歯列矯正を始めた直後や調整直後は、痛みや違和感で食事がうまく噛めない方が少なくありません。矯正装置による不快感や歯の動く痛みは一時的なものですが、「いつまで続くのか?」と不安になることもあるでしょう。本記事では、歯列矯正中に食事が噛みにくくなる理由や痛みが続く期間、さらに痛いときの対処法や食べやすい食品の工夫を解説します。
歯列矯正で食事がうまく噛めない理由

歯列矯正中に「食べ物をうまく噛めない」と感じるのには、いくつかの理由があります。矯正装置の存在や歯の移動に伴う変化により、一時的に噛みづらさが生じます。
矯正装置が干渉している
ワイヤー矯正ではブラケットやワイヤーが常に歯に装着されているため、食事の際に装置がお口の中で邪魔に感じることがあります。装置の金具部分が唇や頬、舌に当たって痛みや口内炎を起こすこともあり、その痛みでうまく噛めなくなる場合もあります。特に矯正開始直後はお口の中に異物がある違和感が強く、食べ物を噛むときに装置に引っかかったり、頬の内側に当たったりして食事がしづらいでしょう。
一方、マウスピース型矯正(インビザラインなど)の場合、食事時には装置を取り外すため装置そのものが咀嚼の邪魔になることはありません。しかし装置の着脱時に歯や歯茎に圧がかかって痛みを感じたり、新しいマウスピースの縁が当たって粘膜が痛むケースもあります。いずれの場合も、矯正装置に慣れてくれば徐々に気にならなくなっていきます。
噛み合わせがずれている
歯列矯正では歯を動かして理想的な噛み合わせに近づけますが、その途中経過では一時的に噛み合わせがずれることがあります。例えば、動的な治療中は上下の歯がこれまでと違う位置で当たるようになり、「片側しか噛み合っていない」「歯が浮いた感じがする」などの違和感を覚えることがあります。噛み合わせが安定しない間は、うまく力を入れて噛めず食べ物を十分に噛み砕けないことがあります。
マウスピース型矯正の場合、装置の厚みにより奥歯の噛み合わせに一時的なずれが生じるケースもあります。特に矯正初期や新しい装置に交換した直後は噛み合わせの変化が大きく、食事の際に咬合の違和感を強く感じやすいですが、これらのずれや噛みにくさは治療が進むにつれて解消していく一時的なものです。
歯に圧力がかかっている
歯列矯正ではワイヤーやマウスピースによって歯に持続的な圧力をかけ、歯を移動させます。その圧力自体が歯や歯茎に痛みを生じさせ、歯が痛んで噛めなくなることがあります。矯正装置装着後や調整直後は、歯根や歯槽骨に力が加わり、歯が動き始める時期です。このとき歯に鈍い痛みや違和感があり、強く噛みしめることが難しくなります。痛みが強い間は無理に噛もうとするとさらに痛みが増すため、自然と噛む力が弱くなり噛めないと感じるのです。
食事が噛めないと感じやすい歯列矯正の種類

矯正治療にはさまざまな方法がありますが、噛みにくさを感じやすいかどうかは装置の種類によっても多少異なります。以下に主な矯正方法ごとの特徴と、食事への影響を解説します。
まずワイヤー型矯正についてです。ワイヤー型矯正は歯の表面にブラケットという装置を貼り付け、ワイヤーで歯を動かす矯正方法です。この装置は固定式のため自分で外すことはできず、食事中も常に装置を付けた状態になります。そのため、食べ物が引っかかりやすかったり、お口の中で違和感を覚えたりして食事がしづらく感じることがあります。また、硬いものを噛んだときに装置が壊れるリスクもあります。
次に、マウスピース型矯正についてです。取り外し可能な透明のマウスピースを使って歯を動かす方法です。食事や歯磨きの際には装置を外せるため、食事中に装置が邪魔になることはありません。食べ物が挟まったり壊れたりする心配も少ないので、ワイヤー矯正に比べて食事の制限は少ないです。ただし、新しいマウスピースに交換した直後などは歯に痛みや締め付け感が出ることがあり、噛むときに痛みを感じる場合があります。痛みはワイヤー矯正より軽い傾向にありますが、人によっては装着初日は食事に支障を感じることもあります。
装置の種類に関わらず、矯正治療中は調整直後に一時的な痛みや噛みづらさを感じやすいものの、装置に慣れ歯が動いて安定してくれば日常的な食事は問題なくできるようになります。
歯列矯正で食事がうまく噛めないのはいつまで?

