ワイヤー矯正

前歯の隙間(すきっ歯)は歯列矯正で治せる?治療期間や費用の目安を解説

前歯の隙間(すきっ歯)は歯列矯正で治せる?治療期間や費用の目安を解説

口元はお顔のイメージを左右し、歯並びがよいと健康的で清潔感のある印象を与えるとされています。特に、前歯は笑ったり話したりするときに目立ちやすいパーツです。

目立ちやすい前歯の隙間が気になり、歯列矯正で治せないかと考える方は少なくありません。今回は、前歯の隙間(すきっ歯)は歯列矯正で治せるのかどうかを解説します。

治療期間や費用の目安も紹介しますので、ご自身やご家族の矯正治療を考えている方は参考にしてみてはいかがでしょうか。

前歯の隙間(すきっ歯)の原因

子ども

歯と歯の間に隙間がある、すきっ歯のなかでも、上顎の前歯の間に隙間がある状態は正中離開と呼ばれます。

真正面に位置する前歯、いわゆる左右の中切歯の隙間がある状態が正中離開です。

正中離開の主な原因は、以下のとおりです。

  • 先天的な歯の欠如
  • 歯のサイズが小さい
  • 舌を前に押し出す癖
  • 上唇小帯の異常
  • 過剰歯の埋伏

上唇小帯とは、上唇と歯茎をつなぐ筋です。上顎の前歯の間にあり、上顎の発育に伴って上方に移動していきます。

上唇正体が上方に移動しない、または上唇正体が肥大している場合は正中離開の原因になります。

過剰歯とは、本来は生えることのない余分な歯です。過剰歯が上顎の中切歯の間に埋まったままだと本来の位置に中切歯が生えず、前歯に隙間が生じます。

過剰歯の有無は自覚症状がなく、レントゲン検査によって見つかるケースが大半です。このようなケースでは、過剰歯を抜去する外科処置を検討します。

乳幼児期のお子さんの歯の隙間が気になる親御さんは、少なくありません。一般的に正中離開と診断する時期は、前歯が永久歯に生え変わってからとなります。

乳歯は下顎の中切歯から生えはじめ、少し遅れて上顎の中切歯が生えてきます。上顎の中切歯が永久歯に生え変わる時期は、6歳〜9歳頃が目安です。

永久歯は乳歯よりもサイズが大きいため、乳歯の歯並びには隙間があります。生理的空隙といい、この隙間がなかったり、少なかったりする場合は永久歯がうまく並ぶことができません。

そのため、乳歯の時期では2mm程度の正中離開は正常とされています。永久歯に生え変わる時期に中切歯の外側の側切歯、もう一つ外側の犬歯の生え変わりを待って診断します。

先天的な歯の欠如

レントゲン写真

生まれつき永久歯が少ない先天欠如は、空隙歯列の原因になります。

通常、親知らずを除いた永久歯の数は28本です。先天欠如は約10人に1人の割合で見られるとされ、はっきりとした原因はわかっていません。

発生しやすい部位は、前から5番目の第2小臼歯と前から2番目の側切歯です。先天欠如では歯胚が形成されておらず、永久歯が欠如している場合は乳歯が抜けずに残ります。

乳歯は永久歯よりエナメル質や象牙質が薄く、歯の根が短いため、いずれ抜けてしまうケースがほとんどです。

歯胚は妊娠中に形成されます。大人になってから歯胚が形成されることはありません。

先天欠如かどうかは、レントゲン検査での確認が可能です。欠如による隙間をそのままにすると、歯並びや噛み合わせに支障をきたします。

隙間を補う治療や歯を動かす歯列矯正など、何らかの手立てが必要です。

歯のサイズが小さい

永久歯のサイズが小さいために、正中離開を引き起こす場合もあります。サイズの小さい歯とは、上顎の側切歯に好発する矮小歯が代表的です。

矮小歯が発生する原因は、わかっていません。円錐や円筒のような形をしており、見た目を気にされる患者さんは少なくありません。

見た目が気にならないとそのままにする方もいますが、長期的な視点では問題となる場合もあるため、歯科医院への相談をおすすめします。

見た目が気になる方には、歯を動かして隙間を埋める歯列矯正も可能です。ただし、歯列矯正のみでは、歯の形や大きさは変わりません。

歯の形や大きさを整えたい方は、補綴治療との併用を検討しましょう。

舌を前に押し出す癖

指しゃぶり

前歯のすきっ歯の原因には、舌を前に押し出す癖が関係しているケースもあります。本来、舌の先が接触する場所は、上顎の前歯裏側の天井部分です。

ところが、本来の位置ではなく舌を前に押し出す癖があると、上顎の前歯が舌に押されて前方に移動してしまいます。

舌を前に押し出す癖が歯並び・噛み合わせに及ぼす主な影響は以下のとおりです。

  • 上顎前突
  • 開咬
  • 空隙歯列

先天欠如や指しゃぶりの習慣によって生じた前歯の隙間に、舌を突出させる癖がある方もいます。

また、歯並びや噛み合わせの発育にはお口周りの筋肉と歯の内側にある舌の力のバランスが大切です。

口輪筋や頬筋などお口周りの筋力が弱いと、歯が舌に押されて前歯の上顎と下顎の間に隙間ができる開咬を引き起こします。その結果、唾液や食べ物を飲み込むときに舌を前に押し出す癖がつくこともあるのです。

