ブラックトライアングルは、歯肉が下がることで歯間に生じる隙間のことです。この隙間が黒く見えるため、このように呼ばれています。
歯肉が下がる原因はさまざまですが、その1つは歯列矯正です。この記事では、歯列矯正でブラックトライアングルができる原因や治療法、予防方法などを紹介します。
歯列矯正を考えている方やブラックトライアングルで悩んでいる方は、この記事を参考にしてみましょう。
ブラックトライアングルとは
ブラックトライアングルは、さまざまな原因によって生じる歯間の隙間のことです。
歯肉の喪失や退縮によって起きるこの三角形の部分が黒く見えることから、このように呼ばれるようになったと考えられています。
歯間の歯肉は歯間乳頭と呼ばれ、隣接する歯との接触距離や歯槽骨の高さなどに影響を受けるとされています。
歯槽骨の頂点と隣接接触点の距離を調べた検査では、この距離が5mm以内であれば歯間乳頭が占める割合が高くなりました。
6、7mmと距離が長くなると、歯間乳頭の割合も減少していくと報告されています。
前歯のように開口した際に目に入りやすい箇所にブラックトライアングルができると、気になる方も少なくないでしょう。
歯列矯正でブラックトライアングルができる原因
歯列矯正でブラックトライアングルができる原因は、歯肉が下がることや歯並びがよくなって目立つことなどが挙げられます。
歯列矯正では、歯に力をかけることで圧迫側では骨の吸収が進み、反対側では骨の再生が行われます。これが繰り返されることで、歯が少しずつ動いていく仕組みです。
歯にかかる矯正力が強いと、歯槽骨の再生が吸収に追いつかなくなり、骨が減っていきます。
そうすると、歯肉も薄くなり下がってしまうため、ブラックトライアングルが生じやすくなります。
また、もともと歯槽骨や歯肉が薄い方も歯に力を加えると、歯肉が下がりやすい傾向にあるため注意が必要です。
歯列矯正を行う力や歯列矯正の方法によって、歯肉への負担は変わるため、気になる際には歯科医師に相談しましょう。
ブラックトライアングルができる歯列矯正以外の原因
ブラックトライアングルは、歯列矯正以外の原因によっても生じます。ほかにどのような原因で生じるのか見ていきましょう。
加齢
加齢によって歯肉が衰えると、ブラックトライアングルが生じやすくなります。歯肉の衰えは、加齢による生理的な変化とされています。歯肉の主成分はコラーゲンです。
年齢を重ねて肌の弾力が失われるように、歯肉も加齢でコラーゲンが減少します。それにより、歯肉全体が下がり、歯の根元が露出しやすくなります。
また、加齢により歯槽骨の吸収が進むため、歯槽骨が痩せていくでしょう。歯肉は、歯槽骨を覆っているため、歯肉自体も痩せていきます。
40歳以降で歯肉は衰えが生じやすく、加齢に伴い増加していくとの報告もあります。
歯周病や歯肉炎
歯周病や歯肉炎も、歯列矯正以外にブラックトライアングルが生じる原因の1つです。
歯周病や歯肉炎の影響で歯を支えている歯槽骨が溶けてしまい、歯が抜けたり歯肉が下がったりします。
歯肉が下がるため、ブラックトライアングルも生じやすくなるでしょう。歯肉炎は、不十分な歯磨きにより歯肉に炎症が生じた状態で、歯肉の腫れや出血などの症状が生じます。
さらに長期間、歯磨きを怠ると、歯肉で起きた炎症が周囲の歯周組織にまで及ぶようになります。これが歯周病です。
歯周病や歯肉炎の原因は、プラークです。プラークの細菌が作る毒素によって、炎症が生じます。
この細菌は唾液中のリン酸やカルシウムと結合すると、歯の表面に歯石を作ります。
できた歯石をもとにプラークは増殖するため、歯と歯肉の溝はより深くなるでしょう。歯槽骨までたどりつくと、歯槽骨を溶かし、歯肉自体の退縮も進みます。
先天的な歯の形や歯肉の形状
先天的な歯の形や歯肉のタイプも、ブラックトライアングルの生じやすさに関係しています。
先天的に歯の根元が細い逆三角形のような歯の形をしている方や歯肉や歯槽骨が薄い方は、ブラックトライアングルが生じやすいとされています。
一般的に歯は四角形ですが、根本が細い逆三角形の場合、歯の先端より根元が狭くなるのが特徴です。
そのため、構造的に歯の根元に隙間が生じやすく、ブラックトライアングルの可能性が高くなるでしょう。また、歯肉の形状によってノーマルと薄い歯肉、厚い歯肉に分けられます。
歯肉が薄い場合、歯列矯正や補綴治療で歯肉が下がるリスクが高く、厚い場合には歯肉が下がるリスクは低いとされています。
一般的に歯肉の厚さは、0.5〜1.3mm程度です。薄い歯肉は、厚さが1mm以下、厚い歯肉は1mm以上とされています。
また、日本人の歯肉は薄いタイプが多く、歯と歯の間に隙間が生じやすい傾向にあります。
間違った歯磨き方法
毎日行う歯磨きも間違った方法で行うと、ブラックトライアングルの原因になる可能性があります。
歯磨きの際の磨く強さや歯ブラシの毛の硬さが、歯や歯肉に影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。
強い力で磨いた方が磨いた感じはするかもしれませんが、歯の摩耗や歯肉の傷につながります。
また、毛が硬いタイプの歯ブラシでの歯磨きも、歯の摩耗や歯肉の退縮を招くと考えられています。
歯列矯正でブラックトライアングルができないようにするには?
