すきっ歯は不正咬合(歯並びや噛み合わせが悪い状態)の症状の一つで、見た目の問題で心理的な影響があるだけでなく、むし歯や歯周病の原因にもなります。
また、咀嚼や滑舌などのQOL(生活の質)にも影響が出る症状です。
歯と歯の間に隙間ができているせいで、人前で大きくお口を開けることが苦手になりコンプレックスになってしまう方もいるでしょう。
この記事では、すきっ歯になる原因や弊害と併せて、歯列矯正にかかる期間と費用についても詳しく解説します。
これからすきっ歯を治療しようと検討をしている方の参考になれば幸いです。
すきっ歯になる原因は?
すきっ歯とは、正式には空隙歯列(くうげきしれつ)と呼ばれる不正咬合の症状の1つです。すきっ歯には先天的な原因と、後天的な原因など、さまざまな原因が考えられます。
すきっ歯になる主な原因は、以下のようなことが考えられます。
- 生えてくる歯のサイズが小さい
- 舌が大きい
- 舌を前に出す癖(舌突出癖)がある
- むし歯や歯周病の放置
歯が生えるスペースや顎の骨の大きさに対して生えてくる歯のサイズが小さいことが、隣り合う歯の間に隙間ができてしまう主な原因です。
また、舌が大きい場合や舌を前に出す癖(舌突出癖)があると、舌で前歯が押し出されて隙間ができやすくなる場合もあります。
ほかにも、むし歯や歯周病を放置することも、すきっ歯になる原因の1つです。
むし歯や歯周病を放置することで歯を失ったままにすることや、歯周病が原因で歯を支える骨が弱くなることによって、周囲の歯が少しずつ移動してしまい隙間ができる場合があります。
すきっ歯は、すべての歯が乳歯の時期(乳歯列期)や、乳歯と永久歯が混ざっている時期(混合歯列期)であれば大きな問題になるケースは少ないです。
一方で、すべての歯が永久歯になっている(永久歯列期)のに隙間がある場合は、不正咬合(歯並びや噛み合わせが悪い状態)と診断されます。
不正咬合と診断された場合は、歯列矯正による治療を検討した方がよい場合があります。
すきっ歯の悪影響
すきっ歯の状態を放置しておくことによって、お口に悪い影響を及ぼす場合があり、むし歯や歯周病が悪い影響の代表格です。
また、むし歯や歯周病などの症状以外に、滑舌が悪くなる可能性もあります。
なぜすきっ歯がむし歯や歯周病の原因になり滑舌も悪くなってしまうのか、それぞれの原因をわかりやすく解説していきますので、ご自身の状態と比較してみましょう。
むし歯や歯周病になりやすくなる
歯の隙間に食べかすやプラーク(歯垢)が溜まりやすくなることで、むし歯や歯周病、さらには口臭の原因にもなります。
日頃から歯ブラシやデンタルフロスの使用による予防を行うことや、定期的に検診を受けるなど、しっかりと口腔ケアを行うことが大切です。
滑舌が悪くなる
歯と歯の間にできた隙間から空気が漏れやすくなることで、舌や唇の位置がずれることがあります。
言葉を発するときに空気が漏れ出ることで相手が聞き取りにくくなることや、舌がうまく動かせずにはっきりと発音しづらくなることが滑舌が悪くなる原因です。
空気の漏れ出る量が多くなると、特にサ行やタ行の発音がしづらくなるケースがあります。
患者さんによっては、人と話すことに対して消極的になってしまうなどメンタル面に影響が出てしまうこともありますので、症状が当てはまる場合は歯科医院を受診してみましょう。
すきっ歯の矯正方法
すきっ歯の治療は、主に矯正装置を使用した歯列矯正治療が行われます。
矯正装置による治療法は主に2種類あり、患者さんの歯の状態やご希望によっては、矯正装置を使用しない治療も選択が可能です。
すきっ歯の治療には、以下のような方法が用いられます。
- ワイヤー矯正
- マウスピース矯正(アライナーによる矯正)
- ラミネートベニアによる形態修正(通常の歯の大きさにする)
- レジン(プラスチック製のペースト)による形態修正
どの治療法を選ぶかは、歯科医院を受診して精密検査を受けることで、患者さんと相談しながら決めていきます。
それぞれの治療法の特徴について1つずつ詳しくご紹介していきますので、受診時に相談する際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
ワイヤー矯正
歯列矯正治療で使用される代表的な矯正装置です。
ブラケット(ボタン)と呼ばれるパーツを、接着剤を使って歯に直接取り付け、溝にワイヤーを通します。ワイヤーによる弱い矯正力を利用することで、少しずつ歯の移動を行う矯正方法です。
取り付けたワイヤーは、歯の移動状態に合わせて1ヶ月を目安に調整を行い、徐々に歯列矯正を行います。