舌の癖を治すには、お口周りの筋肉のトレーニングや舌が前に出せない装置を装着するなどの方法があります。

前歯の隙間(すきっ歯)を放置するリスク

歯磨き

前歯の隙間があっても見た目は気にならない、と感じる方もいるでしょう。すきっ歯の状態で健康上の問題はあるのでしょうか。

ここからは、前歯の隙間(すきっ歯)を放置するリスクを紹介していきます。

滑舌が悪くなる

前歯の隙間から空気が漏れやすく、発音に支障をきたすケースです。前歯の隙間のある方は、サ行・タ行・ラ行の発音がしづらく、発音が不明瞭になってしまう傾向があります。

これらは、日本語だけでなく、他言語の発音にも影響を与えかねません。相手とのコミュニケーションが取りづらかったり、人前で話す自信がなくなったりとコンプレックスを抱える方もいます。

食べ物が噛みにくくなる

すきっ歯の状態では上下の歯が正しく噛み合わず、咀嚼能力が低下する可能性があります。自分では噛んでいるつもりでも、しっかりと噛まずに飲み込む習慣がついてしまっている方もいます。

特に、麺類や食物繊維が豊富な食材は注意が必要です。しっかりと噛まずに飲み込むと、栄養素の吸収が悪くなったり、消化不良を引き起こしたりしてしまいます。

また、硬い菓子や飴のように噛んだ後に先端が尖りやすい食べ物が隙間に挟まって、歯茎を傷つけることもあります。

むし歯・歯周病になりやすくなる

歯と歯の間の隙間には、食べかすやプラークが溜まりやすくなります。

歯の側面に付いた汚れを取り除くには歯ブラシの毛先があたる角度を意識し、歯の隙間にもフロスを当てるお手入れが必要です。プラークの蓄積は、むし歯や歯周病のリスクを高めます。

さらに、すきっ歯は歯と歯の間の隙間から空気が出入りし、お口が乾燥しやすい状態です。

お口を潤している唾液の抗菌作用・洗浄作用・再石灰化の効果が薄れ、むし歯や歯周病のリスクが一層高まります。

前歯の隙間(すきっ歯)は歯列矯正で治せる?

矯正 歯磨き

前歯の隙間を治す方法はさまざまあり、歯列矯正も選択肢になり得ます。歯列矯正では、歯と歯の間の隙間を埋めて噛み合わせを整えます。

まずは、正中離開の原因となっているものに対する手立てが必要です。舌を前に押し出す癖がある患者さんは、癖そのものがなくならないと治療効果が上がりません。

上唇正体の異常が原因であれば切除、過剰歯の埋伏が原因であれば除去する外科処置などが必要です。隙間だけでなく、生え方のねじれや前突も治療したい患者さんには歯列矯正を検討します。

歯列矯正以外の方法で広く実施されているのは、補綴治療です。前歯の隙間を埋める被せ物やラミネートベニアが挙げられます。

ラミネートベニアは歯の表面を薄く削り、セラミックのシェルを歯に貼り付ける治療法です。隙間が広すぎない正中離開の患者さんに適しています。

前歯を薄く削り、コンポジットレジンを貼り付けるダイレクトボンディングを実施している医療機関もあります。

前歯の隙間を治す補綴治療は、保険が適用されません。補綴治療は経年的に変色や劣化し、極端に強い衝撃が加わると欠けたり取れたりする可能性もあります。

前歯の隙間(すきっ歯)の治療方法・治療期間

歯科医師 診察

前歯の隙間の治療法は、主に歯列矯正・補綴治療・口腔筋機能療法です。補綴綴治療は治療期間が短く、通院回数も少ない傾向にあります。舌を前に押し出す癖を改善するために、お口周りの筋肉をトレーニングする治療法が口腔筋機能療法です。

口腔筋機能療法の治療期間は個人によって異なります。2年程度を目標にする医療機関もあれば、歯列矯正と併用して実施するケースもあります。

前歯の隙間を改善する歯列矯正の種類は、以下のとおりです。

  • ワイヤー矯正
  • 裏側矯正(舌側矯正)
  • マウスピース型矯正
  • 部分矯正

ここからは、それぞれの歯列矯正の治療方法・目安となる治療期間を紹介します。治療期間は患者さんのお口の状態・矯正力に対する生体反応などによって個人差があります。

ワイヤー矯正

ワイヤー矯正

ワイヤー矯正とは、歯の表面に取り付けたブラケットの溝に細いワイヤーを通す治療法です。歯に圧力をかけ、ゆっくりと移動させます。

平均的な治療期間は2年〜3年ですが、すきっ歯の治療では2年以内で終了するケースもあります。歯を動かす動的治療後には、歯の位置を安定させる保定治療が必要です。

ブラケットの素材には金属のほかに、透明なプラスチックやセラミックなどもあります。ワイヤー矯正は、軽度から重度までのさまざまな症例に対応可能な治療法です。

1920年頃米国で開発されて以来、長きにわたり広く使用されてきました。信頼性が高く、日本中の歯列矯正を専門とする歯科医院で使用されている装置です。

装置の構造が複雑かつ取り外しができないため、しっかりと歯を磨かないとむし歯や歯周病のリスクが高まるデメリットがあります。

裏側矯正(舌側矯正)

