顎のずれや曲がり、歯の中心のずれが気になる人は、顎の位置や骨格、歯の中心がずれる「偏位」かもしれません。
「顎のずれはどのように治療するのか」「矯正で治せるのか」と疑問に感じている人もいるのではないでしょうか。
今回は、偏位(下顎偏位・偏位咬合)の原因や治療方法などの疑問に答えていきます。また、セルフで顎のずれを予防する方法なども紹介するので、ぜひ参考にしてください。
偏位の特徴と原因
- 偏位とはどのような症状ですか?
- 偏位(へんい)とは、顎(あご)の位置・骨格・歯の中心が正常値よりもずれている状態です。
偏位の中でも顎の位置がずれている状態を「顎偏位(がくへんい)」「顎偏位症(がくへんいしょう)」と呼び、下の顎の位置(顎位)が左右どちらかに偏っている状態を「下顎偏位(かがくへんい)」と呼びます。
顎が偏る量は、数ミクロンから数mm単位です。わずかなずれであっても、さまざまな症状を誘発することがあります。
他にも、歯列が左右にずれている「偏位咬合(へんいこうごう」というものもあります。
- 偏位咬合とはどのような症状ですか?
- 偏位咬合とは、上の歯列または下の歯列(あるいは両方)が、左右にずれている咬合のことです。左右にずれることから「左右偏位」とも呼ばれます。
上下の前歯の中心が左右どちらかにずれる原因は、歯のずれによるものと顎のずれや歪みによるものがあります。
- 顎偏位と顎変形症の違いはなんですか?
- 顎偏位とは顎の位置がずれている状態を指し、顎変形症とは顎の形や大きさの異常を指します。幼少のころから顎偏位であった場合、放置すると顎の形や大きさに影響を及ぼし顎変形症を誘発しやすいです。
口を開け閉めするとカクカク音がする・口が開けづらいなど「顎関節症(がくかんせつしょう)」の症状が現れることもあります。反対に、顎関節症が原因で下顎の位置がずれ、偏位になることもあります。
- 偏位の原因を教えてください
- 偏位は、骨格の問題・歯の問題・悪習慣などさまざまな原因によって起こります。それぞれの問題による原因の詳細は以下のとおりです。
- 【骨格の問題】上下の顎の骨、大きさ、形のずれや、顎関節の骨の大きさやずれ
- 【歯の問題】歯が生まれつき無い状態(先天性欠損)や、歯が歯ぐきに埋まっている状態(埋伏歯)、歯が生える位置の異常などによる左右のバランスの崩れ
- 【悪習慣】頬杖をつく癖や、習慣的な姿勢の悪さなどによる顎や歯のずれ
顎の位置(顎位)を決める要素には、上下の歯が噛み合っているときの「咬合位(こうごうい)」と、顎関節が安定しているときの「顆頭位(かとうい)」、筋肉がリラックスしているときの「筋肉位(きんにくい)」があります。この3つの位置が崩れることにより偏位が起こります。
咬合位・顆頭位・筋肉位の偏位が許容範囲内であれば症状は現れないことが多く、許容範囲を大きく超えると歯や顎の痛みなどの症状が強く現れることが多いです。 このように偏位にはさまざまな要因があるため、慎重に診断することが大切となります。
偏位の検査・治療方法
- 偏位の検査方法を教えてください
- 顎全体をエックス線撮影できるパノラマレントゲン検査や、口腔内・顔の写真撮影、顎の動きの検査、問診、筋触診、セファログラム(頭部エックス線規格写真)などを行います。
歯科医院により検査方法は異なり、より精密な検査が必要な場合はCTやMRIなどの検査をすることもあります。必要な検査をきちんとして、適切な治療計画をたてることが大切です。
- 大人の場合、偏位をどのように治しますか?
- 偏位の治療方法には以下のものなどがあります。
- 矯正治療(表側矯正、裏側矯正、マウスピース矯正)
- 外科手術を併用した矯正治療
- 咬合調整
- スプリント療法
偏位の原因や症状により治療方法は異なります。一般的には歯の表面や裏側に装置をつけるワイヤー矯正や、マウスピース矯正などの歯列矯正で治療を行なうことが多いです。症例にもよりますが、顎間ゴムや矯正用アンカースクリューを併用することがあります。
噛み合わせを調整する「咬合調整」や、咬合位を改善する「スプリント療法」で顎位を矯正する方法も用いられます。
骨格の問題が大きい偏位は、外科手術を併用した矯正治療が必要です。骨格の問題を外科手術で改善し、歯並びや噛み合わせの問題は歯列矯正で改善を目指します。
- 子どもの場合、偏位をどのように治しますか?