ブラケットの素材は金属製が一般的ですが、ほかにもセラミックやプラスチック製など、金属アレルギーの予防や審美的な観点から用いられる素材も選択が可能です。
また、歯の表側ではなく裏側に取り付けることも可能ですが、高度な技術を要するため費用が高くなる傾向があります。
ブラケットによる歯列矯正は永久歯の歯列矯正にとても有効な矯正装置ですが、口腔ケアを怠るとむし歯や歯周病になりやすいことが注意点です。
また、セラミックやプラスチックの素材もありますが、ワイヤーを使用するため目立ちやすいといった欠点もあります。
マウスピース型矯正
透明なマウスピースを装着して歯列矯正を行う方法です。歯の移動に合わせてマウスピースを定期的に交換を行うことで、歯列矯正を行います。
ワイヤー矯正とは異なり取り外しが可能なので、食事を自分の歯で咀嚼することや、しっかりと口腔ケアを行うことができます。
また、マウスピース自体が透明なので、周囲に歯列矯正をしていることが気付かれにくいのも特徴の1つです。
取り外しができるメリットはとても魅力的ですが、1日の間で20時間以上装着する必要があるので、患者さんご自身による自己管理が治療期間に影響する治療法です。
ラミネートベニアによる形態修正(通常の歯の大きさにする)
セラミック性のパーツを接着剤で取り付ける方法で、主に上顎の歯に用いられます。
矯正装置によって歯の移動を行うのではなく、既存の歯につけ爪のようにパーツを取り付けることで、表面的に隙間が見えないようにすることができます。
また、削ってパーツを取り付けるだけなので、治療期間も短くすることができる治療法です。
セラミックを素材としているため、天然に近い色を出すことができ、手早く見た目を変えることが可能です。
歯の表面を削る処置が必要になりますが、削る厚みはごく僅かなため、神経への影響などもありません。
一方で、歯の噛み締めや歯ぎしりの癖がある患者さんの場合は、セラミックが割れてしまう可能性があります。
レジン(プラスチック製のペースト)による形態修正
ダイレクトボンディングとは、ラミネートベニアのようにセラミック性のパーツを貼り付けるのではなく、レジンを歯に盛り付けて隙間を埋める治療法です。
ハイブリッドレジンペーストと呼ばれる素材を歯に盛り付けた後に、レジンペーストを固めるために専用の光を当てることで強度を出すことができます。
レジンペーストの硬化後、削って形を整えて、さらに研磨することで自然な歯に近づけることが可能な治療法です。
矯正装置のように目立つことがなく、ラミネートベニアのように本来の歯を削ることもありません。
一方で、歯の噛み締めや歯ぎしりの癖がある患者さんは、ラミネートベニアによる治療と同じように硬化したレジンが割れたり傷がついてしまう可能性があるので注意が必要です。
すきっ歯の矯正期間
矯正装置を使用した歯列矯正には、早期治療とワイヤー矯正装置やマウスピース型矯正装置を使用した本格治療があり、それぞれ治療期間が異なります。
早期治療は、乳歯が生える4歳頃から前歯が永久歯になる9歳頃の間に始める治療です。この期間で行う治療は、顎の骨も成長しているため、永久歯が完全に生え揃うまで歯列矯正が必要です。
永久歯が生え揃ってから始める治療は本格治療と呼ばれ、主にワイヤー矯正が用いられます。
矯正装置を使用した歯列矯正にかかる期間は、患者さんの歯や顎の骨の状態などによって異なります。
ワイヤー矯正とマウスピース型矯正の歯列矯正にかかる期間や通院頻度について詳しく解説しますので、歯科医院で治療法を相談する際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
ワイヤー矯正の矯正期間
ワイヤー矯正による歯列矯正の治療は、定期的にワイヤーを調整して歯を徐々に動かして歯列矯正を行います。
歯の生え方や歯が動くスピードは患者さんによって異なりますが、歯を動かして治療する動的治療期間はおよそ1〜3年程度が目安です。
治療期間中は月に1回程度は通院をして、ワイヤーの調整のほか、食べかすやプラークの詰まりなどお口の状態をチェックすることが必要になります。
マウスピース型矯正の矯正期間
マウスピース型矯正装置を用いた歯列矯正の期間の目安は、ワイヤー矯正と同じように約1〜3年が目安です。
マウスピース型矯正装置はワイヤー矯正と異なり取り外しが可能になるなどのメリットがありますが、一方で1日20時間以上使用しなくてはならず、自己管理が大切な治療法です。
そのため、患者さんの歯の状態はもちろん、マウスピース型矯正装置の装着時間によっても歯列矯正にかかる期間に差が出ます。
すきっ歯の予防方法は?
