矯正歯科治療とは、歯並びに問題がある場合に行われる治療です。
歯並びが悪いと噛み合わせも悪くなり、歯磨きの際に磨き残しが多くなることで、むし歯・歯周病・歯槽膿漏のリスクも高まります。
その他にも食事の際にうまく咀嚼できないようになり、噛み砕かれなかった食べ物が胃腸に送られることで消化不良を起こし、体調不良にもつながりやすくなるでしょう。
噛み合わせを気にしないとしても、悪い歯並びがコンプレックスになっている方も決して少なくありません。
ただ、やはり費用面が気になってなかなか矯正治療に踏み切れない場合もあるでしょう。
本記事では噛み合わせの歯列矯正にかかる費用について、さまざまな角度から解説します。
治療方法ごとの費用や支払い方法について気になっている方は、ぜひとも参考にしていただければ幸いです。
噛み合わせの歯列矯正にかかる費用
まず、噛み合わせの歯列矯正にかかる費用を解説します。
歯列矯正で採用される治療法は、一般的に以下のようになっています。
- 表側矯正
- 裏側矯正(舌側矯正)
- ハーフリンガル矯正
- マウスピース型矯正
- 部分矯正
1つ1つで治療難易度が変わることから、費用・治療期間も変わるのが歯列矯正の特徴です。
歯列矯正は基本的には保険適用外となり、費用も高額になります。
ただし、日常生活を送るのが困難な程の噛み合わせの異常が認められた場合は保険が適用され、費用は3割負担で済むようになります。
保険適用対象であるか否かは、日本矯正歯科学会のホームページで保険が適用される疾患がわかります。(矯正歯科治療が保険適用になる場合とは https://www.jos.gr.jp/facility)
本項目では、保険適用外となった費用の相場・保険が適用された場合の費用の相場を併せて紹介します。
表側矯正
表側矯正はブラケットと呼ばれる装置を歯の表面に装着させ、そこにワイヤーを通す治療法です。
ワイヤーによって歯へ力が加えられ、その力が歯の土台となる歯槽骨に伝わり、最終的に歯を移動させる効果が期待できます。
以前までは金属製の装置が採用されていたので見た目を気にする方も多かったかもしれませんが、現在では目立ちにくいセラミック製・プラスチック製を選ぶことも可能です。
歯科医院によっても費用は変わりますが、一般的な相場は保険適用外で800,000〜1,000,000円(税込)程度となります。
保険適用疾患の場合には、その日の処置費用の3割負担となります。
裏側矯正(舌側矯正)
裏側矯正(舌側矯正)ですが、基本的な内容は表側矯正と同じです。
ブラケットとワイヤーを装着するのが歯の裏側となるので、表側矯正よりも見た目が気になりにくいというメリットがあります。
しかし裏側矯正(舌側矯正)は、表側矯正よりも難易度が高い治療だとされています。
これは歯の裏側は表側よりも凸凹が激しく、装置の装着がより困難であるからです。
歯科医師に求められる技量も表側矯正より高くなるので、費用も裏側矯正(舌側矯正)の方が高額になります。
費用は保険適用外で1,100,000〜1,300,000円(税込)程度となります。
ハーフリンガル矯正
上下の歯を裏側矯正(舌側矯正)で治療したいけれども費用面で悩んでいる方は、ハーフリンガル矯正がおすすめとなります。
これは上歯に対して裏側矯正(舌側矯正)を行い、下歯に対しては表側矯正を行う治療法です。
表側矯正と裏側矯正(舌側矯正)の両方の長所を兼ね備えたうえで、費用も抑えられるのが特徴となります。
費用相場は保険適用外で1,000,000〜1,100,000円(税込)が一般的です。
マウスピース型矯正
噛み合わせの状態にもよりますが、歯科医師の判断でマウスピース型矯正が採用される場合もあります。
歯科治療用マウスピースは透明色なので、患者さんにとっても見た目が気にならない治療法となるでしょう。
ただ、マウスピースは基本的に自己管理で着脱・洗浄します。
1日につき20時間は装着しないと十分な効果が期待できないので、マウスピース作成の際には歯科医師から注意点が伝えられるでしょう。
保険適用外だと500,000〜1,000,000円(税込)程度が費用の相場となります。
部分矯正
噛み合わせの悪さは歯並びの悪さによるものですが、歯並びの悪さの要因は叢生・出っ歯・すきっ歯などさまざまです。
それぞれの状態が軽微であれば、部分矯正を行います。
部分矯正でも表側矯正・裏側矯正(舌側矯正)・マウスピース型矯正が採用されますが、歯列の一部分に対する治療なので、費用が抑えられるのが特徴です。
