歯列矯正で歯の移動が完了した後に装着するリテーナーですが、毎日使用していくなかで臭いと感じるようになった場合は注意が必要です。リテーナーは、汚れが目立ちにくい樹脂で作られているタイプのものが多く、一見すると清潔そうに見えますが、実際はそのようなことはないのです。ここではそんなリテーナーが臭う原因と正しいお手入れ方法について詳しく解説します。リテーナーの臭いに悩まされている人は参考にしてみてください。
リテーナーとは
はじめに、リテーナーの基本事項を確認しておきましょう。
リテーナーの概要
リテーナーは、矯正治療が終了した後に使用する装置であり、矯正治療によって整えられた歯並びを維持するために重要な役割を果たします。歯は常に周囲の骨や歯茎によって支えられており、矯正治療が終了しても、その支えが完全に固まるまでには時間がかかります。そのため、リテーナーを使用することで歯が元の位置に戻ろうとする力を抑え、安定した噛み合わせを維持することができます。
リテーナーの使用期間は個人差がありますが、一般的には矯正治療が終了してから1年から数年程度とされています。矯正治療を行った歯科医師の指示に従い、適切な期間、リテーナーを使用することが重要です。また、リテーナーを使用する際には、定期的なメンテナンスや清掃が必要であり、清潔な状態を保つことでむし歯や歯周病の予防にもつながります。
リテーナーの種類
リテーナーには主に3つの種類があり、それぞれの特徴や使用方法が異なります。
◎マウスピースタイプリテーナー
マウスピースタイプリテーナーは、透明なプラスチック製の装置であり、目立ちにくいため審美的なメリットがあります。矯正治療で使用するマウスピースに近い素材で作られており、取り外しが可能で、食事や歯磨きの際に簡単に外せるため、衛生的です。さらに、定期的に新しいマウスピースに交換することで、効果的に歯並びを維持することができます。
◎フィックスタイプリテーナー
フィックスタイプリテーナーは、歯の裏側にワイヤーを固定するタイプのリテーナーです。固定されているため、取り外しができず、常に装着されている状態を保つことができます。このタイプのリテーナーは、主に前歯の歯並びを維持するために使用されます。固定されていることで、患者さん自身がリテーナーを忘れることがなく、効果的に歯並びを保持することができます。
◎プレートタイプリテーナー
プレートタイプリテーナーは、プラスチック製のプレートにワイヤーが付いているタイプのリテーナーです。上顎や下顎に合わせて作られており、取り外しが可能です。このタイプのリテーナーは、歯並びの全体をしっかりと保持することができます。プレートタイプリテーナーは、装着中に若干の違和感が生じることがありますが、徐々に慣れることで快適に使用することができます。
リテーナーの選び方
リテーナーの選び方は、患者さんの個々の状況やニーズに応じて異なります。矯正治療を担当した歯科医師と相談し、適したリテーナーを選ぶことが重要です。以下のポイントを考慮するとよいでしょう。
◎使用感と見た目
リテーナーは長期間使用するため、使用感や見た目が重要です。特に目立ちにくいリテーナーを希望する場合は、マウスピースタイプリテーナーが適しています。また、取り外しが簡単で衛生的なマウスピースタイプリテーナーは、生活スタイルに合わせて選ぶことができます。
◎固定性
後戻りのリスクが高いと歯科医師が判断した場合、リテーナーをつけることが推奨されます。その際、リテーナーを常に装着することを希望する場合は、フィックスタイプリテーナーが適しています。固定されているため、患者さん自身がリテーナーを取り外す必要がなく、しっかりと歯並びを保持することができます。
◎噛み合わせへの影響
プレートタイプリテーナーは、着脱式で食事や歯磨きの際に支障をきたすことがないだけでなく、咬合面は開いた状態となっているため、噛み合わせに影響を与えることがありません。その点を重視するのであれば、マウスピースタイプリテーナーよりプレートタイプリテーナーの方が適しているといえます。
リテーナーを選ぶ際には、矯正治療を行った歯科医師の指示に従い、自分に適したタイプのリテーナーを選ぶことが大切です。適切なリテーナーの使用とメンテナンスによって、理想的な歯並びと噛み合わせを長期間維持することができます。
リテーナーを装着するときの注意点
