子どもの噛み合わせが深い過蓋咬合は、顎の成長や遺伝的要因、生活習慣などが影響して生じることがあります。治療を行わないと、発音や食事に支障をきたすだけでなく、顎関節にも負担をかける可能性があるため注意が必要です。
本記事では噛み合わせが深い子どもについて以下の点を中心にご紹介します。
- 子どもの過蓋咬合の基礎知識
- 子どもの噛み合わせが深いとどのような影響があるのか
- 子どもの過蓋咬合の治療法
噛み合わせが深い子どもについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
子どもの過蓋咬合の基礎知識
子どもの過蓋咬合には、どのような特徴があるのでしょうか。ここでは、子どもの過蓋咬合の状態や主な症状を解説します。
子どもの噛み合わせが深い状態とは
子どもの噛み合わせが深い状態は過蓋咬合(かがいこうごう)と呼ばれ、上の前歯が下の前歯に大きく重なり、下の歯がほとんど見えないのが特徴です。
ディープバイトとも呼ばれ、見た目では気付きにくいため放置されがちですが、下の前歯が上の歯茎を傷つけたり、顎関節に負担をかけたりと、さまざまなトラブルを引き起こすリスクがあります。気になる症状がある場合は、早期の受診がおすすめです。
噛み合わせが深い子どもに見られる主な症状
噛み合わせが深い過蓋咬合の子どもには、いくつかの特徴的な症状が見られます。
まず、上の前歯が下の前歯を深く覆うことで、下の歯が歯茎に当たり、炎症や出血、腫れを引き起こすことがあります。また、噛むたびに歯茎が刺激され、歯肉炎につながるケースもあります。
さらに、顎の動きが制限されやすく、お口の開閉がスムーズにできなかったり、顎関節に痛みを感じたりすることもあります。 これらの症状は進行すると日常生活に支障をきたすため、早期の対応が大切です。
子どもの噛み合わせが深くなる過蓋咬合の原因
子どもの噛み合わせが深くなる過蓋咬合の原因として何が考えられるのでしょうか。ここでは、遺伝的要因と後天的要因について解説します。
遺伝的要因
過蓋咬合の遺伝的な原因は、以下のとおりです。
- 家族に過蓋咬合の方がいる
両親や祖父母などに噛み合わせの異常がある場合、子どもにも同じような傾向が現れやすくなります。 - 上下の顎のバランスが悪い
上顎の成長が大きすぎたり、下顎の発達が不十分だったりすることで、噛み合わせが深くなります。 - 歯の位置や傾きに異常がある
本来とは異なる方向に歯が生えたり、傾いて並ぶことが原因となる場合があります。 - 前歯が過剰に伸びている
上の前歯が伸びすぎることで、下の前歯を過剰に覆う状態になります。 - 奥歯が十分に成長していない
奥歯の高さが足りないことで、前歯の嚙み合わせが深くなりやすくなります。
このような先天的な骨格や歯列は、過蓋咬合の発症に大きく関わることがあります。
後天的要因
過蓋咬合の後天的な原因には、以下のような生活習慣や癖が影響するとされています。
- 奥歯の喪失や未治療
むし歯などで奥歯を抜いたまま放置すると、噛み合わせのバランスが崩れ、前歯に負担が集中します。 - 歯ぎしりや食いしばり
無意識に強く噛みしめる癖があると、上下の前歯の噛み込みが深くなる傾向があります。 - 指しゃぶりや下唇を噛む・吸う癖
これらの癖が長期間続くと、前歯の位置がずれ、過蓋咬合を引き起こすことがあります。 - 頬杖や口呼吸、舌癖
姿勢や呼吸、舌の使い方も顎や歯並びに影響し、噛み合わせを悪化させる要因となります。
このような後天的な原因は、生活習慣の見直しによって予防と改善が期待できるため、日常の観察が大切です。
子どもの噛み合わせが深いとどのような影響があるの?