矯正中の痛みや噛みにくさがどのくらいの期間続くのかは、多くの患者さんが気にするポイントです。「ずっとこのまま食べられないのでは?」と心配になるかもしれませんが、痛みや咬みにくさは時間とともに和らぐ一時的な症状です。ここでは、矯正装置を付けた直後や調整後の痛みが続く期間と、噛みにくさが落ち着くまでの一般的な目安を解説します。
装置の装着・調整直後の痛みが続く期間
ワイヤー矯正でもマウスピース型矯正でも、矯正力を加え始めた直後から数日間が痛みのピークとなることがほとんどです。一般的には、矯正開始直後やワイヤー調整後、新しいマウスピースに交換した後の2~3日ほどは歯がズキズキと痛み、食事の際にも痛みを感じやすいでしょう。その後、歯が動いていくにしたがって痛みは徐々に和らぎ、長くても1週間程度で強い痛みは治まるケースがほとんどです。
ただし、痛みの感じ方には個人差があり、1~2日で気にならなくなる方もいれば、1週間以上痛みが続く方もいます。もし2週間経っても痛みが引かない場合は、何らかのトラブルや過度な力がかかっている可能性もありますので、必ず歯科医師に相談してください。
食事の噛みにくさが続く期間
噛みにくいと感じる期間も、基本的には痛みの経過と似ています。矯正装置に慣れてくるにつれ、食事時の違和感や噛みづらさも改善していきます。個人差はありますが、装置装着から1週間程度で噛みにくさは落ち着くことが多いです。
ただし、治療中は月に一度程度ワイヤーの交換・調整を行ったり、マウスピースを定期的に新しいものへ交換したりします。その調整のたびに一時的に痛みや噛みにくさがぶり返すことは避けられません。とはいえ、矯正が進むにつれて歯の動きも小さくなり、患者さん自身も痛みや違和感への耐性がついていくため、後半には症状が軽く感じるようになります。
いつまでも噛めない状態が続くわけではありませんので、あまり心配しすぎないようにしましょう。強い痛みや噛みにくさが長引く場合や、噛み合わせに明らかな異常を感じる場合には、無理せず早めに担当の歯科医師に相談してください。必要に応じて装置の調整や痛み止めの処方など、適切な対応をしてもらえます。
歯列矯正中に食事がうまく噛めないときの対処法

