子どもの歯の歯列矯正を行う小児矯正には、1期治療と2期治療と呼ばれるものがあります。子どもの歯並びをキレイに整えたいという方は、それぞれ治療の目的や方法などの違いを理解して、適切なタイミングで治療を受けられるようにすることが大切です。
この記事においては、1期治療と2期治療の違いや注意点などを解説していきます。
小児矯正の1期治療と2期治療とは?
小児矯正には、1期治療と呼ばれるものと2期治療と呼ばれるものがあります。
両者の違いは主に治療を開始するタイミングで、まだ乳歯が残っていて、永久歯と乳歯が混在している時期までに行う治療が1期治療であり、永久歯が生えそろってから行う治療が2期治療です。
1期治療と2期治療は治療の目的や方法が大きく異なり、簡単にいえば、1期治療は永久歯が適切な位置に生えてこれるようにするため、顎の骨を広げるなどの対応を行うもの。一方の2期治療は、生えてきた永久歯を動かして、理想とする位置に移動させるというものとなっています。一般的にイメージされる歯列矯正は2期治療の方で、歯の生え変わりが終わっているため、治療が終われば大人になってもキレイな歯並びを維持することが可能です。
1期治療と2期治療の治療を行う時期の違い
1期治療は、子どもの歯が乳歯のタイミングから、乳歯が永久歯に生え変わっているタイミングで行うものです。具体的には4~6歳頃の乳歯列から、6歳~12歳の混合歯列期に行われます。
一方の2期治療は、永久歯が生えそろったタイミングで始める治療であり、時期としては12歳の中学生になった頃が目安です。歯の生え変わりには個人差があるため、早く永久歯が生え揃った場合は、早めに2期治療を開始することができます。
小児矯正と成人の歯列矯正の違い
小児矯正のなかでも、2期治療は永久歯に対して治療を行うものであり、治療の対象となる歯の種類については小児矯正の2期治療と成人の歯列矯正は同じです。しかし、顎の骨がまだ成長段階にあるという点では、子どもと大人で違いがあります。
顎の骨は、個人差がありますが、女性の場合は10歳から15歳、男性の場合は12歳から17歳の思春期成長期で成長します。そのため、この時期に治療を開始する2期治療の小児矯正の場合は、顎の発達も考慮しながら歯並びを整えていく必要があります。顎の骨に発達の余地があるため、歯を理想的な位置に並べるためのスペースがなかったとしても、顎の骨の拡大を促す治療を併用することで、抜歯や歯を削るといった対応をしなくても治療ができる可能性があります。 一方で顎の骨の成長が止まっている成人の歯列矯正の場合、骨のサイズは変わらないので、単純に今あるスペースを活用して治療を進める必要があります。そのため、歯を動かして理想的な位置に整列させるのに充分な顎のスペースがなければ、抜歯をしたり、歯の一部を削ったりする必要が生じる可能性があります。
顎の骨の拡大装置などを使用すれば広げられる可能性はありますが、成長期にある子どもと比べると、成人で顎のスペースを拡大することは難しいといえます。 以上のことから、歯並びを理想的な状態に整えるのであれば、できれば2期治療が可能な子どもの内に歯列矯正を始めた方が、良好な結果が得やすいということができます。
1期治療を受ければ2期治療は必要ない?