ここまで、過蓋咬合の症状や原因について解説しましたが、子どもの噛み合わせが深いとどのような影響があるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
顎関節症になりやすい
噛み合わせが深い過蓋咬合の子どもは、下顎の動きがうまくできず、日常的に顎へ負担がかかりやすい状態です。この負担が積み重なることで、顎関節症を引き起こす可能性があります。顎関節症になると、お口を開けづらくなったり、顎が痛んだり、開閉時に「カクッ」と音が鳴ることもあります。
こうした症状は、食事や会話に支障をきたすこともあるため、噛み合わせの異常に気付き、治療を受けることが大切です。
奥歯がすり減りやすい
噛み合わせが深い子どもは、上下の歯が強く接触するため、奥歯に大きな負担がかかりやすくなります。なかでも、奥歯は噛む力を受け止める役割が大きいため、過度な圧力により表面がすり減りやすくなります。
奥歯がすり減っている状態を放置すると、将来的な歯の健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、早期の対応が重要です。
詰め物や被せ物が外れやすい
噛み合わせが深い子どもは、噛む力が一部の歯に集中しやすく、強い圧力がかかります。その影響で、むし歯治療などで装着した詰め物や被せ物が外れやすくなる傾向があります。
なかでも、歯の高さが低くなる過蓋咬合では、補綴物(ほてつぶつ)がしっかりと固定されにくく、何度も取れてしまうケースも少なくありません。
治療のたびに詰め物が取れるような場合は、噛み合わせの精査が必要です。
むし歯や歯周病になりやすい
噛み合わせが深い子どもは、むし歯や歯周病になりやすい傾向があります。上の前歯が下の前歯に深く被さっているため、歯ブラシが届きにくく、磨き残しが出やすくなります。
さらに、覆われた部分は湿度のバランスが崩れやすく、細菌が繁殖しやすい環境になり、歯垢がたまりやすくなり、むし歯や歯茎の炎症につながることもあります。早めに噛み合わせを整えることで、口腔トラブルを防ぎ、永久歯への影響も軽減できます。
歯茎や粘膜に炎症が起きやすい
噛み合わせが深い子どもは、上下の歯が強く接触することで、歯茎やお口の粘膜に炎症を起こしやすくなります。なかでも、下の前歯が上の歯茎に当たると、慢性的な刺激となり、歯肉炎や口内炎を引き起こす原因になります。
さらに、転倒や外部からの衝撃が加わると、唇や粘膜を傷つけやすい状態にもなります。炎症が悪化すると、食事や会話がつらくなるほか、痛みによるストレスも生じるため、注意が必要です。
出っ歯やガミースマイルになりやすい
噛み合わせが深い子どもは、出っ歯やガミースマイルを引き起こしやすくなります。噛み合わせが深い状態が続くと、下の前歯が上の前歯を押し上げ、徐々に上の歯が前方に突出していくことがあります。
また、上の前歯が過剰に伸びている場合、笑ったときに歯茎が多く見えるガミースマイルになることもあります。これらの変化は見た目の印象に大きく影響するため、早めのケアで改善を目指すことが大切です。
子どもの過蓋咬合の治療法
子どもの過蓋咬合にはどのような治療が行われるのでしょうか。治療法別に詳しく解説します。
ワイヤー・ブラケット矯正治療
子どもの過蓋咬合の治療では、歯の表面に”ブラケット”という小さな装置を取り付け、そこにワイヤーを通して歯を動かす歯列矯正治療が行われています。この方法では、奥歯の高さを調整しながら、前歯を少しずつ歯茎側へ移動させることで噛み合わせを改善へ導きます。
装置は歯の表側に付けるほか、目立ちにくいように歯の裏側に取り付けられ、見た目が気になる子どもにも配慮されています。
マウスピース型の矯正装置
子どもの過蓋咬合の治療では、取り外しできるマウスピース型矯正装置が用いられることもあります。この装置は下顎の成長を助け、顎の骨格バランスを整えながら歯並びの改善を図ります。
また、装置の使用により口呼吸から鼻呼吸への改善や、舌の正しい位置づけを助ける効果も期待でき、総合的な口腔機能の向上に役立ちます。
外科手術
顎の骨に異常があったり、噛み合わせが大きくずれている場合、また顎関節症の症状があるときには外科手術も選択されることがあります。
なかでも、重度の過蓋咬合では、顎矯正手術が検討されます。これは骨格的な原因による歯並びの乱れを治すために、上顎や下顎の骨を切断し、理想的な位置へ移動させる治療法です。 骨格の問題を根本から改善することで、長期的に安定した噛み合わせにつながります。
