歯列矯正と聞くと、装置で歯を動かすイメージを持たれる方が多いかもしれませんが、実は矯正治療の一環として「歯をわずかに削る」処置が行われることがあります。
しかし、歯を削る必要があるのかどうか、不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では歯列矯正は歯を削るのかについて以下の点を中心にご紹介します。
- 歯列矯正で歯を削る5つのメリット
- 歯列矯正で歯を削る2つのデメリット
- 歯を削るIPRの注意点
歯列矯正は歯を削るのかについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
歯列矯正で歯を削る5つのメリット
歯列矯正で歯を削る5つのメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。以下で解説します。
1.歯のデコボコを解消する
歯列矯正で歯をわずかに削るメリットの1つ目として、歯のデコボコを整える点が挙げられます。この方法は「IPR(Interproximal Reduction)」や「ディスキング」と呼ばれ、歯と歯の間をわずかに削ることで、歯を並べるためのスペースをつくります。
なかでも、前歯が重なって生えている場合は、抜歯をせずに自然な位置に整えやすくなるため、見た目にも機能的にも改善が期待できます。
2.上下の歯のバランスを解消する
歯列矯正で歯をわずかに削るメリットの2つ目として、上下の歯のバランスを解消する点が挙げられます。
上下の歯の大きさや本数のバランスが取れていないと、せっかく歯を並べてもきれいに噛み合わず、見た目や機能面に支障をきたすことがあります。
そこで、歯を削ることで、抜歯をせずに必要なスペースを確保しながら、上下の歯の接触やずれを改善できます。なかでも、軽度〜中度の叢生(歯の重なり)や、歯と歯の隙間を均等に整えたい場合に効果が期待できます。また、仕上がりの噛み合わせが自然になり、治療後の安定性も高まります。
3.歯と歯の隙間(ブラックトライアングル)を改善する
歯列矯正で歯をわずかに削るメリットの3つ目として、歯と歯の隙間(ブラックトライアングル)を改善する点が挙げられます。
ブラックトライアングルは、歯の根元部分の歯茎が下がって見えることで生じる三角形の隙間で、歯並びを整えた後に目立つことがあるため、審美的な悩みにつながることがあります。
このような場合、歯の側面をわずかに削って形を調整することで、歯と歯の接触面を広げ、隙間を目立たなくするとされています。見た目の印象が改善されるだけでなく、すき間に汚れがたまりにくくなり、むし歯や歯周病のリスクも軽減されます。
歯並びだけでなく、細かな見た目まで美しく整えたい方にとって、ブラックトライアングルの改善は大きなメリットといえるでしょう。
4.歯列の安定性を向上させる
歯列矯正で歯をわずかに削るメリットの4つ目として、歯列の安定性を向上させる点が挙げられます。
矯正で行われるストリッピング(IPR)は、歯と歯の接触を点から面に変える処置です。接触面が広がることで、歯同士がよりしっかり支え合い、歯列全体の安定性が高まります。 ストリッピングの効果により、矯正後に歯がずれたり後戻りしたりするリスクが抑えられ、整えた歯並びを長く保ちやすくなります。
また、安定した歯列は噛み合わせのバランスを整えるうえでも重要で、見た目だけでなく機能面の維持にもつながります。
5.抜歯を避けられるケースがある
歯列矯正で歯をわずかに削るメリットの5つ目として、抜歯を避けられるケースがある点が挙げられます。
歯列矯正では、歯を正しい位置に動かすために一定のスペースが必要になります。従来はそのスペースを確保するために抜歯を行うケースもありましたが、IPR(歯と歯の間をわずかに削る処置)を取り入れることで、抜歯を避けられる可能性があります。 IPRでは、歯の表面をほんのわずかに調整することで、歯を並べるためのスペースをつくります。
なかでも、軽度から中等度の叢生(歯の重なり)であれば、抜歯せずに治療を進められるケースが増えています。
歯を失うことなく、自然な形で美しい歯並びを目指せる点は、患者さんにとって大きなメリットといえるでしょう。
歯列矯正で歯を削る2つのデメリット
歯列矯正で歯を削る2つのデメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。以下で解説します。