矯正治療中、「痛くて食事ができない」「噛みにくくてストレス」と感じるときには、いくつかの対処法があります。歯科医院でできる処置と自分で工夫できる対策の両面から、痛みや噛みにくさを和らげる方法を確認しましょう。また、痛みが長引く場合に受診すべきタイミングや、自己判断で避けるべきことについても解説します。
歯科医院での対処法
痛みや装置の違和感が強い場合は、遠慮せず歯科医師に相談しましょう。歯科医院では以下のような対処が可能です。
- 装置やワイヤーの調整
- 装置が当たる箇所にできた口内炎などの処置
- 鎮痛剤の処方
- そのほか原因の確認
これらの対応で痛みが軽減することもあります。気になる症状があるときは早めに歯科医師へ相談するようにしましょう。どうしても受診が難しい場合は次の自分でできる工夫を心がけてみてください。
自分でできる工夫
普段の生活のなかでも、矯正中の痛みや噛みにくさを和らげるために自分でできる工夫がいくつかあります。以下のポイントに気をつけてみてください。
- 矯正用ワックスの使用
- やわらかい食事を選ぶ
- 一口を小さく、ゆっくり噛む
矯正中の痛みは一時的なことが多いですが、無理をせず自分に合ったケアを取り入れることが大切です。日々の工夫と早めの相談で、快適に治療を続けていきましょう。
痛みが長引く場合の受診の目安
通常、矯正装置を付けてから1週間程度で痛みや噛みにくさは軽減していきます。しかし、2週間以上経っても痛みが引かない場合や、痛みがむしろ悪化しているような場合は注意が必要です。これは単に順応が遅れているだけでなく、装置のトラブルや想定外の問題が起きているサインかもしれません。
我慢できないほどの痛みを感じるときは、決して無理に耐え続けずできるだけ早く歯科医師に相談しましょう。ワイヤーの先端が外れて粘膜を刺していたり、ブラケットが取れかけて力が偏っていたりすれば、早急に治さなければなりません。
また、人によっては痛みの感じ方が強い方もいるため、そうした場合も遠慮せず受診して適切な処置や薬の処方を受けることをおすすめします。
目安として、矯正開始から2週間以上経っても痛みで食事が困難、鎮痛剤を飲まないと寝られないほど痛むといった場合は受診を検討してください。矯正歯科医は痛みの相談に慣れており、状況に応じて力の再調整や装置の点検などで対応してくれるはずです。長期間無理に耐える必要はありません。
自己判断で避けたいこと
矯正中の痛みや噛みにくさに対処する際、自己判断で行うのは避けるべきこともあります。状況を悪化させないために、以下のポイントに注意してください。
- 装置を自分でいじらない
- 強い痛みを我慢しすぎない
- 痛み止めを乱用しない
- 自己判断で治療を中断・中止しない
矯正治療は長い道のりですが、焦らず正しい方法で乗り越えることが美しい歯並びへの近道です。不安や痛みを感じたときは一人で抱え込まず、信頼できる歯科医師に早めに相談しましょう。
歯列矯正で噛みにくいときに食べやすい食品・メニュー

痛みや噛みにくさがある間でも、工夫次第で食べやすい食品があります。無理に固いものを食べようとせず、以下のようなやわらかく調理しやすいメニューを取り入れてみましょう。
- お粥・雑炊
- スープ・シチュー
- 麺類(うどん・にゅうめんなど)
- 豆腐料理
- 卵料理
- やわらかい果物(バナナ、桃、熟した柿、スイカなど)
- ヨーグルト・ゼリー
上記のような食品以外でも、細かく刻む、すり潰す、とろとろに煮込むといった調理法を工夫することで、普段は硬い食材でも食べやすくなります。痛みが強い時期は無理せず、噛まなくても栄養が摂れるメニューを意識してみてください。
まとめ

歯列矯正中は、一時的に痛みや噛みにくさで食事がしづらくなることがあります。特に装置装着直後や調整後の数日間は歯が動く圧力により痛みが強く、噛もうとしても痛みで力を入れられない状態になることが多いです。しかし、その痛みは2~3日をピークに徐々に和らぎ、1週間ほどで落ち着くのが一般的です。矯正治療の過程で避けられない反応とはいえ、ずっと続くわけではないので過度に心配する必要はありません。
痛みがある間は、無理に普段どおり噛もうとせず矯正用ワックスや鎮痛剤、やわらかい食事などで対処しながらやり過ごしましょう。ワイヤー矯正の場合は装置に食べ物が挟まりやすいため、食後の歯みがきを徹底して口腔内を清潔に保つことも大切です。どうしても辛い場合は我慢しすぎず歯科医に相談し、装置の調整や薬の助けを借りながら進めていきましょう。
矯正治療は長い道のりですが、工夫次第で食事の不便さや痛みは軽減できます。適切な対処法を取り入れてストレスを最小限に抑えながら、きれいな歯並びというゴールに向けて治療を続けていってください。数日間の痛みを乗り越えれば、次第に通常の食事も楽しめるようになるはずです。
参考文献