以上に胃腸の健康に影響を及ぼすことがあります。良い噛み合わせは消化を助ける重要な役割を担いますが、噛み合わせが悪いと咀嚼が不十分になり、噛む回数が減少します。
これによって唾液の分泌も低下し、唾液の減少は胃液の分泌にも影響を与え、消化に必要な体液が不足した結果、胃腸への負担がかかるようになります。
さらに、不十分な咀嚼により、胃腸が食物を分解する際に余計な労力を要し、長期的な消化不良や胃腸障害を引き起こすリスクが高まります。これは、一朝一夕に起こることではなく、年月を経て徐々に症状が現れるため、初期段階での対策が重要です。
したがって、噛み合わせの改善は審美的な問題だけでなく、胃腸の健康を守るためにも重要なため、定期的な歯科検診と適切な治療が、全体的な健康維持に寄与することになります。
悪い噛み合わせが関与している口腔内の症状
悪い噛み合わせは、口腔内にもさまざまな問題を引き起こします。以下で具体的な症状を解説します。
歯周病
悪い噛み合わせは、歯周病の発症や悪化に影響することがあります。正常な噛み合わせでは、咀嚼の際に歯にかかる力が均等に分散されますが、噛み合わせが悪い場合、一部の歯に過剰な負荷がかかります。これが歯を支える骨の減少を招き、歯と歯茎の間にプラークが溜まりやすいポケットを形成し、歯周病菌が侵入しやすくなります。
このような状態では、通常の歯周病治療であるプロフェッショナルクリーニングだけでは症状の改善が難しい場合があります。治療を続けても改善が見られない場合は、噛み合わせの問題が根底にある可能性が考えられます。
これにより、歯肉の健康がさらに損なわれ、歯周病が悪化する悪循環に陥ることがあります。したがって、歯周病の治療と併せて、噛み合わせの調整も考慮することが、症状の改善や再発防止につながる重要なアプローチとなります。
顎関節症
顎関節症は、多様な要因が絡み合って発症することがありますが、なかでも噛み合わせの問題は発症に影響することが知られています。顎関節症の主な原因は、以下の通りです。
- 噛み合わせの悪さによる顎関節への負担: 歯並びが悪い、あるいは噛み合わせが不均衡であると、顎関節に不自然な力がかかります。これが継続することで、顎関節に過剰なストレスが蓄積し、炎症や痛み、機能障害を引き起こす可能性が高まります。
- 顎関節の構造的問題: 顎関節の構造に起因する問題も、顎関節症の一因となります。顎関節がもともと弱い方は、日常生活の中でのささいな刺激によっても症状が現れやすくなります。
- 筋肉の緊張: ストレスや不安は、顎周りの筋肉を過度に緊張させることがあります。この緊張が顎関節に余計な負担をかけ、顎関節症を誘発することがあります。
- 外傷や日常生活の癖: 顔面への直接的な衝撃や事故による外傷、さらには日常生活の中でのささいな癖や習慣も顎関節症を引き起こす要因です。頬杖をつく、歯ぎしり、噛み癖、食いしばり、うつぶせ寝、猫背、硬いものを食べる、大口を開けるなどがこれに該当します。
これらの要因により、顎関節症は発症しやすくなり、さらに重症化するリスクも高まるため、適切に対処することが重要です。
噛み合わせの検査・診断
噛み合わせの検査と診断は、症状の原因を特定し、適切な治療法を決定するために重要です。主な検査方法は、以下の通りです。
- 問診と聴力検査:
患者さんの具体的な症状を問診によって詳細に把握します。この段階で、患者さんがどのような噛み癖を持っているかも診断します。なかでも、噛み合わせが悪いと、顎の動きが正常でなくなるため、聴覚器官にも影響を与える可能性があります。
聴力検査を通じて、どの音域が聞き取りづらいかを特定し、これが噛み合わせの問題と関連しているかを確認します。 - 全身機能検査:
