受け口の症状は、自力で治すことはできないため、歯列矯正による改善を検討している人も少なくないでしょう。歯列矯正のなかでもインビザラインは、透明なマウスピースを装着するだけで歯並びをきれいにできるため、受け口の治療に使いたいと希望する人はいるはずです。ここではそんな受け口をインビザラインで治療する方法やメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。
受け口について
はじめに、受け口という歯並びの状態や原因、治療の要否について確認していきましょう。
- 受け口とはどのような状態ですか?
- 受け口とは、下の歯がうえの歯より前に出ている状態を指します。この状態は下顎前突(かがくぜんとつ)とも呼ばれ、噛み合わせに問題を引き起こします。受け口の患者さんは、食事中に噛みにくかったり、発音がしづらかったりすることがあります。見た目にも影響し、笑顔や自信に影響を与えることがある点にも注意が必要です。
- 受け口になる原因を教えてください
- 受け口の原因は多岐にわたります。大きいのは親から受け継ぐ遺伝的要因で、歯の大きさや数、骨格の形態などが深く関与しています。また、子どもの頃の悪習慣、例えば、指しゃぶりや長期間の乳歯の使用も影響します。さらに、噛み合わせの問題や歯並びの異常、顎の成長の不均衡なども受け口の原因となり得ます。これらの要因が重なることで、受け口という不正咬合が形成されるのです。
- 受け口は治療をした方がよいですか?
- 受け口の症状が認められる場合は、治療した方がよいケースがほとんどです。治療を行うことで、噛み合わせが改善し、食事や発音の問題が解消されます。また、見た目がよくなることにより自信がついて、心理的な満足感の向上も期待されます。治療しないで放置すると、むし歯や歯周病のリスクが高まり、顎関節に負担がかかることがあるため、受け口は軽視しない方がよいでしょう。
受け口のインビザライン矯正について
次に、受け口をマウスピース型矯正のインビザラインで治療することに関する疑問に答えます。
- インビザラインについて教えてください
- インビザラインは、透明なマウスピースを使用して歯並びを矯正する治療方法です。従来の金属製のブラケットやワイヤーを使用しないため、目立ちにくく、痛みも少ないため快適に治療を進めることができます。インビザラインは、患者さん一人ひとりの口内状況に合わせてカスタムメイドされ、定期的に新しいマウスピースに交換して歯を徐々に動かしていきます。これにより、自然な噛み合わせを実現し、むし歯や歯周病のリスクを減少させます。
◎インビザライン矯正の手順
インビザライン矯正の手順は、まず歯科医師が患者さんの口内をスキャンし、3Dデジタルモデルを作成します。このモデルをもとに、治療計画が立てられ、目標の歯並びに向けて一連のマウスピースが作成されます。患者さんは約1〜2週間ごとに新しいマウスピースに交換し、定期的に歯科医師のチェックを受けながら治療を進めます。マウスピースは取り外し可能なので、食事や歯磨きが容易で、日常生活に支障をきたすことが少ないのもメリットです。
◎インビザラインの歴史・実績
インビザラインは、1997年にアメリカのアライン・テクノロジー社によって開発されました。20年以上の歴史があり、これまでに世界中で1700万件以上の症例があります。その効果と安全性は、臨床研究によって証明されており、患者さんや歯科医師から高い評価を得ています。また、技術の進歩に伴い、治療期間の短縮や適応症例の拡大が進んでいます。
- インビザラインで受け口は治りますか?
- 受け口には、インビザラインで治せる受け口と治せない受け口の2つがあります。
◎インビザラインで治せる受け口
下の前歯が前方に傾いている、あるいは前方に位置していることが原因で受け口になっている症例は、インビザラインでも治しやすいです。いわゆる歯槽性の受け口とは、歯の位置や角度を調整することで症状の改善が見込めるからです。基本的には軽度の受け口がインビザラインを用いた矯正対象となるものと考えましょう。
◎インビザラインで治せない受け口
中等度から重度の受け口や骨格性の受け口の場合、ほとんどがインビザラインだけでの治療は難しいです。骨格性の受け口は、顎の骨の成長や位置の異常が原因で起こるため、単に歯を動かすだけでは解決できません。このようなケースでは、外科的な手術やほかの矯正装置との併用が必要になることがあります。具体的には、矯正用のブラケットやワイヤーを使用しながら、インビザラインを補助的に使用する方法や、顎の骨を調整する手術が考えられます。患者さんの受け口の原因や状態に応じて、適切な治療方法を歯科医と相談しながら決定することが重要です。
インビザラインは、患者さんにとって魅力的な治療法ですが、すべての受け口に対応できるわけではありません。治療を検討する際は、専門の歯科医師と相談し、自分の状態に適した治療法を選ぶことが大切です。
- インビザラインで受け口を治すためにはどのくらいの期間が必要ですか?
