インビザラインなどのマウスピース型矯正は、装置が透明で目立たないうえ取り外して歯磨きができる点が大きなメリットです。その反面、矯正治療中は通常よりもむし歯や歯周病になりやすい口腔内環境になるため、普段以上に丁寧な歯磨きが欠かせません。しかし、外出先などですぐに歯磨きができない場面も少なくないでしょう。そこで本記事では、インビザライン矯正中に歯磨きができないときの対処法を解説します。
インビザライン矯正で歯磨きが重要な理由

インビザラインはワイヤー矯正と異なり自分で取り外して歯を清掃できる利点があります。インビザライン矯正中は、食事のたびにマウスピース(アライナー)を取り外し、装着前に歯磨きをすることが大切です。歯に汚れが付着したままアライナーをはめると、汚れが歯に密着した状態が長時間続き、しかも唾液による自浄作用が働きにくいため通常よりプラーク(歯垢)が蓄積しやすくなります。その結果、むし歯や歯周病のリスクが高まるため、インビザライン矯正中は特に丁寧な歯磨きで口腔内を清潔に保つ必要があります。しっかりと歯磨きをしてプラークをこまめに除去できれば、矯正期間中の口腔内トラブルを減らし治療効果を最大限に引き出せるでしょう。インビザライン矯正を成功させるためには、こうした利点を活かしつつ日々の歯磨きを徹底することが重要なのです。
参照:『The periodontal status of removable appliances vs fixed appliances』(Medicine (Baltimore))
インビザライン中に歯磨きをしないことで生じるリスク

インビザライン矯正中に歯磨きを怠ると、さまざまなデメリットやトラブルが生じる可能性があります。ここでは、歯磨きをしないことで起こりうる主なリスクについて解説します。
むし歯や歯周病を発症しやすくなる
歯磨きをしないままマウスピースを装着し続けると、歯垢中の細菌が繁殖してむし歯や歯周病を引き起こしやすい状態です。むし歯や歯周病が進行すると治療を優先せざるをえなくなり、矯正装置を一時的に外す、通院回数が増えるなどの悪影響につながります。インビザライン治療中は普段以上に念入りな歯磨きとデンタルケアでむし歯や歯周病を予防することが大切です。
歯列矯正の治療計画が遅れる
矯正期間中にむし歯ができてしまった場合、むし歯の治療が優先されるため矯正治療を中断しなければなりません。進行したむし歯の治療では歯を削って詰め物や被せ物を装着しますが、その過程で一時的にマウスピースの使用を止める必要が出てきます。矯正を中断している間に、せっかく動いた歯がもとの位置に戻ってしまうリスクもあり、結果的に治療期間の延長や追加費用の発生につながる可能性があります。歯磨きを怠ってできたむし歯一本のために、矯正全体の計画が大幅に遅れてしまう可能性があるのです。
アライナー(マウスピース)の再作製が必要になる場合がある
むし歯や歯周病の治療によって歯の形態や噛み合わせが変化すると、現在使用中のアライナーが合わなくなることがあります。その際は新たにアライナーを作り直す必要が生じ、想定外の手間や費用がかかる場合があります。例えばむし歯治療で詰め物や被せ物をした結果、歯列の形状が変わってしまうと、元のマウスピースでは適合せず矯正計画自体を修正しなければならなくなります。歯磨きを怠ることは、このように矯正装置の再作製や治療計画の変更といった大きなロスを招く可能性があります。
インビザライン治療中に歯磨きができないときの対処法

