歯列矯正は、必ず何らかの装置をほぼ終日装着することになるため、普段よりも口腔衛生状態が悪くなりがちです。とりわけ複雑な装置を固定するワイヤー矯正は、お口のなかが不潔になることで、むし歯や歯周病リスクが著しく高まります。その点、着脱式のマウスピース(アライナー)を使用するインビザラインは、ケアがしやすいのですが、治療中にむし歯を発症する患者さんは一定数います。今回はインビザライン治療中にむし歯になったら作り直しが必要になるのか、そもそも矯正治療を続けていくことは可能なのかどうかなどを解説します。
インビザラインの治療中はむし歯になりやすい?
はじめに、インビザライン治療中におけるむし歯のリスクを確認しておきましょう。
- インビザラインを用いた歯列矯正治療はむし歯になりやすいですか?
- インビザラインを用いた歯列矯正治療は、ワイヤー矯正よりもむし歯になりにくいですが、普段よりはむし歯になりやすいです。これには主に3つの理由があります。
◎口腔内に汚れが残りやすい
インビザライン矯正では、多くのケースで歯の表面にアタッチメントを装着します。アタッチメントとは、歯科用プラスチックであるレジンで作られた突起物で、アライナーの浮き上がりを防止したり、矯正力を高めたりする作用が期待できます。このアタッチメントがあるせいで、歯磨きを十分に行えず、汚れが残ってしまうことが多々あるのです。また、インビザラインは水以外の飲み物・食べ物を口のするたびに、お口とアライナーをケアしなければならないことから、毎回の歯磨きに十分な時間をかけることも難しくなります。その結果として磨き残しが多くなり、むし歯リスクが高まる場合もあります。
◎唾液による作用が得られにくい
私たちの唾液には、汚れを洗い流す作用、細菌の活動を抑える作用、歯を強くする作用などが期待できますが、インビザラインのアライナーを装着していると、歯面に唾液が接触しなくなるため、むし歯予防の効果も得られにくくなるのです。
◎マウスピースが不潔になりやすい
インビザラインのアライナーは、ケアを怠ると細菌の温床となります。食事のたびに洗浄することはもちろん、専用の洗浄剤による化学的清掃も定期的に行わなければ、むし歯や歯周病のリスクが増大します。
- インビザラインの治療中にむし歯になりやすい歯はありますか?
- インビザラインだからむし歯になりやすくなるという歯はほとんどありません。なぜならインビザラインのアライナーは、歯列全体をきれいに覆う形となるからです。そのためインビザライン治療中でもむし歯になりやすくなる歯は、普段と同じです。具体的には、第一大臼歯(6番)や第二大臼歯(7番)といった奥歯のむし歯には十分な注意が必要です。
- インビザラインの治療中にむし歯のリスクを高める習慣はありますか?
- インビザラインのアライナーを装着したまま、糖質が含まれている飲み物を飲む習慣は、むし歯のリスクを高めます。インビザラインのアライナーは、歯列とぴったり密着しているように見えますが、厳密には隙間が存在しています。その隙間に糖質を含む水分が流れ込むと、唾液による自浄作用などが得られず、むし歯菌の活動が活発化していきます。また、歯磨きやアライナーの洗浄を十分に行えていない場合も当然ですがむし歯リスクを高めることになるため、正しい口腔ケアの習慣を身に付ける必要があります。
インビザラインの治療中にむし歯が見つかった場合
続いては、インビザラインの治療中にむし歯見つかった場合に、どのようなトラブルが生じるのかについて解説します。
- インビザラインの治療中にむし歯が見つかったらアライナーは使えなくなりますか?
- インビザライン治療中にむし歯になったとしても、ただちにアライナーを使えなくなるということはほとんどありません。基本的には、アライナーの装着を継続しながら、むし歯に対処していくことになります。ただし、むし歯の重症度が高い場合は、アライナーの使用が難しくなることもあります。
- アライナーの作り直しが必要になるのはどのようなケースですか?
