噛み合わせ

歯列矯正で犬歯を抜歯することはある?抜歯の判断基準や八重歯の治療方法を解説

歯列矯正で犬歯を抜歯することはある?抜歯の判断基準や八重歯の治療方法を解説

犬歯は、前歯4本の両隣にある尖った歯のことです。その形状から食べ物を切り裂く働きがあります。

歯の中でも特に大きく頑丈であり、左右の動きを受けとめてほかの歯に負荷がかかるのを防いでくれます。

一方で永久歯に生え替わる順番は最後になることが多く、歯並びの悪さの元凶になることもあるので注意が必要な歯です。

日本では犬歯や八重歯はかわいいと見られることがありますが、見た目や噛み合わせの問題などから歯列矯正の対象となっています。

この記事では、歯列矯正での犬歯の抜歯の有無、さらに治療法などを解説します。

犬歯と八重歯(乱ぐい歯)

歯がぬけた

歯は、切歯と臼歯とその間にある犬歯の3種類に分けられます。

きれいに段差のない歯並びに対して、歯並びが内側や外側にずれている歯を総じて転位歯と呼んでおり、特に名前の知られているのが八重歯です。

八重歯は昔から、若い世代の人が芸能人の八重歯に憧れて真似をするといった事例も見られる、かわいい印象のある歯です。

ここでは犬歯と八重歯について、それぞれの特徴や印象と、できる原因について解説します。

犬歯とは

犬歯は別名を糸切り歯といわれており、見てわかるように先が尖った鋭い形状をしています。この鋭く尖った歯で食べ物を切り裂いて、食べやすくする働きがあります。

切歯とは前歯に当たる4本の歯のことで、臼歯は奥歯にあたります。それぞれ、切歯は名前のとおり切る歯であり、臼歯は臼状になっており、すり潰すイメージです。

歯にはそれぞれの働きがありますが、歯のなかでも先遣隊の役割を果たしてくれる重要な働きをしてくれます。

犬歯と八重歯の違い

間違えやすいのですが、犬歯と八重歯は別のものです。

犬歯は名称であり、八重歯は状態を指します。

八重歯は、歯並びの状態のことを表す言葉です。八重歯は本来の歯並びの外側に歯がある状態を指しており、ほかの歯と重なって生えているのが特徴です。

八重歯(乱ぐい歯)とはどのような状態?

女性の口元

八重歯は別名、乱ぐい歯と呼ばれています。杭が乱れて刺さっているような歯並びに見えることが呼び方の由来です。

永久歯への生え替わりが最後になることが多く、スペースが足りないために犬歯が八重歯になるケースが少なくないのですが、どの歯であってもその可能性があります。

八重歯の特徴

八重歯の特徴は、歯の一部がほかの歯と重なる状態にある点です。歯列から外側に飛び出ている状態を指します。

また犬歯だけが歯列から飛び出るだけではなく、交互に飛び出ていたり引っ込んでいたり、いわゆるガタガタの歯列になっている八重歯のケースもあります。

八重歯の印象

一般的に八重歯がかわいいとされるのは、犬歯のみが歯列から飛び出ている状態です。

八重歯がかわいいとされるのは日本ならではの現象のようで、欧米では左右対称が美しいとされる文化があり、不揃いな状態は好まれない傾向にあります。

日本の場合、八重歯がかわいいとされるのは、幼く見えることが主な要因です。

歯列矯正が行われなかった時代から現代に至るまで、不正咬合のなかでも八重歯はかわいいという日本人独特の価値観があります。

八重歯の原因

八重歯の主な原因は、顎の大きさです。先天的に顎が小さいと、歯が適切に配置されません。そのためガタガタの歯列となってしまいます。八重歯の原因としては以下のとおりです。

  • 先天的に顎が小さい
  • 歯のスペースが足りない
  • 乳歯の生え替わりのタイミング
  • 乳歯のときから顎が発達しない

八重歯になるのは、乳歯から永久歯へと生え替わるタイミングで起こります。

そのなかでも犬歯は最後に生えてくるため、スペースが不足して前に飛び出てしまい、八重歯となってしまいます。

また、乳歯のときに顎の発達が促進されない場合も八重歯になるケースが少なくないとされています。

八重歯を治療しない場合に起こりうるリスク

ベッドルームにいる女性(虫歯・あご)