噛み合わせの問題は、口腔内だけでなく全身のバランスにも影響を及ぼすことがあります。そのため、腕を上げる動作などを含む全身機能の検査を行い、身体のバランスがどのように噛み合わせの問題によって影響を受けているかを観察します。
全身の筋肉バランスや姿勢の歪みが顎関節にどのような影響を与えているかを確認することで、治療計画の精度を高められます。
これらの適切な検査を行うことで、噛み合わせに関連する問題に対しての治療法を選択することが可能とされています。
噛み合わせの治療
噛み合わせにはどのような治療法があるのでしょうか?以下で詳しく解説します。
治療内容
噛み合わせの治療は、口腔内の健康だけでなく、全身の健康にも寄与します。主な治療内容は以下の通りです。
- 基本的な歯科治療:
まず、むし歯や歯周病などの基本的な問題を治療します。この初期治療は、口腔内の健康を回復させることが目的ですが、これだけでは噛み合わせの問題は解決しません。
したがって、歯や顎の状態を確認し、欠損部の補綴(入れ歯やブリッジ)を行うことで、改善を目指します。 - 噛み合わせの診断と調整:
治療中、顎の動きや聴力、口の開き具合、腕や首の可動域を定期的にチェックし、これに基づいて噛み合わせのバランスを調整します。この段階では、噛み合わせが身体にどのような影響を与えているかを診断し、必要に応じて調整を加えます。 - 噛み癖の歯列矯正:
噛み合わせが適切に調整されても、患者さんの噛み癖が改善されなければ、治療効果は期待できません。
そのため、患者さんにはビニールチューブを使用した噛み方トレーニングを自宅で行ってもらい、正しい噛み癖を身につけてもらいます。このトレーニングは、噛み合わせを改善させるために不可欠です。
治療の成功は、歯科医師と患者さんが協力して取り組むことが重要となるため、患者さん自身が自分の口腔内状態や噛み合わせの癖を理解し、適切なケアを継続しましょう。
正しい噛み方のトレーニング方法
噛み方の癖を治すためにも、自分の噛み方の癖を振り返ることも大切です。
以下のような正しい噛み方のトレーニングを意識することも重要なポイントとされています。
- 唇を閉じる:食事中はお口を閉じ、唇をきちんと閉じることが大切です。これは噛む力を均等に使い、顔の筋肉を鍛えるためにも重要とされています。
- 前歯と奥歯のバランス:前歯で食べ物を噛み切り、その後奥歯で左右均等に噛みつぶします。これにより、顎関節への負担を軽減し、正しい顎の発育を促すことが期待できます。
- 噛む回数:1口あたり30〜40回噛むことが理想とされています。これにより消化が助けられ、顔の表情筋も鍛えることが期待できます。
- 姿勢の重要性:噛む際は猫背や前かがみにならないように注意し、正しい姿勢で食事をすることが重要とされています。
これらのトレーニングを意識をして実践することで、顔の表情が豊かになることや、歯並びの改善や消化を助けることも期待できます。
まとめ
ここまで噛み合わせと難聴の関係についてお伝えしてきました。噛み合わせと難聴の関係の要点をまとめると以下の通りです。
- 咬合関連症とは、噛み合わせの異常によって引き起こされる症状のこと
- 噛み合わせの異常は、顎の動きが耳に影響を及ぼし、聴力低下や耳鳴り、難聴を引き起こすことがあるため、注意が必要
- 噛み合わせの治療には、基本的な歯科治療、噛み合わせの診断と調整、噛み癖の歯列矯正が含まれ、治療成功には患者さんと歯科医師の協力が重要となる
噛み合わせの問題は全身に影響を及ぼすため、早期の専門的診断と治療が必要です。適切な治療を受けることで、噛み合わせの問題から生じるさまざまな症状が改善されることが期待されます。
最後までお読みいただきありがとうございました。