1期治療は、歯が生え変わるタイミングに合わせて、永久歯が無理なく生えてこれるようにスペースを広げる、土台作りのようなイメージの治療です。
1期治療を行うことで、歯がキレイに生えそろいやすい環境ができるため、それだけでも充分と感じる可能性があります。
ただし、歯が生えるためのスペースを拡大したからといって、必ずしも理想的な歯並びが手に入れられるとは限りません。歯のサイズや生え方は人それぞれ異なるため、1期治療を受けても、歯並びが乱れたり、隙間が空いたりしてしまう可能性はあります。理想的な歯並びを手に入れるためには、やはり2期治療も含めて行う必要がある場合が多く、1期治療と2期治療はセットと考えた方がよいといえるでしょう。
ただし、どのみち2期治療が必要になるのであれば1期治療は不要ということではなく、1期治療で土台をしっかり作っておくことで、2期治療の効率を高めたり、より理想的な歯並びを実現しやすくなります。
また、人によっては1期治療だけでも充分な効果が得られる場合もありますので、まずは歯科医院で適切な治療方針などを相談してみるとよいでしょう。
小児矯正の1期治療の基礎知識
小児矯正における1期治療の目的や具体的な方法などを解説します。
1期治療の目的
乳歯から永久歯に生え変わる時期に行う1期治療は、永久歯がきれいに生えそろうためのスペースを確保し、土台を整える目的で行われます。
永久歯が生える際、顎が小さいなどで歯が生えるためのスペースが小さいと歯がきれいに並ぶことができず、叢生など歯並びのトラブルが生じやすくなります。歯が生えるためのスペースを充分に確保しておくことで、永久歯が隣り合う歯に影響されずに生えてくることが可能となるため、きれいな歯並びが獲得しやすくなります。
また、上下の顎の骨のバランスを整えることも、1期治療の目的の一つです。上顎と下顎の大きさを適度なバランスにすることで、良好な噛み合わせの実現を目指します。
1期治療の具体的な方法
1期治療は、専用の装置を使用して歯列を移動させたり、顎の骨を広げたりします。
子どもの顎の骨の成長も考えながら、理想的な歯並びや噛み合わせを実現するための土台を作っていきます。
1期治療で使用する矯正装置
1期治療で使用される矯正装置には、主に下記の種類があります。
拡大床(プレート)
拡大床は、歯に対して内側から押し出すように力をかけ、歯を頬側に移動させるための装置です。歯が内側に倒れこまないように支える働きもあります。
顎の骨を広げる作用はありませんが、歯列を移動させることで歯が生えそろうスペースを確保できます。
任意でつけたり外したりが可能で、決まった時間装着を続けることで、少しずつ歯列を移動させることが可能です。
装置にはネジがついていて、これを回すことで頬側に歯を移動させる力を強めることが可能です。
マウスピース型矯正装置
1期治療で使用されるマウスピース型矯正装置には、いくつかのタイプがあります。
一つはプレオルソなど、お口の筋肉のバランスを整えることで、顎の健康的な成長をサポートするものです。歯列や顎の骨に直接働きかけるのではなく、筋肉への働きかけで顎の発達を促すため、自然な変化が期待しやすい点や、口呼吸なども改善できる点がメリットです。 もう一つは、インビザラインファーストのような装置で、透明なマウスピース型矯正装置を一定時間装着し続けることで、顎の拡大をサポートしながら歯列を整えていくものです。
1期治療でありながら、歯並びも同時に整える効果が期待できます。
急速拡大装置
上顎の内側に固定ではめ込み、短期間で顎の拡大を目指すものが急速拡大装置です。1期治療の多くはこの装置を使用して行います。
歯並びが整いやすくなるだけではなく、上顎を拡大することで受け口を改善する効果もあります。
装置は自力で取り外しが行えず、約1ヶ月ほどの期間をかけて顎の骨を拡大した後、そのまま2ヶ月程度装着を続けて保定を行います。
フェイシャルマスク
お口のなかに装着した矯正装置を、額から顎にかけてつけた装置を使用し、ゴムで前方に引っ張る装置がフェイシャルマスクです。
上顎の成長促進や下顎の成長抑制によって受け口や反対咬合を改善します。
1期治療のメリット
1期治療を行うと、永久歯が生えてくるスペースを確保することができるようになるため、歯並びのトラブルを予防することができます。また、顎のスペースを充分に確保できるため、2期治療を素早く終わらせやすくなったり、場合によっては2期治療を行わなくても充分に満足できる結果が得られる可能性があります。
2期治療や成人の歯列矯正が必要になった場合でも、抜歯や歯を削るといった対応が不要になるなどのメリットがあります。 歯列だけではなく顎の骨に働きかけることで、骨格が原因で生じる受け口のようなトラブルを改善できるのも、1期治療のメリットといえます。 その他にも、治療法によっては歯並びの悪化を招く舌癖などやお口が開いてしまう癖などを改善できるため、健康なお口の状態を維持しやすくなります。
1期治療のデメリット