八重歯はかわいいという印象がありますが、歯が重なりあっている状態のため、歯磨きのしにくさに直結します。

歯が重なっている部分に歯ブラシが届きにくく、どうしても磨き残しが出てきてしまうでしょう。

磨き残しを放置するとむし歯や歯周病のリスクがあるため、見た目がかわいいから問題ないとそのままでいるのはあまりおすすめできません。

また、飛び出た歯が邪魔をして口が上手く閉じられなかったり、閉じても口が不自然な形に変形したりすることもあります。

ここでは、八重歯を治療しない場合に起こりうるリスクについて解説します。

八重歯部分の磨き残しによるむし歯のリスク

八重歯の大きな問題点は、歯の間に食べかすや歯垢がたまりやすく、それが原因でむし歯になるリスクがあることです。

いくら歯を丁寧に磨いても、歯ブラシが届きにくい部分はどうしてもきれいに磨くことができません。

歯周病のリスク

歯ブラシを持ち人差し指をたてる笑顔の女性

八重歯の場合、歯周病になる危険性が増大します。大きな原因は磨きすぎによる歯茎の腫れからくる歯周病です。

歯が重なっている部分や引っ込んでいる部分など、歯と歯の間に食べかすや歯垢がたまりやすくなります。

それらを取り除くために念入りに歯磨きするのはよいのですが、ついつい力が入りすぎて強く磨きすぎてしまうと、歯茎が腫れる原因になります。それが高じて歯周病になることが少なくありません。

口臭の原因になることがある

歯が重なり合ってしまっている八重歯は、食べかすや歯垢がたまりやすいため、口臭の原因にもなることがあります。

口臭の要因はさまざまですが、食べかすや歯垢などからくる臭いが原因の口臭も少なくありません。

そのため、食後の歯磨きは欠かさないようにしましょう。

口臭が気になる方のなかには、歯ブラシを歯に強くあてて磨いているケースが見られます。

強く磨くのではなく磨く向きが大切になるので、適度な力で歯と歯の間の食べかすや歯垢などを取り除くような気持ちで歯磨きをしましょう。

また、食後の歯に食べかすなどが残っていないか、鏡での確認も怠らないようにしてください。

噛み合わせが悪くなることがある

マウスピースを付けた歯を見せる女性

八重歯は見た目はかわいい印象がありますが、歯並びが乱れていることにより、噛み合わせが悪くなるケースが少なくありません。

歯並びの悪さはそのまま、噛み合わせの悪さに直結しています。噛み合わせが悪いと食べ物をしっかり咀嚼しないまま、飲み込んでしまいがちです。そのため、消化不良で便秘になる可能性も否定できません。

さらにお口がうまく閉じられない、ほうれい線が出やすい、閉じても不自然な顔立ちになるなど見た目が気になる方も少なくありません。

八重歯の治療

歯医者と男性患者

八重歯の治療は、歯列矯正か抜歯の2択になります。ほかの選択肢はありません。

もちろん放っておくこともできますが、将来的にむし歯や口臭に悩まされることになるリスクがあるため、早めの治療をおすすめします。

八重歯がある場合、一般的に歯列矯正が可能かどうかを判断した後に抜歯するかどうかを決めます。つまり、優先すべきは歯列矯正、つまり抜歯をしないということです。

抜歯の判断は慎重に行う必要があるため、ここでは抜歯について詳しく考えてみます。

犬歯を抜歯することはある?

犬歯は先が尖っていて鋭い歯であり、食材を噛み切ってから奥歯に送る役割を持っています。

また、前歯と奥歯の間に位置しており、噛み合わせの支点となる機能を有しています。ある意味、噛み合わせの善し悪しは犬歯が決めているといっても過言ではありません。

つまり、ものを食べる意味では犬歯はなくてはならない歯であり、抜歯は一般的にできるだけ避ける傾向です。

ただし、歯列矯正をしても前歯と奥歯の間に犬歯の収まる隙間を確保できない場合は、抜歯を考えることになります。

犬歯以外の歯を抜歯することはある?

歯のなかでも犬歯の働きは重要です。そのため、犬歯の抜歯を避ける目的で、その隣の奥歯を抜いて犬歯の隙間を確保するケースもあります。

犬歯は強度が重要視されるため、犬歯を抜歯してインプラントなどで義歯を埋め込んだとしても、その後の強度に不安が残ることがあります。

そのため、犬歯を活かすために隣の奥歯を抜歯するのも選択肢のひとつです。

抜歯の判断基準

男性医師と患者

人間の歯は前歯と犬歯と奥歯の3種類に分けられており、そのうち犬歯は上下前歯と奥歯の間の4本です。

厚生労働省と日本歯科医師会が提唱する8020運動の観点からも、犬歯はできるだけ残すべきという考え方が主流となっています。ちなみに8020運動とは、80歳で自歯20本を目指す運動です。