保定期間中は、次の2点に注意しながらリテーナーの装着を継続しなければなりません。
一日に決められた装着時間を守る
リテーナーの効果を引き出すためには、一日に決められた装着時間を厳守することがとても重要です。矯正治療後の歯は、周囲の骨や歯茎がまだ完全に安定していない状態です。このため、リテーナーを適切に装着することで、歯並びが再び乱れるのを防ぎます。
一般的には、リテーナーの装着時間は歯科医師から具体的な指示がありますが、矯正治療が終了した直後はは20時間から22時間程度が推奨されます。食事や歯磨きの時間以外は、リテーナーを装着し続けることが求められます。特に、夜間の装着は欠かせません。睡眠中は歯が動きやすいため、リテーナーを装着していないと歯並びがもとに戻ってしまうリスクが高まります。矯正治療から3ヵ月程度経過したら1日の半分くらいの時間を装着し、半年以降は夜間のみ装着するというスケジュールが一般的です。
また、装着時間を守ることで、リテーナーの効果が発揮でき、理想的な噛み合わせを維持することができます。リテーナーの装着時間を守らないと、治療期間が延びたり、再度矯正治療が必要になったりすることもあります。患者さんは、リテーナーの装着時間をしっかりと守り、歯科医師の指示に従うことが重要です。
使用を勝手に中断しない
リテーナーの使用を勝手に中断することは避けなければなりません。リテーナーは矯正治療後の歯並びを維持するための重要な装置であり、使用を中断すると歯が元の位置に戻ろうとする力が強まります。このため、患者さんがリテーナーの使用を勝手に中断してしまうと、歯並びが再び乱れてしまうリスクが高まります。
特に、初期の段階ではリテーナーの装着に違和感が生じることがあるかもしれませんが、この症状は徐々に慣れることで解消されます。リテーナーの装着を中断せず、継続的に使用することが大切です。また、リテーナーの装着を中断することで、リテーナー自体の効果が減少し、再度矯正治療が必要になることもあります。
リテーナーの使用を中断せず、決められた装着時間を守ることで、理想的な歯並びと噛み合わせを長期間維持することができます。患者さんは、リテーナーの重要性を理解し、継続的に使用することで、健康な口腔環境を保つことができるでしょう。
リテーナーが臭くなる原因
毎日使っているリテーナーが臭くなった場合は、次の5つの原因が考えられます。
リテーナーの洗浄不足
リテーナーが臭くなる主な原因の一つは洗浄不足です。リテーナーは、口腔内の環境と同様に、食べカスや唾液が付着しやすいです。これを放置すると、雑菌が繁殖し、悪臭の原因となります。毎日の洗浄が欠かせません。専用のリテーナー洗浄剤を使い、ブラシで丁寧に洗浄することで、清潔な状態を保つことができます。
口腔内の雑菌や食べカス
口腔内には常に雑菌が存在しており、食事の後には食べカスも残ります。これらがリテーナーに付着することが悪臭の原因となります。リテーナーを外す際には、必ず歯磨きと口腔内の清掃を行うことが重要です。特に、リテーナーを再装着する前には、口腔内を清潔に保つことで、雑菌の繁殖を防ぎます。
コーヒーやタバコなどの着色汚れ
コーヒーやタバコなどの嗜好品は、リテーナーに着色汚れを引き起こしやすいです。これらの着色は、リテーナーの材質に染み込み、取り除きにくくなります。また、着色汚れは雑菌の温床となり、悪臭の原因となることもあります。コーヒーやタバコを摂取する際には、リテーナーを外すことを心がけ、摂取後にはしっかりとリテーナーを洗浄することが大切です。
口腔内が乾燥している
口腔内が乾燥していると、唾液による自浄作用や殺菌作用が低下します。これにより、リテーナーに付着した食べカスや雑菌が増殖しやすくなり、悪臭の原因となります。口腔内の乾燥を防ぐためには、水分をしっかりと摂取することや、口腔内の保湿を心がけることが重要です。また、リテーナーを外している間は、湿った状態で保管することで乾燥を防ぐことができます。
プラークの付着
プラークは、歯の表面に付着する細菌の塊であり、リテーナーにも同様に付着することがあります。プラークがリテーナーに付着すると、雑菌が繁殖しやすくなり、悪臭の原因となります。プラークの付着を防ぐためには、リテーナーを毎日清掃することが必要です。特に、リテーナーの細かい部分や隙間にプラークがたまりやすいので、ブラシを使って丁寧に洗浄することが大切です。
リテーナーの正しいお手入れ方法
