噛み合わせが悪く、なんとかして改善したいと思う方は多いのではないでしょうか。歯科医院での治療だけではなく、できればセルフケアで対応したいという希望もあると思います。 この記事では、そもそも噛み合わせのトラブルにはどのようなものがあるのかや、噛み合わせを悪化させる要因、そして噛み合わせを改善する方法について解説します。
改善が必要な噛み合わせとは?
改善が必要とされるような噛み合わせの状態には、下記のようなものがあります。
叢生(そうせい)
叢生は、隣り合う歯が重なって生えている状態を指します。歯が真っすぐに並ばずにガタガタであったり、場合によっては前歯が2列になって生えるなど、人によって叢生の程度も異なります。
犬歯が前方に出て目立つような状態を八重歯といいますが、これも叢生の一つです。日本では軽度の犬歯はチャームポイントとされるようなケースもあり、見た目上では必ずしもネガティブな要素としてとらえられるものではありませんが、噛み合わせの機能面で考えた場合はやはり改善した方がよい場合が多いといえます。
出っ歯・上顎前突(じょうがくぜんとつ)
上の前歯が前方に大きく突出した状態を上顎前突と呼びます。いわゆる出っ歯がこれに該当します。
なお、噛み合わせはお口を閉じて歯を合わせた際に、上の歯が下の歯よりも前方に出る状態が正常です。噛んだ際の下の前歯と上の前歯の先端の距離をオーバージェットと呼びますが、これが一定以上の大きさの場合に上顎前突と診断されます。
3歳児歯科健康診断では、オーバージェットが4㎜以上ある場合に上顎前突と判定されます。
出っ歯や上顎前突は、前歯が前方に倒れることで生じるケースと、歯を支える上顎の骨が大きいことが原因で生じるケースがあり、原因によって治療法も異なります。
上顎前突は咀嚼をしにくくなるほか、発音への影響や口腔内の乾燥を招きやすいため、改善した方がよいといえます。
受け口・反対咬合(はんたいこうごう)・下顎前突(かがくぜんとつ)
下の歯が、上の歯よりも前方に出ていたり、下顎が前方に突出しているような状態を下顎前突と呼びます。その見た目から、一般的には受け口とも呼ばれます。
また、正常な状態であれば上の前歯が下の前歯よりも前方にくるのに対し、下の歯が上の歯よりも前方にきてしまう状態を、反対咬合と呼びます。
開咬 (かいこう)
歯を噛み合わせた際、上下前歯の間に隙間が空いてしまう状態は開咬と呼ばれます。
しっかり噛みにくいだけではなく、お口が半開きの状態になりやすく、口腔内の乾燥によりむし歯などのリスクが高まるといった問題があるため、改善が必要です。
隙っ歯・空隙歯列(くうげきしれつ)
歯と歯の間に隙間が空いている状態を、空隙歯列と呼びます。一般的には隙っ歯とも呼ばれる状態です。特に、前歯の中央部分に隙間が空いている場合は正中離開と呼ばれます。
歯のサイズが小さい矮小歯などのケースで生じやすく、歯の隙間に食べ残しなどが挟まりやすかったり、発音に問題が生じる可能性があります。
過蓋咬合(かがいこうごう)
上下の歯を噛み合わせた際、上の歯が下の歯を覆う範囲をオーバーバイトと呼びます。このオーバーバイトが大きすぎて、下の歯が見えないような状態になってしまう状態を過蓋咬合と呼びます。
噛み合わせが深くなりすぎることで、歯に余計な負担がかかるなどのトラブルが生じるため、改善が必要となります。
噛み合わせが悪いことによるトラブル
噛み合わせが悪いと、下記のようなトラブルが生じる可能性があります。
むし歯や歯周病のリスクが増加する
歯が重なって生えてしまう叢生など、噛み合わせが悪い状態は歯ブラシが届きにくい箇所ができやすくなります。食事の後の磨き残しが多くなるため、そこに細菌が繁殖してプラークが蓄積され、むし歯や歯周病のリスクが増大します。
また、上顎前突や開咬の場合などはお口が常に開いた状態になりやすく、これにより口腔内が乾燥すると、唾液による再石灰化が起こりにくくなり、むし歯が進行しやすくなります。口腔内の乾燥はむし歯や歯周病になりやすいだけではなく口臭を強める要因でもあります。
特定の歯に負担がかかる
正常な噛み合わせの場合、食事などで噛む動作をする際には歯の全体に負荷が分散されます。一方、噛み合わせが悪い場合は特定の歯にばかり負担がかかってしまいやすく、歯の損傷が起こりやすくなります。
歯だけではなく、歯を支えている歯槽骨にも負担がかかりやすくなるため、歯肉退縮などのトラブルのリスクも高まります。
顎関節症になりやすい