そのため、一般的に歯科医院ではできるだけ抜歯をしない方向で歯科治療が行われており、抜歯はお口の健康を守る最後の手段という位置付けとなっています。

こうしたことから、抜歯をするしないという判断はとても重要です。

ここでは、抜歯の判断基準を解説します。

抜歯が必要ないケース

犬歯を抜歯せずに残しておいた方がよいケースは、主に下記のとおりです。

  • 犬歯以外の歯が重なっていて歯周病のリスクが高い場合
  • 歯を研磨して歯が並ぶスペースを確保できる場合

犬歯は歯列全体の噛み合わせに重要な役割を持っているだけでなく、ほかの歯よりも歯根が長いため抜歯しにくい特徴があります。

そのため、犬歯が重なっていなかったり歯周病になっているわけではなかったりする場合、犬歯の位置だけが問題なので抜歯ではなく歯列矯正で移動させることを優先するでしょう。

また、歯が並ぶスペースを確保する方法として、抜歯ではなく研磨して削る方法もあります。

この方法はIPR(ディスキング)と呼ばれており、歯並びの悪さが軽度であれば、選択肢のひとつとなるでしょう。

犬歯の抜歯が望ましいケース

歯のなかでも本数が少なく役割のはっきりした犬歯を抜くのは稀なケースです。歯の健康のために抜歯した方がよいケースは以下のとおりです。

  • むし歯が進行している
  • 抜歯をしなければ歯列矯正ができないため

大きくは以上の2つです。いずれもやむを得ないケースです。一般的に、歯列矯正では犬歯よりも奥歯を抜歯する判断がされる傾向にあります。

どのケースもそうですが、最終的に決断をするのは患者さんです。歯科医師の説明をしっかり聞いて、慎重に判断するようにしましょう。

犬歯以外の歯の抜歯が望ましいケース

治療を受ける患者

抜歯をしなければ歯を移動させるスペースが確保できない場合には、一般的に犬歯以外の抜歯を優先して検討します。

噛み合わせにおいて重要な役割があり、歯根が長い犬歯は、できるだけ抜歯するべきではないからです。

そのため、小臼歯を抜歯して歯列矯正を行うケースがあります。小臼歯とは、前から4番目と5番目の位置にある永久歯です。上下左右に2本ずつあります。

小臼歯は1本7〜8mmなので、2本抜くと大きなスペースを確保できます。

そのため、小臼歯を抜歯することで歯列全体を後ろに下げ、八重歯になった犬歯の改善が期待できるでしょう。

八重歯(乱ぐい歯)の治療方法

子どもマウスピース矯正を装着する様子

八重歯はやむを得ない場合を除き、抜歯をしなくても歯列矯正治療によって改善が可能です。

歯列矯正は大きくワイヤー矯正とマウスピース型矯正に分けられています。以下でその2つの治療方法を解説します。

ワイヤー矯正

ワイヤー矯正は、歯列矯正のなかでもメジャーな治療方法です。マルチブラケットを歯に装着してワイヤーを通し、張力によって徐々に歯を移動させます。

矯正力が強く、あらゆる噛み合わせや歯並びに対応可能な点がメリットです。デメリットは目立ちやすい・痛みを伴う・口腔内を傷つけ口内炎のリスクが伴う・歯磨きがしにくいなどです。

マウスピース型矯正

マウスピース型矯正は、透明で取り外し可能なマウスピースを用いて歯を少しずつ動かしていく方法です。

矯正終了まで、マウスピースを順々に取り替えていくことで歯の移動を行います。素材は、一般的なものとしてシリコン・アクリル・熱可塑性プラスチックなどが用いられます。

マウスピース型矯正はワイヤー矯正ほど歯列矯正力は強くありませんが、歯列矯正力も徐々に改善されており、ワイヤー矯正のデメリットを補うことが可能です。

主なメリットは以下のとおりです。

  • 異物感・痛みが少ない
  • 取り外し可能
  • マウスピースが目立ちにくい
  • 日常生活の制限が少ない
  • 通院回数が1~2ヶ月に1度程度

マウスピースは取り外しが可能なため、ワイヤー矯正と違って歯磨きがしやすい点もメリットとしてあげられます。

まとめ

ピースする女性

現在、むし歯が重度でない限り、よほどのことがなければ犬歯を抜歯することはありません。

歯列矯正技術も進歩しているため、難しい歯並びであっても歯列矯正できるケースが増えています。

歯科医師はあらゆる視点から適切な歯列矯正法を考えて提案しています。

抜歯をするかどうかは大きな判断になるため、納得したうえで治療が受けられるよう、信頼できる歯科医院を選ぶようにしましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
竹本 竜太朗歯科医師(北海道大学病院歯科診療センター(歯科矯正科) 大学院生)

竹本 竜太朗歯科医師(北海道大学病院歯科診療センター(歯科矯正科) 大学院生)

北海道大学歯学部 卒業 / 現在は北海道大学病院歯科診療センター勤務 / 専門は歯科矯正科

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