1期治療のデメリットは、それなりに費用がかかることや、小さいお子さんを対象とした治療であることから、強いストレスがかかってしまう可能性がある点が挙げられます。
また、理想的な歯並びを獲得するためには1期治療を受けても2期治療が必要になる可能性があり、これをデメリットと感じる場合もあります。
小児矯正の2期治療の基礎知識
小児矯正における2期治療について解説します。
2期治療の目的
2期治療は、生えそろった永久歯を移動させ、理想的な歯並びを実現するためのものです。
基本的には成人の歯列矯正と同じですが、年齢によってはまだ顎の骨が成長段階にあるため、成長状況を加味して治療を進める必要があるという点が成人の治療と異なります。
2期治療の具体的な方法
2期治療は、持続的な力をかけ続けることで歯を動かす装置を使い、歯並びを理想の状態に整えていきます。
歯を移動させるためのスペースがない場合は抜歯や歯を削る対応が行われることがありますが、顎の成長が期待できる時期であれば、急速拡大装置などを使用して顎の成長を促すといった対応を行うこともあります。
2期治療で使用する矯正装置
2期治療で使用される装置は、主に下記のような種類です。
ワイヤー型矯正装置
歯の表面または裏側にブラケットと呼ばれる装置を取り付け、そこにワイヤーをとおして歯に力をかける方法です。
狙った方向に歯を移動させやすいため、幅広い症例に適応が可能です。
一方で、治療期間中は装置が装着されたままの状態になるため、お口を開けた際などに装置が目立って口元が不自然に見えてしまう可能性があります。
また、装置が口腔内の粘膜や舌に当たって刺激となり、痛みや口内炎を引き起こしやすいといったデメリットがあります。
マウスピース型矯正装置
透明なマウスピース型矯正装置を食事中や歯磨きのタイミング以外は装着し続けることで、歯に持続的な力を加え続け、歯を動かしていく方法です。
任意で取り外し可能なため清潔に保ちやすく、装置が透明なので治療中の口元に違和感が生じにくいというメリットがあります。
ただし、元々の歯並びによってはマウスピース型矯正装置のみで理想的な歯並びを手に入れることが難しい場合もあります。
2期治療のメリット
2期治療は、歯並びをしっかりと整えるための治療です。2期治療を受けることで、美しい口元や、しっかりとした噛み合わせが実現しやすくなります。
また、成人してから歯列矯正を行うよりも、顎の成長段階で行う2期治療の方が治療の選択肢が広く、抜歯や歯を削るといった対応をしなくても歯列矯正を行える可能性が高くなります。
2期治療のデメリット
永久歯が生えそろっているタイミングとはいえ、2期治療は早ければ中学生頃という精神的にも発達段階の時期に開始される治療です。
そのため、治療そのものが子どものストレスになったり、治療にしっかりと取り組むことができず、適切な治療効果が得にくくなる可能性があります。
また、顎のスペースの状態によっては健康な歯を抜歯したり削ったりする可能性がある点も、2期治療のデメリットといえます。
子どもの歯並びのために保護者が気を付けたいこと
子どもの歯並びを良好に保つためには、普段からの過ごし方などにも注意が必要です。
歯並びをよくするため、保護者の方が気を付けたいことを紹介します。
食事のときは咀嚼を意識させる
食べものをよく噛むようにすると、お口周りの筋肉の発達が促され、歯並びにもよい影響が期待できます。
また、噛む回数が多いと唾液分泌が促進されてむし歯の予防につながるといったメリットもあるため、食事の際はしっかりと咀嚼を意識させ、よく噛んで食べるように促しましょう。
歯並びを悪化させる可能性がある癖に注意する
指しゃぶりや舌で歯を押す癖、お口が半開きになっている状態などは、歯並びを悪化させてしまう可能性があります。
こうした癖を見かけた際は、それとなく注意してやめさせるか、マウスピースなどを使用した治療で悪い癖を改善に導きましょう。
適切なむし歯予防に取り組む
子どもの頃のむし歯は、歯並びにも影響する可能性があります。食事の後はしっかりと歯磨きをするように習慣化させたり、キシリトール配合のガムを利用するなどして、むし歯予防に取り組みましょう。
定期的に歯科医院で検診と指導を受ける
お口の健康的な成長を促すためには、一人ひとりの状態にあったケアを行うことが大切です。
定期的に歯科検診を受けることで、歯のトラブルを防ぐことができるだけではなく、健康的な成長のための指導も受けることができます。
まとめ
小児矯正は二つの段階があり、永久歯が生えそろう前に行うものを1期治療、それ以降を2期治療といいます。
1期治療は歯並びを整えるための土台作り、2期治療は歯並びの調整という目的で行われ、適切な治療を受けることで、無理なく美しい口元を手に入れやすくなります。
どういった治療が必要になるかは子どもの歯並びや顎の状態にもよりますので、まずは早めに小児矯正を取り扱う歯科医院で相談し、適切な治療法の相談をしてみてはいかがでしょうか。
参考文献