すきっ歯は不正咬合(歯の噛み合わせや歯並びの悪い状態)と呼ばれる状態の一つです。
不正咬合の原因は先天的原因と後天的原因の2種類があり、先天的原因の場合はご家族からの遺伝による部分もあり、予防することは困難です。
一方で、後天的原因は患者さんが幼い頃に身についてしまった日頃の癖や外的要因などがあり、以下のようなことが考えられます。
- 指しゃぶり
- 食事を片側の歯だけで噛む
- 乳歯にむし歯がある
- 転倒した際に歯の向きに影響が出た
患者さんがまだお子さんの場合は、早めに癖を直してあげることで予防できる可能性があります。
転倒によって歯の向きが変わってしまったり折れたりした場合は、放置しておくとすきっ歯だけではなくほかの症状が起きる可能性もあるため、早急に受診しましょう。
すべての歯が永久歯に生え揃ってしまうと、歯も顎の骨も安定してしまい、予防は困難になります。
永久歯の状態ですきっ歯がある場合は、歯科医院を受診して、歯列矯正の治療を受けるかどうか検討しましょう。
すきっ歯の矯正費用の相場
国が定めた先天疾患による不正咬合の矯正治療や、顎の外科手術を必要とする顎変形症の手術前後の矯正歯科治療以外、歯列矯正にかかる費用は保険適用外の自由診療です。
自由診療とは、医療機関が費用を設定できるため、受診する医療機関によって差があります。また、患者さんの歯の状態や使用する矯正装置、通院期間によっても異なります。
矯正治療中は定期的に通院が必要になりますが、その際にむし歯や歯周病が発見された場合は、それらの治療費が必要です。
この項目ではワイヤー矯正とマウスピース型矯正によるお口のなか全体に対する本格矯正治療について、それぞれ費用の相場を解説していきますが、費用のなかには共通する項目もあります。
いずれの治療でも、最初にX線などを用いた精密検査にかかる検査料金と、お口の状態を見極めるための診断料がかかります。
精密検査と診断料の費用は検査項目によっても異なりますが、初診料も含めた場合数万円前後が目安です。
この金額に、矯正装置の作製や定期的なメンテナンス費用が上乗せされます。
ワイヤー矯正の費用相場
ワイヤー矯正による歯列矯正の場合、ブラケットを歯の表側に装着するか、目立ちにくいように歯の裏側に装着するかによって初回の装着費用が異なってきます。
歯の表側に装着する場合、片側(上下の歯のいずれか)の装着に300,000円前後かかるのが一般的な目安です。
歯の裏側に装着する場合はブラケットの接着やワイヤーを通す処置がしづらいため、片側450,000円前後と、表側に装着する場合と比較すると金額が高くなります。
ワイヤー矯正装置の取り付け後は、定期的に通院して歯の移動状態を観察し、状態に合わせてワイヤーの調整が必要です。また、むし歯や歯周病がないかなどの診察も行われます。
歯列矯正の期間中は、経過観察やワイヤー調整などのために月に1回程度通院が必要なため、その都度受診費用が必要です。
初診から矯正治療が終わるまでにかかる費用の総額は、800,000円〜1,200,000円前後が一般的な目安になります。
金額の開きが大きいのは、上下いずれかの歯のみに治療をするかや期間中にほかの治療をするなど、患者さんの状況によって内容が異なるためです。
マウスピース型矯正の費用相場
マウスピース型矯正の費用は、ワイヤー矯正と比較しても大きな差はなく、総額で600,000円〜1,000,000円前後となります。
ワイヤー矯正と金額が異なるケースとしては、ワイヤー矯正でブラケットを歯の表側に装着した場合は、マウスピース型矯正の方が高額になりやすいです。
一方で、ブラケットを歯の裏側に装着した場合は、マウスピース型矯正の方が安くなる傾向があります。通院する回数は、マウスピース型矯正の場合は2週に1回程度の通院することになります。
ただし1日20時間以上の装着が必要なため、自己管理ができていないと治療期間が伸びる場合があり、その分費用もかかるので注意が必要です。
まとめ
不正咬合のなかでも、すきっ歯は食べかすやプラークが詰まりやすく、むし歯や歯周病が併発しやすい症状です。また、歯の隙間から空気が漏れやすく、滑舌が悪くなる原因にもなります。
すきっ歯だけではなく不正咬合全体にいえることですが、歯列の悪さが原因で人前でお口を開くことに消極的になり、メンタルに影響を及ぼす可能性もあるので注意が必要です。
歯列矯正治療は費用が高額ですが、医療費控除制度を利用することで金額の一部が所得控除になる場合があります。費用に不安がある場合は受診時に相談しましょう。
すきっ歯でお悩みの方は、一度歯科医院を受診し、歯列矯正治療が必要かどうか相談されることをおすすめします。
参考文献