歯列矯正でブラックトライアングルが生じるリスクをゼロにはできませんが、事前の対策でその可能性を抑えることは可能です。その方法を以下で紹介します。
歯や歯肉の状態をみて歯列矯正治療の方針を決める
ブラックトライアングルをできないようにするために、治療前に歯や歯肉の状態を正確に把握する必要があるでしょう。
治療前には顔面や口腔内の写真撮影、レントゲンや歯科用CTで骨格や歯根の状態の確認、歯型の採取や噛み合わせの検査などが行われます。
これらの精密検査で、患者さんの歯肉の厚みや歯槽骨の量などがわかります。
歯肉が下がっている場合や歯の形が細長い場合は、歯列矯正で歯肉がより減少する可能性が高くなるでしょう。
検査の結果で治療方針を決めるため、治療前の精密検査や歯周病のチェックはとても重要です。
歯列矯正を行う際には、歯や歯肉の状態をみて歯列矯正治療の方針を決めてくれる歯科医院がよいでしょう。
歯を削ってから歯列矯正治療を行う
ブラックトライアングルが生じないように、歯の側面を少しだけ削ってから歯列矯正治療を行うことがあります。
歯の側面を削ると歯の間に隙間ができ、歯の移動がスムーズになります。また、歯を削ることで歯の形が整うため隣の歯との接触面積が増え、ブラックトライアングルの発生を抑えられるでしょう。
ブラックトライアングルの治療法
ブラックトライアングルが生じた場合、諦める必要はありません。隙間の大きさや歯肉の状態、原因に応じた治療法が存在します。以下で、それぞれの治療法を紹介します。
IPR(ストリッピング)
IPR(ストリッピング)は、歯の形や大きさの調整、歯が動くスペースを作るために歯を削る治療方法です。
エナメル質の厚みは、場所によって異なりますが、0.5〜1.6mmほどです。IPR(ストリッピング)で削るのは、0.5mm以内のため、歯への影響も少ないとされています。
歯を削ることで、隣の歯との摩擦が少なくなるため、歯列矯正の移動にも効果的です。
また、歯の形や大きさを調整できるため、歯列矯正で生じるブラックトライアングルの改善にも効果があるでしょう。
ダイレクトボンディング
ダイレクトボンディングは、ハイブリットレジンを歯に直接盛り付けて歯の隙間を改善する方法です。
歯の隙間や歯の欠けた部分にハイブリットレジンを接着させるため、機能も見た目も回復できます。そのため、ブラックトライアングルの治療にも対応可能です。
ハイブリットレジンは、歯科用のプラスチックのレジンにセラミックを配合させたものです。
セラミックを配合しているため、保険適用で使われるレジンよりも強度や変色に強くなっています。
この治療法は、歯を削る量が少なく仕上がりが自然で、金属アレルギーの方も受けられます。
ただし、レジンも含まれているため、経年的に劣化していく点がデメリットです。また、奥歯のような力が入りやすい箇所や広範囲の治療には向いていません。
歯肉移植
歯肉移植は、減ったり下がったりした歯肉を回復させる外科的な治療法です。歯肉が少ない部分や減っている部分に口蓋から取った歯肉を移植します。
歯肉の厚みや高さが増し、根本から隙間を埋めるため、ブラックトライアングルが目立ちにくくなるでしょう。自身の組織を使うため、拒絶反応の心配が少ないのが特徴です。
また、成功すれば見た目がよくなるだけでなく、歯磨きがしやすくなったり歯肉が下がりにくくなったりします。
ただし、歯や歯肉の状態によっては、歯肉の生着の失敗や歯肉の退縮が生じる場合があります。
ラミネートべニアやクラウンによる治療
ラミネートべニアやクラウンによる治療は、セラミックやジルコニアなどの補綴物を使い、ブラックトライアングルを改善する治療法です。
ラミネートべニアは、形や色が気になる前歯の表面をできるかぎり薄く削り、そこにシェルと呼ばれる薄い人工の歯を貼り付けます。
クラウンは、歯を削り、その上から歯全体を覆う人工の歯のことです。隙間が大きい場合や歯の向きなどを治したい場合に対応しています。
これら2つの方法は歯の色や形を調整できるため、審美性の高さに優れた治療法です。そのため、この2つを組み合わせて治療が行われるケースも少なくありません。
ヒアルロン酸の注入
ブラックトライアングルの治療の1つに、ヒアルロン酸を定期的に注入する方法があります。
ブラックトライアングルの部分にヒアルロン酸を注入すると、歯肉は内側から膨らむため、歯の隙間が目立たなくなります。
歯肉へヒアルロン酸を注入すると、コラーゲンの合成が高まり、歯肉の再生が促進される仕組みです。