- むし歯によって歯の頭の部分である歯冠(しかん)がボロボロになった場合は、アライナーの作り直しが必要になるかもしれません。こうしたケースでは、歯冠の形が変わる被せ物を装着することがあり、インビザラインを始めた時点とは歯列の状態も変化してしまうからです。インビザラインはさまざまな点で優れた歯列矯正方法ではありますが、たった1本でも歯に大きな変化が生じると、マウスピースの作り直しや治療計画の修正を余儀なくされる場合がある点に注意しなければなりません。ちなみに、ワイヤー矯正の場合は、1本の歯が大きなむし歯になったからといって、装置全体の作り直しを迫られることはまずありません。
- むし歯の治療中は歯列矯正ができなくなりますか?
- むし歯の重症度によって対応は変わります。軽度のむし歯であれば、感染した歯質を削ってコンポジットレジンを充填すれば治せるため、歯列矯正ができなくなるということはまずないでしょう。中等度から重度のむし歯で、仮歯の期間や根管治療を行う期間などがある場合は、インビザラインによる歯列矯正ができなくなることが多いです。
- むし歯によって歯列矯正のスケジュールに遅れが生じることはありますか?
- もちろん、あります。むし歯によってアライナーを装着できない期間があれば、自ずとスケジュールにも遅れが生じます。軽度のむし歯なら即日治療が終わることがほとんどのため、歯列矯正のスケジュールに遅れが生じることはほとんどありません。
インビザラインの治療中に行うべきむし歯対策
最後に、インビザラインの治療中のむし歯を予防するための方法について解説します。
- インビザラインの治療中にできるむし歯対策方法を教えてください
- インビザラインの治療中は、以下の5つの方法を実践することで、むし歯を予防しやすくなります。
- 歯磨きを丁寧に行う
- アライナーを清潔に保つ
- お口のなかを乾燥させない
- 飲食の際にはアライナーを外す
- 定期検診を受ける
インビザライン治療中は、普段以上に歯磨きを丁寧に行ってください。アライナーのケアも手を抜かずに毎日徹底しましょう。水分補給をこまめに行うことで、お口の乾燥を防ぐことができ、細菌の活動を抑えやすくなります。アライナーを装着しているときに口にできるのは水か炭酸水だけで、それ以外の飲み物・食べ物に関しては、必ずアライナーを外した状態で飲食するようにしてください。定期的な歯科検診の受診は、いうまでもなくむし歯や歯周病の予防へとつながります。
- インビザラインの治療中でもクリーニングは受けられますか?
- 受けられます。インビザラインは、矯正装置であるアライナーを自由に外せるため、クリーニングで支障をきたすようなことはありません。
- インビザラインの治療中に使用するとよい口腔ケア用品はありますか?
- マウスウォッシュは、薬用成分などが歯列の隅々にまで行き届きやすいため、インビザラインの治療中にもおすすめです。ただし、色が付いているタイプのマウスウォッシュは、アライナーの着色につながることから、無色透明のタイプを選ぶとよいでしょう。また、唾液による歯の再石灰化作用が受けられにくいインビザラインでは、フッ素入り歯磨き粉の効果(歯の再石灰化を促す作用)がより重要となってくるため、高濃度(1450ppm)の製品を選ぶようにしてください。その他、歯と歯の間の汚れは、デンタルフロスや歯間ブラシで取り除く点は、普段の口腔ケアと同じです。
- インビザライン治療中に避けるべき食べ物や飲み物があれば教えてください
- 歯の表面に残りやすい食品や着色性の強い食品は、インビザライン治療中に避けた方がよいといえます。具体的には、粘着性の高いチョコレートやキャラメルなどは、歯面に残りやすいことに加えて、糖質が豊富に含まれていることから、インビザライン治療中のむし歯リスクを大きく上昇させます。コーヒーや紅茶、赤ワインなどはアライナーと歯の着色を促すため、できるだけ避けた方が望ましいです。
編集部まとめ
今回は、インビザライン治療中にむし歯が見つかった場合の対応とむし歯対策について解説しました。インビザラインはむし歯になりにくいことで有名ですが、それはワイヤー矯正と比較した場合に限ります。普段と比べた場合は、間違いなくむし歯になりやすいことから、適切な対策をとる必要があります。また、インビザライン治療中にむし歯になったらアライナーを作り直さなければならないと思われがちですが、軽度のむし歯であれば作り直しが不要となることも珍しくありません。それだけにインビザライン治療中のむし歯は、予防か早期治療を徹底する必要があります。
参考文献