インビザラインのマウスピースは飲食時に取り外し、可能な限り歯磨きをしてから再装着することが望ましいです。しかし、いつでも必ず歯磨きができるとは限りません。ここでは、外出中や旅行先などで歯磨きが難しいときの対処法を解説します。
水や洗口液(マウスウォッシュ)でうがいをする
外出先で歯ブラシを使えないときは、まず水でお口をゆすいで食べかすを洗い流すようにしましょう。水で軽くすすぐだけでも歯の表面に付着した食べかすや汚れをある程度落とすことができます。さらに洗口液(マウスウォッシュ)を併用すれば、口腔内の細菌繁殖を抑制できるためむし歯や歯周病予防に有効ですし、口臭対策にも役立ちます。最近は個包装タイプや小型ボトルのマウスウォッシュも市販されており、携帯しやすく外出先でも手軽に使えるので便利です。
歯磨きシートを使用する
水ですすぐだけでは不安な場合は、使い捨てタイプの歯磨きシートを活用するのもよいでしょう。歯磨きシートは指に巻き付けて歯の表面を擦り、汚れを拭き取るためのシート状グッズです。水や洗面所がなくても使えるため、仕事中やレジャー先などで簡易的に歯の汚れを落とすのに役立ちます。シートを使って一通り歯面を清掃した後は、マウスピースを再装着する前にもう一度うがいをするとよりよいでしょう。
デンタルフロスや歯間ブラシで歯の間の汚れをとる
歯と歯の間に挟まった食べかすは、歯磨きだけではなかなか除去できません。インビザライン矯正中は歯が少しずつ動く影響で、歯間に隙間が生じ、そこに汚れが詰まります。そのため、ブラシが行き届かない歯間の清掃にはデンタルフロスや歯間ブラシを併用するとよいでしょう。フロスや歯間ブラシを使えば歯と歯の間の食べかすや歯垢を効率よく掻き出せるため、むし歯や歯周病の予防につながります。実際、歯ブラシだけのプラーク除去率に比べ、フロスや歯間ブラシも併用すると除去率は向上するとのデータもあります。歯磨きできない場面でもフロスなどで歯間部の汚れを落としておけば、後で歯磨きする際も清潔な状態を保てるでしょう。
ガーゼや指で表面を拭き取る
歯ブラシやケアグッズが手元にない場合には、清潔なガーゼやティッシュを指に巻き付けて歯の表面をこする応急処置も有効です。インビザライン用の歯磨きシートがなくても、代わりに手持ちのハンカチや紙ナプキンで歯を拭うだけで何もしないより汚れを減らすことができます。実際に市販の歯磨きシートも同様の方法で指に巻きつけて歯の汚れを擦り落とす仕組みになっており、水が使えない状況でも一定の清掃効果が得られます。ただし、あくまで応急的な対応に留まるため、後で必ず通常の歯磨きを行うようにしてください。
外出時におすすめのマウスケアグッズ

インビザライン矯正中は、外出先でも口腔内を清潔に保つ工夫が欠かせません。事前に必要な物を準備しておけば、外出中でも快適にマウスピース型矯正を続けられるでしょう。ここでは、携帯しておくと便利な口腔ケアグッズをいくつかご紹介します。日常的に持ち歩いて、食事の後や歯磨きができない場面で活用してみてください。
洗口液(マウスウォッシュ)
外出時の強い味方になるのが携帯用のマウスウォッシュです。食事後すぐに歯磨きができないときでも、マウスウォッシュでうがいをすれば口腔内の殺菌および消臭効果が期待できます。特にアルコールフリーでフッ素配合のものは刺激が少ないです。1回使い切りタイプの小分けパックやミニボトル製品も市販されており、ポーチに入れておけば外食先でもサッと使って口腔内をリフレッシュできます。歯磨きができなくてもマウスウォッシュで細菌の増殖を抑え清潔な状態を保つことで、むし歯や歯周病、マウスピースのニオイを防ぐ効果が得られるでしょう。
歯間ブラシやデンタルフロス
歯間ブラシやデンタルフロスも携帯しておきたいアイテムです。歯ブラシだけでは落としきれない歯と歯の間の汚れも、フロスや歯間ブラシを使えばしっかり除去できます。インビザライン矯正中は歯の移動によって生じた隙間に食べかすが詰まりやすく、放置するとむし歯や歯肉炎の原因になるため、食後はフロスなどで歯間の掃除をする習慣をつけましょう。コンパクトな糸ようじタイプのフロスやミニサイズの歯間ブラシなら持ち運びも簡単です。外出先でサッと歯間清掃できれば、マウスピース再装着時の不快感も軽減できますし、後で自宅で歯磨きする際の磨き残しも少なくなります。
歯磨きシート
先述の歯磨きシートは外出時の簡易ケアグッズとしてとても便利です。ウェットティッシュ状のシートを指に巻いて歯の表面を拭うだけで、歯磨きに近い清掃効果が得られます。水がなくても使えるため、ドライブ中やアウトドアなど水場がない状況での歯磨き代わりとしても使えます。歯磨きシートはドラッグストアでも手に入り、ミント味付きで爽快感があるものや、フッ素配合で歯質強化をサポートするタイプもあります。普段の歯磨きの代用にはなりませんが、どうしても今は磨けないという時の緊急措置としてバッグに常備しておくとよいでしょう。
携帯用歯ブラシセット
できるだけ理想的なのは食後すぐに歯磨きをしてからマウスピースを装着することです。そのために、外出時には折りたたみ式などの携帯用歯ブラシと小型の歯磨き粉をセットで持ち歩くことをおすすめします。出先でも歯磨きができるよう常備しておけば、食後すぐ磨いてマウスピースをはめ直す習慣がつけられるでしょう。もし時間や場所の都合ですぐに磨けない場合でも、水でお口をすすいでからマウスピースを装着し、帰宅後になるべく早く歯磨きとマウスピースの洗浄を行うことが大切です。携帯用歯ブラシセットはコンパクトで軽量なものが市販されていますので、ポーチに入れて持ち運びましょう。外出先での歯磨き習慣は、矯正期間中の口腔トラブルを減らすことにつながります。
折りたたみコップ
コップがない場所でもしっかりうがいをするために役立つのが折りたたみ式コップです。小さく折り畳めるシリコン製などのコップを持ち歩けば、外出先で水道水を使ってお口をゆすぐ際に重宝します。もちろんペットボトルの水でも代用できますが、コップがあれば少量の水で口中すみずみまでゆったりすすげるので便利です。特に外食時には、食後にこのコップで水うがいをし、その後マウスウォッシュを使うことでかなり口腔内を清潔にできます。折りたたみコップを一つ持っておくと、外出先での歯磨き代わりのうがいに役立つでしょう。
インビザライン中の正しい歯磨きの方法