顎関節症は、顎の関節を滑らかに動かすためのクッションとして働く関節円板という組織がズレるなどして、顎を動かすと痛みが生じるようになったり、カクカクという音がなったりする症状です。重症化するとお口を開けることができなくなるケースなどもあり、適切なケアや治療が必要になる症状です。
顎関節症はさまざまな要因が組み合わさって生じるものですが、その一つに噛み合わせの悪さがあります。
発音に影響が出る
出っ歯や隙っ歯などの歯の隙間から空気が漏れやすい状態や、下顎のスペースが狭く舌を動かしにくいような状態は、発音にも影響を生じます。
会話が伝わりにくくなったり、しゃべる事にコンプレックスを持つようになったりする可能性があります。
全身症状が出ることもある
噛み合わせが悪いと歯の特定の部分に負担がかかりやすくなり、お口回りの筋肉の緊張につながります。咬筋などお口を動かすための筋肉は首や頭、肩とつながっているため、頭痛や肩こりといった症状が現れ、最終的には慢性的な疲労感など、全身に影響を及ぼす可能性があります。
見た目により心理的な影響が出る
噛み合わせの各種トラブルは、見た目のコンプレックスにもつながりやすい状態です。歯並びが悪いとお口を開けて笑えなくなったり、周囲から指摘されて嫌な思いをしたりする可能性があります。
特に思春期などの多感な時期は心理的な影響を受けやすいといえます。
噛み合わせを悪化させる要因
噛み合わせは先天的な要素によって決まる部分も大きいですが、日常的な癖などによっても影響を受けます。
嚙み合わせを悪化させる要因を紹介しますので、当てはまるものがあると感じた場合は改善してみるとよいでしょう。
爪を噛む癖や舌癖、頬杖などの日常的な動作
爪を噛んだり、指しゃぶりをしたり、舌で歯を押したりといった歯に負担がかかる行為が日常的に繰り返されると、歯が動いて噛み合わせの悪化につながる可能性があります。
歯に直接触れるような行為でなくても、頬杖のように顎周囲に負担がかかるような動作は噛み合わせの悪化要因となりますので、注意が必要です。
うつ伏せ寝
うつ伏せ寝は、お口周辺に持続的な負荷をかけやすく、噛み合わせを悪化させやすい要因の一つです。特に骨格が形成されていく子どもの頃は影響が出やすいといえます。
口呼吸
お口を閉じているときと開いているときでは、お口の周囲の筋肉の使われ方が異なります。
閉じているときは唇が歯を内側に抑え込むように働くのに対して、開いているとその働きがなくなります。一方で、お口のなかにある舌は歯を外に押し出すように力をかけています。
通常であれば、唇や舌によってかかる力が均衡した状態なのですが、口呼吸でお口が開きっぱなしの状態になると、外向きにかかる力が優位となり、これが噛み合わせの悪化を引き起こす可能性があります。
歯ぎしり、くいしばり
無意識の内に強く歯を噛みしめてしまう歯ぎしりや食いしばりは、とても強い負荷を歯や顎にかけています。そのため、歯ぎしりや食いしばらいが多い方は、歯が倒れてしまったり、すり減ったりしてしまい、噛み合わせが悪化する場合があります。
猫背
猫背になって顔が前方に突き出すと、顎も同時に前方へと突き出されやすくなります。
そのため、猫背の状態が続くと、下顎前突などが引き起こされやすくなる可能性があります。
幼少期のむし歯
歯が永久歯に生え変わる前の乳歯がむし歯になっても、どのみち生え変わるから問題ないと考えている方もいるかもしれません。
しかし、乳歯は永久歯よりもやわらかい性質であることからむし歯の進行が早く、放置しているとすぐに根の方まで進行して、根の先端に膿が溜まってしまうなどのトラブルにつながることがあります。
永久歯は乳歯の根の先に埋まっている状態ですので、乳歯の根の先に膿が溜まっていると、この影響で歯の成長が適切に進まなかったり、生え方に問題が生じてしまう可能性が考えられます。
偏った食生活
やわらかいものばかり、または硬いものばかりを食べるなど、食生活に偏りがあるとお口周囲の筋肉の負担などから、噛み合わせがずれる可能性があります。
食事はバランスよく、お口全体を使ってしっかりと咀嚼するように行うことが大切です。
噛み合わせを改善する治療法
嚙み合わせを改善するための治療法には、下記のような種類があります。
歯列矯正
歯列矯正は、歯に対して専用の装置を使用して一定の力を加え続けることで、歯を動かしていく治療です。
歯の位置を適切な噛み合わせを実現できる場所に移動させて、噛み合わせを改善させることができます。