裏側矯正(舌側矯正)とは、歯の裏側にブラケットを装着し、ワイヤーを通す方法です。お口を開けても装置が目立ちにくいメリットがあります。

ただし、上下の歯の噛み合わせの具合によっては裏側矯正(舌側矯正)ができず、すべての患者さんに適用できる治療法ではありません。

歯の裏側の装置の調節は高い技術を必要とし、1回あたりの治療時間が長くなる傾向があります。治療期間の目安は2年〜3年、動的治療終了後には保定治療が必要です。

裏側矯正(舌側矯正)では、舌が装置に接触して違和感を覚える患者さんも少なくありません。また、歯の表面につける場合に比べて、費用が高額になります。

マウスピース型矯正

マウスピース

軽度のすきっ歯は、マウスピース型矯正の治療が可能なケースもあります。マウスピース型矯正は、治療の段階に応じた装置を1週間〜2週間ごとに交換して歯並びを整える治療法です。

目立ちにくい無色透明のものもあります。患者さん自身で取り外しができるため、歯みがきがしやすく、矯正期間中でも食事が楽しめます。

治療期間の目安は、2年〜3年です。マウスピース型矯正は歯科医師が指示する装着時間を守らないと、治療の効果が得られにくくなる場合があります。

部分矯正

歯並びや噛み合わせの気になる部分のみを動かす治療法が部分矯正です。部分矯正は、全体の歯並びや噛み合わせは改善できません。

ワイヤーによる矯正・マウスピース型矯正のどちらも部分矯正の実施が可能です。治療期間は、どちらを選んでも3ヶ月〜1年半程度と全体矯正よりも短くなります。

マウスピース型矯正は重度のすきっ歯には不向きです。費用を抑えて軽度〜中等度の前歯のすきっ歯のみを治療したい患者さんには、マウスピース型矯正が検討対象となるでしょう。

前歯の隙間(すきっ歯)治療の費用の目安

鏡 女性

前歯の隙間を治療する歯列矯正の費用は、保険が適用されません。歯列矯正の主な費用内訳は以下のとおりです。

  • 初診料・カウンセリング料
  • 検査料・診断料
  • 矯正装置料
  • 調整費・メンテナンス料
  • 保定装置料
  • その他の費用

その他の費用とは、矯正中のお口の状態により抜歯や追加の処置が必要となるケースが考えられます。追加費用が発生するかを事前に確認することをおすすめします。

前歯の隙間を改善する歯列治療の初診から保定治療の通院までを含めた総額の目安は、歯の表側からつけるワイヤー矯正で880,000円(税込)〜1,320,000円(税込)程度です。

一般的に、裏側矯正(舌側矯正)の費用は歯の表面につけるワイヤー装置よりも、上下それぞれで300,000円程度高くなります。そのため、1,000,000円を超えることも珍しくはありません。

1,320,000円(税込)〜1,650,000円(税込)程度が裏側矯正(舌側矯正)費用の目安となります。マウスピース型治療の費用の目安は、880,000円(税込)〜1,100,000円(税込)程度です。

部分矯正の場合は、330,000円(税込)〜550,000円(税込)程度が目安となります。

なお、補綴治療のラミネートベニアの費用は1本あたり99,000円(税込)〜143,000円(税込)程度、ダイレクトボンディングの費用は1本あたり15,400円(税込)〜55,000円(税込)程度です。

まとめ

口元を指差す女性

前歯の隙間(すきっ歯)には見た目の問題だけではなく、活舌の悪さ・咀嚼機能の低下・歯科疾患のリスクを高めるなどの健康上の問題もあります。

まずは、前歯に隙間が生じている原因についての正しい診断が必要です。前歯の隙間(すきっ歯)を改善する治療法には、歯列矯正や補綴治療など複数の方法があります。

それぞれの治療期間や費用の目安も参考にしながら、
自分のお口の状態に合う治療法を選ぶことが大切です。

参考文献

この記事の監修歯科医師
竹本 竜太朗医師(北海道大学病院歯科診療センター(歯科矯正科) 大学院生)

竹本 竜太朗医師(北海道大学病院歯科診療センター(歯科矯正科) 大学院生)

北海道大学歯学部 卒業 / 現在は北海道大学病院歯科診療センター勤務 / 専門は歯科矯正科

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