各治療法にかかる費用の相場を以下にまとめました。
- 表側矯正:保険適用外で300,000〜600,000円(税込)程度
- 裏側矯正(舌側矯正):保険適用外で400,000〜700,000円(税込)程度
- マウスピース型矯正:保険適用外で100,000〜400,000円(税込)程度
また、部分矯正は治療完了までの期間が短く済むのも魅力の1つです。
ただし、部分矯正を行えるか否かは歯列の状態に大きく左右されます。
隙間がない程に歯が重なっている、重度な歯並びの異常、噛み合わせがかなり深刻である場合は部分矯正を行えません。
その場合は全体矯正・外科的矯正治療を行うことになります。
矯正装置以外にかかる費用
歯列矯正では矯正装置以外にも費用がかかるので、最終的に支払う総額はさらに高くなります。
まずは歯列矯正前・歯列矯正中・歯列矯正後の全体的な流れを確認しつつ、費用が生じる要素を確認してみましょう。
- 歯列矯正前:カウンセリング、精密検査・診断、むし歯・歯周病の治療・抜歯
- 歯列矯正中:通院する際の調整・処置
- 歯列矯正後:リテーナー、リテーナー装着後の保定観察
初めて見る単語もあったかもしれませんが、ここからは各費用について詳しく解説していきます。
歯列矯正前
まず、歯列矯正前にかかる矯正装置以外の費用について紹介します。
患者さんのお口の中の状態や歯科医院によってかかる費用は変化しますが、場合によっては歯列矯正前からも費用が発生する点については注意しましょう。
カウンセリング
歯列矯正を受けることが目的で歯科医院を訪れたとしても、はじめは歯科医師によるカウンセリングを受けることになります。
カウンセリングにかかる一般的な相場は0円〜3,000円(税込)程度です。
歯科医師によっては無料でカウンセリングを行っているケースも少なくないですが、カウンセリングの時点でレントゲン撮影を行う歯科医院の場合は費用が発生するでしょう。
カウンセリングでは自身の希望を伝えることも可能です。
また、歯科医師から歯列矯正の流れを伝えられるので、その時点で気になる点があればぜひ聞いてみましょう。
精密検査・診断
カウンセリング後は精密検査・診断を受けることになります。
この段階でレントゲンやCTを用いてお口の中を撮影し、むし歯チェックなどを行います。
診断にかかる費用の相場は65,000〜80,000円(税込)程度です。
歯科医院によっては精密検査・診断を無料で受けられますが、その限りではありません。
精密検査・診断はレントゲンやCTといった機器を使用するので、どうしても費用が発生するケースもあるでしょう。
患者さんに適した歯列矯正のプランを立てていくので、精密検査・診断で得られたデータはとても重要になります。
むし歯・歯周病の治療・抜歯
精密検査・診断によってむし歯や歯周病が発見された場合、歯列矯正前に治療を行います。
一般歯科を併設していない歯科医院(矯正専門歯科医院)の場合は、紹介された一般歯科医院で治療を受けましょう。
むし歯治療にかかる費用は、保険適用で1,500〜20,000円程度が相場です。
歯周病治療にかかる費用は、保険適用で2,000〜33,000円程度が相場となります。
ただし、費用は状態・治療する歯の本数で変わる点には注意してください。
歯列矯正中
カウンセリング、精密検査・診断、必要であればむし歯・歯周病の治療が終われば歯列矯正が行われます。
では、歯列矯正中は矯正装置料以外にどういった費用が発生するのでしょうか。
矯正装置料で発生する費用はとても高額ですが、それ以外に発生する費用も把握したうえで歯列矯正に臨めるようにしていきましょう。
通院する際の調整料・処置料
歯列矯正治療は、矯正装置を装着しただけで終了するというわけではありません。
マウスピース型矯正かブラケット・ワイヤーを用いた矯正で回数は異なりますが、装置装着後も通院する必要があります。
その際に装置や歯列に対する調整料・処置料が発生するのです。
調整料・処置料の相場は1回の通院につき、5,000〜10,000円(税込)程度となります。
歯列矯正後
歯列矯正が終われば、矯正に使用した装置を取り外すことになります。
しかしそこからも治療は続き、リテーナーという装置に関わる新たな費用も発生するのです。
ここからは歯列矯正後にかかる費用について、リテーナーの説明もふまえて紹介していきましょう。
リテーナー費用
リテーナーというのは、歯列矯正後に用いられる装置の名前です。