1.健康な歯を削ってしまう
歯列矯正で健康な歯を削ってしまくことで、エナメル質が損失するとされています。 エナメル質は歯の表面を覆う硬い組織で、むし歯や刺激から歯を守る重要な役割を担っています。しかし、削ることでこの保護層が薄くなり、むし歯になりやすくなったりする可能性があります。
また、エナメル質は一度削ると再生しないため、必要以上に削ってしまうと歯の寿命にも影響することがあります。
もちろん、実際の処置では安全性に十分配慮されていますが、歯の状態によっては慎重な判断が求められます。
2.一時的に知覚過敏のような症状が起こるケースもある
歯列矯正で歯と歯の間をわずかに削る処置(IPR)を行った後、ごく稀に一時的な知覚過敏のような症状が現れることもあります。
これは、削った刺激によって歯の内部の神経が一時的に敏感になるために起こります。その結果、冷たい飲み物や熱い食べ物を摂取したときに、歯がしみるように感じる場合があります。
ただし、こうした症状はあくまで一時的なものであることがほとんどで、時間の経過とともに自然と治まっていきます。しかし、不快な症状が長引いたり、しみる感覚が強くなった場合には、念のため歯科医師に相談することをおすすめします。
歯を削る処置にはメリットがある一方で、こうした軽度の不快感が起こる可能性もあることを理解しておくことが大切です。
歯を削るIPRとは
PR(アイピーアール)とは「Interproximal Reduction」の略で、歯列矯正の際に歯と歯の間をわずかに削ってスペースを確保する処置のことを指します。主に、歯を抜かずに歯並びを整えたいときや、歯が軽度に重なり合っている場合に用いられる方法です。削る量は少なく、片側あたり0.1〜0.3mm程度で、歯の表面のエナメル質の範囲内で行われます。
IPRの目的は、歯を無理に移動させることなく、自然な形で美しい歯列に整えるためのスペースを作ることにあります。
また、歯の形をなめらかに整えることで、歯と歯の隙間に汚れがたまりにくくなり、むし歯や歯周病の予防にもつながります。
IPRの処置は短時間で済み、麻酔が必要ない場合が多いとされているため、身体への負担も少ないのが特徴です。安全性の高い方法とされていますが、事前に歯科医師としっかり相談しながら進めることが大切です。
歯列矯正で歯を削る範囲
歯列矯正で行われるIPRでは、削る範囲は少しで、歯の表面にあるエナメル質の範囲内にとどめられます。
具体的には、片側の歯につき0.1mm〜0.3mm程度、両側を合わせても1本あたり0.5mm程度までが目安とされており、必要に応じて複数の歯に分けて削ることで全体のスペースを確保します。この程度であれば歯の健康や強度に大きな影響を与えることはありません。
処置の際には、歯科医師が状態によって丁寧に対応されていますが、不安がある方は事前に相談しておくといいでしょう。
歯を削るときの痛みについて
歯列矯正で行うIPRは、歯の表面にあるエナメル質のごく一部を削るため、基本的に痛みを感じることはほとんどないとされています。神経に近い部分までは削らないため、麻酔を使わずに処置が行われます。
ただし、まれに刺激に敏感な方や、歯の状態によっては軽い違和感や振動による不快感を覚えることがあります。
また、処置後に冷たいものがしみるなどの知覚過敏のような症状が一時的に現れることもありますが、数日で自然におさまります。
不安がある場合は、事前に歯科医師に相談し、処置の内容やリスクについて説明を受けるとで安心して処置を受けられるでしょう。
歯を削る方法
歯を削る方法にはどのようなものがあるのでしょうか。以下で解説します。
やすり
歯列矯正治療で歯を削る際に使われる「やすり」には、手動タイプとエンジンタイプの2種類があります。どちらも金属製で細長く、紙やすりのような質感をしており、歯の間に挿入して少しずつ削ることでスペースを確保します。
エンジンタイプは、ハンドピースと呼ばれる機械にやすりを装着して使うため、効率よく削れます。ただし、機械音や振動が苦手な方にとってはやや不安を感じやすい方法でもあります。
一方、手動タイプはやすりにハンドルをつけて歯科医師が手で動かすため、音や振動が少なく、静かな環境で治療が行えます。
どちらの方法も削る量を細かく調整できるため、仕上がりに差はほとんどないといわれています。