- 子どもの場合は、噛み合わせを誘導する装置(フェイスマスク)や、顎の成長を誘導する拡大床などの装置を使用して左右の顎のずれを修正します。
顎の成長発育期に適切な咬合誘導・咬合育成をすると、難症例になることを回避できる可能性があります。
矯正治療を始める最適な時期は人それぞれです。特に早く治療すべき理由がなければ、永久歯が生えそろってから治療すると矯正期間を短縮できるでしょう。
- 顎変形症の治療は保険適用されますか?
- 基本的に矯正歯科治療は自費診療ですが、「顎変形症」と診断され一定の条件を満たした場合は公的な医療保険が適用となります。顎変形症とは顎の骨の大きさや形に不調和がある症状のことです。偏位は顎変形症を伴うことがあり、保険適用される可能性があります。
ただし顎変形症の治療が保険適用されるためには、顎の骨を切る外科手術を行なうことが前提となります。さらに顎変形症を保険診療で行うためには、厚生労働大臣が定める指定医療機関(顎口腔機能診断施設)を受診しなければなりません。指定医療機関は、以下の日本矯正歯科学会のホームページなどから確認できます。
参照:矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは | 公益社団法人 日本矯正歯科学会
- 偏位を放置するとどうなるのでしょうか?
- 偏位を放置すると、歯に痛みや違和感が出る・歯がしみる・顎関節が痛む・食べ物が噛みにくいなどの症状が現れることがあります。さらに顎や歯のずれが全身に影響を及ぼし、頭痛、肩こりなどの症状がでることもあります。
顔がゆがんで見えるなど、顔貌に与える影響も少なくありません。その一方、まったく症状が現れない人もいます。
偏位の予防方法
- 偏位の予防方法はありますか?
- 偏位は悪習慣によって誰にでも起こりえるものです。頬杖をつく・横向きやうつぶせで寝る・片側でばかり噛むなど、片側の顎に力がかかる悪い癖をなおすと、偏位を予防できる可能性があるでしょう。
ストレスや過度の緊張で問題がでている場合は、できるだけリラックスしたり、体を動かして筋力をつけたりすることで予防できることがあります。
- セルフで顎のずれをなおすことはできますか?
- 残念ながら偏位を自分で完治させることは難しいでしょう。ただ顎関節症が原因の場合、マッサージやストレッチによって症状の軽減が見込める可能性があります。
■セルフでできる簡単ストレッチ・マッサージ- 咬筋(耳付近から頬にかけての筋肉)付近や、側頭筋(こめかみから側頭部の筋肉)付近に指を当て、やさしく円を描くようにマッサージする
- 上を向いて口を大きく開けストレッチする
- 口を「い」の形にして、下顎をゆっくりと左右にスライドさせる
- 口を閉じて、舌で歯の表面をなぞるように回す
ストレッチやマッサージの途中で痛みを感じる場合は、無理をせず中止しましょう。
編集部まとめ
偏位は顎の位置・骨格・歯の中心などが正常値よりもずれている状態で、偏位咬合・下顎偏位・左右偏位とも呼ばれます。顔がゆがんで見えるなど審美的な問題だけでなく、食べ物が噛みにくい、歯や顎が痛いなどの症状が出ることがあります。
放置すると悪化する恐れがあるため、早めに歯科医院・矯正歯科を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
参考文献
- 顎の軸がずれている偏位の治療例|岡山のなかよし矯正歯科クリニック
- 九段下周辺で顎偏位(がくへんい)を舌側(裏側)矯正で治療
- 偏位咬合(前歯の左右のズレ)|三重県伊賀市
- 九段下周辺で顎偏位(がくへんい)を舌側(裏側)矯正で治療
- 小児矯正における顎のずれ(顎偏位)の対応について|石井歯科矯正歯科医院
- 顎の偏位 | 渡辺矯正歯科
- 顎のずれの治し方と6つの必要な検査|横浜市星川の矯正歯科「ゆうデンタルオフィス」
- ゆう歯科クリニック・顎偏位症
- 矯正歯科治療で保険適用の治療はありますか?|NICO矯正歯科
- 顎関節症がつらい方へ 自宅で簡単!ストレッチ5つ | 矯正歯科ネット
- 【医師監修】顎関節症改善ストレッチで快適な生活を手に入れよう! | ぷらす鍼灸整骨院