リテーナーが臭うのを防ぐためには、正しいお手入れ方法を実践する必要があります。
毎日水洗いをする
リテーナーを清潔に保つためには、毎日の水洗いが基本です。特に食事後は、口腔内の食べカスが付着しやすく、雑菌が繁殖する原因となります。水洗いをする際には、ぬるま湯を使用し、リテーナー全体を丁寧にすすぎます。これにより、リテーナーの表面に付着した汚れを取り除き、清潔な状態を保つことができます。毎日の水洗いを習慣にすることで、リテーナーの臭いを防ぐ効果があります。
リテーナー専用の洗浄剤で洗う
水洗いだけでは取り除けない汚れや雑菌に対しては、リテーナー専用の洗浄剤を使用することが効果的です。リテーナー専用の洗浄剤は、市販されており、簡単に使用できます。使用方法は洗浄剤の説明書に従い、水に溶かしてリテーナーを浸けるだけです。浸け置きすることで、リテーナーに付着した雑菌や汚れがしっかりと除去されます。週に数回、リテーナー専用の洗浄剤で洗うことで、リテーナーの清潔さを保ち、健康な口腔環境を維持することができます。
定期的に超音波洗浄機で洗う
さらに効果的にリテーナーを清潔に保つためには、定期的に超音波洗浄機を使用することをおすすめします。超音波洗浄機は、細かな振動によってリテーナーの隙間や細部に付着した汚れを効果的に除去します。特に、手洗いでは取り除きにくいプラークや食べカスを徹底的に洗浄することができます。超音波洗浄機は、週に一回程度の使用が目安です。
しっかり乾燥させて保管する
リテーナーを使用しないときは、しっかりと乾燥させて保管することが重要です。湿った状態で保管すると、雑菌が繁殖しやすくなり、悪臭の原因となります。リテーナーを水洗いや洗浄剤で洗った後は、清潔なタオルで軽く拭き取り、自然乾燥させます。また、リテーナー専用のケースに入れて保管することで、清潔な状態を保つことができます。ケースの中も定期的に洗浄し、清潔に保つことが大切です。
リテーナーが破損してしまった場合
リテーナーが破損してしまった場合は、次の3点に注意しましょう。
割れたままでの装着はしない
リテーナーが破損した場合、割れたままの装着は避けましょう。破損したリテーナーを使用すると、歯や歯茎に不適切な圧力がかかり、痛みや違和感を引き起こす可能性があります。また、割れた部分が鋭利であれば、口内を傷つける危険性もあります。さらに、リテーナーが正しく機能しないため、矯正治療後の歯並びが崩れるリスクも高まります。リテーナーが破損した場合は、ただちに使用を中止し、適切な対応を取ることが重要です。
自己判断で着用の判断を決めない
リテーナーが破損した際に、自己判断で着用を続けるかどうかを決めることは避けるべきです。破損の程度や場所によっては、リテーナーが完全に機能しなくなる場合もあります。また、見た目には小さな破損でも、リテーナー全体のバランスが崩れることがあります。このような場合、自己判断で着用を続けると、噛み合わせに悪影響を及ぼし、再度の矯正治療が必要になることもあります。患者さんは、自己判断せずに適切な措置を取るために、速やかに歯科医師に相談することが大切です。
歯科医師の診断を仰ぐ
リテーナーが破損した場合、適切な対応は歯科医師の診断を仰ぐことです。歯科医師は、破損の状況を正確に評価し、適切な修理方法や新しいリテーナーの作成を提案します。また、破損したリテーナーの使用が患者さんの歯並びや噛み合わせにどのような影響を与えるかを詳しく説明してくれます。患者さんは、自己判断での対応を避け、必ず歯科医師の診断を受けることで、適切な治療を受けることができます。
歯科を受診する際には、リテーナーの破損状況を詳しく伝えることが重要です。破損した部分がどのようにして破損したのか、装着中にどのような違和感や痛みがあったかを具体的に説明することで、歯科医師がより正確な診断を行うことができます。また、リテーナーの破損により、再度の矯正治療が必要になる場合もあるため、早期の診断と適切な対応が重要です。
まとめ
今回は、リテーナーが臭う原因と正しいお手入れ方法について解説しました。リテーナーが臭う原因としては、リテーナーの洗浄不足、口腔内の雑菌や食べカス、コーヒーやタバコなどの着色汚れ、口腔内が乾燥している、プラークの付着などが考えられ、それぞれに対処法があります。それでも改善されないリテーナーの臭いは、歯科医師に相談しましょう。
参考文献