ただし、顎の骨格などから大きく噛み合わせがずれている場合は、歯列矯正のみで改善させることが難しい場合もあります。
補綴(ほてつ)治療
補綴治療とは、むし歯で歯を削った後に行う詰め物や被せ物など、人工的な歯で噛み合わせを補うための治療です。
噛み合わせをしっかりと考慮した補綴物を装着することで、噛み合わせの改善が可能です。
外科的治療
噛み合わせが悪い原因が顎の骨の形状にある場合は、顎の骨の一部を切除する外科手術などによって治療が可能です。
骨格から噛み合わせが悪い状態を顎変形症と呼びますが、顎変形症の診断を受けた場合は外科的治療や歯列矯正を保険適用で受けられる可能性があります。
幼児期の噛み合わせ治療
顎の骨は、生まれてから第二次性徴が終わる頃までの間に成長していきます。
幼児期はまだ顎の骨が成長段階にあるため、この時期に物理的に顎の骨を広げたり、お口周囲の筋肉のバランスを整えることで、適切な噛み合わせを実現できる場合があります。
歯列矯正の種類
歯列矯正は、歯並びや噛み合わせを改善するために行われる治療です。歯列矯正は具体的に下記のような方法があります。
ワイヤー矯正
歯にブラケットと呼ばれる装置を歯科用の接着剤で取り付け、そこに金属などでできたワイヤーを通して締めることで、歯を動かしたい方向に力を加える方法がワイヤー矯正です。
歯を任意の方向に動かしやすく、歯にどの程度の力をかけるか歯科医師が調整しやすいため、幅広い症例に対応可能です。
マウスピース型矯正
歯並びを少しずつ改善させるような力が加わるマウスピースを着用して、歯を動かしていく治療です。マウスピースは治療開始時にまとまった個数が作られ、定期的にそれを入れ替えながら治療を進めます。
透明なマウスピース型矯正装置が使用されるため、治療中でも目立ちにくいことや、食事や歯磨きの際に任意で取り外しが可能な点がメリットの治療です。
一方で、1日に20時間以上など一定の装着時間を設ける必要があるため、治療を受ける方がしっかりと取り組まないと、きちんと治療を進めにくいという難点があります。
床矯正
金属と歯科用プラスチックなどでできたプレートとよばれる矯正装置を歯の内側にはめ込み、プレートが歯を外に向けて押し出すように力を加え続けることで、歯並びを整える方法です。
子どもの歯が永久歯に生え変わるタイミングなどで、歯列を外側に押し出すことで歯が生えるスペースを作り出し、歯並びが整いやすいようにするといった効果が期待できます。
自分で噛み合わせを改善する方法
なるべく歯科医院の治療ではなく、自力で噛み合わせを改善したいという方は、下記のような取り組みを行ってみましょう。
日常的な癖を見直す
自分でできる改善方法として、まずは噛み合わせを悪化させている癖を見直すことが大切です。
頬杖やうつ伏せ寝といった行為のほか、無意識の歯ぎしりや、指しゃぶりなどといった癖を改善することで、歯や顎の負担を軽減し、噛み合わせの悪化を予防できます。
舌や口周りのトレーニングをする
舌や咬筋などの筋力が低下すると、噛み合わせも悪化しやすくなります。
食事の際によく咀嚼するように気をつけたり、お口周囲の筋力を鍛えるようなトレーニングを行うことで、噛み合わせの改善が期待できます。
TCH(歯牙接触癖)に注意する
通常、人がリラックスしている状態においては、上下の歯の間には隙間があり、接触しません。
しかし、ストレスで食いしばり癖がある方など、過剰な力がかかっている方はリラックス状態でも上下の歯が接触しやすく、この状態をTCHと呼びます。
TCHは歯や顎に負担をかけてしまうため、無意識のうちに上下の歯が接触していると感じたら、意識的に少し歯を離すようにするなどの工夫をすると、噛み合わせも改善できる可能性があります。
自分でケアできる範囲には限界があることを理解する
噛み合わせを改善させるためには、歯を動かしたり、顎の骨の形状を整えることが必要です。そのため、しっかりと噛み合わせを改善するなら、やはり歯科医院での治療を受ける必要があります。
自力で歯を動かそうとして無理な力をかけるなどすると、かえって歯並びや噛み合わせが悪化する可能性もありますので、自力でのケアは噛み合わせの悪化を予防するためのものと考え、噛み合わせを改善したい方は、歯科医院に相談しましょう。
まとめ
噛み合わせは、健康的な食生活、引いては全身の健康のためにとても重要な要素です。
噛み合わせが悪化してしまうような生活習慣に気を付けつつ、歯並びや噛み合わせが気になる方は、まずはお近くの歯科医院で相談してみてはいかがでしょうか。
参考文献