治療過程で歯が移動することで歯列はきれいな形となりますが、治療終了後の歯はまだ完全には安定していません。
なにも処置をしないままだと、再び元の位置に戻り、歯列も崩れてしまうでしょう。
治療終了後の歯の動きを制限するためにリテーナーが装着され、その間に歯の固定を試みるのです。
矯正装置のようにリテーナーにもさまざまな種類がありますが、リテーナーそのもの料金の相場は保険適用外で20,000〜75,000円(税込)程度です。
リテーナー装着後の保定観察費用
リテーナーの装着期間には個人差がありますが、2年間程度が目安となっています。
その間は歯科医院に通院をして、歯科医師がリテーナーの保定観察をするのです。
保定観察費用には調節料も含まれている場合もあり、その場合は保険適用外で12,500円(税込)程度が相場となります。
保険適用の歯列矯正治療を受けているとしたら、3割負担の1,000円程度が費用の相場です。
なお、通院頻度は保定の具合によって1ヵ月に1度・3ヵ月に1度・4ヵ月に1度・半年に1度・1年に1度と、間隔が延びていきます。
患者さんによってはリテーナーの装着期間が2年を越え、生涯を通して日常的に装着しなければいけないケースもあります。
事前に歯科医師とのコミュニケーションを密にし、リテーナーの装着期間を見極められるように心がけましょう。
歯列矯正の支払い方法
ここまでは歯列矯正の費用についてさまざまな角度から解説しましたが、以下のような支払い方法が存在します。
- トータルフィー制
- 処置別支払い制
歯科医院によって、トータルフィー制と処置別支払い制のどちらを採用しているかは変わります。
また、それぞれ支払うタイミング・費用の変動に違いがあるので事前に熟知しておくことが賢明でしょう。
支払い方法を知ることで、より自身に適した歯科医院を選んでいただければ幸いです。
トータルフィー制
トータルフィー制の支払いを採用している歯科医院では、矯正治療を行う前に費用総額を見積もって支払うことになります。
設定した費用は変動しない点が特徴です。事前に支払う費用総額を知れるので、患者さんも計画的な治療を立てられるでしょう。
しかし歯列矯正中の追加治療や保定装置料は、見積もった費用に含まれない可能性もあります。
トータルフィー制を採用している歯科医院を受診する際には、費用に含まれる治療・含まれない治療を確認するようにしましょう。
処置別支払い制
処置別支払い制は都度払いとも呼ばれ、毎回の通院ごとに費用が請求されます。
トータルフィー制とは違い、事前にまとまった費用を用意する必要がありません。
歯列矯正は矯正治療中だけではなく、矯正前のカウンセリング・矯正後の調整などで何度も通院をすることになります。
頻度は行う治療法によって異なりますが、その都度で費用を支払うことになります。
通院ごとにどういった処置を受けるかで費用も変わるので、その点は注意しましょう。
歯列矯正の費用負担を抑えるコツ
歯列矯正の費用負担を抑えるコツは、以下の要素を正しく活用することです。
- デンタルローン
- クレジットカード分割払い
- 医療費控除
まずデンタルローンとは、保険適用外の自費治療の際に活用できる分割払いシステムです。
発生する基本金利はクレジットカード払いよりも低く、支払い回数の上限はクレジットカード払いよりも少なくない傾向にあります。
ただ、支払い期間が長くなれば金利が高くなる可能性がある点には注意しましょう。
クレジットカード分割払いはデンタルローンよりも基本金利が高いですが、支払いごとに各カード会社が設定しているポイントが付与される点が魅力的です。
なお、クレジットカードでは分割払いだけではなく、リボ払いやボーナス払いも選択できます。
また、医療費控除にはぜひとも注目しましょう。
審美目的の歯列矯正は対象となりませんが、噛み合わせの異常が認められる治療の費用は医療費控除の対象となるのです。
支払った費用の一部が確定申告の際に還付されるので、費用負担の軽減にもつながるでしょう。
まとめ
噛み合わせや歯並びが悪いと、どうしても自分の笑顔すら嫌に感じてしまうかもしれません。
それでも歯列矯正への一歩が踏み出せなかったのは、費用面の不安があったからではないでしょうか。
ただ、現在ではさまざまな治療法が確立され、医療保険・支払い方法・控除制度も充実しています。
あらためて歯科医院を受診し、自身に合った歯列矯正を探してみましょう。
本記事が、より多くの人の美しい笑顔や自信につながれば幸いです。
参考文献