子どもの過蓋咬合の治療期間・治療費用
上記で子どもの過蓋咬合の治療法について解説しましたが、ここでは、子どもの過蓋咬合の治療にかかる期間と費用について解説します。
治療期間
子どもの過蓋咬合の治療期間には個人差がありますが、およそ1年〜1年半程度が目安とされています。成長過程にある子どもは顎や骨の発達が活発なため、大人よりも治療が短期間で進みやすい傾向があります。このため、早期に治療を開始すれば、効果的に噛み合わせの改善が期待できます。
しかし、治療は一段階で完了するわけではありません。なかでも、乳歯と永久歯が混在する混合歯列期に行う第一期治療で十分な効果が得られない場合や、噛み合わせの問題が根深い場合には、永久歯がすべて生え揃った後に第二期治療に進むことがあります。この第二期治療では、さらに細かい歯列矯正や顎の調整が行われるため、全体の治療期間は延長されることもあります。
また、治療期間は子どもの成長スピードや歯の状態、治療への協力度合いなどによっても左右されるため、定期的な歯科医師の診察と正しいケアが重要です。
治療費用
子どもの過蓋咬合の治療費用は症状や治療内容によって異なりますが、50万円〜100万円程度が相場です。大体の場合、過蓋咬合の歯列矯正は自由診療となり、健康保険は適用されません。
ただし、厚生労働省が認める先天性の特定疾患が原因で重度の過蓋咬合の場合には、保険診療が適用されることがあります。この場合、治療費はおおよそ20万円〜30万円程度に抑えられるケースもあります。治療費は歯科医院や治療方法によって差があるため、事前にしっかり確認することが大切です。
子どもの噛み合わせが深くならないためにできる予防法
子どもの噛み合わせが深くならないためには何をしたらいいのでしょうか。最後に、子どもの噛み合わせが深くならないためにできる予防法を解説します。
正しい姿勢を保つ
子どもの過蓋咬合を防ぐには、正しい姿勢を保つことが大切です。前かがみや猫背の姿勢は、顎の正常な発育を妨げ、上顎の過剰な成長や下顎の緊張を引き起こすことがあります。その結果、舌が正しい位置に収まりにくくなり、歯並びを支える力が弱まって過蓋咬合のリスクが高まります。
そのため、スマートフォンやテレビを見るときは、画面の高さを調整して猫背にならないように注意しましょう。また、食事中も背筋を伸ばしてよく噛む習慣をつけることが重要です。正しい姿勢を日常的に意識することで、顎のバランスを整え、健やかな歯並びにつながります。
下顎を積極的に動かす
子どもの噛み合わせが深くならないようにするには、下顎を積極的に動かすことがおすすめです。下顎を動かすことで顎の周りの筋肉が鍛えられ、顎関節の動きも滑らかになるため、骨の正常な成長を助け、過蓋咬合の予防につながります。
具体的なトレーニングとしては、歌を歌ったり、舌を回したり、頬を膨らませたり凹ませたりする簡単な運動があります。これらは自宅で手軽に行え、ご家族と一緒に楽しく取り組めます。
また、外遊びや大きくお口を開けて声を出す遊びも、下顎の筋肉のバランスを整えるのに役立ちます。こうした習慣を日常に取り入れることで、子どもの顎の発育をサポートし、健康的な噛み合わせの形成を助けることが期待できます。
まとめ
ここまで噛み合わせが深い子どもについてお伝えしてきました。噛み合わせが深い子どもの要点をまとめると以下のとおりです。
- 子どもの噛み合わせが深い状態は過蓋咬合(かがいこうごう)と呼ばれ、上の前歯が下の前歯に大きく重なり、下の歯がほとんど見えないのが特徴
- 子どもの噛み合わせが深いと、顎関節症になりやすい、奥歯がすり減りやすい、詰め物や被せ物が外れやすい、むし歯や歯周病になりやすい、歯茎や粘膜に炎症が起きやすい、出っ歯やガミースマイルになりやすい傾向にある
- 子どもの過蓋咬合では、ワイヤー・ブラケット矯正治療、マウスピース型の矯正装置、外科手術が用いられる
子どもの過蓋咬合は、放置すると顎関節症や歯のすり減り、口腔内の炎症などさまざまなトラブルを引き起こす恐れがあるため、早期の発見と治療が重要です。
治療法にはワイヤー矯正やマウスピース型矯正、場合によっては外科手術があり、成長段階の子どもは短期間で改善が期待できます。
また、正しい姿勢の保持や下顎を積極的に動かすトレーニング、日常生活の癖の改善など、予防的な取り組みも大切です。
これらの情報が少しでも噛み合わせが深い子どもについて知りたい方のお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。