- インビザラインによる全体矯正であれば、歯を動かすのに1〜2年程度かかります。その後の保定処置も含めると、全体では2〜4年の治療期間を要します。インビザラインによる部分矯正で受け口を治す場合は、歯を動かすのに3〜10ヵ月程度の期間がかかります。
- インビザラインで受け口を治療する費用の目安を教えてください
- インビザラインで受け口を全体矯正する場合は、600,000〜1,200,000円程度の費用がかかります。部分矯正の場合は、200,000〜700,000円程度で受け口を治療できます。インビザラインには原則として保険が適用されないため、治療にかかった費用は全額自己負担となる点に注意が必要です。
受け口をインビザラインで治すメリットとデメリット
ここでは、インビザライン矯正で受け口を治すメリットとデメリットを紹介します。
- 受け口をインビザラインで治すメリットを教えてください
- インビザラインを使用して受け口を治すことには、さまざまなメリットがあります。
◎装置が目立ちにくい
インビザラインの大きな特徴は、透明なマウスピースを使用するため、装置が目立ちにくいことです。これは、矯正治療中でも他人に気付かれにくく、見た目を気にする人には大きなメリットといえるのではないでしょうか。
◎取り外し可能で食事や歯磨きがしやすい
インビザラインは取り外しが可能なため、食事や歯磨きの際に装置を外すことができます。これにより、食事中に装置に食べ物が詰まる心配がなく、歯磨きもしやすいため、むし歯や歯周病のリスクを軽減できます。
◎装置による不快症状が少ない
インビザラインのマウスピースはカスタムメイドされており、患者さんの口内にぴったりとフィットします。従来の金属製の矯正装置と比べて、装置が口内にあたって痛みや不快感を引き起こすことが少ないため、快適に治療を進められます。また、金属アレルギーの心配もありません。
◎通院回数が少ない
インビザライン治療は、定期的な調整が不要なため、通院回数が少ないのもメリットです。患者さんは約1〜2週間ごとに自分で新しいマウスピースに交換するだけでよく、歯科医院への頻繁な訪問が不要です。
- 受け口をインビザラインで治すデメリットを教えてください
- インビザラインを使用して受け口を治す場合は、以下のようなデメリットを伴います。
◎費用がやや高い
インビザラインの治療費は、従来の金属製ブラケットに比べて高額になることがあります。カスタムメイドのマウスピースやデジタル技術を使用するため、初期費用が高くなる傾向にあります。
◎適応範囲がやや狭い
インビザラインは軽症かつ歯槽性の受け口には効果的ですが、重度の受け口や骨格性の問題には対応できないことがあります。骨格性の受け口は、顎の骨の位置や成長に関わるため、マウスピースだけでの矯正が難しいです。 ただし、骨格性の受け口は外科矯正と歯列矯正の併用が前提となるのでワイヤーだけの矯正も同様に困難です。
◎自己管理が必要
インビザラインのマウスピースは取り外し可能ですが、これには自己管理が必要です。患者さんが指定された時間(通常1日20〜22時間)装着しないと、治療効果が得られにくいです。
編集部まとめ
今回は、インビザラインで受け口を治療する方法やメリット・デメリットについて解説しました。受け口は、下の前歯が前方に突出している歯並びで、放置すると咀嚼障害や審美障害、発音障害などに悩まされることがあるため、歯列矯正で改善するのが望ましいです。そのひとつの手段としてマウスピース型矯正のインビザラインがありますが、すべての受け口の症例に適応できるわけではない点に注意が必要といえます。いずれにしてもインビザラインで受け口を治したい人は、自分の歯並びが適応かどうかも含めて歯科医師に相談することを推奨します。
参考文献