インビザライン矯正中は、普段以上に丁寧なオーラルケアが求められます。マウスピース型矯正はワイヤー矯正に比べ清掃性が高い一方で、油断するとむし歯や歯周病のリスクが高まるためです。ここでは、インビザライン治療中に押さえておきたい正しい歯磨きのポイントを解説します。
アライナー(マウスピース)を毎回洗浄する
どんなに丁寧に歯を磨いても、アライナー自体が汚れていては口腔内を清潔に保てません。マウスピースを外して歯磨きした後は、再装着する前にアライナーも洗浄しましょう。洗浄方法は、流水下で指ややわらかめの歯ブラシを使って優しく磨きます。このとき、研磨剤入りの普通の歯磨き粉は細かな傷の原因になりうるため使用しないでください。傷がつくとマウスピースが曇ったり細菌が繁殖したりすることにつながります。基本は水洗いとブラシで十分ですが、汚れがひどい場合はマウスピース専用の洗浄剤を併用するとよいでしょう。毎回アライナーを清潔に保つことが、むし歯や歯肉炎を防ぎ矯正効果を高めるポイントです。
歯のすべての面を丁寧に磨く
インビザライン矯正中は装置を外せる分、歯磨きのしやすさという利点があります。だからこそ、歯のすみずみまで丁寧に磨く習慣をつけましょう。磨き残しが多いのは奥歯の噛み合わせ面や歯と歯茎の境目、前歯の裏側などです。歯磨きの際は毛先を歯茎の縁に当て、小刻みに動かして各歯の表面・裏面・噛む面をしっかり磨くよう意識してください。時間をかけてすべての歯面を磨くことでプラークの蓄積を防げますが、それでも歯と歯の間はブラシだけでは完璧に清掃できません。先述のように仕上げにフロスや歯間ブラシも併用し、磨き残しゼロを目指しましょう。
むし歯予防に効果的なフッ化物配合の歯磨き粉を使用する
普段使う歯磨き粉も工夫しましょう。むし歯予防にはフッ化物(フッ素)配合の歯磨き粉が効果的です。フッ素には歯の再石灰化を促してエナメル質を強化する働きがあり、継続使用でむし歯に強い歯を育ててくれます。市販の歯磨き粉の成分表示を確認し、フッ化ナトリウムなどフッ素化合物が配合されたものを選んでください。なお、歯磨き粉の泡立ちで磨いた気になってしまう方は、少量の歯磨き剤を歯ブラシに付けて長めに磨くとよいです。フッ素の力を借りつつ、じっくり丁寧な歯磨きを心がけましょう。
まとめ

インビザライン矯正を成功させるには、日々の歯磨きと口腔ケアを徹底することが欠かせません。歯磨きができないときは水やマウスウォッシュでお口をすすぎ、歯磨きシートで汚れを拭き取るなどの対処で一時的にしのぎましょう。ただし、これらはあくまで応急処置であり、できるだけ早めに歯磨きをしてプラークが形成される前に取り除くことが大切です。
毎日の歯磨きを怠ればむし歯や歯周病のリスクが高まり、矯正治療の中断や延期にもつながりかねません。本記事でご紹介した対処法やグッズも活用しながら、常にお口の中を清潔に保ってインビザライン治療を乗り切りましょう。日々の積み重ねが美しい歯並びと健康な口腔を守ることにつながります。
参考文献