バー
歯列矯正治療で使われる「バー」は、むし歯治療用のものよりも細く、歯の形や隙間を精密に整えるために設計されています。バーにはさまざまな太さがあり、治療の目的に応じて削る量を細かく調整できるのが特徴です。
使用時にはハンドピースと呼ばれる機械に取り付けて回転させ、必要に応じてフットペダルでスピードを調整します。基本的に痛みはないとされます。
処置中に感じるのは振動と「キーン」という音程度ですが、音に敏感な方は不安を感じることもあります。
不安がある場合は、事前に歯科医師へ相談することで、無理のない範囲で調整してもらえるでしょう。
ディスク
歯列矯正治療で歯を削る際に使われる「ディスク」は、円盤状の形をしており、ハンドピースに装着して使用します。バーと同じく高速回転させて歯の表面を少しずつ削りますが、ディスクは平らな形状のため、歯の間を滑らかに整えるのに推奨されています。
ディスクのサイズや厚みにはさまざまな種類があり、削る量に応じて使い分けることで、精密な調整が可能になるとされています。使用時には隣の歯や口元に当たらないように注意が必要ですが、心配はいりません。
ただし、ハンドピースの使用に伴い音や振動が生じるため、こうした感覚が苦手な方は事前に歯科医師に相談することをおすすめします。
歯を削るIPRの注意点
最後に、歯を削るIPRの注意点についてそれぞれ解説します。
施術可能な歯科医院が限られている
歯を削るIPRは、どの歯科医院でも気軽に受けられるわけではありません。この処置は、歯の大きさや位置、噛み合わせのバランスを慎重に見極めたうえで行う必要があり、歯列矯正治療全体の計画に深く関わる技術です。
そのため、専門的な知識と経験を持つ歯科医師が在籍する矯正歯科での施術が望まれます。IPRを検討している場合は、あらかじめその処置に対応しているかどうか、歯科医院に確認しておくことが推奨されています。
追加料金が発生する歯科医院もある
歯を削るIPRは、矯正治療の一環として行われることが多い傾向にありますが、料金設定は歯科医院によって異なります。医院によっては矯正費用にIPRが含まれている場合もありますが、別途費用が発生するところもあります。
追加料金がかかるかどうかは医院ごとの方針によるため、歯列矯正治療を検討する際には、事前に費用の内訳を確認しておくことが大切です。不明な点がある場合は、遠慮せずにカウンセリング時に質問してみましょう。
丁寧なケアが必要
歯を削るIPRによって歯と歯の間にわずかな隙間ができると、食べ物が挟まりやすくなったり、汚れがたまりやすくなるため、丁寧なケアが必要になります。
なかでも、歯磨きだけでは落としきれない汚れが残ることもあるため、デンタルフロスや歯間ブラシを併用して、歯と歯の間をしっかり清掃することが大切です。隙間の大きさや歯の状態に応じて清掃器具や方法は異なるため、処置後は歯科医師や歯科衛生士からのアドバイスを受けるのがおすすめです。
また、IPR後の歯の表面はプラークが付着しやすくなる傾向があるため、毎日のケアに加え、定期的に歯科でのクリーニングを受けることも効果が期待できます。丁寧なケアを継続することで、トラブルを防ぎながら矯正治療を順調に進められるでしょう。
まとめ
ここまで歯列矯正は歯を削るのかについてお伝えしてきました。歯列矯正は歯を削るのかについての要点をまとめると以下のとおりです。
- 歯列矯正で歯をわずかに削る処置には、歯のデコボコの改善、上下の歯のバランス調整、ブラックトライアングルの解消、歯列の安定性向上、さらには抜歯を避けられる可能性など、さまざまなメリットがある
- 歯列矯正で歯を削る処置には、エナメル質の損失によるむし歯リスクの増加や、知覚過敏のような一時的な症状が現れる可能性があるため、処置には慎重な判断と正しいケアが求められる
- IPRは専門的な判断が必要なため、施術できる歯科医院が限られていたり、医院によっては追加料金が発生する場合もあるため、事前確認が必要
歯列矯正における歯の削る処置は、必要なスペースを作り、歯並びを整えるために行われ、削る量は少なく、歯の健康に影響を与えることは少ないとされています。
しかし、歯科医師としっかり相談し、納得したうえで治療を進めることが大切です。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。