この治療のメリットは、注射するだけの外科的な処置はないため、身体への負担が少ないことや治療自体の時間が短くすむことです。
しかし、ヒアルロン酸が体内に吸収されるため、効果は長続きしません。そのため、歯肉の状態を維持したい場合には、定期的なメンテナンスや再度注射を受ける必要があります。
ブラックトライアングルの予防方法
ブラックトライアングルが一度生じると、治療に時間や費用がかかる場合があります。そのため、日常生活での予防が重要です。以下で、予防方法を紹介します。
強い力で歯磨きをしない
ブラックトライアングルを予防したい場合には、強い力で歯磨きを行わないように気をつけましょう。強い力で磨くことで歯や歯肉に影響がでるからです。
歯磨きが習慣化されていると、意識せずに歯を磨くため、知らない間に力が入っていることがあります。そのため、強い力で歯磨きをしないように意識して磨くようにしましょう。
歯磨きの適切な力は200〜300g程度とされており、歯ブラシを当てた際に、毛先が広がる場合には力がかかりすぎているかもしれません。
そのため、歯ブラシは軽く持ち毛先を歯と歯肉の間に当て、1本の歯に10〜20回小刻みに動かすのがよいとされています。
適切な歯磨きの力を知り、自身の歯肉の状態や歯並びに応じた歯磨きを行うことで、ブラックトライアングルが予防できるでしょう。
歯肉炎にならないように口腔内を清潔に保つ
ブラックトライアングルの予防の1つは、歯肉炎にならないように口腔内を清潔に保つことです。ブラックトライアングルは、何らかの原因で歯肉が下がることで生じます。
歯肉炎は歯肉が下がる原因の1つであり、歯周病の初期症状とされています。歯肉炎は、歯と歯肉の間にプラークが貯まることで生じ、プラークは歯磨きで除去が可能です。
また、歯肉炎になった場合にも適切な歯磨きやケアを行うことで、歯肉の状態を維持できるとされています。
そのため、食後の歯磨きを習慣にし、口腔内を清潔に保つように心がけましょう。
定期的に歯科医院を受診してもらう
ブラックトライアングルを予防したい方は、定期的に歯科医院を受診するようにしましょう。口腔内の状態を保つのに重要なのは、セルフケアと歯科医院でのケアです。
セルフケアだけでは、磨き残しや気付かない部分へのケアに限界があります。
ブラックトライアングルの予防のためにも、歯科医院で口腔内を確認してもらいましょう。
歯科での健診はむし歯や歯周病のチェック、歯垢や歯石の除去、口腔粘膜のチェックなどを行っています。
ほかにも、歯磨きの指導や歯科相談などにも対応しています。
定期的に歯科医院を受診すると、ブラックトライアングルの原因である歯肉炎や歯周病の早期発見にもつながるでしょう。
まとめ
歯列矯正でブラックトライアングルができる原因は、歯肉が下がるためです。歯列矯正の力で、歯槽骨の再生が吸収に追いつかなくなり、骨が減ります。
そうすると、歯肉も薄くなるため、ブラックトライアングルが生じやすくなるでしょう。
治療には、歯の側面を少し削る方法から、歯肉を再生させる外科的な方法、セラミックで歯の形や色を整える審美的な治療まで選択肢は多岐にわたります。
ただし、治療には時間や費用がかかるため、予防するようにしましょう。
予防法は、歯肉を傷つけない程度の適切な力で歯磨きを行うことや、歯肉炎にならないように口腔内を清潔に保つことです。
また、セルフケアに加えて定期的に歯科医院を受診して口腔内の清潔さを保つことも、ブラックトライアングルの予防につながります。
参考文献
- 外科的矯正治療前後の下顎前歯部ブラックトライアングルの出現について
- 歯周病治療 における矯正治療
- 歯肉退縮と歯頸部摩耗についての疫学的研究
- 健康づくり実践高齢者の口腔内状況と健康度との関連についての検討
- 審美部位における単独歯および少数歯欠損への最適なインプラント治療戦略
- 非う蝕性歯頸部欠損と歯磨き習慣,咬合力,咬合接触面積および平均圧力との関係
- 日本人前歯におけるエナメルの厚さに関する研究
- お口の健康のためのブラッシングポイント
- 歯肉退縮について,予後因子や補綴前の配慮について教 えてください。
- 歯周病 | 慶應義塾大学病院
- 歯周病とは|厚生労働省
- 口腔インプラント学 学術用語集
- 治療の進め方|九州大学病院 矯正歯科
- 矯正歯科治療について|明海大学PDI浦安歯科診療所
- ダイレクトボンディング|愛知学院大学歯学部附属病院
- 歯ぐきの出血だいじょうぶ?|日本大学松戸歯学部附属病院
- 歯科健診を定期的に受けよう|日本歯科医師会